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鏡ごしの会談

 光輝と汐音が城下町デート? をした翌日、突如知らせが届いた。

 その知らせというのは、レイクブルグからマリアの下へ通信が届き、陛下へ通信鏡による会談を申請してきたのだ。

 光輝たちは知らせを聞くと通信鏡の準備をしている謁見の間へと向かった。

 謁見の間にはすでに主要な面々が集まっていた。

 玉座には陛下が座り、正面に姿見よりも若干大きめの鏡が据えられていた。

 陛下の隣にレイナ姫がソワソワした様子で通信が来るのを今か今かと待っていた。

 謁見の間へ入った総司たちへマリアが声を掛けてきた。

「総司さん、もう大丈夫なんですか?」

 総司が復帰してからまだ顔を合わせていなかったため、第一声はこの言葉だった。

「はい、ご心配をおかけしました」

 総司は頭を下げた。

「いえ、元気になられたのならいいんです。アキさんは残念でした……一度お話したかったんですけれど」

 サラの親としてどういう人物か見極めたかったのだろう。もう叶うことはないのだが。

「それで、レイクブルグ王というのは本当なのですか?」

 光輝は訊ねた。

「わかりません。通信してきたのは魔法士でしたので。ですが受けて見る価値はあると思います。このままでは平行線をたどるだけですので」

「そうですね」

 しばらく待つと通信鏡に反応があり、威厳のある人物が映し出された。

 光輝はその人物には会ったことはないが確かにレイクブルグの玉座にあった石像の人物だと気付いた。

 レイナ姫は嬉しさのあまり涙を流して喜んでいる。

 陛下も旧知の王の無事な姿を見て安堵した表情を見せる。

 周囲もどよめきの声を上げるが、会談がはじまると口を閉じ成り行きを見守っている。

 会談のはじめに形式上堅苦しい挨拶をするのでそこは省略する。

 光輝は本題になるまで鏡の向こう側に見えるものに注目していた。

 レイクブルグ王の後ろに見えるのは光輝たちも覚えのある謁見の間のようだ。あの時よりも幾分か片付けられているようで、薄暗かった空間がずいぶんと明るくなっている。

 そしてレイクブルグ王の後ろにぴょこぴょこ顔を出している者がいる。

「(……冬華ちゃん何をしてるのですか)」

 汐音はジト目を冬華へ向けている。

 その視線に気付いた冬華がこちらに向け手を振ってきた。

 当然その光景は光輝たちだけでなくここにいるすべての人の目に入っている。

 まわりからヒソヒソ声が耳に入ってくる。

(恥ずかしいからやめてくれ)

 光輝は頬を引き攣らせ冬華を見ていた。

 その冬華の手を掴みやめさせようと止める者がいた。

 白髪に碧い瞳で白っぽいローブを羽織ったアギトを連想させる風貌、違うところは長髪と女性だというところだ。

「シルフィ……」

 光輝は呟いていた。

 最近どこかで聞いた覚えがあることに気付いた光輝は記憶を遡る。

 しかし、あの時彼女が名乗って以来ほとんど会話をしていなかった光輝には聞くチャンスはなかった。

 みんなも気をつかってか、光輝の前ではその話題は出していなかった。

(昨日汐音君が言っていたか? いや、言ってなかったはずだ、じゃあどこで……)

 光輝が考え込んでいると汐音が耳打ちしてきた。

「(会長、奥に黒髪の女がいます)」

 光輝は考えるのを止めると鏡の奥を見た。

 冬華とシルフィの後ろに黒髪の女がいた。しかし光輝の知る黒髪の女とはずいぶんと雰囲気が違う。パッと見同一人物とは思えない柔らかな表情をしている。

 シルフィと一緒に冬華を抑えているようだ。

「(見違えたな。まるで別人じゃないか)」

 光輝は小声で呟いた。

「(ええ、とてもレイクブルグを滅ぼしたようには見えません)」

 汐音も光輝にだけ聞こえるように言う。

 光輝たちが黒髪の女へ注目してる間にも王同士の話は進んでいく。

 どうやらレイクブルグ王はこの会談の為に黒髪の女の手によって石化から開放されたようだ。

 そして事のあらましを語ってくれた。

 突如レイクブルグの結界が破られ、魔物が攻め込んでくると思い兵士たちは迎え撃とうと城下の門へと向かった。しかしその隙を突かれ、白い女が現れ封印の石碑を破壊した。

 破壊した石碑から瘴気があふれ出し、湖を瞬く間に穢れた水へと変え瘴気は城下町を覆っていった。

 その瘴気は吸い続けると人は命を落とすか、人でないモノへと変貌してしまう。

 それを阻止するための方法を王は考えた。

 姫は当時城を留守にしていた。姫への伝令も済んでおり、姫が無事であるなら救いの道はあると……王はそこで苦渋の決断をし、勇者へ願った。


「国の者たちの時を止めてくれ」と 


 しかし、その勇者は土系の魔法しか扱えなかったため一つの方法しかなった。それは王もわかったうえでの願いだった。

 勇者はすぐに救うことを約束し国の者たちを石化した。

 しかし、召喚されて間もなかった勇者はこの大規模な魔法を放った直後不意をつかれた。

 一緒に召喚されていた弟を白い女に人質として捕らえられてしまった。

 勇者は魔力を使い果たしており、成す術もなく術を掛けられ操られることとなった。

 勇者と言うのは黒髪の女のことだ。

 黒髪の女がアキによって奪い返されるまでの事はすでに光輝たちも知るところである。


 勇者という単語が出るたびに鏡の奥の黒髪の女は頭を抱え、冬華は口を押え笑いを堪えていた。

 光輝はその二人を見て思っていた。

(勇者って呼ばれたら頭を抱えたくもなるよな。傍から聞いてれば笑い話だけれど)

 光輝の隣で勇者の単語に目を輝かせている人物がいたが光輝は見なかったことにした。

 汐音がファンタジー系に詳しいというのは、たまに出る彼女の言動や態度から薄々気付いてはいた。ただそれを言っていいものか光輝は迷っていたのだ。なので光輝は目を瞑ることにしていた。


 そして会談は本題へと入っていった。

 これから湖の水を浄化し、人々の石化を解き、そして結界を張り直すのだが、その前に石碑から漏れ出ている瘴気を抑える必要がある。それにはレイナ姫の力が必要不可欠で、その為にレイクブルグ王は一時レイナ姫を逃がしていたのだ。

 話を聞き陛下が口を開いた。

「なるほど、ではレイナ姫をそちらに送り届ければいいのだな?」

「ああ、姫を無事送り届けてほしい」

 レイクブルグ王は頷いた。

 そこである男が声を上げた。

「そんな話はでたらめです! 騙されてはいけません! 姫をおびき出すための罠です!」

「今申したのは誰だ!」

 レイクブルグ王は不快そうな表情を見せ声を上げた。それはそうだ、一国の王が嘘つき呼ばわりされたのだから声も上げるというものだ。

 一人の男が前に出てくる。レイナ姫の護衛だった。会議でも立場をわきまえず意見していた護衛兵だ。

「お前は!? 姫への伝令に向かわせた……」

「わたしは見た。その女が国中を石化したところを!」

 護衛兵は黒髪の女を指差し意気込んでいう。

「それはレイクブルグ王の指示によるものだろう」

 陛下が呆れたように言う。

「いえ、違います。その女は白い女の命で動いていたのです。あの女が白い女と密会しているのをわたしは見たのです。王よ! あなたも騙されているのです!」

 護衛兵の言葉にまわりは騒然となる。陛下たちも同じく黒髪の女へと疑心を抱いた視線を向ける。

「どうなのだ?」

 レイクブルグ王が黒髪の女に問いかける。

「そんな、私は密会なんて……」

 黒髪の女が言う。

「黙れ魔女め!」

 護衛兵は黒髪の女の声を遮るように言う。

「な、魔女ですって! 麻土香ちゃんが魔女のわけないでしょ!」

 怒り心頭の冬華が声を上げた。

「なんだ貴様は!」

 護衛兵は横やりを入れられ憤慨する。

「私は麻土香ちゃんの友達よ!」

 冬華は胸を張って言う。

「だったら貴様も魔女だな!」

「バカじゃないの!」 

 冬華は護衛兵のむちゃくちゃな理屈に怒りを露わにする。

『冬華、少し黙っていなさい』

「なんでよ!」

『いいから!』

「……わかったわよ」

 シルフィは冬華を黙らせ前に出ると、護衛兵に冷たい視線を向け淡々とした口調で話しだす。

『あなた、先ほど石化させるところを見たと言っていましたがそれはいつですか?』

「そんなの決まってる。伝令に出る前だ」

『なるほど、でしたらなぜあなたは石化していないのですか?』

「そ、そんなのは知らん! その女が未熟だったからだろう!」

 護衛兵はどもりながらも答える。

『未熟だったとしてもあなただけ助かるのもおかしな話ですよね?』

「そんなもの、わからないだけで他にもいるかもしれないだろう」

 護衛兵は自信なさげに答える。

『そうですね、それはあとで調べればわかることでしょう。では、彼女が密会していたという白い女と言うのは誰のことですか?』

「そんなものどこからどう見てもお前じゃないか!」

 護衛兵はシルフィを指差し言う。

『白い女と呼ばれているのはモルガナだと思うのですが、そちらではないんですか?』

「そんなものどっちでも同じだろう! 同じ白い女だ、お前たちは仲間だろう!」

『ずいぶんと強引な言い分ですね。ですが、その当時私はまだこの世界に来ていませんでしたよ』

「だ、だったらモルガナだろう!」

 護衛兵はすぐさま証言を変える。

『あなたの証言には真実味がありませんね……はぁ』

 シルフィは呆れたよう溜息を漏らすと話を替える。

『それにしてもあなた、伝令の割には発言権を持っているのですね?』

「当たり前だ、わたしは姫の護衛だ! 姫の身が危険となればそれを食い止めるのが役目だ!」

 護衛兵は先ほど証言をころころと変えていたとは思えないほど自信満々で言う。

『護衛ですか……そうなのですか?』

 シルフィはレイクブルグ王へと訊ねた。

「いや、姫が城外に出ているとき護衛兵は常に姫の側に控えている。一人城に残るなどありえない。それにわたしが命じたのは護衛兵ではなく伝令兵だ」

 レイクブルグ王は疑いの目を護衛兵に向ける。

「父上が護衛兵を増援したのではなかったのですか?」

 レイナ姫が訊ねた。

「お前の下には厳しい訓練を受けた人格実力ともに優れたモノをつけている。そこへ連携を取れない兵を送ってもお前を危険にさらすだけだ」

 レイクブルグ王は否定する。

「確かに護衛兵たちは城外へ出るときいつもわたしと共にいてくれます。それではこの者は?」

 レイナ姫は後ずさり護衛から距離を取ろうとする。

「姫信じてください。王はあの魔女たちに騙されているんです」

 護衛兵は姫に信じてもらおうと詰め寄る。

「いや、近寄らないで!」

 レイナ姫はハッキリと拒否反応を見せた。

「チッ」

 護衛兵は舌打ちをすると剣を抜き姫を人質に取ろうと手を伸ばす。

「いやっ!」

 姫が捕まりそうになったとき護衛兵の腕を掴む者がいた。

 光輝だった。

 光輝は話の流れから雲行きが怪しくなると、念のために姫の近くに移動していたのだ。

 他の護衛兵はさすがにこの場で暴挙に出る者はいないと、しかもそれが身内から出るなどとは露とも思っておらず完全に油断していた。たった今、王から高評価を受けていただけにそのダメージは計り知れないだろう。

 光輝は護衛兵の腕を捻じり上げると足払いで倒しうつ伏せにして拘束した。

 その流れるような一連の流れを皆は茫然と見ていた。一人を除いて。

『よくやりました。光輝、今の働きに免じてこれまでの恨みは忘れましょう』

 光輝は何のことかわからず首を傾げている。

「まだ言ってんのかー!? コウちゃん悪くないでしょ!」

 その自分勝手な言い分に冬華はシルフィの頭を(はた)いて突っ込みを入れた。

(あの冬華ちゃんが突っ込みを入れるなんて!?)

 汐音は驚愕の表情を見せた。

『いった~い、何するのよ冬華!』

 シルフィのキャラが一瞬変わったが護衛兵が暴れ出したことでそれに気づいた者はいなかった。

「うぅぅうがぁぁぁ!」

 うつ伏せに抑え込まれた護衛兵がジタバタと暴れ出す。

『光輝、その兵、術を掛けられているかもしれません。調べなさい』

 シルフィは頭のさすりながら上から言う。

 しかし光輝はシルフィから漂う雰囲気がどこか懐かしく感じ、特に憤りを感じることなくそれに従った。

「マリアさん、調べてもらえますか?」

 光輝は護衛兵を押さえつけたままマリアに頼んだ。

「は、はい。わかりました」

 マリアは護衛兵に手をかざすと手のひらサイズの魔法陣が現れ、その魔法陣で護衛兵を知らべていく。

 マリアの手が護衛兵の頭で止まると口を開いた。

「確かに術の痕跡があります。比較的単純な術の様ですのですぐに解きます」

 マリアは魔法陣を解くと両手をかざし違う魔法を唱えた。

「この者を呪縛から解き放て」

 護衛兵を淡い光が包み込む。すると暴れていた護衛兵の動きが弱くなっていき、光が消えると共に動きを止め静かな寝息を立てる。

「ふぅ、これで大丈夫だと思います。一応しばらくは監視をつけた方がいいかと思います」

 マリアはそう陛下に報告する。

「うむ、マリア、そして光輝ご苦労だった。将軍!」

 陛下は二人に言葉を掛けると、レオルグ将軍を呼ぶ。

「ハッ! この者を隔離し監視下に置きます」

 将軍は先んじて告げる。

「うむ、その者の命にも係わる、許可無きものをその者に近づけるな」

「ハッ!」

 将軍はタリアに命じ自称護衛兵を連行させた。

「光輝様! ありがとうございました」

 レイナ姫は上品に前で手を組み笑顔を見せて光輝に礼を述べた。

「いえ、お怪我がなくてよかったです」

 光輝はそれだけ言うと汐音の隣へと戻った。

 レイナ姫は何か言いたげにしていたが、場をわきまえ口を噤んだ。

 そこで安堵したレイクブルグ王がシルフィへと顔を向けた。

「シルフィ殿の申した通りであったな。ありがとう」

 レイクブルグ王がシルフィに礼を言ったがシルフィはいつもの無表情で返答する。

『いえ、先の戦い後麻土香を捕らえようと何者かが扇動している風でしたので、中に敵、あるいは操られている者がいるのでは? と推測しただけです』

 シルフィはそういうと後ろに下がって行った。

 レイクブルグ王はその態度は冷たくはあるが謙虚な姿勢を見せたシルフィに満足したのか一つ頷き、陛下へと向き直る。

「騒動は起こったが、改めて申し上げる。姫を送り届けていただきたい」

 レイクブルグ王は姫を迎えに行かせるだけの兵がまだいないこともあり頭を下げ願った。

 しかし陛下は溜息を吐くと言う。

「水臭いぞレオニール。私とお前の仲だろう。姫は必ず無事にお前の下へ送り届けるさ」

 陛下とレイクブルグ王、ロマリオとレオニールは、先王たちが友だったこともあり幼少からの仲で親友と言ってもいい間柄だった。

「ロマリオ……すまない、ありがとう」

「陛下、ありがとうございます」

 レイナ姫もレオニールと共に礼を述べた。

 これで会談は終わるはずだったが、そこでマーサが口を開いた。

「少しよろしいでしょうか?」

「どうしたマーサ?」

 ロマリオが話を促す。

「はい、そちらのシルフィ殿と少し話したいのですが」

 マーサはロマリオへ願い出た。

「うむ、どうだろうか?」

 ロマリオはレオニールへと返答を預けた。

「わたしは構わないが……」

 レオニールはシルフィへと視線を向ける。

 シルフィは前に出るとマーサへ視線を向けて言う。

『いいでしょう。私も話をしておくつもりでしたので。ですが今はやめましょう、外野が多すぎます。後程また通信しますのでその時に』

 シルフィは余計な言葉をつけて答えた。

 外野呼ばわりされた面々はざわついていたが、シルフィはどこ吹く風とそのざわつきを無視した。

「わかった。待たせてもらうとしよう」

 マーサがそういうと、二人とも下がっていった。

 こうして会談は無事に……とは言えないが終わった。


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