文字通り木の家
木に開いた穴は、最初に見つけた木よりも高い位置にあった。
そのためネルソンがナイフを突き刺して足場を作らないと、簡単には登れなかった。
周囲の木はそれぞれ半分近く石化しているけれど、ネルソンは石化していない部分を狙って、的確にナイフを放っていく。
そしてウチが背負われた中で一番木登りが上手いネルソンは、あっという間に穴に入ることができた。
その中はさっきの穴とは違って、一面灰色に石化していた。
「これは……石造の家ってわけじゃないよな」
「ちゃうやろなぁ。木も石化しとったし」
「じゃあ石化した廃墟ってことか。石を削るか、そのまま拠点として使えってことなのか?迷宮はよくわからないな」
「せやな」
気を取り直して穴の中を調べた。
前の穴にあったテーブルよりも大きなテーブルに複数の椅子。
棚も3つあったけれど、中身は空っぽ。
時間が経ったことで風化したのか、カゴのような物や布のような物もあった。
そして壁際には上下へと続く階段もある。
「階段か。エル、固有魔法が反応するか?」
「いや、なんも感じへんな。石化もせえへんやろな」
「そうか。では、上から調べよう」
「んー。その心は?」
「心がどうしたんだ?」
「あー、なんで上からなん?」
「心はよくわからんが、上の方が居住区だと思うからだ。地下に住むとなると水や土などが入り込む可能性があるし、何より逃げづらい。上ならば最悪飛び降りれるが、地下からは階段を登るしか道がないからな。もちろん地下に道を作っていたら別だが、それにはとてつもない労力がかかるだろう。大迷宮都市でも同じような作りばかりだからな」
「なるほどなー。居住区から探索するってことやな」
「そうだ。地下は保管庫になっていることも多いからな。では、上がるぞ」
コツコツと石を踏む音が響く階段を上がった先も石化していた。
3つ扉があるけれど、どれも閉じた状態で石になっていて、ドアノブを捻っても、推しても引いても動かず、横に動かすのも無理だった。
仕方がないとため息を吐いたネルソンは、勢いよく扉を蹴りつけた。
「ずいぶん強いノックやなぁ」
「この音を聞いて中から開けてくれると助かるんだがなぁ。っと、開いたぞ」
「壊したぞが正解やな」
「固いこと言うなよ。これも仕事だ」
「石だけに?」
「ん?ああ、石は確かに固いな」
テンポは悪かったけれど、通じたのでウチは満足だ。
石の扉が向こう側に倒れて砕け、溜まっていた埃や石の破片が舞って白くなっている。
固有魔法が反応しないから石化の粉ではないようだ。
そして、舞っていた誇りがある程度落ち着くと、寝室のような部屋だということがわかった。
寝室だと言い切れないのは、部屋全体が石化しているからで、寝台や棚などが軒並み壊れているせいだ。
真っ二つに折れた寝台のような石の上に、元は布と思われる所々に皺の山ができたツルツルとした石が乗っていたり、灯り用の蝋燭が石化した物など、それなりの宿屋で見たことがある物が見事に石化していた。
ネルソンが触って確かめると、大きな物はそのままだったが、小さな物はボロボロと崩れてしまう。
大きな物でも身体強化して殴れば砕けるから、風化するほど時間が経っていると判断された。
他に見つかっている廃墟も同様で、石造りの部分は再利用可能でも、木や布はボロボロのため撤去して迷宮産の物に入れ替えているそうだ。
「ここも拠点にするん?」
「石化毒に対処できるようになってからだな」
「ふーん。でも、なんでこんな場所あるんやろうな?迷宮が休むのに使えっちゅうことなんか、あるいはここを使っていた人がおったんか」
「使っていた人がいる場所を模して迷宮が作ったんじゃないか?発見するまでに時間がかかったから石化毒にやられたんだろう」
「迷宮が広がる時にどこかを参考にしてるっちゅうやつやな。団の食堂で熱く語っている人が言ってたわ」
ナーシャの団で食事をとっている時に、アンデッド迷宮産の家具について語っていた人たちがいた。
出てきた家具は作りは良いけれど、見た目が最近の流行りに沿わないと主張する人に対して、見た目が流行りに左右される方が怖いと反論する人など、結構な盛り上がりをみせた。
仮に迷宮外の情報で変わるとしたら、美味しいものが増えてほしい。
「ここはただの寝室だな。他の部屋も確認するぞ」
「せやな」
残りの扉も壊して中を確認したけれど、全て寝室っぽい残骸しかなかった。
他に階段もないため、後回しにした下り階段を降りた。
「ここは扉がひとつしかないな」
「物置なんちゃう?」
「開けてみればわかるさ。よっと」
ネルソンが何度か蹴って緩んだところを体当たりで扉を壊した。
その影響で舞う埃が落ち着いた中には、壊れた棚や箱、そこに収まっていたであろう物の残骸が山を作っていた。
もしかすると価値のある物かもしれないけれど、どれも石化したうえで壊れているから、繋がりが全くわからない。
「とりあえずこの家は終わりだ。他の家も見るぞ」
「せやな。なんかおもろいもんあるとええねんけど」
「だな」
そうしていくつもの木の家を探索したけれど、ほとんどが普通の家だった。
時たま剣や薬を作るのに使う色々な物が置かれている家もあったが、どれも石化しているし人はいない。
ネルソンが人のいた痕跡を探そうとしても、石化していたらほとんどわからない。
目につく家を探索し終えたのは、翌日になってからだった。
「何もなかったなぁー」
「そうだな。草原にある廃墟は、発見当初本や武具に生活雑貨があったんだが……」
「ここは全部石化して壊れてるもんな。本っぽいのも見当たらんし」
「一応一番大きな木の家をもう一度探索してみようと思う。もしも村長の家だとしたら、何か隠されているかもしれないからな」
「どんなん隠してるん?」
「迷宮の外だと結界の魔道具に使う魔石や、納税のための金なんかだな。家に長い歴史があると代々伝わる何かがあったりするかもしれん。何もない家もあるだろうが」
「ふーん。まぁ、高価な物や便利な物があれば子供に受け継がせたりするんやろな。知らんけど」
ウチだと母上から貰ったネックレスぐらいしかなく、これの価値はわからない。
角度によって色が変わる四角い宝石のような物が菱形の台座にはまっていて、首紐で引っ掛けるだけのシンプルな物だ。
迷宮に入る時は外して宝箱に入れているけれど、街で活動する時はつけている。
固有魔法があっても万が一のことを考えると、無くさないようにしておきたい。
「エルの固有魔法は、ここで反応するか?」
「ん?どういうこと?とりあえず何も反応せんけど」
「石化毒があったら反応するのか?」
「するな。だから、ここは石化毒ないはずやで」
「わかった。一旦下ろすから目の届く範囲で自由にしてくれ。しっかり探したいんだ」
「わかった。気付けてな」
固有魔法について聞いたのは、石化毒の有無についてだった。
寝る時ですらウチを背負って横になっていて、時たま体をほぐすために降ろしてもらっているぐらい。
ウチを背負っていない時は身体強化でどうにかしているはずだけど、石化毒がなければその必要もない。
ネルソンは床に耳をつけた状態でコンコンと叩いたり、壁や棚をずらしたりとウチを背負った状態だとやりづらい探索を行なっている。
それをごろりと横になって見ているウチ。
そのうち寝てしまいそうだ。
「迷宮内の、それも魔物が出てくるエリアとは思えないほどのくつろぎっぷりだな。大物になること間違いなしだ」
「せやろ」
「ああ。……ん?」
「どないしたん?」
「静かに……。ここは音が違うな。床下収納か何かか?」
ネルソンは床に耳をつけていた。
音の響き方から空洞がありそうということで、その部分を中心に周囲を探すと、小さな凹みが見つかった。
近くに壊れた机や椅子があることから、普段は開けない場所だったのかもしれない。
出っ張りにナイフの先を引っ掛けて力を込めると、ガコッと音を立てながら床が剥がれた。
中には一部が石化した木の階段があり、奥は暗くて見えない。
「エル、固有魔法の反応は?」
「ないな。でも、ウチ背負って階段降りるには足場狭くない?」
「そうだな。ひとまずエルに行ってもらおうか。俺が行って一気に石化するよりはいいだろう」
「残ってる時に石化毒撒き散らす魔物に襲われへんかどうかもあるけどな。じゃあ行ってくるわ」
「怖いこと言って逃げるなよ!」
ライトスティックを取り出して、光を点けて階段を降りる。
横幅はベアロだと降りれないぐらい狭く、段も小さくて急な勾配だから、一歩ずつゆっくり降りていく。
手すりなどないため壁と降りてきた段に手を添えて降り切ったら、ほとんどが木のままの部屋だった。
階段は上に近いほど石化していて、途中から割合が変わっていき、降り切った頃には石化の割合が逆転していた。
つまり、石化毒が広まらなかったか、広まってすぐぐらいに閉めたかだろうか。
「おーい。問題ないかー?」
「ないでー!降りたらほとんど石化してへんから、ネルソンさんも降りてきても良さそうやでー!」
「わかった!」
ギシギシと階段を踏み締める音が降りてきているのを背に、ウチは少し先に進んだ。
石化ではなく朽ちた木箱やボロボロの布らしきものがいくつもあり、念の為慎重に進んでいく。
すると、木箱の残骸の影に何かが見えた。
「うわぁ!!人おる!」
うずくまった人だった。




