三人娘
冬華たちは数日かけてレイクブルグに来ていた。
アルマは体が弱いのもありおとなしく村で留守番をしている。風音も危険と言うことで同じく村に残っている。
麻土香は石化している人々を元に戻すために連れてきているが、操られていた時の記憶があることもあり魔法は普通に使えるようだった。なので戦力として申し分ない働きを見せている。
「麻土香ちゃんやっぱり強いね」
冬華は感心したように言う。
「え? そうかな? 冬華ちゃんの方が全然強いよ」
麻土香も冬華の戦いぶりをみて感嘆の声を漏らしていた。
『二人ともなかなかのものですよ』
シルフィは淡々と魔物を倒していく。
冬華、シルフィ、麻土香の三人はレイクブルグ城を目指し城下の魔物をなぎ倒しながらそんな会話をしていた。
冬華は水の弾丸を放ちつつ剣で斬り倒し。
麻土香は石の槍で撃ち貫く。
シルフィは竜巻で魔物を掻き集め、巻き上げ切り刻んでいく。
石化した人達に被害を出さないように抑えて戦っているとはいえ、それでも十分な戦果を挙げている。いや、蹂躙していると言っていいだろう。
『この分なら難なく取り戻せそうですね』
シルフィは満足そうに一つ頷いた。
「……シルフィだけで片付けられそうなんだけど」
「うん、私もそう思う。」
シルフィの手際を見て二人は頬を引き攣らせた。
『二人とも、サボらないでください』
シルフィは淡々と指摘する。
「は~い」
「はあ」
二人は魔物へと魔法を放っていく。
城へたどり着き、三人はある場所へと向かう。
そこは結界に使う魔石が保管されている魔道研究室の保管庫である。人々を元に戻しても結界が張れなければ結局被害が出てしまうから、先に魔石の有無を確認すべきだとアルマに指摘されたのである。そして保管されている場所もアルマが教えてくれていた。城の結界の魔石は封印に影響を及ば差ないために特殊な魔石を使用している。そのため保管には細心の注意が必要である。それを管理しているのが城の魔法士であり、魔道研究室である。
町や村の魔石に関しては特殊なモノではないため術式が施された容器に入れられ保管されている。
それらを運搬しているキャラバン隊が一体何者なのかという疑問はあるが、今はそこに振れる時ではない。
冬華たちは魔道研究室を目指している。
研究室を探しながら冬華が口を開いた。
「それにしても麻土香ちゃんのその恰好なかなかな慣れないなぁ」
「そう?」
リオル村を出る前に麻土香は装備を替えていた。黒いドレス姿から、一般的な冒険者風の格好へと変わっている。髪は後ろで束ね、ハーフパンツに丈夫な皮の服、ローブを纏った地味な感じにまとまっている。もちろん周囲に漂う臭いを防ぐために口元には布が巻かれている。
「うん、地味だよね。もっとこうそのエロい体を生かしたボンっ! とバーン! とした感じにした方がよかったんじゃない?」
冬華は身振り手振りを付けて言うがよくわからない。
「擬音ばっかでわかんないね。あとエロくないから」
麻土香は冷めた感じで答えた。
「いやいや、エロいよ~足もすら~っと伸びてるし、おっぱいもおっきいし、羨ましい」
冬華は上から下まで舐めるように見ると恨めしそうな視線を向ける。
『大きければいいというモノでもないでしょう。垂れますし』
シルフィは興味なさげに言うと、またも余計な単語を付け加えていた。
麻土香は顔を引き攣らせると、胸を押さえ垂れていないか確認している。
「そんなこと言ってシルフィも羨ましいんでしょ?」
『いえ、アキは形が大事だと言っていましたし、羨ましくなどありません』
「ふ~ん、でもおっきいのも好きだって言ってたよ。サラさんもおっきいし」
麻土香は世の男性が胸に何を求めているのか興味深く聞いていたが、いきなり出てきた名前が気になり訊ねた。
「サラさんって?」
「あれ? 知らないんだっけ? お兄ちゃんの彼女だよ」
冬華はさらっと答えた。
「か、彼女!? そっかぁ、それはいるよね……でも、彼女さん辛いだろうね」
「うん」
二人はサラの気持ちを思い顔を曇らせる。
『別に彼女ではないでしょ? あの時は雰囲気に流されてキスしてましたけど』
シルフィは淡々と暴露した。
「き、キス!?」
麻土香は顔を赤らめ口元を隠している。
「え? そうなの? お兄ちゃん雰囲気でしちゃうんだ……でもあれは好き同士でしょ絶対」
冬華は腕を組み顎に手をやり言う。
『まあ、そうですね。だからアキは正体を明かすつもりはなかったんですよ。あ!?』
シルフィは言うつもりのなかったことを口走って口を手で覆った。
「え!? 明かすつもりがなかったってなんで?」
すかさず冬華が訊ねてきた。
『……前にも言いましたが、アキの命はそう長くもたなかったんです。彼らの中ではアキはすでに死んだことになっていましたし。まあ、アキがそう仕向けたのもありますけれど……せっかく立ち直り掛けてるところにひょっこり現れて、またすぐに死んだりしたら余計に辛いでしょう?』
「うん、まあそうだね……」
『だからアキは誰にも知られず逝こうと……』
シルフィは横目で冬華を見る。
「それを、私がばらしちゃったんだ……」
冬華は俯いて黙り込む。
それを見かねてシルフィがフォローする。
『もう過ぎたことだよ。それにすぐにわかることだったんだから。アギトが死ねば彼らは正体を知りたくなるでしょ? そしたら結局フードの中を見られてた……だから生きてるうちに会えてよかったのよ。ね』
シルフィは素の表情で冬華の肩に手を添え慰める。
こうは言ったが、シルフィはアキから「もし自分が死んだら顔を見られる前に死体を回収しろ」と言われていた。冬華の心を少しでも軽くしてあげようとこのことは黙っていた。
「そうだね、そうだといいな」
冬華は悲しそうな笑みを見せた。
「きっとそうですよ! 最後にお別れのキスだなんて映画のワンシーンみたいですね……ぐすん」
麻土香は目を潤ませて鼻を啜っている。
『なぜ麻土香が泣いているの?』
「ごめんなさい、感動しちゃって……ぐすっ」
感動? 少しずれている気はするが、アキと冬華以外興味のないシルフィは気にせずに研究室を探して歩く。
シルフィはそれらしい部屋を見つけ扉を開いた。
棚には書物が並べられ、床には魔法陣が描かれている。机には研究途中と思われるマジックアイテムが並んでいる。
当然ここにも石化した人がいた。ローブを纏っていることから魔法士だと思われる。
『ここのようですね』
シルフィは部屋の中の、隣の部屋へと続く扉へと手を伸ばした。
バチッ
シルフィの手は扉に触れることなく弾かれた。
「どうしたの!?」
『どうやら部外者を入れないために術が施されているようですね』
シルフィは手をにぎにぎして異常がないか確認している。
「じゃあ入れないじゃん。どうしよっか」
冬華は腕を組み難しい顔をして考えはじめる。
そこへ麻土香が手を上げた。
「はい」
『はい、麻土香さん』
シルフィは麻土香を呼び発言を許可する。
「え? なんで先生風なの?」
冬華は顔を顰めて訊ねた。
『雰囲気ですよ。麻土香さんどうぞ』
シルフィは麻土香へ話を促す。
「はい、この人に聞いてみたらいいと思います」
麻土香もノリノリで生徒役を演じると、石化している魔法士の肩へと手を添えた。
『なるほど、それはいい考えですね』
シルフィは納得して頷いたが、冬華は意味がわからず小首を傾げている。
『冬華さんはもう少し勉強しましょうね』
シルフィは先生風に言う。
「む~」
冬華は口を尖らせて唸った。
『はぁ、この人の石化を解くんですよ』
シルフィは溜息を吐くと普通に答えた。
「あ、そゆこと」
シルフィの答えに冬華はあっさり納得した。
『では麻土香、お願いします』
「うん」
麻土香は石化した魔法士へと手をかざし魔法を唱えた。
「魔法解除」
すると石像に淡い光に包まれると、硬く冷たかった石像が柔らかく暖かな体温を取り戻す。
「……う、っはぁ!? ハァハァハァ、ふっ」
魔法士の女性は呼吸を整えるとほぐすように体を回した。
「だ、大丈夫ですか?」
麻土香が恐る恐る訊ねた。
「え? あ、はい! 大丈夫です、勇者様!」
魔法士の女性は衝撃の言葉を投下した。
「うっ」
麻土香は絶句する。
「ぷふっ、ゆ、勇者様……だって……プハハハハッ」
冬華は耐えきれず笑い出した。
麻土香は顔を赤くして俯いた。
「な、なにがおかしいんですか!」
魔法士の女性は勇者様が笑われたと思い怒りを露わにする・
「だって……プフッ、勇者様だよ、ププッ、ゲームじゃないんだからッハハハハ」
冬華は吹っ切れたようにお腹を抱えて笑い出した。
「もう、笑わないでよ~」
麻土香が冬華を止めようと口を塞ごうとする。
「そうです! 勇者様に失礼です!」
魔法士の女性は冬華の笑いにさらなる笑いを提供した。
「あなたもその呼び方やめてよ~」
「アッハハハハハハ……ヒィッ苦しい……笑い死ぬ~フフッ」
冬華は涙を流して笑っている。
本当に笑い死ぬんじゃないかと心配になったシルフィが止めに入る。
『冬華! いい加減に笑うのを止めなさい。ホントに死にますよ』
「ハハハッ……ハァハァハァ……死ぬかと思った」
冬華は涙を拭いながら言う。その間麻土香たちへは視線を向けていない。見たらまた発作が起こると思ったからだ。
「勇者様、なんなんですかこの人達は!」
魔法士の女性は語気を強めにまた言ってしまった。
「プフッ……」
冬華は口を押えて何とか笑いを抑えた。肩は隠しようもなく上下に振るえている。
「……コホン、この二人は私の……なんだろ?」
麻土香は咳ばらいをすると二人を紹介しようとしたが、自分たちの関係性について悩み出した。
(命の恩人? 友達? 運命共同体? それとも仲間? でもまだ返事してないし……ん~)
『私たちは仲間です』
シルフィが躊躇なく答えた。
「お仲間ですか。確かにそちらの方は黒髪ですがこちらの方は……」
魔法士の女性はシルフィを見てなんと言おうか悩んでいる。
『私は冬華の保護者です』
「なんでよ! 友達でしょ!」
シルフィの答えに冬華は物申した。
『そうですけど、アキのいない今私が冬華の面倒を見なければいけませんから』
「お姉ちゃん気取りか!」
冬華はすかさず突っ込んだ。
『それはさておき……』
「さておくな!」
シルフィは冬華を無視すると魔法士の女性に訊ねる。
『あなたに聞きたいことがあるのですが、結界の魔石は保管されていますか?』
横から「無視すんな」という声が聞こえたがシルフィは聞こえないふりをした。
魔法士の女性は一度麻土香へと視線を向け、麻土香が頷くとようやく話し出し。
「はい、間違いなく保管されています」
『そうですか。ではこれから湖を浄化して、町の人たちの石化を解除します。ですのであなたは結界を張る用意をしてください』
シルフィがそう指示すると魔法士の女性は待ったをかけた。
「ちょっと待ってください。順番が間違っています」
『どういうことですか?』
「湖の水が穢れているのは封印が解かれたことによる副産物です。封印から解放されたものと一緒に噴き出した瘴気が湖に流れ込んでいるんです。そして穢れた水がしみ込み大地も穢れていきます」
『つまり先に再封印をしなければいけないと? しかし封印には準備が必要なのでは?』
「はい、ですが瘴気を抑えるだけでしたら姫様のお力だけで間に合います」
『……姫様が必要、ということですか?』
「はい」
『……』
「……」
「どうする? ここに来て手詰まりって……」
冬華は顔を引き攣らせている。
その様子を見て魔法士の女性は最悪の事態を想像した。
「まさか、姫様の身に何かあったのですか!?」
「ううん、姫様は無事だよ。ローズブルグで保護されてる。ただ……」
冬華は口ごもった。
『姫の護衛の証言から麻土香がレイクブルグを滅ぼした張本人となってしまっていて、それを助長するように麻土香が敵に操られて何度も城に攻め込んだので、もう私たちが何を言っても信じてもらえないんです。おまけに麻土香は処刑されかねないので、今はローズブルグへは戻れないんです。だから先にレイクブルグの問題を解決して信頼を取り戻そうとしているんです』
シルフィは澱みなく状況を説明する。
「なるほど、それはまた大変でしたね」
魔法士の女性は顔を引き攣らせている。そして考えた後、口を開いた。
「でしたら、陛下から話してもらいましょう。真実を知る陛下の話なら信じてもらえるでしょう。通信鏡を使えばローズブルグへ行く必要もありませんし」
「お~それいいじゃん。さすが魔法士のお姉さんあったまいい」
若干バカにした言い方だが冬華はいたって普通に称賛していた。
『そうですね。現状それしか手はなさそうですね。麻土香、陛下の石化を解きに行きましょう』
「うん、わかった」
こうして陛下の石化を解き、ローズブルグへ連絡を取ることとなった。




