12. 六日目の再開
朝が来た。別れの朝だ。
眠たいのを我慢して、テントの外に出ると、そこには大きな赤い竜がいた。
「今日は起きるのが遅いのね。まぁいいわ、これがあなたを元いた場所に戻してくれるわ。火竜のこどもだけど、温厚で可愛らしいでしょ。メルシーの友達よ」
「ガルグル?」
「メルシー。これは一体どういうことかな? 怒らないから、教えてごらん」
「イ、イエーイ。なんちゃって、あははは」
逃げようとするメルシーの足をつまんで、問い詰める。
それを見ている火竜は気にした素振りもなく、モンスターの肉を口いっぱい頬張っている。
羽をバタバタするのをやめて、ダラーンとする。観念したようだ。手を離しても、逃げようとしない。
「名前はガーくん。メルシーのともだち。あの日は、鬼ごっこして遊んでたら、グラトン見つけて。何だかんだあって、悪戯しようってなった」
「はぁ、まぁいいんだけど。悪戯であれって、ガーくん容赦ないな。一応聞くけど、僕と一緒にいた人たちは無事だよね」
「うん。グラトン飛ばしたあと、ガーくんと一緒にトンズラしたから大丈夫!!」
火竜が本気で襲ってきても、彼等なら逃げれると信じていたが少し安心した。
ガーくんは名前を呼ばれて、僕のほうに顔を向ける。涎を垂らしながら、じっと僕を見つめる。
「ねぇ、ちょっとあれ大丈夫なのエメル。ご馳走を目の前にした時の僕と、同じ顔してるんだけど。これ運ばれてる最中におやつ感覚で食べられない?」
「大丈夫よ、ガーくんは賢いんから。もし心配なら、ガーくんの背中にあなたを縛れば解決よ」
「荷物じゃん。まぁいいんだけど、ガーくん少しの間よろしくお願いします」
鼻を鳴らすガーくん。
仕草だけならこどものそれだが、体は立派なドラゴンだ。火竜としては幼い部類であっても、そこら辺の下位のドラゴンなら一撃で葬ることができる存在。
頼りになると捉えるか、怖いと捉えるかは僕次第だろう。
見た感じエメルとメルシーとは良好な関係を築いているし、何より僕の勘がこの子なら大丈夫といっている。涎を垂らしているが。
念のため、ガーくんの背中に固定してもらうことにした。
ドラゴンは総じて気高く自尊心が強いとされていて、自分が認めた相手しか背中に乗せないと聞いたことがある。
火竜となると、それこそおとぎ話の話だ。かなり貴重な体験だろう。
紐で背中に固定されてる姿は、なかなか滑稽ではあるが、これはこれで趣があるとしよう。
「なんかこんな姿で言うのもなんだけど、ここでの生活も悪くなかったと思う。ぶっちゃけ楽しかった」
「そう、なら良かったわ。私もそれなりに楽しかったわ」
「強くなって遊びに来るから、その時はよろしく。あっ、そうだお土産。次来るときお土産持ってくるから、エメルが欲しいもの教えて」
明日はエメルの誕生日。メルシーとの約束もある。
誕生日と言えば、プレゼント。
それなりに仲良くなったつもりだが、この数日だけで趣味趣向を完璧に理解することは無理だった。ならば、本人から聞けばいい。
サプライズだから誕生日という言葉を使えないが、前々から幼馴染みと一緒に来たいと言っていたので、自然な流れで質問することができた。
「…………そうね、なら唐揚げをたくさん持ってきなさい。それと…………いいえ、やっぱり何でもない。唐揚げよ、お土産は唐揚げでいいわ」
「唐揚げ以外!! 唐揚げ以外なら、何がいい。何が欲しい!!」
言い淀んだもの。
それが多分、彼女が本当に欲しいものだ。理由はわからない、根拠もないけど、そんな気がする。
あの時――僕の修行を手伝うと約束してくれた時と、同じ目をしていた。あの目を僕は知っている。
期待と諦観が混ざった瞳。
太陽を掴んだとき。川辺に写った、僕の瞳も同じように鈍く潤んでいた。
ため息がひとつ。
「……まぁいいわ、特別に教えてあげる。プリンよ。甘くて美味しいプリンを私に献上しなさい」
「プリン。プリンね。わかった、飛びっきり美味しいプリンを持ってくるよ」
「はいはい、わかったわ。まぁ元気でね、ガーくん頼んだよ」
「イエーイ。プリン、プリン。手作りプリン。メルシー、期待して待ってる。絶対、グラトン持ってくる」
「ああ、任せて。おっと――」
ガーくんが両翼を広げる。飛び立つつもりだ。
「言いたいことたくさんあるけど、それはまた今度。遊びにきたときに。それじゃあーまたねえぇーー!!!!」
跳躍と風圧。
堪らず目を閉じると、次に目を開けたときには僕は大空にいた。
僕は火竜の背中に揺られながら、雲ひとつない青い空を眺めながら、太陽に手を伸ばす。




