最初のが村だとしたらここは町?
拠点では2日休んだけれど、アンバスは戻ってこなかったし、ガドルフたちも麻痺毒の森の中で狩りをしているから暇を持て余している。
ナーシャへの報告もネルソンと2人でしたけれど、他にも色々あったらしく頭が痛そうに抱えていたのを、大変そうだと眺めることしかできなかった。
他にはエリザの鞭でウチを振り回す遊びをしていて、一部の人に見た目が非常に悪いと怒られたぐらいだ。
そしてしっかり体を休められたから、数日かけて石化した人たちが床下収納されているところまで戻ってきた。
話し合った結果、石化を解除できる薬ができるまで、石像には触らないということになっているため、戻ってきてもやることはない。
「ほんで、これからどうするん?」
「エルにしか見えない木に向かって進むしかないな。他に目印がない」
「目印って、ネルソンさんには見えへんやん」
「だからエルが頼りだ。まぁ、方角はわかっているから、たまに木に登って確認するぐらいだがな」
ネルソンは迷わずまっすぐに進んでいく。
木に傷をつけても数日すれば直ってしまうため、景色と感覚を基に方角を覚えているそうだが、流石にその場でぐるぐる回るとわからなくなるようだ。
例えば家に入るとしても、入る直前に周囲の景色を見て覚え、出た時に同じ方向を向けばある程度は維持できる。
そういった技術を口頭で教えてもらいながら森の中を進むと、また新しい魔物を見かけたけれど、先に気づいたネルソンが大きく避けてやり過ごした。
虫や獣、キノコに草木といった森っぽさのある魔物で、そのどれもが石化している割合が増えているにも関わらず動きが阻害されていなかった。
恐らく石化毒を放ってくるはずだけど、固有魔法は問題ないと判断している。
「徐々に木が減ってきているな」
「え?そう?ウチにはわからんわ」
「木と木の間が広がっているんだ。あの石化した人たちの木に近いづいた時もこうだった」
「おー……。なんかそれわかるのちょっと怖いな」
ウチがぶるりと体を震わせてからしばらく、ウチでもわかるほど木の間が広がってきた。
そして石像床下収納よりも家の木が多い場所に出た。
最初に見つけた場所が農村だとしたら、ここは木の柵で区切られた宿場町ぐらい家の数が違う。
「もしかして……ここも探索するん?」
「そうなるな。嫌なのか?」
「うーん……。数が多くて面倒そうやのに、最初の木の家のところより石化すごいもん。何も残ってへんやろきっと」
「それを調べるのも斥候の役目だ。万が一魔物が残っていて、調査に来た人が襲われたら問題だろう」
「今と調査までに時間空いたら、別の魔物来るんちゃうん?」
「その時はもう一度調べるだけだ。では、さっと魔物がいないか確認して、その後の詳しい調査は俺がするのはどうだ?その間は休んでていいぞ」
「いや、今後のために気合い入れて頑張るわ。危ない場所の調査はウチが担当することになるかもしれんし……面倒やけど」
「その面倒を楽しめるようになったら一人前だな」
家の木の数は遠目に見ても40を超えている。
これをネルソンに背負われたまま調査することを考えると、とても面倒だと考えてしまった。
ウチを降ろしてもらっても、自力では地面より上にある入り口まで登れない。
一々ウチを運んでもらって別々に探索するのも効率が悪いし、魔物がいたらネルソンが危ない。
もう少し人数がいれば探索も楽になるけれど、それは石化を解除する薬ができてからになるだろう。
諸々を考えるとやっぱり面倒で、少なくとも2人で探索する場所ではない。
けれど探索しないわけにもいかず、一番近い木の家に入った。
「ん?」
「どしたん?」
「いや、床に違和感が……。ちょっと降りてくれ」
「ほーい」
ネルソンの背から降りて、念のため周囲を警戒する。
今いるのはリビングのような場所で、テーブルや椅子、棚に食器などは全て石化して崩れていた。
そんな場所の床に耳をつけたネルソンが、何度もコンコンと叩いて色々確認している。
しばらくすると、歩いていた場所から少し離れたところにまたもや床下収納への入り口が見つかった。
そして石像もいくつか。
その逆に家の中には壊れた石化物ばかりで人らしき物はなかった。
それが調べた3つの木で連続して起きた。
「なんでみんな床下におるんやろな?」
「何かに襲われたにしては、全員隠れられるのはおかしい気もする。もう少し調査しよう」
15本の木を調査した結果、その全てに地下室が存在し、石像もあった。
前に見た場所と比べると地下室まで石化しているという違いがあり、魔物の襲来を聞いて逃げ込んだはいいものの、石化毒を防げずに地下室で完全に石化したのではとネルソンが予想した。
その予想が正しいかはわからないけれど、残りの木にも床下収納された石像はいくつもあり、たまに空っぽの地下室もあったけれど、石像の数は100を超えている。
そのどれもが耳が長かった。
「やっぱこの人らって古代人なんかな?なんで木に住んでるんやろ」
「森を守っていたり、森の中の魔物を倒して溢れないようにしていたんじゃないか」
「ほーん。そういう仕事もあるんやな」
「外だと請負人以外に狩人もいるぞ。村や町の近くにある森で狩りをして、肉を得るのが仕事だ。魔物の数を減らしたり、町中の仕事もするとなると請負人になるが、定住していればほとんど狩人と変わらない」
「あー、ガドルフたちが立ち寄った村や町で狩りの依頼を受けるのと、地元の請負人が日々の仕事で狩りをする違いか」
「そうだ。やっぱりエルは理解力があるな」
「せやろ。もっと褒めてええんやで」
「気が向いたらな」
「えぇー」
「それよりもこれを見てくれ」
「んー?それネルソンさんがせっせと組み立てたやつやんな?」
「そうだ。たぶん地図のような何かだ。きっと……恐らく」
「全然自信ないやん」
膝を付いたネルソンの前には、バラバラになった薄い石を慎重に組み合わせた物があった。
大きい間取りがあった木で休憩している間、暇つぶしにゴソゴソしていたのかと思ったら、額縁らしき石と中にあった石を仕分け、中の石をできるだけ組み上げたようだ。
ただ、額縁の中に入れる物が石化したせいか、思ったよりも脆くてところどころ欠けている。
それでもただの絵というよりも地図のように見える。
中央に大きな木があり、その周囲に木が10本ほど密集した何かが6箇所、さらに広がって木が5本密集した何かが、ついで木が2本の絵となっている。
中央の木を1とした場合、6、12、24と外に広がりながら増えていた。
他にも獣っぽい絵や泉っぽい絵など、色々描かれている。
描かれている部分が塗料のせいか、少し盛り上がっているからこそ、石化してもなんとか読めている。
「この中央にある大きな木が、エルにしか見えない巨大な木じゃないか?」
「ウチに聞かれても……。でかい木やし、迷宮やからなんか変な能力あってもおかしないなとは思うけど」
「では、その木を中央の絵とした場合、周りにある複数の木の絵は、恐らく村や町に相当していると予想できるな」
「え?なんでなん?」
「木に古代人が住んでいたからだ」
「じゃあ今おるところはどこ?」
「それはわからん。せめて印があれば良かったんだが……」
改めて木が複数あるところ見ても、丸で囲まれているなどはなく、現在位置はわからなかった。
「もしかして、この木のところウチらで探さなあかんの?2人で全部?」
「いや、これだけの数は無理だ。巨大な木に近づくと家の数も増えるだろう。ひとまずこれ書き写して、拠点に戻ろう。薬ができさえすれば、石化の森の中で休むことも簡単になるだろう」
ネルソンが羊皮紙とインクを取り出し、指で地図っぽい物を書き写す。
ペンは移動中に折れるため、細い枝などを調達することもあるけれど、周りにあるのは石ばかりだから諦めて指で描いたようだ。
そして、描き終わった羊皮紙を乾かし、また数日かけて拠点まで戻ると、何やら薄汚れた大人の集団が、馬車の荷台に備え付けられた檻に入れられていた。




