病室の晩餐会
サブタイトルがホラーっぽいけれどホラーではありません
今、麻土香の病室は賑やかな声に包まれている。
どこからか運んできたテーブルの上にはカノンの手作り料理が並べられている。
そのテーブルを囲み和気あいあいと料理に手を付けていた。
「もほ、あふはほはわくふぃっふぇふええふぁひいほひ……もぐもぐ」
『冬華、口の中身飲み込んでから話しなさい』
シルフィはジロりと横目で冬華を見ると注意する。
「ん、もぐもぐ……ゴクン、ふぅ。もう、アルマも早く言ってくれればいいのに~あやうく斬っちゃうとこだったじゃん」
冬華はアルマの背中をバシバシ叩いて上機嫌に言う。料理にご満悦のようだ。
「あはは、すみません。痛いです。アギトさんに素性は伏せておくように言われていたので、ゴホッゴホッ」
アルマは顔を歪ませ咳き込む。
このアルマはモルデニア城の牢に囚われていたところを、結衣の救出に向かったアキたちによって、同じく囚われていた風音と共に助け出された本物のアルマである。その際にアキにまた狙われる可能性があるからと素性を隠すように言われていたのである。
『そんなに気安く斬られても困りますけど』
シルフィは淡々と突っ込む。
「もう、シルフィもそんなムッツリしてないで食べなよ~」
冬華はシルフィに野菜炒めを進める。
『いえ、私は大丈夫ですから』
シルフィは淡々と断る。
「あらあら、お口に合わなかったかしら、ごめんなさいね」
カノンは申し訳なさそうに言うと表情を曇らせる。
「失礼だよシルフィ! こんなにおいしいのに」
冬華はバクバク口に運ぶ。
『いえ、そういうわけではなく。冬華! あなた知ってるでしょ! 私は食事はとらなくてもいいんだって』
「ふぇ~モグモグ、ゴクン。それは知ってるけどさ、別に食べれられないわけじゃないじゃん。こういう時は一緒に食べるものだよ」
冬華は空になった取り皿にから揚げっぽい揚げ物を追加しながら言う。
『冬華のくせにもっともらしいことを言いますね』
シルフィは意外そうな顔を冬華に向ける。
「と言うわけで、はいあ~ん」
冬華は笑顔でシルフィの口元へから揚げを寄せる。
『……わかりました、いただきます。あ~ん、はむ……もぐもぐ』
シルフィは素直に冬華に食べさせてもらった。まわりから視線を向けられていることにも気付かずに……
「んふふ、おいしいでしょ?」
冬華はかわいい笑顔を見せて言う。
『ゴクン。はい、おいしいですね』
まわりからの視線に気付いたのか、シルフィは若干頬を染めて言う。さすがにあ~んは恥ずかしかったようだ。
「ふふ、よかった。遠慮なく食べてね」
カノンは母性あふれる微笑みをたたえて言う。
「ふぁーい」
冬華は口に頬張りながら返事をする。
『冬華はもう少し遠慮しなさい。麻土香、遠慮してると冬華に全部食べられますよ』
「う、うん。でもいいの? ここ病室だよ?」
麻土香は遠慮がちに言う。
『平気でしょう、先生も食べてますし』
シルフィは横目でオグルを見ていう。
オグルはピクリと反応すると口を開いた。
「かまわないよ。ここは僕の診療所だからね」
その理由も言い訳じみていてどうかとは思うけれど、先生がいいというのならいいかと麻土香は納得した。
「そうですか、では遠慮なく」
そういうと麻土香は料理に手を伸ばす。
風音は元より遠慮などしていなかった。というかこのメンツで気後れすることなく食に没頭できるところはキモが座っていると言えよう。
その食いっぷりを見て、負けじと食べる冬華が風音に訊ねた。
「ねぇ、風音って年いくつよ?」
「ん、12」
風音は食べることを止めずに端的に短く答える。
「(やるわね! 私の妨害工作をあっさり躱すなんて)」
冬華は鋭い視線を風音に向けながら食べ続ける。
『フードファイターですか』
シルフィはそんな二人に冷たい視線を向ける。
カノンは嬉しそうにその光景を見ていた。
綺麗に片付いたテーブルを囲み皆でお茶を飲んでいた。若干2名は食べ過ぎでダウン中である。
カノンが心配そうに二人を気にしている。
『おバカな二人は放っておいていいですよ。いくらおいしいからって欲張り過ぎです。少し反省しなさい』
シルフィは冷たく言い放つ。
二人は返す言葉もなく項垂れる。いや、苦しくて言葉も出せないだけである。
シルフィは二人を放っておいてアルマへと話しかける。
『アルマ、あなたが捕らえられたいきさつを聞かせてもらえますか?』
いきなり話しかけられたアルマは戸惑いつつも当時の事を思い出し答える。
「え? あ、わたしが城下の診療所で静養してる時だった。モルガナと呼ばれていた白い女と、見知らぬ男がいきなり来てわたしは魔法を掛けられたんだ。そして気付いたらわたしは牢の中だった」
『見知らぬ男ですか。まったく心当たりはないんですね?』
「ああ、わたしは牢から出られないかまわりを調べていたら、その男とモルガナがやってきてじっとわたしを見たんだ。何か術を掛けられるのかと思って、魔法耐性強化の魔法を掛けようとしたんだが、床に魔法陣が光って魔法を打ち消された。驚いているわたしをモルガナは嗤い、いきなり虚ろな目をしたその男の首を刎ねた」
麻土香は「なんで?」という顔をして口を押えている。
「そして立ったままのその男の体の切断された首の上に別の何かが乗り、わたしの顔に形を変えたんだ」
話を聞いていた皆が顔を歪めている。
そして表情を変えないシルフィが口を開いた。
『偽アルマの誕生というわけですね。その偽物ももう倒されましたけれど……ハァ』
もう一人いるという敵についての情報が得られるかと期待していたシルフィは肩透かしを食らい溜息を吐いた。
そこで唐突にアルマが言い出した。
「わたしの偽物も倒されたそうだし、そろそろ城に戻りたいと思っているんだけれど」
それを聞いた冬華ががばっと起き上がり声を上げた。
「バカじゃないの! ウッぷ……い、今言っても誰も本物だって信じてくれないわよ」
冬華は意気込んで声を上げたが、口に手をやり駆け上がってくるものを必死でおさえながら言う。
そんな冬華を冷たい目で見るとシルフィが補足する。
『本物だと証明するためにも私たちが一緒に行くしかないでしょう。しかし、私たちも今は立場が危ういのです。あ、危ういのは冬華だけですね。私と麻土香は敵だと思われているでしょうから。ですから今言っても危険なだけです』
「しかし、またいつ敵が攻め込んでくるかわからないだろ? 早めに戻りたいんだが」
「そ、それはたぶん大丈うぷっ」
冬華は……話せそうにない。
『しばらくは大丈夫でしょう。麻土香はこちらの手中にありますし、モルガナも冬華が無力化しましたからすぐには攻めては来られないでしょう。もう一人いるかもしれない敵が姿を見せていないから不安はありますが、光輝たちもいますし大丈夫でしょう』
シルフィは淡々と言った。今の状態の光輝がどこまで戦えるか疑問があるけれど、そこは一切見せないでいる。
「わかった。彼女の容疑が晴れるまで待つことにするよ」
アルマは渋々了承した。
麻土香は容疑者扱いされていることに不服そうな顔をしている。
「でも、コウちゃん大丈夫かな?」
冬華が口を押えながら言う。苦しいなら黙っていればいいのにとシルフィは思った。
『それは光輝次第ですね。戦力的には不安ですが総司君がいますし大丈夫でしょう。冬華を置いてくるわけにもいかなかったので』
「え? 置いて行こうとしてなかった?」
『いえ、冬華に自発的に来てもらいたかったんですよ。冬華なら付いてくると思ってましたし、光輝にはもう後がないということをわからせないといけませんでしたから。あの温室育ちのボンボンに』
シルフィはまたしても余計な単語を付け加えた。
「私が見限ったように見せるためってこと?」
『まあ、そうです。これで奮起できないようならそれまでの男だったというだけです』
シルフィは冷たく言い放つ。
「ふ~ん……前から思ってたんだけどさ。シルフィってコウちゃんのこと嫌いだよね」
『はい、嫌いです』
シルフィはきっぱり言う。
「子供の頃お兄ちゃんの後ろに隠れてコウちゃんのこと睨んでたもんね。なんで?」
『いつも邪魔してきてたからです』
「邪魔?」
『そうなの! せっかくアキと二人で遊んでたのにあいつすぐ邪魔しにくるんだよ! 「アキ遊ぼう」とか言って、いつもいつもいつもいつも、嫌がらせだよね!』
シルフィは当時を思い出して憤慨する。そのせいで素に戻っていた。
「いや~それは純粋に遊びたかったんじゃないの?」
冬華は呆れたように言う。
『そんなことないよ! だってあいつ私の事完全に無視してたんだよ! 「アキ、シルフィ遊ぼう」ならわかるけど、「アキ遊ぼう」だよ! 酷くない?』
シルフィはもう子供の様に怒っているが、冬華はあることに気付いた。
「あれ? それって、コウちゃんシルフィの事見えてなかったんじゃないの?」
『え? なんで?』
シルフィは小首を傾げている。
「なんでって、あのコウちゃんが誰かを無視するなんてことするとは思えないんだけど」
『そう? しそうじゃない?』
シルフィはさもありなんといった感じに言う。
「いやいや、しないでしょ。それにシルフィが私たち意外に心を開いてなかったから無意識に他の人に見られないようにしてたんじゃないの?」
『え?』
シルフィは停止した。
「……」
『……コホン、まあ、そんなことは些細なことです。過去の事は忘れて今を大事にしましょう』
シルフィは咳払いを一つすると、話を逸らした。
心当たりがあるんだと思い、冬華はジト目をシルフィに向けた。
『さあさあ、もうそろそろお暇しましょうね。麻土香ももう少し休んだ方がいいですし』
「誤魔化してるよね?」
冬華はジト目を向けたまま言う。
『そんなことないですよ? しっかり休んで体調を戻してもらわないと次の行動に移せませんから』
シルフィはさも正しそうな理由を述べた。
『さ、行きますよ。ではみなさんまた明日』
そういうとシルフィは冬華の背を押して部屋を出て行く。
宿へと向かう道すがらシルフィは冬華に訊ねた。
『冬華、麻土香になんであんなこと言ったの?』
「あんなこと?」
『アキが麻土香の力が必要だから助けたって』
「ああ、あれ? ……麻土香ちゃんの目、恋する乙女の目だったじゃん? ああ言った方が恋から冷めるかなって。じゃないとショックが大き過ぎるじゃない」
『アキが目的の為ならなんでも利用する外道みたいになってたけどね』
シルフィは苦笑いを浮かべて言う。
「あはは、でもいいじゃん。ちゃんとシルフィがフォローしてくれたし、お兄ちゃんだってできれば女の子を戦いに巻き込みたくはないって思ってるでしょ? せめて自分の意思で決めさせたいじゃん」
『そうね……恋心なんてわからないだろうしね。あのバカには』
「うん。バカだから仕方ないよ」
二人はバカな男を笑いながら宿へと入って行った。
……
……ここはどこ?
……ここは、お城の一室?
……甘い香りがする、女性の部屋?
……わたしは鏡の前に座り鏡をのぞき込む
わたしの姿が映る、そしてわたしの後ろに誰かが映り込む
後ろを振り向こうとしたとき
「……サラ」
わたしを呼ぶ声がした
わたしは鏡に向き直ると、そこにわたしは映っていなかった
映っていたのは……
「アキ!」
わたしは鏡を掴みその名を呼び続けた
「アキ、アキ、アキ、アキ、アキ……」
アキは悲しそうに微笑んだ
「すぐにまた逢えるから……」
「!?」
「待ってて……」
「……はい」
わたしは涙を流し微笑んだ
……甘い香りが薄れていく
……
「アキ!」
ガバッ
わたしは起き上がりまわりを見渡した。
「ハァハァハァ……わたしの、部屋……」
わたしは夢の内容を思い出す。
アキはまたすぐに逢えると言っていた。
「アキ……生きているの?」
わたしはわたしの体を抱きしめアキの名を呟いた。
「……アキ」




