アルス
「で、俺からも聞いていいんだよな?」
アキが聞きたそうにうずうずしている。
「うむ、向こうに行くのであれば話す必要があるからのう。で、何が知りたい?」
「んなの決まってんじゃん。あの地に何が封印されてんだよ?」
アキはずっと疑問に思っていたことを訊ねた。
「そうじゃな、それすら知らされずに戦いになど挑めぬよな」
「復活させなければ知る必要もないでしょうけど」
剛輝が口を挟んできた。
「しかし以前とは状況が違う、いや、わしらのせいでもあるんじゃが」
「それは武藤の父親が!」
「いや、わしらが説得しきれなかったせいじゃ。無依にすべて背負わせることになったのじゃ、ちゃんと説明し、説得するべきだったんじゃよ」
「しかし、そのような時間はなかったと」
アキを置いて二人は話をあらぬ方向へと進めていく。さすがに黙って聞いていたアキも焦れてきた。
「あのさ、そんな話は後でじっくり二人でやってくれ。こっちの話が先だろ?」
「そうじゃったな、すまん。それより年寄りに凄むでないわ、心臓が止まったらどうするつもりじゃ」
無意識にアキは凄んでいたようだ。置いてけぼりにされてイライラしていたのかもしれない。
「じいちゃんがそんな年寄りのわけねぇじゃん鋼の心臓だろ?」
アキは冗談めかして言う。さっきの態度を改めようと切り替えた。
「封印さえすれば問題ないんだろうけど聞いておいても損はないでしょ?」
アキは剛輝にそう言った。
「……そうだな」
剛輝はアキが元の雰囲気に戻ったことに安堵し、そう頷いた。
「ふむ、では話すとしようかのう。はじめに言っておくが今から話すことはこちらとあちら両方の世界に残されていた文献から推測したものじゃ。事実とは異なる可能性もあるということだけは承知しておいてくれ」
嵐三はそう前置きをして語り出した。
話の内容はこうだ。
はるか太古の時代、宇宙より飛来した隕石に未知の生命体が眠っていた。
その生命体は仮の名でアルスと呼ばれている。
アルスは目覚めると地上の生物を捕食するように次々と取り込み遺伝子を吸収し変異していった。
後に地上は氷河期を迎え生物は絶滅した。捕食する生物のいない地上ではアルスも同様に死滅したかに思われていた。
しかし、死滅してはいなかった。凍り付き仮死状態になることで生き延び、生物の発生と共に目覚めた。
アルスはまたしても生物を吸収し変異を繰り返していった。いつしか人間をも吸収するようになり、当時の人々は討伐するために戦士を集め戦った。
しかしアルスは幾度の変異により力を付け人間の知恵をも身につけており、すでに手に負えないほどに成長していた。それを脅威と感じはじめた時の権力者が各地より術者を集めこれを倒すように命じた。しかし、術者たちでは命を引き換えにしても倒しきることができず取り逃がしてしまう。
逃げ遂せたアルスは力を蓄えるため、氷河期の時のように自らを仮死状態にすることにより眠りについた。
長い時を経てアルスは力を取り戻し海の中で目覚めた。
アルスはまたしても海に生きる生物を取り込み吸収し変異していく。そしてアルスはある島へと上陸した。そこでも変異を繰り返し、そして人間を取り込もうとした。
しかし、それは人間たちによる罠だった。
アルスにはある習性があった。人間を狙う際、特定の人間を狙っていたのだ。術者、昔出現した際に取り込まれた人間の多くは術者だった。当時の術者はそれを後の為に書き記し残していたのだ。
それを知った人々はアルスが現れた時のために術者を集め策を練っていた。人間の力だけでは倒せないという結論に至り、精霊の力を借りようとした。そして精霊の元を訪れ力を借りその時を待った。
予見士によりアルスの復活を知り、その島に術者を囮とした罠を張った。そして狙い通りアルスは島に現れ、術者たちは異形の姿となったアルスと戦った。しかし術者たちは次々と倒れ取り込まれていく。4大精霊の力を借りた術者たちでも倒すことができず、このままでは敗れると思い、ある決断をする。
その島ごとアルスを封印してしまおうと考えた。
精霊たちの力を使いある場所へ封印することに成功した。
その場所こそが異世界であり、封印の地ゲーティアである。
しかし、それは精霊の長たちの了解を得ぬまま行ったため精霊たちの怒りを買い、それ以来精霊たちは人間たちと接触を持たなくなった。
島に住まう人々と術者たちはそのまま封印の守り人としてこの世界で生きることとなった。
封印も永遠には続かない。アルスの力が増すと封印は破られ復活した。
再び封印しようにも術者たちの力は衰退し、精霊もいない。術者たちは村の中から最も力のある若者を選出し、精霊の力を借りるべく旅立たせた。
若者は精霊たちの元へたどり着いたが、精霊たちはこの地の人間を信じられず力を貸す気にはなれなかった。しかし精霊たちにとってもアルスの存在は脅威だった。悩んだ精霊たちは力を預けるに値する人間を異世界より召喚し力を授けた。
若者は4人の異世界の戦士たちと共にアルスと戦い封印した。
若者は村へ戻ると後の世のため一部始終を書物へと書き残した。
これが勇者と4戦士のおとぎ話の元となった。
その後、4戦士の子孫たちによって封印は守られ続けている。
「宇宙からねぇ……まあ、隕石は今まで結構落ちてるみたいだし、その中になんかいてもおかしくはないけど……太古の時代って、ねぇ」
アキは眉唾ものじゃないかと疑いの目を向ける。
「信じられないのも無理はないのう。じゃが文献と符合する壁画も見つかっておるから、ないとも言い切れん」
「確かに、確認できないモノはあるともないとも言えるからなぁ」
アキは渋々納得した。
「じゃあ、アルスって誰が名付けたの?」
アキは素朴な疑問を口にした。
「わしらじゃ、名前がないのも不便だったからのう。「宇宙からの未知の生命体」の横文字から付けたんじゃ。おしゃれじゃろ?」
嵐三はドヤ顔で言った。
「横文字、おしゃれって……ハァ、まあいいけど」
アキは呆れつつも次の質問をしようと口を開いた。
「島ごと封印したってことは、あっちの世界の人たちは元はこっちの世界の住人だったってことだよな?」
「うむ、そう話したな」
「じゃあ、術者って? こっちの世界に魔法なんて使えるヤツいねぇじゃん。昔はいたってこと?」
「魔法とまでは言わんが、高名な僧だったり、陰陽師だったりはいたじゃろう? さらに昔なら卑弥呼などもそうじゃ。高い地位にいた者や、その地を納めていた者は人とは違う何らかの力を持っておった。そして、その力はその隕石から放たれたエネルギーによって覚醒したのではないかと言われておる。覚醒したのは素質のある者だけのようじゃがな」
「今は?」
「今でもいるじゃろ? 霊媒師や霊能者、超能力者がのう。じゃが、能力は低いから隕石からのエネルギーの放出が少なくなっておるのかもしれん」
「その隕石って今どこにあるんだ?」
「それはさすがにわからん。この地球上のどこかとしかな」
嵐三は大雑把な答えを返した。
「そんなの見つけられねぇな。まあそれはいいや」
アキは隕石からアルスの正体を探れないかと考えていた。とっくにそんなことは考えられていただろうけれど。
「じゃあさ、精霊が4戦士を召喚したってことは、召喚の儀で召喚された者たちって4戦士になり得る者たちってこと?」
アキは人間と関わりたくないと思っている精霊たちが召喚の術を4戦士に伝えていたのではないかと思っていた。
「うむ、そうじゃ。封印だけならば4戦士の子孫たちと召喚された新たな4戦士で十分だったのじゃ。そうすれば精霊たちの元へ人間が訪れることはなくなるからのう」
嵐三はアキの考えていた通りの答えを返した。
「それぞれ二人で封印するってことか……じゃあ、4戦士候補以外のヤツは? 俺なんて魔法使えないんだけど。ばあちゃんから才能ないって言われたし」
「……それはお前にも役目があるということじゃな」
嵐三は一瞬悲しげな表情をした。
「役目ねぇ……」
アキは力のないヤツの役目なんてあるのかと疑わしく思っていた。
「(結衣は結界みたいな力があったから継守って人と同じ役目かもしんないけど、汐音はどうなんだ?)」
アキは黙り込んで考え込んでいた。
「どうしたんじゃ?」
「いや、なんでもない。あ、そういえばなんで精霊がいるんだよ。シルフィどこから攫ってきたんだ?」
アキは人聞きの悪いことを言った。
「バカもん! 誰が攫うか。継守じゃよ、わしらを還すために精霊の元へ行きどう説得したのか精霊を連れてきたんじゃ。さすがにわしもビビったがのう。そこで生まれた子供の精霊をわしがこっちに連れてきたんじゃ」
「なんで、そんな事したんだ? 子供可哀想じゃん」
アキは人道的なことを言った。
「わしだってそう思ったわい! じゃが、人間の基準で考えるなと言われたのじゃ。だからその言葉に甘えて連れ帰ったのじゃ」
「で、なんの目的で?」
「次こそアルスを倒すためじゃ」
嵐三は鋭い視線を向けて言った。
「倒すためには精霊の力が必要じゃ、しかしそれだけでは足りん。お前が言ったように勇者に足りなかった何かが必要じゃ。それを精霊たちと考え、真聖剣が生まれた」
「倒すためか……今までの連中は封印することしか考えてなかったみたいだけど? おじさんもそうみたいだし」
アキは剛輝をチラリと見て言う。
「私は危険を冒してまで倒そうとする必要はないと思っている」
剛輝はそう言い切った。確かに息子をそんな危険に晒すことはしたくないだろう。
「で、じいちゃんは?」
「わしも通常の封印であるならそうする。しかし今の封印は今までのモノとは違うのじゃ」
嵐三は顔を歪めていう。
アキはマーサの言葉を思い出した。
「そういえば、ばあちゃんが言ってたな。「今の段階ではここまでしか修復できない」とか言われたって。どういうこと?」
「それは……今の封印は完全なものではないのじゃ。無依が抑え込んでくれておるのじゃ」
嵐三は悔しそうに唇を噛みしめる。
「無依?」
「武藤無依、武藤零治の母じゃ」
「(武藤零治、ここで出てくるのか……)それで、その無依さんが抑え込んでるって、どういうこと?」
「わしらの代には勇者と呼ばれる者はおらんかった。封印だけならそれでも大丈夫じゃろうと油断しておったんじゃろうな。封印が三つ解かれ力を増した魔物たちとの戦いで4戦士の一人が殺されたのじゃ。封印は4戦士とその子孫がいなければ完全のモノにはならん。そこで無依がアルスの力を抑え込むため依代になると言いだしおった。わしらは反対したのじゃが、それしか方法がないと無依に説得されてやむなく……しかし無依の夫、真治は最後まで反対しておった。当たり前じゃな、愛する妻が依代となるのじゃ反対に決まっておる。召喚された際、無依は身重じゃったし。無依はあちらの世界で零治を産み、零治を継守に預けると真治を眠らせアルスの依代となった。わしらは無依がアルスの力を抑え込んでおる間に無依ごと結晶化しアルスの力を封じた。そして、封印をそれぞれ施した。封印の一つは不完全な状態じゃが……」
嵐三は懺悔でもするかのように俯いて話していた。
「結晶か……あれ? それどっかで見たような……ん~どこだっけ」
アキは思い出そうとこめかみを押さえ唸る。
「そんなはずはなかろう、誰にも見つからぬよう魔法で隠してきたからのう」
「ん~じゃあ、気のせいかなぁ?」
アキはそれでも納得できない表情をしている。
「真治って人はどうしたの? そんな強引なやり方普通許せないだろ」
アキは真治の気持ちを考えると到底許せないだろうと思っていた。
「うむ、真治は激怒しておって何をするかわからんかった。わしらはあやつが封印を解くのではないかと思い、強引に元の世界に連れ還った。還ってくると真治は零治を連れていき連絡を絶った」
「あれ? でも零治って人が接触してきてたじゃん?」
アキは学校でのことを思い出した。
「うむ、行方をくらませて数年後、零治から連絡があった。零治の話によると真治も無依を救うため、その方法を各地の伝承をかき集め調べていたらしい。しかし、そのさなか事故に遭い亡くなったそうなのじゃ。だから、かつて仲間だったわしらに連絡をしてきたそうじゃ。わしらも救う手立てを探していることを伝え、必ず無依を助け出すと誓った」
嵐三は当時を思い出すと辛そうになったが、決意を新たにして言った。
「それでアルスを倒す術を探っていたのか。なるほどね」
アキは納得したが一つ気になることがあった。
「じいちゃん、依代って無依さんじゃないといけなかったのか?」
「うむ……無依は他の者とは違っていたのじゃ。依代としての素質というのかのう、霊媒師的な? じゃから無依にしかできなかったのじゃ」
嵐三は一瞬暗い表情をしたが、すぐに表情を戻した。
しかし、アキは嵐三が何かをはぐらかしたように感じていた。
「他になにか質問はあるかの? 聞くなら今の内じゃぞ?」
嵐三は早々に話を打ち切ると他の質問を催促した。
「ん~じゃあ、勇者の若者はどうなったんだ?」
「ふむ、どこかに子孫くらいはいるじゃろうが、居場所まではわからんな」
「じゃあ、4大精霊はどこにいるんだ?」
「ふむ、継守なら知っておるじゃろう」
「じゃあ、継守さんが生きてるとしてどこにいるんだ?」
「さあのう? 一所に落ち着いておるとは限らんしのう」
「……」
アキはジト目で嵐三を見据える。
「なんじゃ?」
「質問要求しといて、じいちゃんなんも知らねぇじゃん。ガッカリだよ」
「仕方なかろう! あれからずいぶん時間も立っておるし、こちらの世界におったらむこうの事を知る方法がないんじゃ!」
嵐三はプイッとそっぽを向いた。
それほど可愛くないからやめてほしい、アキはそんなことを思っていた。
「ごめんごめん、言い過ぎたよ。謝るからそれ止めて」
可愛くないからとはさすがに口にしなかった。
「ふん、それで? 他にはないのか?」
嵐三は今だ不貞腐れたように言う。
大人げないぞとアキは思いながら訊ねた。
「どうやって向こうに行くんだ?」
「ああ、そうじゃな。まだ滅んでおらず、召喚の儀を行っておらん国があったじゃろう?」
嵐三は腕を組み「フフン、おバカな子じゃ」と鼻を鳴らしそうな感じで言う。
アキはちょっとイラッとした。
「サンドガーデンだっけ?」
アキは文句を言いたいのを我慢して答えた。
「うむ、そうじゃ。向こうの召喚の儀を待つ。空間の歪みが起これば外の連中が知らせてくれる」
嵐三はそういうと顎で部屋の外を差す。
「ああ、あのお姉さま方が監視してるんだ?」
男性もちゃんといたがアキの脳内フィルターで弾かれていた。
「というわけで待っておる間、お前の戦力アップをはかる!」
嵐三はアキをビシッと指差した。
少しは判明したかと……




