126、監獄のような塔
「ランドルフくん、私も、青の王国の再建の手伝いをするんだよ。と言っても、たいしたことじゃないんだけど」
一瞬でキララが襲撃者を赤い丘へ移動させたから、まだ皆は、状況が理解できてないみたい。だけど私には、もう一つ仕事があるから、その説明はしない。
「ジュリエッタも手伝うのか。カールは、赤の王国を去るって言ったけど……」
(ありゃ……)
ランドルフくんは、お兄さんに見捨てられたと思ったのかな。チラッとお兄さんの方を見て、苦しそうな顔をしてる。
だけど、お兄さんとしては、ランドルフくんの世話より、アルくんを手伝いたいんだよね。お兄さんは、ランドルフくんの気持ちもわかるから、ずっと辛そうな表情をしてる。
「ランドルフくんも赤の王国の国王として、青の王国の再建の手伝いというか、支援をすればいいじゃない? たぶん、カールさんは、そのために行くんだよ」
「えっ? 俺が?」
「うん、他国の再建を助けるのは、大国の義務だと思うよ。カールさんがその架け橋になってくれるんじゃないかな。これは、ランドルフくんが適任だよ。青の王国の王族のアルくんは、もうすぐ13歳になる。あっ、もう13歳になったかも」
「じゃあ、俺と同い年じゃないか。俺も、もうすぐ13歳になるよ」
「へぇ、そっか。アルくんは、剣の物質スライムを得ているから、剣術も上手だけど、性格的にはランドルフくんと合いそうだよ。アルくんもランドルフくんも、優しいからね」
「じゃあ、俺が外交や国の再建のことを勉強すれば、良い関係を築けるかな」
「うん、ランドルフくんなら、できると思うよ」
話しているうちに、ランドルフくんの表情はどんどん明るくなっていった。お兄さんの方を向いて、力強く頷いてる。もう、彼は大丈夫ね。
「ランドルフくん、もう一つの用事なんだけど」
「あっ、王妃リーネル様のことだよね。ずっと、部屋に引きこもってる。俺はもう3年以上は会ってないけど、侍女は頻繁に出入りしているらしい。心の病気だという噂もあるけど、ジュリエッタに会えば、元気になるんじゃないかと思うんだ」
ランドルフくんは、気が弱いけど、周りのことをよく見ているのだと感じた。でも、王妃という呼び方は少し変だよね。彼が新たな国王なのに。
「そっか。たぶん、私の弟と一緒に暮らしているんだと思うよ。母には、子供が4人いたみたい。一番下の弟だよ」
ランドルフくんは驚いた顔をしたけど、それは、ぶよぶよなオジサンが、そんなはずはない! って叫んだからだよね。
「王妃リーネル様には3人の子がいた、と聞いたことがあるよ。3人とも白い髪だったから、城から出したみたい。4人って、誰が言ったの?」
「赤い髪の女の子だよ。彼女は、墓場から生まれたけど、私の兄らしき子の残留思念も取り込んでいるの。私は、二番目の子で、私には妹もいたみたい」
ランドルフくんにそう話していると、近くにいた兵が、驚いた顔をして、赤い髪の女の子に、かしずいた。情報は正しいみたいね。
「確かに、男、女、女の3人だと聞いたことがある。じゃあ、そのレッドスライムの中に、ジュリアスがいるんだね」
(ジュリアスという名だったのね)
「幼い頃に殺されたから、名前も覚えてないんじゃないかな? ただ、お母さんに会いたくて、この辺りを彷徨っていたんだと思う。その記憶の一部が、彼女の中にあるよ」
「そうか。ジュリアスは、2歳になる頃に、城を出たんだと思う。俺と同い年だったんだ。いつも髪を剃っていたことを、うっすらと覚えている」
(白い髪だからか)
黄の王国へ逃がそうとしたって聞いたけど、隠せなくなったのかな。その提案をしたのが、白い髪を呪いだと信じる人達なら、城を出た後に殺されることが決まっていたのかもしれない。
「ランドルフくん、私、母に会ってみようと思うの」
私がそう話すと、ランドルフくんは困った顔をしてる。国王の葬式にも出て来なかったからだよね。
たぶん、一番下の子を、誰かに預ける気になれなかったんだと思う。部屋には侍女が出入りしているみたいだけど、王妃が在室していなければ、中に入る人もいるかもしれない。
「ジュリエッタ、俺も会えない。王妃リーネル様がいる部屋の扉を、強制的に開けさせることはできないんだ」
「とりあえず、案内してくれる?」
「そうだな。ジュリエッタが外から声を掛ければ、開けてくださるかもしれない。ついて来て」
ランドルフくんが歩き始めると、オジサン達も一緒に行こうとしてる。弟がいる、と私が言ったからかな。でも、いつまでも隠せるわけじゃないもの。外に出るキッカケをつくってあげなきゃ。
◇◇◇
コンコン!
「王妃リーネル様、ランドルフです。出てきていただけませんか? ジュリエッタが今、ここに来ています」
長い渡り廊下を渡った別の建物の入り口で、ランドルフくんは立ち止まった。上の方にしか窓はない。なんだか、監獄のような塔に見える。
「ダメだな。やはり反応がない。侍女も、ここに人がいると出てこないんだ」
「これまでにも、いろいろな嘘を並べて、扉を開けさせようとした人がいるのね。扉が開くと、きっとチカラで押し切られそうだもの」
私がそう話すと、ランドルフくんの後ろにいたオジサン達は、バツの悪そうな顔をした。図星だったみたい。
「みんなは、ここで待ってて。お兄さん、スライム達が暴れないように見張っててね」
赤い髪の女の子達が暴れるわけがないけど、これは、ついてきたオジサン達に聞かせただけ。
「ぼくも、ジュリエッタといっしょがいいっ!」
(ええっ?)
白い髪の小さな女の子が、私の背に飛び乗ってきた。
「ふわしろスライムさんは、ここで待ってて」
「やだっ! ぼくは、ジュリエッタといっしょがいいっ」
(あちゃ……)
白い髪の小さな女の子を抱きとめると、本気で泣いてるよ。私が視界から消えることが、不安なのかも。
「ジュリちゃん、ふわしろスライムさんは、連れて行こう。白い髪の男の子がいるなら、白い髪の小さな女の子がいる方がいいかもしれないよ」
「キララがそう言うなら、仕方ないなぁ」
私は両手でしっかり、モコモコな白い着ぐるみのような子を抱っこした。
「じゃあ、お兄さんは、ここで待っててね。ランドルフくんもね」
私がそう言うと、キララは私の左腕に触れた。ネイルは右腕を掴んでる。
「ジュリです。失礼しまぁす」
私達は、キララの透過魔法に包まれ、扉の先へと進んでいった。




