帰還
少し時を遡る……
……
「ん~サラ~」
ピピピピッピピピピッピピピピッ……
「ん~~うるせぇっての!」
バシッ
「せっかくのサラとのラブシーンを邪魔しやがって!」
アキは目覚まし時計を恨みがましい目で睨みつける。
「……?」
ガバッ
アキは飛び起きまわりを見回す。
そこには見知った部屋が広がって、いや、こじんまりとまとめられていた。
「あれ? ウソッ!? ……まさかの夢オチ?」
アキは愕然とし、肩を落とした。
「だよなぁ、あんな美人でナイスなバディな人が俺なんかとキスするわけねぇよなぁ……ハァ、あれ? 他にもなんか夢見たような? ん~まいっか、せっかくだから二度寝して夢の続きでイチャコラしよう」
アキがもう一度寝ようと横になろうとすると……
ドタドタドタッ
部屋の外から猛ダッシュしてくるかのような足音が迫ってきた。
アキは嫌な予感がし身構える。
「冬華め、そうそう毎朝エルボーくらってやるほど俺はお人好しじゃないぜ!」
アキはいつでも来いというかのように寝たふりをしつつ枕に手を掛ける。
バタンッ
扉が勢いよく開かれた。
「甘いわァァァァ!」
アキは部屋に飛び込んできた人物に向かって声を張り上げ枕を投げつけた。
バフッ
枕はにごと顔に命中した。
アキは勝ち誇ったようにすっくと立ちあがり悦に浸る。
「ふふん、バカめ、この兄にかなうとでも思ったか」
枕がボトリと落ちる。
そこから現れた顔は……母親の顔だった。
「あ、あれ? 母さん、だったの?」
アキは恐怖した。
この目の前の人物、五十嵐楓華は嵐三の実の娘で、当然剣の腕もかなりのものだ。アキはもちろん、冬華でさえまだ歯が立たないほどだ。
その楓華に枕を投げつけたのだ、おそらくは起こしに来てくれたというのにだ。
アキは言い訳を考え、刑の軽減を進言しようとする。刑の執行は免れないだろうが……
「い、いや、これはその……」
アキは恐怖で言葉が出てこなかった。
「空雄!?」
楓華はアキの名を呼ぶと駆け出し、アキを抱きしめた。
「ハヒッ!?」
アキは絞殺されるのだと思い、絶望で硬直した。
(あれ? 苦しくない)
アキはこの不可思議な状況に硬直が解けた。そして楓華を引き剥がした。
「母さん?」
楓華は泣いていた。
「よかった、空雄。帰って来てくれた」
(帰ってきた? え? どういうこと?)
「冬華は無事なの? 一緒じゃないの?」
楓華は涙を流しながら質問してくる。
アキは意味がわからず訊ねた。
「なに? 母さん何言ってんの? ただ寝てただけじゃん」
「何って、あんた頭打ってるの? こんな血みどろだし当然よね。ちょっと待ってなさい、すぐ病院に連れて行ってあげるからね」
楓華はそういうと慌ただしく部屋を出て行った。
「何? 血みどろって……なんじゃこりゃ!?」
アキは自らの状態に驚愕し某俳優のごときセリフを張り上げた。
アキは所々穴の開いた血みどろの服を着、同じく穴あき血みどろのローブを着ていた。さっきは気付かなかったが枕も布団も血や泥で汚れていた。
(こんなに血出てたら死ぬじゃん!)
アキは体中を弄り血の出所を探った。
服に穴の開いていた部分の体には風穴は開いておらず、怪我一つなかった。代わりに鎖のようなものが首に掛けられていることに気付いた。
アキは手に取って見る。
「これ、夢の中でサラに貰ったネックレス……」
アキはハッとなり自分の持っている者を確認する。
ネックレスにスマホに鞘、指を確認すると指輪はなかった。
アキはスマホの画像を確認した。
「……サラ」
スマホの画像フォルダの中にサラの寝顔写真が保存されていた。
「かわいいなぁ……じゃなくて! 夢じゃなかったのか……じゃあ冬華たちは!?」
アキは隣の冬華の部屋へ向かった。
扉を勢いよく開ける。
「冬華!」
冬華の部屋は誰もおらず、静まり返っていた。
ついさっきまでいたような、急いで部屋を出たような散らかり方をしている。
部屋は白で統一されており剣道の防具まで白かった。女の子っぽくない部屋で、どちらかと言うと武士の部屋?
「剣道の防具部屋に飾るなよ……」
アキは呆れたように呟いた。
「あ、そうだ!? シルフィ!」
「……」
返ってくる声はなかった。
「シルフィもいないのか……シルフィならくわしいこと知ってると思ったんだけど」
そこへ階段を駆け上がってきた楓華が声を掛けてきた。
「ほら、病院行くよ」
「いや、いいよ怪我とかしてねぇし」
「ダメ! 一応精密検査しないと! バカが悪化したらどうするの!?」
「ひでぇ」
楓華は酷いことを言うとアキの手を引いて有無を言わさず連れて行こうとする。
これで歯向かうと手痛い仕置きを受けることを知っているアキは黙って従った。
しかし、後生だから! と、恥ずかしいからローブだけは脱いで行った。
一日掛かりでやれるだけの検査を受けさせられたアキは、たらい回しにさせられ疲れ果てた体を湯に浸し癒しの時間を過ごしている。
検査結果は後日わかるそうだが、外観的にはどこも異常はないようだ。
「そりゃそうだろ。自分で確認したし、自分の体は自分がよくわかるってもんでしょ」
アキはネックレスを眺めながら考える。
やっぱり夢じゃないよなぁ。母さんの話だといなくなって一か月以上経ってるって言うし、確かに夏の暑さもだいぶ弱まってきてたな。これからどうしよ。戻って来られたのを喜ぶとこなんだろうけど……冬華は戻ってないし、シルフィはいないし、光輝たちはどうなんだろ? 確認しないと……もしみんな戻ってなかったらどうしよう。いや、どうすることもできないんだけど……サラ、どうしてるかなぁ。
アキは湯船に浸かりながらサラのことを考えていた為、完全にのぼせ上がった。
フラフラになりながら風呂から上がり部屋に戻った。
今日は久々におふくろの味を堪能し、愛しのマイベッドでゆっくり眠ることができる。
アキはベッドに横になると疲労が溜まっていたためかすぐに睡魔に襲われ眠りに落ちて行った。
……
……また夢か
……で、今回はどこかな?
……城? ローズブルグ、だな
……へ? なんで俺がまたいるんだよ
アキの後ろに3人、見たことのない人物がいる
アキの目の前にサラがいる
サラが口を開いた
「アキの言う通り待ってたよ。おかえりなさい」
サラはアキに抱きついた
……どういうことだ? 俺はそんな事言ってない……これから言うのか?
……ていうか、俺またあっちに行くのか?
……
「寝た気がしねぇ……」
アキの寝起きの第一声がこれだった。
「リアリティのある夢は寝た気がしねぇからイヤなんだよなぁ」
アキはサラの力に影響を受けてからたまにこういう夢を見るようになっていた。
アキは「愛のなせる業」とか思っているようだが本当のところはわかっいない。
ただサラの影響を受け、アキの中の何かが反応しているだけだろう。そう、いろんな何かが反応していた。
「今日も朝から元気だ」
アキは自分のコンディションを確認すると立ち上がり身支度を済ませる。
今日は光輝たちが戻っているかの確認をすることにしていた。
というわけで学校に来ている、授業を受けるつもりはない。
来る途中に総司たちの家に寄ってきたが戻っていないようで、総司と結衣の両親はずいぶんと心配していた。
光輝の家はみんな留守、汐音の家の病院は知っているが家の場所は知らなかったため学校へ来ているわけだ。
学校なら戻っていれば情報が来ているかと思っていたのだが、連絡は何もきていないようだ。収穫ゼロ……
アキはどうしたものかと思っていると、足は自然と教室に向かっていた。
(授業を受けるつもりはなくても向いてしまうって、俺実は勉強したいとか? いや、それはないな)
ただ普通の日常が恋しかっただけだろう。
アキは自分の席に座ると項垂れる。
「はぁ、どうしよ……」
そんなアキを発見したクラスメイトの連中が声を掛けてきた。姿を消していた男がいきなり学校に現れれば興味をそそられるのは仕方のないことだろう。
「うおっ!? 五十嵐来てんじゃん」
「ホントだ、神隠しにあったって噂になってたぞ」
「私は妹さんと駆け落ちしたって聞いたよ」
「あ~シスコン疑惑な! それあるわ~」
(いや、ねぇから)
「たしか一年生にもいなくなった子いたよね?」
「ああ、四ノ宮たちだろ? あっちこそ駆け落ちだって話だぞ」
「え!? そうなの? 総司君私気になってたのに~」
「マジで!? 俺でよくね?」
「いや、ないから」
「学校の七不思議か!? 仲のいい兄妹が忽然と姿を消す、とか」
「でも汐音のお兄さんは消えてないじゃん」
「そういえば聖君たちもいなくなったんだよねぇ、会長が仕事が回らなくて大変だって言ってたよ」
「いや、光輝は一人っ子だろ?」
「もう七不思議はいいから」
「隣町の高校でもいなくなった子いるんだってよ、しかも姉弟」
「七不思議復活!」
「そういや、あの日町中で蜃気楼が見えたんだってよ。俺は見てねぇけど」
「蜃気楼に迷い込んだとか言わないでよ、アホらしい」
「七不思議か?」
「それもう学校関係ないじゃん」
などと楽しそうに話すクラスメイトをどこか別世界の情景のように見ていた。
アキは今聞いた話を整理した。
やっぱり全員まだ戻ってないみたいだな、それにしても俺のシスコン疑惑が再浮上していようとは……あれは冬華が悪いのに。てか総司たちもそんな風に思われてたのか。まああいつら仲良すぎだしな、血は繋がってないんだしいいんじゃね? 汐音に兄貴がいたことは興味がなかったから知らなかったけど、兄貴が無事で何よりってとこか。光輝は間違いなく一人っ子だな、聞かなくても知ってる情報だ。隣町の子ってのはあの黒い女の子のことだよな? 風音と姉弟だって話だし合ってるな、うん。……さて、これからどうする? やっぱりあそこに行くしかないか……
アキは収穫ゼロだと肩を落としていた学校であったが、噂好きなクラスメイトのおかげで行方不明者のことがわかり、今後の方針も決まった。
アキが思考に没頭中でも話は続いていた。
「でもみんなどこにいるんだろ? 無事でいるのかな?」
「大丈夫だろ? こいつは無事帰って来てるんだし」
クラスメイトたちがアキへと視線を向ける。
アキはその視線に気付かず、取り出したスマホの画面を見つめ溜息を漏らしていた。
「はぁ……」
「何見てんの?」
後ろの席の真琴が身を乗り出しアキのスマホを取り上げ言った。
宇野真琴彼女は同じクラスになり話すようになったのだが、サバサバしたイケメンな性格で女友達というよりも男友達だとアキは思っている。
「うわっ! なにこの子すっごい美人じゃん! てかなんで寝顔?」
アキはサラの画像を見ていたのだ。
「ん? 俺の女」
「は? んなわけないでしょ。こんなブロンド美人があんたなんかと付き合うわけないじゃん。どうせネットで拾ってきた画像でしょ」
真琴はまったく信じることもなく言い放った。
「だよなぁ」
アキはボソリと呟いた。
「なになに?」
他のクラスの女子が真琴に群がってきた。
「この子五十嵐の女なんだって」
真琴はそういうと女子たちにスマホを向ける。
女子たちは「ネットの画像でしょ」とか、それを聞いて「マジで!? キモッ」とか騒いでいる。
男子たちはというと「どこで見つけたんだ?」とネットの世界にダイブしてしていく。
「はいはい、キモくてごめんなさいね」
アキはそういうと真琴からスマホを奪い返し席を立つ。
「もうホームルームはじまるわよ!」
「いいの、授業受けに来たわけじゃねぇし」
「相変わらずやる気ないわねぇ」
真琴はアキのやる気のなさに呆れたように言った。
アキは教室を出ると。
「五十嵐君」
「げっ!?」
アキは声音で声の主が誰だかわかり、渋々声のした方へ視線を向けた。
そこには想像通り先生がいた。しかし想像していなかった人物が隣に立っていた。
「じいちゃん」
嵐三、アキの祖父がいた。
「空雄、まさか本当に学校に来ておるとはな」
「情報収集だよ」
「そうか、そうじゃろうな。しかし、来る場所が間違っておるじゃろ」
嵐三は他に行くべきところがあるだろうと呆れたように言う。
「う、この後、行く予定だったんだよ」
「ふん、まあよい……空雄、話がある。意味はわかるな?」
「ああ」
「では、ゆくぞ」
嵐三は踵を返して歩き出すと、アキもその後に続く。
先生は話をすでに聞いていたらしく引き止めることはなかった。
「そうじゃ、その前に」
嵐三は何かを思い出したように声を上げた。
「あ?」
アキが嵐三の声に反応して顔を上げると、嵐三の姿がかき消えた。
「え!?」
それを目撃した先生は驚きで声を上げた。
アキは瞬時に反応して背後から振り下ろそうとする手刀を後ろから掴んで見せた。
「!?」
嵐三は動きを止めると力を緩める。
「まさかわしの背後を取るとはのう」
嵐三はアキの背後にまわり手刀を振り下ろそうとしていた。それをアキはさらに背後にまわり手刀を止めていたのだ。
「いきなり何すんの?」
アキは手を放し険しい表情で言った。
「なぁに、不意を突くには今が最適じゃと思ったんじゃよ」
嵐三は嬉しそうに微笑みながら言った。アキの動きに満足している様子だ。
「不意って……」
「お前がどれだけ力をつけてきたのか確認したかったんじゃよ。わしには孫の成長が何よりの喜びじゃからな」
嵐三はじじクサイことを言う。
(ああ、ジジイだったな)
ジジイ離れした身体能力を持つ嵐三を、アキはジジイだということをたまに忘れることがあった。
以前、まだ道場に通っていたころ、本気で斬りかかったことがあったが見事に返り討ちにあったことは苦い思い出だ。
そんなどうでもいいことを考えているとまわりがざわつきはじめていた。
今の常人離れした動きを目撃したものが話を広めているようだ。
「ふむ、騒がせてしまったな。行くぞ、空雄」
「へいへい」
アキを呼び止める声が聞こえた気がしたがアキは振り返ることなく嵐三の後に続いた。
(どうせ向かうのは道場だろう。ゆっくり話せるのはそこしかないんだし)
アキはそう思っていた。
後から気が付いたんですが、アキが死んだシーン4月1日のエイプリルフールに投稿してましたね。




