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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ウルダー中迷宮

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311/315

木に開いた穴

 

 ウチにしか見えない大きな木について相談するため、一度森の中のキャンプ地に戻った。

 話を聞いた人たちも試したいということで、次々にウチを背負って見に行った。

 しかし、誰も見ることができなくて、木登りが一番上手いのはネルソンだったということがわかっただけだった。


「やはり近づくしかないか」

「でも、見えへんねんから、近づいてもわからんのちゃう?」

「その時はエルに任せるさ。とりあえずの目標ができたから、その大きな木を探索したら終了になるだろうな」

「石化とか湖やったらあかんの?」

「大きな木を報告したら、調査してくれって言われるぞ?」

「報告せんかったらええやん。めっちゃ遠いで」

「……ナーシャの判断を仰ごう」


 遠いのは嫌なのか、ネルソンは判断を丸投げした。

 しかし、ナーシャからは調査するべきと返ってきたから、改めて食料などの準備を行って探索に出た。

 ついでに可能なら効果を試してくれと試作の石化解毒薬も渡されたけれど、実験体になるかもしれないネルソンの頬は引き攣っていた。

 そうして湖からウチにだけ見えた遠くの大きな木を目指して進むことしばらく、森の中で見ない物を見つけた。


「これは細い板?」

「あっちとあっちにもあるで」


 ネルソンが見つけたのは長い木札のように見える物で、幅は手のひらぐらい、地面にどれだけ刺さっているかは抜いてみないとわからないけれど、少なくともウチの身長ぐらいはある。

 それがネルソンの手前、左手と右手にもあった。


「この辺りまで他の請負人が来たにしては、物がおかしいな。なぜ細くて薄い板を地面に刺してるんだ?」

「ほんまに請負人が突き立てたんやろか?なんか古ない?苔がむしむししてるし、触ったら壊れそうやん」

「確かにそうだな……。木の柵か?にしては横の板が見当たらないが」


 ネルソンと一緒に周囲の地面を調べてみたけれど、柵の横板のようなものは見つからず、草や石や土だけだった。

 念のため1枚引き抜いてみたら、先端が尖っていて、明らかに突き刺すための形になっている。

 ウチらの予想では、木の柵か看板の支柱ではというところで考えるのを諦めて、その場を後にした。


「あれが看板にしろ木の柵にしろ、なんでこんなところにあったんやろか。看板やったら道の途中か店の前とかやろ?木の柵は村や畑にあるけど、どうみても森やん」

「そうだな。道にしては森すぎるから、それだけの時間が経過したのかとも考えたが、ここは大迷宮だ。どこかのエリア主を倒すと迷宮が拡張される。その時点でこれだったら理由を探すのは無理だ。迷宮が何を考えているのかはわからんが、あれはここにあって当然の物なんだろう」

「うわー、めっちゃ面倒やなそれ。謎っぽいけど調べてもわからんとか、迷宮調べてる人ら大変やん」

「その通りで、調査系の依頼は大変なんだ。なぜ廃墟があるのか、なぜ食べられる植物が多いのかなど、偉い学者さんたちは考えることが多いんだ」

「ふーん。なんかわかったことあるん?」

「迷宮内にいると魔力の回復が早い。迷宮内の魔物の方が外の魔物より強いから魔石の質が良い。同じ木の実や魔物でも迷宮の方が味がいいとかだな。基本的に外より魔力的なものの効率がいいんだ」

「なるほどなー。味は重要やなー」


 ウチが頷いていると、ネルソンからは呆れたような小さい笑い声が漏れた。

 あまり同意を得れていないようだけど、請負人からすると素材の魔力が多くて品質がいいことの方が重要なのだろう。

 装備や魔道具に使うなら素材が良い方が完成品の質も高くなり、効果が上がったり長持ちする。

 そのため、迷宮がある限り請負人の仕事はなくならず、迷宮の不思議さを探求する学者の仕事もなくならない。

 そんなことを話しながら昼食として干し肉やパンを炙って食べているウチの正面遠くに、またもや森の中で見ない物があった。


「迷宮のことを考えるのは偉い学者さんに任せるとして、あれなんやろ?なんか椅子っぽく見えるわ」

「ん?どこだ?」

「ウチの正面にある木の穴の中やな。遠くてはっきりとはわからんけど、酒場とか食事処にある背もたれのない丸椅子に見えるで」


 火を起こして色々炙っていたネルソンの背中は、進行方向に向いていた。

 つまり、その背に背負われているウチも進行方向を向いていることになり、そんなウチの目に木の穴が見えたから気になった結果、発見に繋がった。

 穴は根本ではなく少し上の方にあったため、座っている状態だと見えづらかったけれど、ネルソンが立ち上がった結果さらに見やすくなった。


「椅子……のように見えるかもしれん。が、近づかないと判断できないな」

「せやな。とりあえず向こうまでは問題なく行けるから、近づいてみようや」

「そうだな」


 これまでも魔物を避けてきたネルソンが、周囲を警戒しながら先へと進む。

 途中で見たことがないキノコや木の実を皮袋に入れつつ、少しして穴に到着した。

 早速中を覗いてみたけれど、そこにあったのは椅子ではなかった。


「丸テーブルだな」

「しかも、周りに椅子あるし、なんか棚もあるやん。穴の中に人でも住んでんの?もしくは人型の魔物かクマ」

「人型の魔物はわかるが、なんでクマなんだ?」

「なんとなく浮かんでん。穴の中で暮らす蜂蜜が好きなクマが」

「よくわからんが、この辺りに積もってる土や苔具合からして、使われてないと思うぞ」

「せやんな」


 丸くて足の生えた木製の何かが見えたから椅子だと思ったけれど、実際には丸い机だった。

 ウチの位置からでは机の周囲にある椅子は見えず、更に穴の中にある棚も見えていない。

 穴は大人が2人入って椅子に座れるぐらいには広く、木の太さを感じることができる。

 これで綺麗に片付いていて、穴がもう少し広ければウチが秘密基地にほしいぐらいだった。

 ここでミミと美味しい食べ物を食べた後、ゆっくりとお昼寝したい。


「棚には何があるん?」

「ちょっと待ってくれ。薄暗くてな」


 ネルソンがライトスティックを取り出し、穴の奥にある棚に近づいた。

 ウチは入り口を向いているから、魔物が来たらハリセンを出して応戦できるように気合を入れる。


「机のそばに木のカップがあったぞ。棚には細い棒……いや、これが先端か。だとしたら風化して壊れた矢だな」

「やだな?嫌ってこと?風化して壊れて嫌やわ?」

「違う。弓矢の矢だ。鏃と羽に矢筒もないが、この細い棒が複数あるからな。恐らく矢だろう」

「ふーん。ウチ弓矢使わんから、これやとわからんわ。やだわ〜」


 ネルソンから渡された棒は、枝のように太さがバラバラではなく加工されたようなまっすぐだった。

 風化したと言われるようにところどころにヒビが入り、苔や草も付いている。

 街で見かけた請負人や村で入り口を守る人たち、狩人たちが背負っていた矢筒に入っていたやと比べるとやや細いような気もするけれど、手に取って見たことがないからわからない。

 片方の先端には何かを嵌め込むための穴が空いていて、もう片方にはいくつかの切り込みの跡がある。

 どちらも木屑や草に土が入って塞がっているけれど。


「棒とカップを持ち帰るか。他にめぼしい物もないしな」

「椅子やテーブルは結構汚れてるから使えんし、持って帰るにも大きいもんな」


 穴を後にしてさらに奥へと進む。

 椅子やテーブルを持っていたら戻るしかなかったが、棒とカップは皮袋に入れて持ち運べる。

 木の棒が残って鏃がないことをネルソンが気にしていたけれど、小さいから魔物が中に入った時にどこかへ行ったんだと予想している。

 床にはよくわからない木屑や石の破片がゴロゴロしていたから。


「木の太さがすごいな」

「せやなー。ウチにしか見えへん大きな木に近づけば近づくほど太なるんかもなー。遠かったのに周りの木は他と同じように見えたし。遠い物って小なるはずやのに、近くの木と太さあんま変わってなかった気がせんでもない。大きな木に気を取られてたから知らんけど」

「なるほど。ということはさっきみたいな穴を開けて中に入りやすくなるってことだな。頭上には気をつけているが、穴も見落とさないよう注意が必要だ。エルも通った後の木に穴が空いてたら教えてくれ」

「了解や!」

「声は抑えてくれ」

「はーい」


 注意されたことを意識しつつ先に進む。

 ネルソンは何度も魔物の気配を感じ取り、痕跡を見つけては遭遇を避ける。

 時には木の上に登り、時には草むらに身を伏せて。

 伏せた時はウチが上になるから、手を伸ばせば草よりも高くなって見つかるんじゃないかと、いたずら心が刺激されたけれど、なんとか自重した。

 そうして数日かけて進み、今までとは違って木と木の間が広くなってきた頃、またもや木に開いた穴を見つけた。

 それも複数。


「なんだここは……。あの穴が住居だとしても、数が多いな」

「せやな。広場に沿っていくつか木が生えていて、それが何個か集まってる感じやわ。草原にあるって聞いた廃墟の森版ってことやろか?」

「恐らくはな……。調べるしかないか。中に魔物がいないといいんだが……」


 大きな木を目指していたのに、途中で調査する必要がある場所を見つけてしまった。

 残りの食糧を考えると、ここを調査するのに数日かけたら帰る必要がある。

 魔物を倒して食べるのも考えたが、まだどの部位が食べられるか調査中のため手が出せない。

 勝手に食べて体内が石化したら困るからだ。

 ネルソンと2人で何も起きないことを願いつつ、調査のため木に登った。


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