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なかなか来ない異世界召喚

「おい、ちゃんと謝れよ」

『え~』

「え~じゃない! 巻き込んだんだから謝るのは当然だろう?」

『そうですよ。あれほどダメだと言ったのに』

『お前も見たいって言ってただろ!』

 アキとミュウはフラムに祥子を戦いに巻き込んだことを謝罪するように言い含めていた。

 コクコク、とミュウと手をつないでいるアーサーも頷いている。

「「キャー、カワイイ!」」

 女性門下生たちはアーサーに夢中だ。

 フラムはプライドがあるのか、なかなか謝らない。それどころか不貞腐れはじめる。

『んなの、アキが遊んでるのが悪いんだろ~』

 フラムはあろうことかアキのせいにしようとする。

「ほう、俺が悪いってか?」

 アキの頬が引き攣り、眉が吊り上がっていく。

『い、いや、今は修行中だろ? 少しでも強くならないといけないんじゃないかと……』

 フラムは言葉尻が弱く小さくなっていく。

 そんなフラムの様子を見て、さすがに祥子もいたたまれなくなり口を開いた。

「あ、空雄君。そ、その、もういいから。怪我もしなかったし……」

 祥子は怯えているのか、オドオドした感じで言うと俯いてしまう。

「でも、祥子さん……」

『な、な! 女もこう言ってることだし』

 いいだろ? と言いたそうにフラムはアキを見たが、アキの眼光は鋭くなる。

「あん?」

『す、すいません』

 フラムは思わず謝った。

「なんで俺に謝る。相手が違うだろう」

 アキは呆れたように溜息を吐く。

「あ、空雄君、ホントにもういいから!」

 祥子はその場は駆け出して行ってしまった。

「え? 祥子さん!」

『行っちゃったな』

 フラムは他人事のように呟いた。

「おまえなぁ……ハァ、もういいよ」

 アキは疲れたように縁側に座り込んだ。

『爺さんみたいだぞ』

「うっせい」

「お前たち、こんなところで何しとるんじゃ。アキを連れて来いと……なんじゃこりゃ!?」

 嵐三は庭を見て目が飛び出さん勢いで驚いた。

「あ、じいちゃん。なんだ、呼んでたのじいちゃんだったのか」

「だったのか、じゃないわい! なんじゃこの有様は!」

 嵐三は庭を指差し怒鳴り声を張り上げた。

 さっきの力試しで日本庭園バリに綺麗に仕上がっていた庭が、焼け野原を氷漬けにしたような凄惨な戦場痕のようになっていた。

「フラムがやりました~」

 アキは生徒が先生にチクるように言った。

『アキテメェ、オレを売りやがったな!』

 フラムは罠に嵌められた子悪党のようなセリフを吐いた。

『いえ、二人がやりました』

 ミュウは二人を売り払った。

「『なっ、お前が氷漬けにしたんだろうが!』」

 アキとフラムは見事なシンクロを見せる。とても今日会ったばかりとは思えない仕上がりだ。

『何を言っているんですか? 私は二人の尻拭いをしただけですよ』

 まったくもって心外ですと言いたげだ。

 横でアーサーもコクコクと頷いている。

 そのたびに「アーサー君こっち向いて~」という黄色い歓声が響き渡る。

「連帯責任じゃ!」

 嵐三は竹刀で3人にケツバットをした。アーサーだけは難を逃れていた。

「なんで俺まで」

『なんで俺まで』

『なんで私まで』

 3人は見事なシンクロを見せ、尻をさする。その様子をアーサーは手を叩いて喜んで見ている。


「それで、話なんじゃがな」

 嵐三は3人を正座させ話はじめた。アーサーだけは体育座りしている。

 3人はアーサーを恨めしそうに見るが、アーサーは何が楽しいのか笑顔を見せている。

 当然ここでも黄色い歓声は上がっている。

「お前たち聞いておるのか?」

「聞いてるから、早く続きを……!?」

 アキは正座をするのが久しぶりの為、早々に痺れはじめている。

 フラムとミュウは足だけを気付かれないように炎と水に変えているため痺れ知らずである。

「先生! この二人ズルしてます!」

 アキは自分だけ苦しんでいることが納得いかず、手を上げて告げ口する。 

『テメェ、また売りやがったな!』

『外道ですね』

「ふん! お前らだけ楽はさせん!」

 まったく話を聞く気がない3人に嵐三は竹刀を振りかぶる。

「話が進まんじゃろうが!」

バシンッ

『いてぇっ!?』

バシンッ

『いったぁ!?』

ツンツン

「あう!?」

 フラムとミュウは頭を押さえ、アキは足に手をかざし痺れに耐えている。

 アーサーはニコニコ顔でアキの足を(つつ)きたそうにしていたが、アキがやめろーと涙目で訴えていたため、つまらなそうに諦めた。

「ふん! 黙って聞かんか、まったく。……空雄、向こうの世界に行くとき、この3人も連れて行け。精霊を4人そろえねばならんからな」

「ふ~ん、わかった」

 アキは軽く返した。

「本当にわかっておるのか?」

 あまりの軽い反応に嵐三は疑わしく思い訊ねた。

「冬華たちに必要なんだろ? 4戦士は精霊の力を借りる必要があるんだよな」

 アキは少し寂しそうな口調で言った。

「うむ、そうじゃ。冬華たちの元へ連れて行ってやってほしいんじゃ」

「うん、わかった」

(結局俺は運び屋の裏方仕事だよな。どんなに精霊と仲良くなっても最終的には俺のもとから離れ、相応しい者のところへいく。まあ、今にはじまったことじゃないけどさ……)

「どうしたんじゃ?」

 嵐三は黙り込むアキが心配になった。

「ん? なんでもないよ。足が痺れただけぇ……っ!?」

 アキが隙を見せたことで諦めきれなかったアーサーが足を(つつ)いていた。

「アーサー! てめぇ」

 声だけはドスを効かせているが、アキの足は産まれたての小鹿のようだった。ヨロヨロと追いかけるアキからキャッキャと喜びながら逃げるアーサーの図がここに出来上がった。

(少しの間だけど、こいつらが俺の元を離れる時までは楽しく過ごすか)

 アキは痺れに耐えつつ足を何とか動かしアーサーを追いかける。



 さらに数日経ったが空間の歪みはまだ起こらない。

「どうなってんだ?」

『なにが?』

「全然召喚される気配がないんだけど。召喚されねぇと向こう行けねぇじゃん」

『まぁ、それならそれで仕方ねぇじゃん。もう十分召喚したから人手は足りてんじゃねぇの?』

 アキは朝早くからフラムと組手稽古をしていた。アキは短刀(木刀)二刀流、フラムは徒手空拳で(半裸)。

「そういう問題なのか?」

『いや、知らねぇけど』

 フラムの連打をアキは両の短刀で捌いて行く。

「行く必要なくなったらこの修行も意味なくね?」

『ばっかだなぁ。男なら強くてなんぼだろ!』

 フラムはお留守になっているアキの足へ足払いをする。

「ホッ! 今のご時世強くても何の役にも立たねぇよ。そういう系統の仕事ならいいけ、ど!」

 アキは足払いをジャンプで躱し、空中で回転し回し蹴りを放つ。

『!? じゃあ、一緒にボディガードの仕事でもする、か!』

 フラムは腕でガードすると、アキの足を掴み一本背負いで投げ飛ばす。

「おっと、何お前人間社会に溶け込もうとしてんの? 精霊のプライドはどうした!」

 アキは空中三回転バリに回転し、着地するとフラムへ向け高速の突きを放つ。

『強くなるためならどこにでも行くぜ!』

 フラムはフンッ! と気合を込めアキの突きを腹で受け止めた。

 短刀(木刀)はボキッとへし折れた。

「あ……」

『ふふん、俺のマッスルボディにそんな棒っ切れは効かん! フッハハハハッ』

 フラムはポージングを決めニカッと笑う。

「暑苦しい……」

 アキはフラムを無視すると、休憩しようと外に出た。

 フラムは一人次々とポージングを変え自らの肉体を確認している。

『今日もキレてるぜ』

(あれでテカってたらボディビルダーだな……ホント暑苦しい)

 庭は戦場痕になっていた。

「ベンチが……」

 アキは仕方がないからおじちゃんの如く縁側に腰掛けた。

「ふぅ……平和やなぁ」

 アキはエセ関西人風に言うと、ゴロンと仰向けに大の字になる。

 いつの間にか隣に来ていたアーサーもゴロンと転がりアキの腕を枕にする。

「俺の腕を枕にしていいのは女の子だけだ!」

 アキは腕を除けようとした。が、

「ぐっ」

 アーサーが上目使いで見るものだからアキは腕を引き抜くことができなかった。

「ハァ、まあいいか……」

 アーサーはアキに懐いていた。ミュウの言っていた通りアキには大丈夫のようだ。

「(この際だから女の子になればいいのに……)」

 アキは満足そうに寝転がるアーサーを見て呟いた。

『何をしているのですか』

 ミュウが腕を組みアキたちを見下ろし、険しい視線をアキへと向ける。あたかもいかがわしい行為に及ぼうとしている男を睨みつけているような目だ。

「なんだその目は、休憩してるだけだろう。失礼なヤツだ」

『そんなに仲良くされていたら、疑いたくもなるでしょう』

「アーサーが勝手に俺の腕を枕にしているだけだ。俺は無実だ!」

『どうだか、怪しいものです』

 ミュウはこれっぽっちも信じていない。それどころかアーサーを起こすとアキとアーサーの間に壁を作るかの如く割り込む。

 アーサーは小首を傾げてミュウを見上げている。

「ハァ、心配なら最初からそうしてろよ」

 アキはゴロンと寝返りを打つとある人物が目に映った。

(あ、丁度いいから歪みのこと聞いてみるか)

「おーい! 祥子さ~ん!」

 アキは起き上がり手を振り声を掛けたが、祥子は会釈すると顔を伏せそそくさと行ってしまった。

「あ、あれ?」

『ププッ、振られてやんの』

「うそ? なんで? 俺なんかした?」

『こないだのアキが怖かったんじゃね?』

「マジで? それで最近口もきいてくれないのか?」

 アキはフラムに掴み掛かる。

『俺に聞かれても知らねぇよ。本人に聞いてみろよ』

 フラムはそういう人間関係のような面倒なことが嫌いなようで、ウザそうにアキから離れる。

「だから、最近口きいてくれないんだって。声かけると逃げちゃうんだぜ?」

『嫌われてるんじゃないですか?』

 ミュウが確信を突いてきた。

 アキはミュウを見て硬直する。

『別にいいじゃないですか。あなたは好きな方がいるのでしょう?』

 ミュウは訝し気な視線を向ける。

「それとこれとは別だろ? 祥子さんは友達なんだから」

『友達、ねぇ……でしたら話し合って仲直りするんですね』

 ミュウもあまり興味がないようにアキを突き放した。

「……よし!」

 アキは立ち上がり、祥子の去って行った方へ向かった。

『行っちまったな……』

『放っておきなさい』


 祥子はすぐに見つかった。

「あ、祥子さ……!?」

 どうやら誰かと話し込んでいるようだ。相手は……イケメン男と仲良くしている以前アキを介抱してくれたお姉さんだった。

(なに話してるんだ?)

 アキはいけないとは思っていても聞き耳を立てずにはいられなかった。

「祥子いいの? 空雄君のこと」

(ん? 俺?)

「空雄君? 空雄君は弟のように思ってるよ」

「その割に最近全然話してないじゃない」

「さ、最近は少し忙しかったのよ」

「忙しいって、話てた時も忙しかったじゃない。それでも話してたのに」

「最近はもっと忙しくなってきてるの!」

 祥子は少し語気が強くなった。

「ホントにいいの? 空雄君向こうに行ったら会えなくなるかもしれないんだよ」

「でも空間の歪みは全然出てないし……」

「もしもの時は他の方法を使うって話してたよ。行こうと思えばすぐにでも向こうに行けるんだよ」

(すぐにでも行ける!?)

 アキはその意味が気になり、すぐさまその場をあとにし嵐三のもとへと向かった。

「祥子! あなた空雄君のことど……」

 二人の話はまだ続いていたがアキには知る由もなかった。


「じいちゃん!」

「な、なんじゃ! 急に大きな声を出しおって。わしの心臓をいじめるでないわい」

 嵐三は胸を押さえて深呼吸する素振りをする。

「じいちゃんの心臓は鋼の心臓だから大丈夫! それより、向こうに行こうと思えばすぐにでも行けるってホントか?」

 アキは嵐三へと詰め寄り矢継ぎ早に言った。

「ハァ、誰から聞いたんじゃ?」

「誰でもいいだろ! どうなんだよ!」

 嵐三は目を閉じしばし考えると、一つ溜息を吐き口を開いた。

「うむ、条件さえそろえばのう」

「条件?」

「精霊が4人いることじゃ」

「4人って、今3人しかいねぇじゃん」

 アキは落胆し肩を落とす。

「向こうにシルフィがおるじゃろう」

「そうか! じゃあすぐにでも……」

「まぁ待て。条件としてはそうなのじゃが一つ問題がある。こちらでシルフィの力を中継して代行する者が必要なのじゃ」

「じゃあ、それを俺がやれば」

「無理じゃ。お前は魔法が使えない上に、一度死んでシルフィとの仮契約も切れておる」

「ならどうすれば……」

アキの落胆する姿を見て嵐三は口を開いた。

「……わしならばそれが可能じゃ。魔法も使えるし、元は風使いの戦士じゃたしのう」

「だったら!」

「だが! その方法は精霊たちの魔力をかなり使う。召喚の儀とは本来空気中の魔力と地脈を流れる魔力を術式で制御して行っておるんじゃ。じゃから魔力の枯渇を防ぐために間隔をあけて行う必要があるんじゃ。それを精霊の力のみで行うとなると負担も大きくなる。しばらくは戦闘などできなくなるじゃろう。向こうの状況がわからない以上そうやすやすとは行えないんじゃよ」

「そう、なのか……」

 いくら早く向こうに行きたいとは言っても、4人に負担を掛けるのは心苦しいとアキは思っている。

 ましてや、向こうが戦闘中だったりしたらシルフィが危険に晒されてしまう。それだけは絶対にダメだ。

「じゃから、これは最後の手段じゃ。すまんがもうしばらく我慢してくれ」

「……うん」

 アキは4人の事を考えればわがままを言うべきじゃないと思い、道場へと戻った。


『あ、戻ってきた。どうだった?』

 フラムはアキの様子から玉砕したのだと判断し、仕方ないから慰めてやろうと思っていた。

 しかし、アキの返事は思っていたものと違った。

「ああ、お前たちに負担掛けたくないし我慢するよ」

 アキは仲良くなったフラムたちのことを考えていた。やはりこいつらに無理はさせたくないと。

『は?』

 フラムは意味がわからず訝し気な視線を向ける。

 ひょっとして、玉砕のショックで頭をやられたのかとフラムは心配になった。

『だ、大丈夫だ! 俺たちはお前の味方だからな! な?』

 フラムは力説すると、ミュウたちに同意を求める。

『え? ええ、そうですね』

 ミュウはフラムに気圧され頷き、アーサーもコクコクと頷いた。

「ありがとな、お前たち」

 アキは微笑んだ。

 まったく全然かみ合ってはいなかったのだが……


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