石の人は古代人?
ウチの驚いた声を聞いたネルソンが、いつの間にか目の前に現れてウチを守るように構えていた。
その事にもう一度声が出そうになったけれど、口を手で押さえて必死に飲み込んだ。
「石化しているな。それも、とても綺麗に形が残っている」
「え?石化した人やったん?」
ネルソンの後ろからひょっこり覗くと、ウチが驚いた声を上げたにも関わらず、最初と変わらないポーズで動いていなかった。
うずくまっているから頭が最初に目に入ったけれど、石化しているせいで白っぽくなっていて白髪だと思った。
膝を抱えて座っているから足はあまり見えず、足の前にある手も色白にしては白くてツルツルしている。
「ほんまに石になっとる。驚いて損した気がするわ」
「エルに害を与えないから固有魔法が反応しなかったのか?不意打ちでも弾くんだろ?」
「不意打ちは気づいたら弾いてて、弾いた事で気がつくねん。大丈夫かどうかはウチが相手を認識してないとわからへん。ちなみに、この石の人は大丈夫やで」
「そうか。万が一でゴーレムってこともあるかもしれなかったが、固有魔法が反応しないなら本当に石化した人なんだろう」
「ゴーレム?」
「動く石像だ。山や坑道などの岩が多いところや地面が剥き出しのところに出てくる。稀に草原でも土のゴーレムが出てくるが、重さを生かした攻撃はなかなかの威力で、下手な盾持ちだと耐えられずに吹っ飛ばされる」
「へー」
「あんまり興味なさそうだな……。まぁ、エルなら固有魔法でなんとかなるか」
「いや、それよりも食べられそうにないなって」
「あー、エルはそういう奴だったな」
やれやれと首を振るネルソンだけど、美味しい食べ物は重要だ。
それと気持ちよく眠れる寝床とお風呂。
ネルソンは加えて酒と軽いギャンブルも欲しいらしい。
そんな緊張感のないやりとりをしながらも、石化した人を観察していると、あるところが気になった。
「耳長ない?」
「ああ。長くて先端が尖っているな。半獣の獣耳とは違って、人の耳を横に伸ばしたような見た目だ」
「寝る時邪魔そうやな。横向いたら折れてまうやん」
「耳だと柔らかいから問題ないんじゃないか」
「今は石になっとるから硬いけどな」
「そういう話じゃない。とりあえずもう少し探索するぞ。広いといっても巨木の幅を超えないからな」
「せやな。下手に触って壊したらあかんし、今は見るだけにしとこ」
以前拾った請負人らしき足とは違って、この人は全身が残っている。
万が一石化が解けるようになった時までに、触って壊したせいで治せなかったら後悔するだろう。
固有魔法は反応しないけれど、それは危険がないだけで壊れるかどうかまではわからない。
持ち帰ることができる物でもないから、後日頭のいい人を連れてきて対処してもらうことにした。
どうみても面倒そうなので丸投げだ。
「ここにも居るな」
「こっちは弓構えたポーズしてるわ」
「これは子どもだな。結構な数が石化されたのか」
「もしかしたら運んできたのかもしれへんな」
「戦っている様子の石像は、その可能性があるな」
そこま広くないと思っていたけれど、更に下があってたくさんの石化した人が見つかった。
その数37人。
どの人も耳が長いことを除けばウチらと変わらず、男性に女性、大人と子どももいる。
石像がある程度集まっている場所はちょっと不気味で、ウチの歩みは遅くなっていたけれど、ネルソンは普通だった。
これが経験の差か。
「ほんで、この後どうする?」
「何も見つからなかったらもっと奥へと向かうつもりだったんだが……。これは一度戻って報告だな。残っている石化した武具を持ち帰る程度なら問題ないだろう」
「石像触って壊れたら嫌やもんな」
「ああ。戻せるってなった時に困るからな。ただ、戻せるようになったとしても、問題は山積みだが……」
ウチからすると耳が長いだけの人ぐらいだったが、ネルソンは他にも色々と考えることがあるらしい。
例えば石化した時期によっては常識が違うこと、そもそも言葉が通じるのか分からないこともある。
更に獣人以外で耳の長い人は見たことがないこともあり、仮に言葉が通じたとしても第迷宮都市で受け入れられるか分からない。
他にも敵対的だったらどうするとか、実は人型の魔物ではなどとたくさん思いつくようで、最後には頭を抱えていた。
しかし、学者たち丸投げすると吹っ切れたら、ウチを背負って来た道を戻るだけだった。
そして太陽が頭上から照らしている間に、森の外にある草原の拠点に戻って来た。
「戻った。フォイマンさんはテントにいるか?」
「おう、ネルソン。元気そうだな。フォイマンさんはテントにいるぞ。アンバスは薬を試す人を集めに、迷宮の外に出ているがな」
「そうなのか。まぁ、アンバスは後でいいから、特に問題はないな。情報ありがとう」
「いえ、お気をつけて」
ウチを背負ったままのネルソンが、拠点の人から聞いた通りフォイマンのテントへと向かう。
移動するなら背負ったままのほうが早いけれど、拠点に着いたのならおろしてほしいと思いながら運ばれる。
降ろしてもらえたのは、テントの前に着いてからだった。
「フォイマンさん、ネルソンです。戻りました。報告があるのですが入ってもいいですか?」
「はい。どうぞ」
久しぶりに入ったフォイマンのテントは、資料が入った木箱が増えて、羊皮紙が積み上がっできた塔もある。
更には見たことがない人もいて、その人はお茶を飲んでくつろいでいた。
紫の髪を肩で切りそろえた女性で、あまり運動は得意ではなさそうな細身。
耳や指にアクセサリーを結構な数つけているから、印象には残りやすい。
年齢はフォイマンさんよりも若く、それでもある程度歳を取ってそうなお姉さんとおばさんの間ぐらいだから、間違ってもおばさんと言わないようにしなければならない。
怒ったら怖そうだ。
「この方は?」
「わたしの学者友達で、ハロルドと言います。迷宮で取れる物を研究するわたしと違い、迷宮そのものを研究している方です。この度調査協力をお願いしました。団で行っている勉強会に出ていただいたこともあるのですが、ネルソンくんは忙しくて会えていないと思います」
「はい。初めてお会いします。俺はネルソンです。白孔雀の輝き団で斥候をしています」
「ハロルドよ。代々迷宮について調べる家系の出だから、あたしも研究を生業にしているってわけ。今回はフォイマンさんに呼ばれたから来たのよ」
「よろしくお願いします。」
「それで、その子が固有魔法持ちの子ね」
「せやで。ウチはエル!よろしゅう!」
「はい。よろしくお嬢さん。それで、戻って来てフォイマンさんの所に来たのは報告があるのかしら?」
「はい。そうです」
ネルソンが石化毒の森やウチにしか見えない巨大な木、木に開いた穴や石化した人について説明した。
それを聞いている2人はさすが頭脳労働担当、しっかりメモをとっている。
所々で手を上げて質問してくるのも学者ならではなのだろう。
時にはウチにも質問してくるところが、子供扱いしていなくて好印象だ。
そして、採取してきた物を交えつつ、説明は長時間に及んだ。
「なるほど……。報告ありがとうございます。ただ、わたしの手には余りますね。石化だけで手一杯です。耳の長い人に心当たりもありませんし……」
「それはきっと古代人ね」
「ハロルドさんには心当たりが?」
「あたしの学派の予想だけどね。ただ、主流派の考えとは違っているから、あまり大きな声では話せないのよねぇ。とりあえず説明はするから、人と話さないようにね。場合によっては頭がおかしいと思われるわよ」
そう言ったハロルドが説明してくれたのは、迷宮教会が説いている話と、ハロルドの学派の考えだった。
迷宮教会は、大量の魔力が溜まった影響で大地が飲み込まれて迷宮が出現し、これは魔力を管理していなかった人間と獣人への試練だと教えている。
迷宮の全てを攻略することで、世界が元通りになるとも。
対してハロルド側は、大地が飲み込まれたことは否定していないが、飲み込まれた大地には人や獣人以外にもたくさんの生き物が居て、迷宮創造と同時に絶滅したと考えていた。
書物や壁画が残っているわけではないが、明らかに人が使うには大きすぎる迷宮の階段や、地上には存在しないのに迷宮には存在する種類の魔物、迷宮から出土した物の作りなどから、過去の人は今よりも技術力が高いなど色々考えている。
そして、それら古代人の痕跡を昔の人たちがこれ幸いと消したのではないかと、懸念も抱いているらしい。
「なんや難しくてようわからんけど、あの石化した人らは迷宮が作られた時に飲み込まれた人ってこと?」
「そうよ。あるいは迷宮内で生活していて、その子孫かもしれないわね」
「その可能性もありますね。ただ、石化をどうにかしないと話も聞けないですが」
「せやな」
「フォイマンさん、薬の方はどうなっているんですか?」
「ひとまず石化に抵抗する薬はできたようですが、しっかりした効果取りはこの後ですね。石化を解除する方法は全く見当がついていません。サンプルが少なすぎます」
持ち帰った部位は完全に石化していて、石と全く変わらないため、薬を試すのに役立たなかった。
かといって誰かに石化してもらい、それを実験体にするのは難しい。
いざ石化した時に薬が効かなかったら意味がないけれど、試す方法がないのも事実。
「今は大迷宮伯に話を上げてもらって、実験に使える人を寄越してもらう予定です」
「実験に使うというと犯罪奴隷ですか?」
「はい。大迷宮伯から近隣の領地貴族へ話してもらえているはずです」
犯罪奴隷ならば、実験の末に死んでしまっても問題がないということで、人集めのお願いをしたそうだ。
借金奴隷の場合、借金を返し切ったら奴隷ではなくなるから、こういった実験には参加させられない。
表向きはだけど。
実際には買った人がどういった使い方をするかわからないせいで、ミミみたいに迷宮攻略時の壁役に使われることもある。
意図して殺していないから、ギリギリ許容されるみたいだけど、通報されたら罰則はなくとも説教を受けることになるし、次の借金奴隷購入まで期間が短いと、奴隷商に警戒される。
「アンバスは犯罪奴隷が集まるまで待ちか。それならフォイマンさんを連れて石像まで行くかどうかですね。もし行かないのであれば、またエルを背負って森の奥へと向かいますが」
「万が一ということもあります。わたしは行かない方がいいでしょうね。行くとしてもせめて薬ができてからです」
「あたしも行きたいけど、無理して戻れなくなったら困るわ。持ち帰ってくれた物を研究して過ごすのが一番ね」
2人が安全を考慮して向かわないと決めたので、引き続き森の奥へと向かうことになった。




