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3体の精霊

 修行をはじめて数日が経つが、空間の歪みは今だに検知されていない。

 アキは庭に設置してある天然木を組み上げたようなベンチに腰掛け休憩していた。

「ええ、天気やなぁ」

 アキは空を見上げエセ関西人風に言った。

 道場では稽古をする門下生の声が聞こえてくる。

 きっとお姉さんとイケメン男がイチャイチャと稽古していることだろう。

「ケッ!? リア充どもめ」

 アキは姿は見えないがそこにいるであろう道場を睨みつけ悪態をつく。

「どうしたの空雄君。目つき悪いぞ~」

 声のした方へ振り向くと一人の女性がいた。 

「あ、祥子(しょうこ)さん。仕事終わりですか?」

「ええ、いまさっきね。夜勤明けはお肌に堪えるのよねぇ」 

 お肌を気にしているこのお姉さんは、斉藤祥子(さいとうしょうこ)。観測所(アキが最初に入った建物)に勤務する所員でアキが観測室に入った際に最初に非難の視線を浴びせた女性だ。黒髪ロングに黒縁メガネと少々地味目ではあるが可愛らしいい人だとアキは見ている。

 祥子とは今日と同じようにベンチで休憩している際、夜勤明けでふらついているのを見かけ声を掛けたのがきっかけで仲良くなった。なったのだが、なかなかアキとは呼んではくれない。名前はちゃんと呼びたい派のようだ。

「え~祥子さんはいつも綺麗ですよ。抱きしめちゃいたいくらいですよ」

 アキは下心丸出しで言った。

「ホントに~、空雄君口がうまいからなぁ」

 祥子は疑いの視線を向ける。

「ホントですよ! その証拠に抱きしめましょうか?」

 アキはいつでも来いとばかりに両手を広げる。

「あははっ、またそーやって冗談ばっかりいうんだからぁ。でもありがと」

 祥子は照れながら微笑むと礼を言った。

「(今日の笑顔も最高です!)」

「ふふっ、声が漏れてるぞ」

 祥子は微笑む。

「しまった。つい本音が」

 アキは大袈裟に口元を押さえる。

「もう、そういうことするから冗談っぽく聞こえるんだよ。そんな事ばかりしてると意中の人に振られちゃうよ」

 祥子は優しく忠告する。

「その時は祥子さんが俺をもらってくれますよねぇ?」

「え~どうしよっかなぁ」

 祥子はアキを見定めるように隅々まで見る。

「ないかなぁ。だって空雄君は弟みたいなんだもん」

 祥子はやんわりお断りした。

「ですよねぇ」

 アキは肩を落として項垂れる。

 祥子はアキの隣に座りアキの頭を撫でると、のぞき込みながら言う。

「まあまあ、空雄君が振られないように気をつければいいんだからさ」

「それは、そうなんだけどね(うん、この笑顔が近くで見られたからいいか)」

「だから声出てるって」

 祥子は呆れたように言うとアキの頬を引っ張る。

「いひゃいでひゅ」

「はいはい。で、空雄君はここで何してるのかな? 休憩?」

 祥子は手を放し訊ねた。

「うん、リア充たちに呪いを掛けてたとこ」

 アキは頬をさすりながら道場を睨む。

「ああ、彼女たちね……ホント、リア充なんてみんな死ねばいいのに」

 祥子はアキ以上に腐った視線を道場に向けた。

 祥子もなかなかに闇を抱えていた。24にして今だに彼氏ができたことがないのだとか。なんでも意中の男性の前に出ると緊張してうまく話せなくなるそうだ。地味な容姿も相まって男性からは暗い女として認識されてしまったそうだ。

 つまり祥子にとって普通に話せるアキは守備範囲外の男ということだ。

「ん~祥子さんの黒さは揺るがないっすねぇ」

「ひどーい、私のどこが黒いっていうのよ!」

 祥子は心外だといわんばかりに頬をふくらまし不満顔をする。

「普通女の子がリア充死ねなんて言わないでしょ」

「言うよ~女の子は意外とどぎつい事平気で言うから。男の子が知らないだけで」

 祥子は「知らないって幸せね」という風にアキを憐れんだ目で見る。

「マジか~」

 どぎついことを言うのは冬華だけだと思っていたアキは、あまりの衝撃に口をあんぐりと開けてしまう。

「マジよ。フフッ」

 祥子は楽しそうに笑った。

 この二人、実は施設内で噂になっている。

 あの根暗な祥子が男の子と仲良く話している、と。祥子に「付き合っちゃえば?」という同僚もいたが、祥子にその気はなかった。最初はかわいい子が来たなぁくらいには思ってはいたが、サラの存在を知り完全に範囲外となった。

 なぜ、サラの事を知っているのかというと、応接室での話は情報取得のため記録を取っていたのだ。その記録を取っていたのが祥子だった。なので、アキがサラのことを想っていることも知っていた。

 もしそれがなかったら、これほど仲良く話してはいなかっただろう。

 祥子はそんな事は少しも考えず、アキを弟のように思い接している。


『いい気なものだな』


 楽し気に話しているさなか、突如聞き覚えのない声が聞こえてきた。

「え? 何?」

 祥子はキョロキョロとまわりを見回す。

 アキは気配のする方へ視線を向けた。

 庭の灯篭(とうろう)の上に一人の男が立っていた。他にもいるようだが出てくる気配はなかった。

 男は赤い髪、褐色の肌、赤い瞳を輝かせた引き締まった顔だちの、K-1にでも出てきそうな体躯をしていた。

 アキが一点に視線を向けていることに気付き祥子もアキの視線の先を見る。

「あんなところに人なんていなかっ……!?」

 祥子が言い終わる前にその男は炎を放ってきた。

「キャァァァッ!?」

「!?」

ボワンッ

 炎はベンチに直撃しベンチは炎に包まれた。

「祥子さん大丈夫?」

 アキは祥子をお姫様だっこで抱えて、道場の脇に飛び退いていた。

「え? 何?」

 祥子はアキの腕の中で小さくなっていたが、アキの声に気付きまわりを見て状況を把握しようとする。

「いつの間にこんなところへ……あ、ありがと、大丈……ぶ」

 祥子はアキの顔を見上げて口ごもる。

 アキの表情がいつものヘラヘラしたものではなく真剣なものだったからだ。

 祥子はアキのその顔をボーッと見ていた。

「祥子さん、道場の中へ」

「え? あ、はい」

 アキは祥子を下ろし道場から離れる。

 祥子は名残惜しそうにアキの背中を見送ると道場の中へと避難し、庭を見渡せる縁側へ向かった。

「ずいぶんな挨拶だな。お前精霊だろ?」

 アキは丁度中央の位置へ着くと男へ向けて言った。

『ああ、そうだ。俺の名はフラム、火の精霊だ』

 フラムが名乗りを上げると、赤い髪が炎のように燃えだした。

「ふ~ん、フラムね。俺は、知ってるとは思うけど五十嵐空雄(いがらしあきお)だ。どうでもいいけど頭燃えてるぞ?」

 アキは軽口をたたいて様子を見た。

『ふん、火の精霊はこんなものだ』

「ふむ、火の精霊っていうぐらいだから沸点が低いと思ってたけど、そうでもないみたいだな」

『浅はかな考えだ』

 フラムはバカにしたように言う。

「で、その火の精霊様が何の用だ? ベンチ燃やすし、楽しいおしゃべり邪魔するし」

 アキはフラムの用よりも邪魔されたことの方に気が向いていた。

『(女と遊んでいるようなヤツが……)』

「ん?」

 品定めするようなフラムの視線にアキは怪訝そうな顔をする。

『さっきは加減したがこれならどうかな?』

 フラムは掌をアキへと向けると地面から炎が噴きあがった。

「あっつ!?」

 アキは炎に包まれる前にジャンプして躱す。

『これで終わりと思うなよ』

 フラムは跳び上がり自由の効かない状態のアキに火炎放射のように炎を吹きかける。

ボォォォォォ

「うわぁぁぁぁぁぁっ」

「空雄君!」

 祥子の悲痛な叫びが上がる。

 アキにはその声は届かず炎に包まれ落下していく。

バシャン

 アキは運よく庭にの池に落ち、炎は消火された。

『運のいいヤツめ』

「あっちぃな!」

 アキが無事な様子を見て祥子はホッと胸を撫でおろした。

 アキは池の中で立ち上がり頭を確認する。どうやらチリチリにはなっていなかった。

「テメェ、いきなり何すんだ!? チリチリになったらどうすんだ! カッコわりぃだろ!」

『知るかよ』

 フラムはまたも火柱を起こす。

「クッ!?」

 アキはサイドステップで躱すが火柱は次々とアキの足元から噴き出してくる。

 火柱はそのまま残っているため逃げ場が次第になくなってくる。

 火柱が増えることで気温も上がり、空気も薄くなってくる。

 アキはちらりと道場の方を見た。

 炎は振りかかっていないが、祥子もイケメン男たちも若干苦しそうにしている。

『ほらほらどうした? 逃げてばかりじゃ被害が増えるだけだぞ?』

「調子に乗りやがって……フッ!」

 アキは速度を上げフラムの視線から逃れると一気に跳び上がりクルクルと前回転すると、フラムに向けかかと落としを放つ。

「うらっ!」

 アキのかかと落としは見事にフラムの頭部へと当たった。

 しかし手応えはなく、フラムの体は炎のように形を変え実体を持たなくなった。

『おしい、残念』

「ずりぃぞ!」

 無防備となったアキへ炎の拳が迫る。

「ぶふっ!?」

 炎の拳が直撃しアキは背中から地面にたたきつけられた。

「ぐはっ!?……ってぇ、!?」

 追い打ちをかけるように炎がアキに迫り、態勢の悪かったアキは避けられず直撃を受けてしまった。

ボフォォォォ

 それと同時に火柱を追加で加えられた。

ゴォォォォォ

「空雄君! いやぁぁぁぁっ!」

 祥子はアキが死んでしまうと思い、恐怖で涙があふれ手足が震える。

『ハハッ、やはりこの程度か。所詮人間だなぁ、アッハハハハハッ』

 フラムは炎に包まれ焼き尽くされていくアキを蔑み大口を開けて嗤う。

「笑い過ぎだろうが!」

 炎の中からアキが飛び出し、フラムへ向け駆け出す。

『まだ生きてやがったか』

 フラムは直進してくるアキにめがけ炎を放つ。

 アキは避けもせずそのままスピードを上げ突っ切る。

 炎はアキに直撃するかに見えたが、アキに当たる直前で壁のようなものに阻まれ弾けた。

『なに!?』

 アキはフラムに駆け寄ると掌を突き出し、掌底を放つ。

 フラムは先ほどと同じ手で炎のように姿を変え躱そうとする。

「ハッァァ!」

 アキは気勢を上げた。

 フラムは余裕を見せていたためアキの掌底をまともにくらい吹き飛ばされた。

『ブハッ!?』

 フラムの炎の体は塀に激突すると、塀を焦がし炎が消え人の形に戻る。

『な、なんで……?』

 フラムはなぜアキの掌底が当たったのか理解できず困惑する。立ち上がろうとするが、油断していたところへ直撃を受けたためにダメージが大きく、体が言うことを聞かず立ち上がれない。

「ふふん、なんでだろうなぁ?」

 アキは悪い顔をしながらフラムへと近づくと、掌をフラムへと向ける。

「おいたをする子供にはお仕置きが必要だろ?」

 アキはニヤリと笑った。

「!?」

 アキは瞬時にジャンプし後方に下がった。

 その直後、氷の槍が飛来し地面に突き刺さった。ジャンプしていなければまた(・・)串刺しになるところだった。

「もう串刺しはいいって(ったく、俺がそこまでされなきゃいけないようなことしたか?)」

 アキはうんざりしたように呟いた。

『あなたがこの程度の攻撃躱せないわけがないでしょう?』

 地面に突き刺さった氷の槍の横に女性らしき人物が現れた。

 女? は、青いショートヘアに青白い肌、そして青い瞳はある人を思い出させる。中性的な顔立ち、胸がかろうじてあるように見えることから女の印象が少しだけ窺える。

 女? の出現と同時にあたりがひんやりするとまわりの炎は消火されていく。

『それに私たちのことも気付いていたでしょう? ずっと気にしているようでしたし』

 アキは火が消えるのを確認すると女? へと視線を向ける。

「そりゃ、背後から刺されたくないからな。で? もう一人はまだ出てくるつもりないのか?」

 アキはもう一つの気配のする方へ視線を向ける。

『安心してください。彼は何もしませんから』

「どうだかな、何もしてこなかったお前はちゃんと攻撃してきただろ?」

『フフッ、そうですね。でも、それは彼がやられそうだったからです』

 女? はフラムをチラリと見る。

『ふざけるな! 俺はまだやられてねぇ!』

 フラムは、威勢よく言い放ち、負けを認めない。

『あんな変な技があるなんて聞いてねぇぞ』

 フラムはアキを指差しお角違いな文句を言う。

「は? 敵に手の内教えるバカがいるのか? なに、お前正々堂々派なの?」

 アキは信じられないモノを見るように言う。

『それは敵の場合だろ!』

「何言ってんの? お前敵じゃん。いきなり炎ぶっ放してきたし、祥子さんが怪我してたら即殺すレベルだぞ」

 アキは物騒なことを言い放った。

『て、敵じゃねぇし。そんなに簡単に殺すとか言うなよ! 命は大切だぞ! どんな命でも失っていいものはないんだぞ!』

 フラムはなかなか聖人のようなことを言う。

「え~相手が魔物でもそういうのか? 俺結構殺してきちゃったぞ」

 アキは首を傾げて言う。

『ま、魔物かぁ、魔物は仕方ないかぁ』

 フラムは一気に勢いが萎んだ。

「ハァ……で? お前たちは結局何がしたかったわけ?」

 アキは呆れたように二人を見る。

『彼がどうしてもあなたの力を直に見たいと言って聞かないので……私も見たかったですし』

 女? はアキを見定めるように視線を向ける。

「そういうのは俺が一人の時にしてくれ。で、もういいのか?」

 アキは勘弁してくれといった感じに訊ねた。

『はい、もう十分でしょう』

「そっか、えっと……?」

 アキは名前を聞きたそうに女? を見た。

『私は水の精霊、ミュウと言います』

 ミュウは礼儀正しく頭を下げて名乗った。表情に愛想はなかったけれど。

「ふ~ん。で、ミュウは男? それとも女なの?」

 アキは顎に手をやり、ミュウをじっと観察する。

『精霊に男も女もありませんよ。自分がどう見せたいかで姿を変えているんです。お姉様は女性を選びましたが』

「お姉様?」

 アキはフラムを見た。

「お前女なの?」

『俺は男だ!』

 フラムは炎がほとばしるほど憤慨して言った。

『シルフィお姉様の事です。フラムは力を求めるため男の姿を選んだようです』

『やっぱり力と言えば男だからな』

 フラムはマッスルポーズをとりニカッと笑う。

「シルフィって、風の精霊だろ?」

 アキはフラムのマッスルポーズに興味がなかった。

『見ろよ!』

『そうですよ。こちらの世界で一番最初に産まれたのがシルフィお姉様だからです』

 ミュウはなぜか誇らしげにしている。『すごいでしょ?』と言い出しそうだ。

 もちろんミュウもマッスルには興味がない。

『……』

 フラムは寂しそうにしている。

「まぁ、こっちには精霊いないみたいだしそうなるのか。で、もう一人は? 彼って言ってたし男なのか?」

『いえ、見た目が男寄りだからそう呼んだだけです。出てきて自己紹介しなさい』

 ミュウはもう一つの気配へ向けて言った。

 アキもその気配へ視線を向けると彼は現れた。

『は、はじめまして。ボク土の精霊のアーサー。よ、よろしくおねがいします』

 アーサーはペコリと頭を下げると、すぐさまミュウの横へ並びその手を握る。

 どこかで「キャー、かわいい!」という黄色い声が聞こえてきたが、今は触れないでおこう。

 アーサーは、顔は幼く中性的、茶髪の日本の小学生がそのまま出てきたような容姿をしていた。

「ちっさいな、男の子って感じだな。いや、男の娘? なのに名前は男っぽい」

 アキはその手の趣味の人のようなことを言った。

 ミュウはアーサーの前に立つと怪訝そうな視線をアキに向ける。

「ちょっと待て! 今の言葉のニュアンスだけで俺の言った意味がわかったのか!?」

 ミュウは黙ってアーサーを守るように隠す。

 アーサーは小首を傾げてミュウを見上げている。

「いやいやいや、そう見えるって言っただけだからね。決してそっち側の人種じゃないからね」

 アキは弁明する。

『アーサーは一番後に産まれた子です。少し人見知りなところがあるんです』

 ミュウはそう説明しつつも視線は怪訝そうなままだった。

「人見知りって言うのか? 精霊はみんな人間に姿見せないだろう」

『そうですが、アーサーの場合は私たちよりもその度合いが強いんですよ。まあ、あなたなら大丈夫だとは思いますけれど』

 と言いつつミュウは今だに怪訝な視線を向けている。

「お、俺は五十嵐空雄だ、アキって気安く呼んでくれていいからな。3人共よろしく。それで、力を見るために来たんならもう用はないのか?」

 アキは3人の代表みたいな立ち位置のミュウに訊ねた。というか、アーサーはミュウの後ろに隠されているし、フラムはイジケているしで、ミュウしか聞ける相手がいなかっただけなのだが。

『いいえ、本当はあなたを呼びに来たんです』

 ミュウは怪訝な視線を納め、真剣な視線をアキに向けて言った。


精霊のキャラ分けはできたかと。

シルフィとミュウが被りぎみに見えますが、それはおいおい。

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