125、カールの決意
「ジュリちゃん、襲撃者を移動させようか?」
部屋の中の吹雪が止むと、キララが、赤い髪の女の子の方を見ながら、そう尋ねた。彼女の意向なのかも。
「キララ、ここで話す方がいいよ。まだ終わってない。ランドルフくんを脅した赤い髪の人化したスライム達は、アルくんのことも殺そうとしているでしょ。賢い子が困ってるから吹雪は止めたけど、預けようとは思えない。改心する気はなさそうだよ」
私は、怒りが収まらなかった。バケモノと連呼されたこともムカつくけど、大陸は人間の領土なのに、スライムが支配しようと考えること自体が許せなかった。
「ジュリちゃん、ちょっと落ち着こうか」
(えっ? ジュリちゃん?)
ランドルフくんを支えていたお兄さんが、穏やかな声で、そう言った。私のことを以前のように呼んでくれたことが、意外な気がした。赤の王国の英雄カールさんとしては、この場所で私をジュリちゃんって呼んでいいのかな?
「お兄さん、私、落ち着けないよ」
「あぁ、気持ちはわかる。だけど、もう勝負はついた。ジュリちゃんを守る二つの物質スライムが人間の姿に進化したときから、勝負は決まっていたんだと思うよ。ジュリちゃんの気持ちを考えずに、城に連れて来て悪かった。だが、これは俺のケジメでもあるんだ」
(お兄さんのケジメ?)
やっぱり、お兄さんは少し変だよね。ぶよぶよなオジサン達がひどいことを言っていたけど、新国王に仕えているわけで、実際に、今もランドルフくんを支えている。
「オルグ様、俺は、赤の王国を去る決意をしました。平民である俺がいることが、貴方達にとって目障りだったのでしょう」
(えっ? 出て行くの?)
「カール! おまえ、まさか、王女ジュリエッタ様について、スライム神の島に行きたいとでも言うつもりか!? 赤の王国を捨てて、強い王女に仕えたいと言うのか。あ、いや、ジュリエッタ王女が、赤の王国の女王になればいいのか。赤い髪に変えられるなら、何の問題もない。そうだ! ジュリエッタ王女が、亡き国王を継ぐべきなのだ!」
(何を言ってるの?)
ぶよぶよなオジサンは、私の方にヘラヘラと媚びるような気持ち悪い笑顔を向けてくる。
「俺は、青の王国の再建を手伝います。青の王国の王家の血を引く少年とは、スライム神の島にいた頃から世話をしていた縁がありますからね。赤の王国の新国王は、ランドルフ様です。それを決めたのは、オルグ様達でしょう?」
「青の王国の再建だと? さすらいの荒野はダークスライムだらけだ。あんな場所に人間が住めるわけがない。ランドルフ様には隠居していただいて、より強き王族が国を統べるべき……」
「オルグ様! 何をおっしゃっているのですか。ランドルフ様に対して、あまりにも不敬です!」
お兄さんが大きな声で怒鳴ったことで、ぶよぶよなオジサンは、ビビったみたい。ヒクヒクと顔を引きつらせてる。
「ダークスライムは、へるよ。ぼくもダークスライムだったけど、ふわしろスライムにもどったよっ。もともとダークスライムだったこも、くろしろスライムになったよ」
白い髪の小さな女の子は、えへんと胸を張って、大きな声で、ぶよぶよなオジサンに話した。
「えっ? ダークスライム……」
こんなに可愛いのに、城にいる人間だけでなく、まだ寒くて動けない赤い髪の人化したスライム達も、オバケを見たかのような顔をしてる。
「この子は、大陸を守っているクイーンホワイトの分身だ。あぁ、それから俺は、人間じゃねぇぞ。もともとはレッドスライムだったが、今はブラックスライムだ。赤い髪の少女は、赤い丘にある墓場から生まれたレッドスライムの変異種だ。ジュリちゃんは、スライムと人間のハーフだと言っていたぜ。このクイーンホワイトの分身が、彼女を生み出した。おまえら、理解したか?」
黒い髪の人化したスライムが、一気に喋ったけど、たぶん人間には理解できないよね。
「スライムなのか……」
「おまえは子供ばかりだと言っていたが、ジュリちゃん以外は、全員がスライムだ。ここにいる俺達には、おまえらに想像できないほどのチカラがある。つまり、今がチャンスだと考えて飛び込んできた、バカなスライムにも想像できなかったわけだ」
彼の話は、スライムしか理解してないみたい。というか、スライムに話してるのかも。
「俺は、スライム神の島に棲んでいる。だが、青の王国の再建をしようとしているアルに、剣術を教えたのは俺だ。俺が特殊な進化をしたのは、ジュリちゃんの影響を受けたためだ。いわば、ジュリちゃんは俺の育ての親のような存在だからな。レッドスライム! 俺の話は理解できているか」
やっぱり、黒い髪の子は、スライムに言ってるみたい。アルくんや私に手出しをするなと、スライム達を脅してるのね。
シーンとしちゃった。黒い髪の子が、スライム達を威圧してるのかも。
「あぁ……一体どうすれば……」
ぶよぶよなオジサンは、オロオロし始めてる。この部屋の異変に気づいて、武装した人達も集まってきてる。
私は、どう話すべきか、まだ頭の中がまとまらない。だけど、私が話さないと、シーンとしたままだよね。
「キララ、襲撃してきた赤い髪のスライム達は、改心するかな?」
(ここはキララにお任せだよ)
キララは、一瞬驚いた顔をしたけど、私がお手上げなことに気づいたみたい。
「賢い子さんに従わないなら、そのうち淘汰されるよ。ネイルは、物質スライムで最強だと思う。当然、どのスライムも知っているだろうけど、人化するスライムより物質スライムの方が上位種だ。そして、ボクとジュリちゃんは、短時間で大陸に来ることができる。ジュリちゃんは、ダークスライムも討てる。まだら模様のダークスライムだった個体は、ジャックの役割を得て、大陸に戻った。だから、大陸に居たいなら、新たなレッドスライムの王に従うしかないよ」
キララは静かに話したけど、赤い髪の人化したスライム達は、真っ青になってる。心まで凍りついたのかも。
「そっか。じゃあ、賢い子に任せようかな。キララ、襲撃してきたレッドスライム達を、赤い丘に移動させて」
「うん、わかったよ。城を取り囲んでいる奴らも一緒に、移動させるね」
キララはそう言うと、サッと姿を消した。壇上にいたスライム達も、部屋のあちこちにいたスライム達も同時に消えてる。
兵に紛れていた鎧を身につけたスライム達が、キョロキョロしてる間に、もう、キララは戻ってきた。




