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引き継ぐ者

「アッハハハハハハッ、まずは一人。安心しろすぐに同じ場所に送ってやる。ッハハハハッ」

 モルガナの嘲笑う声が響き渡る。

「……うな」

 冬華はフラフラと立ち上がり前に進んでいく。

「……笑うなぁぁぁぁぁぁ!」

 冬華が吠えるのと同時に冬華を包み込むように地面から水柱が立ち昇る。

 水柱はぐんぐん大きく高く伸びていく。

 ゴーレムの肩口まで伸びていくと、その先端から冬華が飛び出した。

「よくもお兄ちゃんを! よくもぉぉぉぉぉぉぉ!」

 冬華は先ほどまでと違い完全な水の剣を出現させ、振り抜いた。

 その水の軌跡が水の槍へと(かたど)られ射出される。

「死にに来たか!」

 モルガナは闇色の魔力弾で水の槍を撃ち落していく。

「おぉぉぉぉ!」

 冬華は出力を上げショートソードの倍の長さとなった水の剣で斬りかかっていく。

 モルガナは闇の剣で受け止めるが、受けた先の水の剣先が曲がりモルガナの肩口を斬りつける。

 もはや剣というより水のムチのような弧を描いた動きを見せる。

「……ぐあぁぁぁぁ!」

 モルガナは一瞬遅れて絶叫を上げると後退し距離を取る。

「はぁぁぁぁぁぁ!」

 しかし、冬華は水の剣を横薙ぎに振り抜く。水の剣は長さを増していきモルガナを捉える。

 屈んで避けるモルガナへ冬華は駆け寄り連続で斬りつける。

「うおぉぉぉぉ!」

 出力を上げた水の剣は打ち込むたびに闇の剣を霧散させ削り取っていく。そして受けるたびにそこを起点に水の剣は弧を描きモルガナへと襲い掛かる。

 モルガナは受けては避けを繰り返すことで冬華の猛攻を凌いでいる。

 しかし攻めることができず防戦一方になっていき、霧散され削り取られていく闇の剣ではさばき切れなくなっていく。

ボフッ

 ついに闇の剣を完全に霧散させると、冬華は水の剣の出力をさらに上げ躊躇なく振り下ろした。

「うぅぅぅぅぅっ、はぁぁぁぁ!」

ビシャァァァァァァッ

 冬華は水の剣の実体部分ではなく水の部分でモルガナの体を斬り抜いた。

 斬り裂かれたと思われたモルガナの体からは鮮血は飛ばず、斬り裂かれた痕さえなかった。

 そして一瞬遅れて、

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 モルガナの断末魔が響き渡り、斬った箇所から血ではなく闇色の靄が噴き出した。

 モルガナは体を掻き毟る(かきむしる)ように苦しみ声を上げ転げまわる。

「きゃぁぁ! うがっうぅあぁぁぁぁぁぁl!」

 冬華は涙を流しながら転げまわるモルガナを悔し気な表情で見下ろし、水の剣を振り上げ告げる。

「お前は……お前は殺してやりたい! ……お兄ちゃんの(かたき)を討ちたい……けど、くっ!」

 冬華はさらに一撃同じように水の部分で斬りつける。

 そこからさらに闇色の靄が噴き出る。

「ぎゃぁぁぁぁ!」

 モルガナはさらにもがき苦しむ。

「お兄ちゃんが救えと言ったから!」

 さらに一撃加える。

「きゃぁぁぁぁ!」

「救ってあげる……」

 冬華はそういうと剣を下ろした。

 モルガナは苦しみ続け……そして闇色の靄が消えると動かなくなった。

 冬華はモルガナの様子を見下ろし続ける。


「うっ……」


 しばらくするとモルガナは目を覚ました。

 冬華は冷たい視線を向けたまま冷たい口調で言った。

「気が付いた?」

「え?」

 モルガナは自分の状況を確かめるようにまわりを見渡し自らの体を確認する。

 モルガナは状況が飲み込めない様子で冬華を見上げた。

 モルガナの瞳の色は蒼色に変わっていて、その表情は先ほどの狂気に歪んだものではなく美しく、そして不安そうで儚げな、これを見た男性なら誰もが守ってあげたくなる、そんな表情をしていた。

「まるで別人ね……お兄ちゃんの言った通りだった」

 冬華は呟いた。

「あ、あの、ここは?」

 モルガナは恐る恐る冬華に訊ねた。

「何も覚えてないの?」

「は、はい……」

「そう……」

 冬華がモルガナへと近づくと、モルガナの後ろの影から別の黒い影が盛り上がるように現れた。

「な!?」

 いきなり現れた黒い影が人の形へと変わっていくところを冬華は目を見開いて見つめる。

 そんな様子の冬華を見て、モルガナは後ろを振り返る。

「え? なに?」

 驚き硬直するモルガナを黒い影人は影の衣で包み込もうとする。

「い、いや! 助けて……助けて!」

 モルガナは冬華へと手を伸ばし助けを乞う。

「!? おぉぉぉぉ!」

 冬華は水の剣でその黒い影へと斬りかかる。

 黒い影人は手らしき部分を横へ振ると黒い衝撃波が起こり冬華を弾き飛ばした。

「きゃぁぁぁぁ!」

 冬華はゴーレムの肩の上から弾き出された。

 黒い影人はモルガナを包み込むと影の中へと消えて行く。

「モルガナァァァァ!」

 落下をはじめる冬華がモルガナの名を叫ぶ。

「イヤッイヤッ、助けてぇぇ!」

 消える瞬間までモルガナは手を伸ばし助けを乞い続けていた。


 モルガナのいなくなったゴーレムは形を維持できなくなり崩壊しはじめる。


 落下をする冬華を優しい風が包む。懐かしい誰かに抱きかかえられているような感覚を覚える。

 冬華は風に包まれゆっくりと降下していく。

 その傍らには黒髪の女を抱えたシルフィが佇んでいた。

『お疲れさま、冬華。よく頑張ったわね』

 シルフィは微笑みかける。

「シルフィ……どうして? どうしてお兄ちゃんを助けてくれなかったの? シルフィなら助けられたでしょ!」

 冬華はシルフィの腕を掴み訊ねた。

『それは、アキが望んだことよ。アキは最後まで待っていたの』

「待つって何を?」

『二人の力が目覚めるのを……冬華はアキの期待に応えてくれた。きっとアキも喜んでいるわ』

 シルフィは冬華の頭を撫でながら言う。まるで姉のように、アキがそうするように優しく撫でる。

「でも私、モルガナを奪われちゃった」

 冬華は肩を落として涙ぐむ。アキに頼まれたことをやり遂げられなかったことを後悔して。

『泣かないで。大丈夫、まだチャンスはあるよ』

 シルフィは冬華の涙をその指で拭い微笑む。

『それにこれは本来彼がするべきことなのだから』

 シルフィは無感情な瞳を下へと向ける。


 冬華は地へ降り立つと、まわりを見渡す。

 皆はアキを抱きしめ泣き続けるサラのまわりに集まってきていた。

 光輝は天を仰いだまま動かない。

 マリアはサラを慰めるように寄り添い、カレンはアキの亡骸に縋り付き泣いている。

 結衣は総司の胸に抱かれながら肩を震わし、総司は結衣の背を優しく撫でながら黙祷を捧げる。

 汐音は光輝の側で声を掛けられずに立ち尽くし涙を流している。

 カルマが冬華へと駆け寄ってくる

「冬華……大丈夫か?」

 冬華はキッと視線を一点に向けるとカルマの前を素通りし光輝の前に立つ。

「いつまでそうしてるつもり? ……もうお兄ちゃんはいないんだよ……」

 光輝は放心したまま動かない。

「くっ」

 冬華は手を振り上げると、

バチンッ

 光輝の頬に平手打ちをし、涙を流して声を上げた。

「しっかりしてよ! もうコウちゃんしかいないんだよ! もうお兄ちゃんを頼るのはやめてよ!」

 光輝は頬に手を当てとつとつと言葉を紡ぐ。

「ぼ、僕はアキを助けようと、でも本当は……僕を助けてほしかった……アキに支えてほしかった。僕はアキがいないと何をしたらいいのかわからない。わからないんだ! うっぅわぁぁぁっ」

 光輝はこの世界に来てずっと押し隠してきた不安を、弱音をはじめて吐き出した。唯一の心の支えであったアキを失ったことで感情のダムが決壊した。

 そんな光輝に汐音は寄り添いその背に手を添える。

 冬華は光輝を見下ろし口を開く。

「私はお兄ちゃんの期待に応えて見せる。たとえ一人でもお兄ちゃんの意思は私が引き継ぐ。コウちゃん……これからどうするのか自分で決めるんだよ。もう誰も決めてくれないんだから……」

 冬華は光輝から視線を外すとアキの下へと行き、アキの頬へ触れ労いの言葉を掛ける。

「お兄ちゃん、お疲れさま……あとの事は私に任せてゆっくり休んでね……うっくっ」

 冬華は静かに涙を流した。

 そこへマーサとレオルグ将軍ら城の兵士たちが来た。

 マーサはサラの下へ行くとアキを見て瞳を閉じる。

「サラ、ようやくアキに会えたのだな」

 サラは何も答えずすすり泣く。

 風が吹きアキの左手が持ち上がった。

 その手をシルフィが掴み小指から指輪を外す。

『これをお返しします。アキから頼まれていましたので』

「そうか……」

 マーサは指輪を受け取り呟いた。

「本当にバカな奴じゃ。死んでしもうたら意味がないじゃろう。死なせる為に教えたのではないのじゃぞ」

 マーサは指輪を握りしめ涙する。

 すると、最後の約束を果たすのを待っていたかのようにアキの体が光り出す。

「アキ!?」

「お兄ちゃん!?」

 サラたちは何が起こったのかと、またアキが何か仕掛けていたのかと驚きアキの体を見つめる。

 しかしサラたちの期待とは裏腹にアキの体は薄れていき、

パリンッ

 という何かが割れる音と共に光の粒となり天へ昇って消えて行く。

「いや、いや行かないで! アキ! わたしを置いて行かないで! いやぁぁぁぁ!」

 サラは光の粒を掴み集めるように手を伸ばし泣き叫ぶ。

 アキの亡骸は消え、サラは力なく地に座り込む。

 残ったのは地に落された武器だけだった。

 冬華はクナイを拾い上げると天に向け言葉を掛ける。

「お兄ちゃん、これ私が使うね」

 冬華は立ち上がりシルフィへと振り返る。

 そこへ空気を読まない声が上がった。

「その女を引き渡してもらおう」

 声の主はレオルグ将軍だった。

「え? その女って?」

 冬華が訊ねる。

「その黒髪の女だ」

『この娘をどうするのです?』

 シルフィが無感情な瞳を向け言う。

「それ相応の罰を受けてもらう」

『処罰ですか……』

 シルフィは目を細めて言う。

 そこへ他の兵から野次が飛んでくる。

「そうだ! その女のせいでどれだけの被害が出たと思っているんだ!」

 その野次に他の兵が同調する。

『先ほどの戦いでこの娘の攻撃では死者は出ていないはずですが?』

 シルフィが冷たく言い放つ。

「なんでそんなことがわかる!」

 野次が飛ぶ。

『アキが攻撃をすべて逸らしていましたから、確認してみてはどうですか?』

「それは後で確認しよう」

 将軍はそう言うが、さらに野次が飛ぶ。

「いいから早く引き渡せ!」

 仲間が怪我でもしたのか、家をなくしたのか、兵士たちの黒髪の女への憎しみが膨れ上がっている。

『処刑でもしそうな勢いですね』

「そんなことは……」

「当たり前だ!」

 否定しようとする将軍の声を遮ってまたも野次が飛んでくる。まるで扇動しているように。

『この娘を処刑すればレイクブルグの民を救えなくなります。そもそもこの娘がレイクブルグの民を守ったというのに恨んでいる輩もいるという。これだから人間は精霊たちから疎まれるのです』

「精霊じゃと!? どういうことじゃ?」

 マーサが驚き訊ねた。

 しかしシルフィはそれには答えなかった。

『アキが奪い返したこの娘を処刑させるわけにはいきません。マーサ殿、将軍よく考えてください。アキの行動の意味を……では、また』

 シルフィは言うことを言うともう用はないとばかりに黒髪の女を抱えたまま空へと上がって行く。

「待って! 私も行く」

 そう言ったのは冬華だった。

『わかりました』

 シルフィは考える間もなく即答すると、風を操り冬華を浮かび上がらせる。

「冬華ちゃん!」

「冬華!」

 汐音とカルマが呼び止める。

 冬華は二人を見て口を開く。

「汐音ちゃん、コウちゃんのことお願いね。カルマ、あんたはもうちょっと強くなっておきなさいよね!」

 そう言葉を残し、冬華はシルフィと共に北の空へと飛んで行った。


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