13. 六日目の再開2(アルケミー視点)
大地に影を落とす空の王者。
全身を覆う鱗は魔法や物理に対して圧倒的耐性を有し、その知性はあらゆるモンスターの中でも群を抜いている。その血、その牙、その鱗、全てが素材として一級品。ドラゴン。
その中でも群を抜いて価値が高い個体。
七属性を統べる七色竜。その中で、最も個体数が多いとされる火を司る竜。火竜、
絶対的空の支配者に忍び寄るひとつの影。
青い光を放つ幾何学模様を全身に刻んだ人間の女の一撃が、遥か彼方上空を飛行する火竜を一気に大地へと引きずり落とす。
彼女が行ったことは至ってシンプル。
火竜がいる高度まで跳躍で移動し、顔面に踵落としを喰らわした。ただそれだけ。
「ルル姉さん。あとは任せた!!」
「ええ、十分よ」
妹のエンチャルトの言葉を受け、姉のディメルルは異次元へと手を伸ばす。
火竜が地面に叩きつけられたことによって、起きる爆音と衝撃。
砂煙が晴れると、そこには次元の裂け目から伸びた触手に拘束される火竜の姿が見える。
必死に抵抗するもびくともしない触手。炎で焼かれても、瞬く間に再生する。
「悪いな、火竜。ここで死んでもらうぜ」
斧の形をした仕掛け武器を片手に、自分自身を炎で包み込むスミス。スキル「火耐性」を持っているとはいえ、あの火力を完璧に防ぐことはできない。
肌が焼け真っ赤を通り越して、紅く光る。
その隣で僕はデストロイヤーを起動する。
錬金術補助装着型ホムンクルス『デストロイヤー』によってサポートされた僕は、錬成を繰り返す。周囲の素材、魔境の木や土を取り込んで、錬成。増大。それを元にまた錬成。
それによって形成された大きな腕。
「行くぞ、アルケミー。俺に合わせろ」
「はい、ここで倒します!!」
高くあげた腕と斧。振り落とす先は、火竜の頭。
「ちょっと待ったあぁぁぁーー!!!!」
僕とスミスは動きを止める。
「ガーくんは僕の友だちの友だちだから、殺したらダメだぞ。それと縄ほどいてくれると、ありがたいです。聞こえてるだろ、スミス、アルケミー。なんならルルでもルトでもいい、縄ほどいてくれ」
「グラトンちゃん!!」
「グラトン!!」
ルルさんとルトがグラトンさんに飛びつく。
転移魔法と付与魔術によって強化した跳躍で、一瞬で距離をつめた二人。くっ、僕とスミスは出遅れてしまった。
「見てましたか、ルトが火竜を地面に叩き落とすところ。どうです、合格点ですか?」
「火竜を拘束したの、私の異次元魔法なの。どう、なかなか強くなったでしょ」
「わかったから、まず縄ほどいて」
ルトが力任せに縄を引きちぎり、解放されたグラトンさんは二人から逃れるように火竜の元へと向かう。
ルトに蹴られたことによって砕けた鱗、赤い血が垂れる頭部を確認して、僕に声をかける。
「血が出てるし、鱗も剥がれてる。アルケミー、これ治せる?」
「ええ、回復ポーションをかければ治せると思いますけど。ルルさん、だそうですよ」
「グラトンちゃんが言うなら、従うけどちゃんと説明してよ」
「うん、わかってる。みんなには心配かけて悪いと思ってる」
ルルさんは回復ポーションを取り出すと、豪快に火竜の頭にぶっかける。するとみるみるうちに傷が塞がり、皮膚は元の状態に戻った。
しかし、鱗は剥がれたままなので僕が散らばる破片を錬成することで、一応元通りとなった。
グラトンさんは火竜の頭を撫でると、火竜はか細い声をあげる。
「がるぐー」
「ごめんな、ガーくん。僕の友だちなんだけど、前回のことで敵だと勘違いしたんだ」
「がるぐる」
「何言ってるかわかんないけど、次会ったときご飯たくさん持ってくるから。それで勘弁してくれ」
仕方ないなと、頷いたような気がした。
グラトンさんも僕と同じように解釈したらしく、額にかいた汗を拭う。
振り向くグラトンさん。頬を掻きながら、照れくさそうに一言。
「んー、ただいま」
僕たちも一言、おかえりと。
再開した喜びを分かち合った。
「――――ていうことがあって、今に至ります。みんなには本当に心配をかけたと思う。ごめんなさい」
「そう。無事でなによりだわ。それで、そのエメルっていう子の誕生日が明日で、場所は魔境の森の深層。なるほど、戦いはこれからということね」
「腕がなるぜ。さっきの戦いは消化不良だったし、ちょうど良いじゃねぇの」
「グラトンが行くならルトも行く」
「僕も賛成です」
グラトンさんの話では、そのエメルという人の誕生日を祝いたいらしい。この六日間お世話になったからと、それだけの理由で魔境の森の深層にもう一度挑もうとしてるなんて。
魔境の森の深層で妖精と一緒に暮らす魔女。
もしかするとグラトンさんは彼女の誕生日を祝うために、わざと妖精の悪戯に乗ったのかもしれない。
彼はとても優しい人だから、彼女のことを何かの拍子で知って交流を持とうとした。そして、誕生日の近い日に合わせてコンタクトをとった。あり得る話だ。
そうすると、妖精とグラトンさんは最初から手を組んでいた。ぐる。おそらく火竜もそうだろう。
僕たちも確かに強くなった。それは火竜によって証明された。手も足も出ない状態から、ここまでやれたのは自分の弱さと向き合うことができたからだ。
正に一石二鳥、一挙両得。凄い策略だ。
流石僕たちのリーダー。
「でも、エメルの家がどこにあるのか分からないんだ。どうにかできない、アルケミー?」
「ふふ、僕を試していますねグラトンさん。ポーチの中には共鳴石が入っていて、共鳴石の場所を探るアイテムを作るように言ったのはグラトンさんですよ」
「ん? どういうこと」
「誤魔化さなくてもいいのに。彼女の家は、あそこの方角です。今すぐにでも向かえますよ」
動かない共鳴石の反応。
そこがエメルという人の家だろう。
「誕生日は明日だから、今日はもう帰ろう。みんなの話も聞きたいし」




