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デート?

 アキが亡くなって数日、ローズブルグでは連日会議が続いている。

 光輝が今だ立ち直っていない今、代理を務めている汐音は部屋に戻るなりベッドへと倒れ込んだ。

「はぁ~もう勘弁してほしいですね……」

 愚痴をこぼす汐音に結衣が労いの言葉を掛ける。

「お疲れさまです、汐音先輩。会議はどうでしたか?」

 汐音はメガネを外し眉間を揉みほぐすようにつまむ。

 こんな姿の汐音は初めて見る。相当参っているんだろうと結衣は思った。

 汐音は大の字になると天井に視線を向け思い出すように話し出した。

「あまりよくはないですね。会議で取り上げられている議題は主に黒髪の女の事ですが、あのシルフィと言う女性が彼女を奪い返したはずなのに、兵士の側では捕らえたことになっているみたいなんです。町の被害を考えるとそう考えても仕方がないとは思いますけど。でも彼女は私たちと同じように呼び出された人でしょうから奪い返したという方が正しいはずなのですが……」

「心情的なことを引きずってるんでしょうか?」

「それもあるでしょうが、レイナ姫の護衛の言っていたことが尾を引いているようです」

「黒髪の女がレイクブルグを滅ぼしたとかいう? でも操られていたんですよね?」

「ええ、シルフィは彼女がレイクブルグの人たちを守ったと言っていましたから、その後に操られたのだと思います。ですが実際の事を知る者が護衛兵だけなので、そちらの話を信じてしまう傾向にありますね」

 結衣は顎に手をやり考えると疑問を口にした。

「その護衛兵はいつそれを見たんですかね? 近くにいたのなら一緒に石化しそうなものですけど」

 汐音はハッとなり起き上がるとメガネをかけなおして言う。

「確かにそうですね。事が終わってから見たのかもしれませんが、それだと彼女がやったとは言い切れないはずですけど。でもそれを言うならシルフィも同じですけどね……」

「そうですね……シルフィか、一体何者なんですかね?」

「彼女の口ぶりからは五十嵐君の関係者のようですけど、明らかに私たちとは違いますからこちらで知り合ったんじゃないですかね。五十嵐君にしてもシルフィにしても城の人たちからしたらどちらもいきなり現れた得体の知れない者ですから、彼女たちの話はなかなか信じてはもらえないでしょうね」

「やるせないですよね。アキ、命を失ってまで守ってくれたのに……」

 結衣はアキの死に様を思い出し暗い表情をする。

「そうですね。でも五十嵐君の事を知るマーサさんが説得をしてくれています。それにシルフィの言葉の裏が取れたことが一つあります。黒髪の女の攻撃での死者はゼロだったようです。五十嵐君の魔法で吹き飛ばされた際に負傷したものはいたようですけど死ぬよりははるかにましでしょう。それを知って、レオルグ将軍も話を聞いてもいいのではないかと進言してくれています。城の人たちみんながみんな反対しているというわけではないのが救いですね」

 こうは言ったが、マーサと将軍が説得に成功しないと「呼び出された者は信用ならない」という勢力が強まり、冬華までもが裏切り者扱いされかねない状況だ。自分たちの立場も危うくなる。そう思うと、汐音は頭を抱えたい衝動に駆られた。

「こんな事してる暇あるんですかねぇ……」

 結衣はぼそりと呟いた。

 汐音が溜息を吐いているのに気づき結衣は話題を替えた。

「サラさんはどうしてます? 会議には出てるんですよね?」

 結衣は一番落ち込んでいるであろうサラの事を訊ねた。

「ええ、一応出席はしてますが発言はしてません。ですが最近は表情が明るくなった気がします。タリアさんが気に掛けているようでしたから、そのおかげかもしれませんね」

「そうですか、よかった。後を追いそうな雰囲気だったから心配だったんです」

 結衣は胸を撫で下ろした。

「そういえば四ノ宮君たちは?」

 結衣とセットでいることの多い人物がここにいないことを汐音は疑問に思い訊ねた。

「カレンちゃんはマリアさんのところへ魔法を習いに行ってます。総司は稽古に行ってますよ。今日も光輝先輩を誘ってみるって言ってましたけど……」

 結衣は表情を曇らせる。きっと今日もダメだろうと結衣は思っていた。

「そうですか……冬華ちゃんに頼まれたけど、どうしたらいいんだろう」

 汐音は光輝の部屋の扉に視線向けた。

「アキだったらこんな時どうするんだろう?」

 結衣はアキを思い浮かべ呟いた。

「え?」

「アキ、光輝先輩の幼馴染でしょ? いつもどうしてたのかなって。「いい加減にしろ!」って殴り飛ばしたかな? そんなキャラじゃないか。ん~強引に遊びに連れ出したかも「そんなもんいいから遊ぼうぜ」とか言って。フフッ」

 その光景を想像して結衣は微笑んでいる。

「遊びですか……」

 汐音は考え込み押し黙った。

「それじゃあ、あたしマリアさんのところに行ってきます。あたしの力について聞きたい事があるので。光輝先輩は部屋にいると思いますから。ではでは」

 そういうと結衣は手を振って部屋を出て行った。

(結衣さんは私に会長を遊びに連れ出せと言っているんですかねぇ)

「……」


 汐音は光輝の部屋へ行き、光輝の前に立つ。

「会長! 遊びに行きましょう!」

 汐音は即実行に移した。

 しかし光輝に反応はない。

「ほら行きますよ!」

 汐音は光輝を強引に立たせると部屋から連れ出した。

「さて、どこに行きましょう。やっぱり城下でしょうか、城にいても息が詰まりますからね」

 汐音は光輝に聞こえるように言うと光輝の手を引いて歩いて行く。

 光輝は聞こえているのかわからない無反応で引かれて行く。

 城からでると汐音は西側を目指して歩く。東はまだ瓦礫の撤去が終わっていないため危険だからだ。

「お店を見て回ってみますか? 会長こっちに来てのんびりお店を見て回ったことないでしょう? いろいろなお店があるんですよ」

 汐音は光輝に語り掛けながら歩いて行く。

「以前結界を張ってたときに冬華ちゃんと軽く回ったんですけど、回り切れなくて。冬華ちゃんお腹減ったから串焼き食べたいって。子供みたいに言うんですよ。私入りたいお店あったのに……フフッ」

 汐音は光輝に向き直り微笑んで言う。

「そのお店行ってみませんか? 串焼き屋さんは後で行きましょう」

 汐音はそういうと光輝の手を引いて歩いて行く。

 汐音はパッと見アクセサリーショップの店に入って行った。実際にはアイテム屋なのだが。

「いろんなアクセサリーがありますよね。あ、この髪飾り可愛いですね。でも私には可愛すぎますね。カレンちゃんに似合いそうですね」

 汐音はカレンが髪飾りをつけているのを想像して頷いている。

「ネックレスもありますね……」

 汐音はネックレスに手を伸ばしかけたが二人の事を思い出し手を止めた。

 そして髪留めへと目を向けた。

「あ、私はやっぱり髪留めですね。ちょっと冒険して可愛い物にしてもいいんですが、冬華ちゃんがからかってきそうですし……あ、これなんて落ち着いた感じがいいですね、アクセントの花の模様が上品に描かれているのもポイント高いです」

 汐音は試しに髪に留めてみた。落ち着いた髪留めは凛とした汐音の美を際立たせ、アキセントの花の模様が汐音の上品さを表しているようだ。

「どうですか? 似合いますか?……あれ、ダメですか? いいと思ったんですが」

 汐音は光輝の表情に変化がないことに肩を落とし髪留めを棚に戻した。

 しかし、光輝の目は無意識に髪留めへと向けられていた。

「はな……」

 光輝は呟いていた。

「え? 花? ……あ、そうだ! いいところがありますよ。行ってみましょう」

 汐音は光輝の手を引き店を出た。


 汐音が光輝の手を引いて歩く。これまでの流れは傍から見ればデートのように見えるが、ほぼ介護に近い状態である。

 そんな状態で町の端に着く。

 そこには花が咲き誇る花壇があった。

「フフッ、ここです。どうですか? 綺麗でしょう? 子供たちが世話をしてるんですって」

 汐音は花壇に近寄り花へと手を伸ばす。

 汐音は愛おしそうに花を愛でている。その仕草は普段の凛としたものではなく、柔らかな女の子のものだった。

 その花壇へ子供たちがやってきた。水をやりに来たようだ。

 そのうちの女の子が花を見て言った。

「あ、このお花枯れちゃった。かわいそう」

 女の子は今にも泣き出しそうな顔をする。

 それを見た汐音君が女の子へと語り掛ける。

「お花も生きていますから、いつかは枯れてしまいます。ですが、あなたたちが愛情を注いで育ててくれたのです、このお花たちも毎日みんなの愛情を受け笑顔を見られて幸せに生きられたはずですよ。ですから笑顔で送り出してあげましょう。そうすればこのお花の子供たちがまた花を咲かせてくれます」

「ほんとう?」

「ええ」

 汐音は微笑んで女の子の頭を撫でる。

 この光景を視界に入れていた光輝は昔同じようなことがあったのを思い出していた。


(あれは10年前くらいだったかな)


「お兄ちゃん、お花枯れちゃった。お兄ちゃんがお水上げるの忘れるからだよ!」

 小さい冬華がアキに文句を言う。

「忘れてねぇし! ちゃんとやったし!」

「お兄ちゃんの嘘つき!」

「嘘じゃねぇし!」

 アキは断固として譲らない。

「シ・・・もそう思うよね?」

 冬華はアキの隣を見て言う。

「ウソ~!? ホントに?」

 冬華は何か驚いている。

「ほらみろ、ホントだろ!」

 アキは勝ち誇ったように言う。

(何がホントなんだろう?)

 光輝は小首を傾げていた。

「じゃあなんで枯れちゃったの?」

 冬華は問いかける。

「それはだな、花も生きてるからだ。生きてればいつかは死んじまうんだよ」

 アキは得意げに言う。

「お花死んじゃったの?」

 冬華が泣き出しそうになると、アキは慌てふためく。なんだかんだで妹が泣くのは見たくないアキである。

 それを知っている光輝が冬華に言った。

「新しいお花植えようよ」

「でもぉ……」

 冬華は枯れた花を見て涙ぐむ。

 慌てたアキは、隣へ視線を向け話し出す。

「ど、どうしよう?……うん、おぉ、なるほど! さっすがシル・・」

(何がなるほどなんだろ?)

 光輝は小首を傾げる。

「冬華! この花の種を蒔こう。で育てよう」

 アキは冬華の肩に手を添え言った。

「タネ?」

 冬華はわからないといった顔をする。

「おう、種だ! この花の子供だな、うん」

「お花の子供?」

「おう、じいちゃんが言ってた。命は死んでおしまいじゃない。めぐる? ものなんだって」

「わかんない」

 冬華は可愛く小首を傾げる。

「この花は……ここに新しい命を残してる。この種を蒔いて育てる。で花が咲いて、また枯れる。これがグルグル回ってるんだって。だからこの花はまだ終わってないってこと」

 アキは枯れた花から種を取り出し言うと、種を冬華に渡した。

「わぁぁぁぁ」

 冬華は花が咲いたような笑顔になる。

(今のでわかったのかな?)

「人も同じなんだって。だから死ぬまでに何かを残せるように一生懸命生きるんだって。……よくわかんないんだけど」

 アキは隣を見て小首を傾げる。

「ま、いっか。そういうわけだ、わかったか冬華?」

 冬華は笑顔で鼻歌を歌いながら種を蒔いて土を被せている。当然聞いていなかった。

「聞けよ!」



「会長!? 会長!」

 汐音が心配そうに光輝の顔をのぞき込んで呼び続けていた。

 光輝は声に導かれるように記憶の淵から戻った。

「あ、し、汐音君」

 汐音の顔が近く、光輝は焦りでどもった。

 汐音は目を見開き驚いていた。光輝の声をあの日以来聞いていなかったからだ。

「なんだか久しぶりに会長に会えた気がします」

 汐音は涙ぐむ。

「ゴメン心配かけて」

「いえ、会長が戻ってくれたのでいいんです」

 汐音は涙を拭う。

「さっきキミが女の子に言っていたのを聞いて、昔のことを思い出したんだ」

「昔のことですか?」

「ああ、昔アキが言ってたんだ、人は死ぬまでに何かを残せるように一生懸命生きるんだって……」

 汐音は黙って聞いている。

「アキは僕たちのためにきっと何かを残してくれているはずだ。今度は絶対に取りこぼさない」

 光輝は手を握りしめ力強く言った。

「汐音君少し付き合ってもらえるかな?」


 光輝と汐音は城下の東側、戦いの跡地へと来た。

「なぜここへ?」

 汐音は疑問を口にした。

「見ておきたかったんだ。アキが必死で成し遂げようとしていたことを」

 光輝はただの感傷だとわかっていたがそれでも見ておきたかった。ここからまたはじめるのだから。

「すごいですよね、五十嵐君は。ずっと、たった一人で決断し行動していたんですよね。もし私だったらと思うと、とてもできそうにありません」

 汐音は悲しそうに言う。

「ああ、僕たちに剣を向けられるのも覚悟の上で行動したんだ。アキの行動には必ず意味がある。僕たちはそれを知らなければいけない」

 光輝は剣を交えていたアキを思い浮かべながら言った。

「そうですね。……フフッ、でもあの五十嵐君とはとても思えませんね。学校ではまるでやる気を見せなかったのに、ここでの彼は全然違いました。しかも無双状態でしたし。まさかあんなに強かっただなんて思いませんでした」

 汐音は顔に掛かる髪を押さえながら微笑む。

「アハハ、アキはやるときはやる男だよ。まあ、僕も手も足も出ないほど強くなっているとは思わなかったけどね。ほんと参ったよ……でもこれからは僕がやらなければいけない」

 光輝は表情を引き締め言う。

「僕たち、ですよ。私たちもいるんですから。もちろん冬華ちゃんも」

「しかし、彼女は……」

「時間をくれたんですよ。会長がもう一度自分の足で立ち上がるように。きっと戻って来てくれますよ」

「そうだね、戻って来てくれるように、また見限られないように頑張らないとな」

「はい、そうです。一緒に頑張りましょう」

 汐音は光輝の手を取り笑顔で言った。


 このあと、光輝と汐音はもう一度アイテム屋へ行くと髪留めを買い、串焼き屋へ寄ってから城へと戻っていった。


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