17. さよならバースデー4
「約束通りに魂を回収しにきたぞ。それで、今回は誰の魂を献上するのだ。そこの妖精だけでは足りぬぞ」
「……」
「貴様自身まだ死にたくないだろう。我は寛容だ、貴様に猶予を与えてやる。夜明けまでに供物を集めよ。さすればお前はまた100年老いることも死ぬこともなく生きられるぞ。なに魂の一万や二万、我が授けた魔法を使えば造作もないだろ」
「……死んでもあなたの思い通りにならないわ。魂が欲しいのなら、私の魂を奪いなさい。メルシーには手を出させないわ」
「できればその手段は取りたくなかったが、仕方ない。次に期待するとしよう…………おや、これは。フフフフその必要はなくなったらしい。喜べ、契約者。供物が自らやって来たぞ」
「なにを」
大きな音を立てて、屋根の瓦礫とともに僕たちはエメルの家へとお邪魔する。
そこにはエメルとメルシー以外に邪悪な存在がいた。
人の形を保った真っ黒な影みたいな見た目。明らかに人間ではないそいつは、両手を大きく広げて嫌らしい笑みを浮かべる。
周囲にたくさんの黒い球体を浮遊している。
「ようこそ、愚かな者たち。悪魔である我が直々に手を下すことを誇りに思って、死ね」
「ルル!!」
「ああ!!」
一斉に襲いかかる黒い球体。それをルルが触手で叩き落とすと、黒い球体は触手が触れた瞬間に大爆発を起こす。
ルルが張った魔法障壁によって爆風による被害はないが、巻き上げられた砂ぼこりによって視界が奪われる。
「エンチャント風魔法、そりゃあ!!」
「錬成・槍」
ルトの腕に刻まれた付与魔術刻印が青く光り、風魔法が宿った右腕で砂ぼこりを吹き飛ばす。
敵の姿を捉えたアルケミーが地面を爪先で叩き、複数の槍を錬成する。上を向いた穂先が道のように続き、大きくなった槍が敵を貫いた。
迎撃するように小さな槍も黒い体を蹂躙する。
「やったか!?」
「フフフフ自惚れるなよ、愚か者」
「そうかよ、俺の分が残ってて嬉しいぜ!!」
ルとの転移魔法で上空に飛ばされたスミス。手には大きなハンマーに変形した仕掛け武器。
炎を纏い、悪魔めがけて落下する。まるで隕石のように眩い光を放って、落ちてくるスミスは全てのエネルギーをハンマーに込めて悪魔を圧殺する。
凄まじい音とともに大きなクレーターができる。
高温によって赤く燃えるハンマーを持ち上げ、悪魔がいた場所を確認すると、染みすら残っていなかった。
スミスが叫ぶ。
「隠れてないで、出てこいよ。クソ野郎!!」
「武器を仕舞ったところで背中から一撃と考えていたが、バレたか。フフフフ人間にしては勘が鋭いな、貴様。上質な魂を持つだけある」
何もない空間に黒い液体が流れ出て、人の形をとる。無傷だ。
「ソウルスキルか、興味深い。魂の質によって能力が強化されるのか。ならばそこの太った男のソウルスキルは、さぞ強力なのだろうな。だが、我には関係ない。ひとついいことを教えてやるぞ、愚か者ども」
威圧感が増すのと同時に、魔力によって大気が震える。
「悪魔が悪魔たる所以その身を持って味わうがいい!!」
英雄とヒーローの違いはなにか。
華々しい活躍をして人々に尊敬される似たような意味を持つ言葉、このふたつを分け隔てるもの。
ヒーローが必ずしも英雄ではない理由。
仲間が悪魔と戦っている。
限られた時間の中で、僕は目もとを赤く腫らすエメルと向かい合う。悲しそうな顔をしている彼女を放っておけなかった。
「どうしてきたのよ、グラトン。私がわざわざ見逃したって言うのに、どうしてきたのよ」
「助けにきた。一人じゃ無理だけど、僕には頼れる仲間がいる」
そう言って仲間を指差す。
そこではスミスが刀に変形した仕掛け武器で、悪魔を散り散りになるまで斬っていた。
すぐに新しい体を作って攻撃しようとする悪魔に対して、ルルが異次元から取り出した武器を振るう。ルトが付与した使い捨ての武器。敵を消し飛ばすには十分な威力だ。
それでもまた復活を繰り返す敵に、僕の仲間は肩で息をしている。
今すぐに助力したい気持ちを押さえて、僕は彼らを見守る。
「無理よ。あなたの仲間がどんなに強くたって、あいつには勝てないわ。だって――」
「死なないでしょ。知ってる。契約者によって召喚された悪魔は仮初の体に魂を入れているだけで、どんなに殺しても死なない。壊されたらまた新しい体を呼び出せばいい。倒す方法はふたつ。魂ごと滅ぼすか、契約者を殺してこの世界への干渉権をなくすか」
「知ってるならどうしてきたのよ。私を殺すため?」
「違う。君を助けるためにきた」
流れ弾が飛んでくる。
メルシーの見えない壁によって何とか防ぐことができたが、次はもう無理だろう。
戦況は不利になりつつある。
それもそうだろう、疲労を知らない悪魔と魔力や体力そしてアイテムを消費しながら戦う人間。圧倒的に後者が不利だ。
武器に寄りかかって頭から血を流すスミス。
彼が編み出した新しい戦闘スタイルは確かに強力だが、その分自分の身を削る諸刃な剣。最初に脱落するのは目に見えていた。
最後に一矢報いるためか、魔力を溜める。これを最後の攻撃にするつもりらしい。
「見てくれよ、グラトン。これが俺の考えた『鍛冶』の使い方だ!!」
そう言って、彼は仕掛け武器を地面に突き立てて無防備になる。
前線であるスミスの一時離脱。ルト一人では悪魔を完璧に抑えることができるわけもなく、詠唱なしの上級魔法をバンバンと使ってくる。
その一部が武器を捨てたスミスを襲う。
スミスはガードするわけでもなく、そのまま魔法を受けながら悪魔に向かって走る。全身を炎で包みながら。
「うおおおおぉぉぉ!!!!」
攻撃を食らうごとに炎は大きくなり、スピードも増していく。
虹色の炎を纏って、悪魔に殴りかかる。
「自分自身を極限まで鍛える。戦いながら攻撃をしながら受けながら、全てを俺の火種にする。これが俺の編み出した『鍛冶』の可能性だ、クソ悪魔!! 死ね!!」
復活する場所を野生の勘で当てて、黒い液体が滲み出た瞬間に蒸発させる。嫌がらせに大爆発を起こすも、それすらも自分を鍛える糧として悪魔を追いかけ回す。
まるで鬼だ。短い赤髪は風を受け、衣服の殆どは炎によって燃え尽きた。唯一残ったズボンは、師匠から貰った思い入れのある逸品だ。
彼が冒険者になってからずっと身に付けてきた、言わば
「ヒヒヒヒ、どうした。もうお仕舞いか!! 口ほどにもないな……」
流石の悪魔もこれには堪えたのか、復活を諦めて様子を伺う。
するとスミスの体を覆っていた炎が色彩を失い、徐々に小さくなって、彼自身限界を迎えたのか地面に突っ伏す。




