ゴーレムの上で
「どうするんだ?」
「……」
総司の問い掛けに僕は黙り込む。
モルガナを倒すために闘志満々で飛び出してきた僕たちはいきなりつまずいてしまった。
モルガナのいるゴーレムの肩部分までどうやって行ったらいいんだ……
このゴーレム近くで見るとさらにデカく感じる。体感的には城と同じくらいか少し小さいくらいだ。これをよじ登るのはさすがにキツイ。傾斜があれば登れなくもないがそれもない。岩のゴーレムだけあり凹凸はある。手を掛けることはできるが……どうしようか。
悩んでいる横で、
「水の弾丸!」
冬華ちゃんが魔法を放っていた。
しかし水の弾丸はゴーレムの胸の辺りに当たってしまった。
「チッ……」
冬華ちゃんは舌打ちをし見上げ、ゴーレムを観察する。上がれる場所を探しているようだ。
魔法か……
「サラさん、魔法で僕たちを上まで運べませんか?」
「一人でしたら運べますが、三人となると……」
サラさんは困ったように言う。
「それならまず僕を運んでください。その後に一人ずつお願いします」
「わかりました」
サラさんは僕に肩を貸す形で肩を組むと魔法を発動した。
「風よ、我らを彼の地へ運べ」
すると僕らのまわりに風が集まってくるとフワリと体が浮かんだ。そしてそのまま空へと上がって行った。
「うわっ!?」
「だ、大丈夫ですか?」
「は、はい!」
僕は声を裏返して返事をした。
僕は思わずサラさんにしがみついてしまていった。
足元に地面がないと言うのはこんなにも不安に、恐怖に感じるものだったとは。今まで高い所へ登ってもなんとも思わなかったけれど……あれ? ひょっとして僕、高所恐怖症? そんな自覚は今までなかったけれど、まさかこれがきっかけで発症したってことはないよな……
そんなことを考えているとサラさんが声を掛けてきた。
「あの、そんなにしがみ付かれるとその……」
見上げると頬が朱に染まったサラさんと目が合った。
僕は相変わらずサラさんにしがみついたままだった。頬にサラさんの胸が当たっているがそんな余裕はない!
「す、すいません!?」
しかし僕は放さない、断固として! やましい気持ちではなく純粋に恐い! 早く頂上についてくれ!
「い、いえ。暴れられるよりかはいいですが、少し急ぎますね」
「お、お願いします」
上昇するスピードが上がる。
「ひっ!?」
サラさんは僕の小さな悲鳴に気付かずにスピードを上げる。
上に着くと腕を組んだモルガナが待ち構えていた。
「ようやく来たか。待ちくたびれて踏みつぶすところ……プッハハハッなんて様だ。女にしがみ付いてくるとは情けない」
モルガナは僕の醜態を見て見下して嗤う。
僕はゴーレムの肩に乗り声を荒げて叫ぶ。
「う、うるさい! 黙れ!」
僕は敵に見られたくないところを見られバツが悪くそれしか言えなかった。
「光輝さん、わたしは下へ戻ります」
「あ、はい、お願いします」
サラさんは下へと下りて行った。
それを見たモルガナが不機嫌そうに眼を細めると口を開く。
「ワタシに背を向けるとはいい度胸だな」
モルガナはサラさんの背を見てその掌を向ける。
「待て! 何を!?」
僕が言うよりも早くモルガナは闇色の魔力の塊を放った。
その魔力弾はサラさんの無防備な背中に直撃する。
「きゃぁぁぁぁっ!」
サラさんはバランスを崩し落下していく。
「サラァァァァァァ!」
「アッハハハハハッ、敵を前に背を向けるからだ」
モルガナは嘲り嗤う。
「きさまぁぁぁ!」
僕は真聖剣にしてモルガナへと斬りかかって行く。
モルガナはこの剣で斬られるのはまずいということを身をもって経験済みだ。なので避ける、避ける、避ける。モルガナは笑みを見せたまま余裕で躱していく。
僕の攻撃が当たらない。アギトほど早いいわけではないのに。ただ見切られていた。
モルガナは嗤って言う。
「どうしたどうした? 当たらぬではないか。女がおらぬとダメなのか? アッハハ」
「くっ!? これならどうだ!」
僕はバックステップで距離を取ると、
「真聖剣二ノ太刀残光閃!」
僕は剣を振り抜いた。光の剣閃が扇状に広がって行き、モルガナへ迫る。
しかしモルガナはブリッジをするように、マ〇リックスを思わせる動きで躱した。
「ハハッ、なんだ今のは? 少し早いだけの曲芸か?」
モルガナはバカにして言う。
「くっ!?」
「今度はこちらの番か?」
そう言ったモルガナは掌をぼくに向けると闇色の塊が現れた。
「(さっきの魔力弾か!?)」
僕は当てられないように動いた。狭い足場ではあまり意味はないとは思うが止まっているよりはいい。
どうせならと、僕はモルガナへ向け走り出した。
「おぉぉぉぉぉ!」
モルガナの掌の魔力弾が放たれると同時に横へ避けよう思ったが、モルガナはその魔力弾を放たずに握り潰した。
するとその魔力弾だった塊は剣のシルエットを作り出す。
モルガナは走り寄る僕にその闇色の剣を振り下ろした。
「ハハッ!」
「くっ!?」
ボフッ
僕は剣で受け止めたが、とても剣とは思えない音がした。炎が着くときの音に近いかもしれない。魔力から作ったものだから実体はないのだろう。僕の剣が真聖剣じゃなかったらすり抜けていたかもしれない。
そんなことを考えている間もモルガナは闇の剣を振るい続ける。
「アッハハハハハッ」
ボフボフボフッ
なんとも間の抜けた音だ。
しかし、僕は少しずつ押されはじめていた。こいつ見かけによらず力もある。僕と同じくらいか少し上。そしてスピードもあり手数でも僕を上回っている。
「ハハッ、後がないぞ!」
僕はゴーレムの肩の先端まで追い込まれていた。
「くそっ!?」
「フフッ、約束通りここで殺してやる」
モルガナの瞳に強い光が灯る。
モルガナは僕に闇の剣を振り下ろした。
僕は剣を振り上げ受けとめようとした。が、闇の剣の当たる間抜けな音はしなかった。闇の剣は僕の剣に当たる前に霧散していた。
「え?」
「なんだ?」
なんで消えた?
僕は、いやモルガナも困惑の表情をする。
すると、
ゴォォォォォォ
という音が下の方から聞こえていた。そしてその後に大きな揺れが来た。地震かと思ったが、揺れているのはここだけのようだ。
モルガナは下を見ると納得したような顔をした。
「ふん、なるほどな。その手で来たか。だがその程度ではワタシの力を削ぐことはできんぞ」
モルガナはそういうとまた闇の剣を作り出す。
下で何かをしているようだが僕にはなんだかわからない。下なんて見れないし確認のしようがない。
だったら……
「どうかな? 随分と力が落ちたように見えるぞ?」
僕はハッタリをかました。
「ふん、きさまの策か? ゴーレムを攻撃して再生させる。ワタシの魔力を削ろうとはなかなか考えたな」
モルガナが上から目線で嘲笑するように言う。下でそんなことをしていたのか……アギトの指示か?
「だが、ワタシの魔力はそんな程度では削り切れんぞ!」
モルガナは面白いおもちゃを見つけた子供のようないい顔で斬りかかってくる。
「そらそらそら! 反撃しないと落ちてしまうぞ?」
「う、うるさい!」
僕はモルガナの足を狙い横薙ぎに斬り払った。
モルガナはジャンプして避け空中から剣を振り下ろした。
僕はそれを狙い渾身の力でそれを撃墜した。
「おぉぉぉぉぉ!」
地に足の付いていないモルガナは踏ん張ることができず吹っ飛んでいった。
僕は追撃を兼ねて急いでその場を脱する。
しかしモルガナはそれをさせてはくれなかった。地に着くと同時に猛スピードで突進してきて、僕は逆に吹き飛ばされゴーレムの肩を外れてしまった。
「ぐわっ!?……ひっ!?」
落ちる!
僕は咄嗟に剣をゴーレムに突き刺し落下を止めた。が、僕は宙ぶらりん状態だ。
モルガナは僕を見下ろすとその掌を僕に向ける。闇色の塊が現れる。
「フフッ、落ちて……爆ぜろ」
モルガナがニヤリと嗤ったとき、
「キャァァァァァ! 高い高い高い! お・・・・ん高い!」
上空から声がした。
次の瞬間、一筋の光の筋が僕に向けられたモルガナの腕に直撃し、モルガナの腕が落ちた。
ズザッ、ボトッ
そして何かが地に下りたような音と何かが落ちた音がした。後者はモルガナの腕だが、前者は?
何が起こったんだ?
モルガナは腕を拾い上げ、振り返って口を開いた。
「またきさまか」
また? 僕は見上げる……(翻ったモルガナのスカートの中が見えたことは黙っておこう)
「冬華、やれるか?」
「うん、やってみる」
この声、冬華ちゃんとアギトか?
「フフッ、面白い今度はお前が相手か?」
「はぁぁぁぁぁぁ!」
モルガナが、声のする方へと向かって行った。声からして相手は冬華ちゃんだろう。
そして、モルガナがいたところへアギトがやってきた。
「お前はいったい何をやっているんだ」
「うぐっ」
僕は返す言葉もなく口ごもった。
「本当に役立たずで終わるつもりなのか、お前は……」
アギトはそういうと手を差し伸べる。
「ぐっ……すまん」
僕は恥を忍んでその手をとった。その手は震え握力はそれほど強くなく、引き上げられるのかと不安になるほどだった。
引き上げられる途中で僕は声を上げた。
「ハッ、サラさんは無事か? 落とされてしまったんだ!」
それを聞いたアギトの視線は無意識に背筋を伸ばしてしまうほど鋭いものだった。しかしすぐに視線を逸らすと、
「無事だ……」
アギトはそれだけ言った。
「そうかよかった……」
「……」
なんとか引き上げられたその先では冬華ちゃんがモルガナと戦っていた。
「はぁぁぁぁぁぁ!」
「フフフッ」
冬華ちゃんの連撃をモルガナは薄ら笑いを浮かべながら闇の剣で捌いている。
冬華ちゃんはモルガナの闇の剣と斬り結んでいた。
「どうして!?」
普通の剣ではあの闇の剣は受けられないと思っていたが……
僕は目を凝らして見た。
すると冬華ちゃんの剣には薄っすらと水が纏われていた。
「扱えるようになったのか……」
僕はボソリと呟いた。
しかしそれだけではなかった。今まで冬華ちゃんは戦う際には剣か魔法どちらかしか使ってこなかったが今は違う。剣での打ち合いに魔法も織り交ぜている。
モルガナの剣を受けつばぜり合いになると体格差や純粋な力の差から冬華ちゃんが不利になるが、そこで水の弾丸を打ち込んで怯んだ隙にモルガナの剣を流し攻勢に移る。そして距離を取ったモルガナには休む間を与えず魔法を打ち込みながら距離を詰める。
魔法を織り込むことによって戦闘の幅が広がっているようだ。
「すごい……」
「あれではダメだ……」
アギトは見事な戦いを見せる冬華ちゃんをそれでもダメだと言う。
「どこがダメだと……」
僕はアギトへと視線を向けた。
なんでそんな目で冬華ちゃんを見ているんだ? 心配しているような、見守っているようなそんな厳しくも優し気な目で……ん? なんだ? 今まで包帯で気付かなかったが肌の色が浅黒く変色している。火傷の痕か? それにしては……
「いつまで見物しているつもりだ?」
「え、あ、すまん」
いきなりアギトに言われ僕は謝ってしまった。
「ん? 加勢するぞ」
「あ、ああ、そうか」
「行くぞ……っ」
アギトは力を溜めるように歯を食いしばるとモルガナへと駆けだした。
僕もそれに続いた。
アギトはモルガナと剣を斬り結んでいる冬華ちゃんへ叫んだ。
「冬華!」
「うん!」
冬華ちゃんは薄っすらと水の纏われたショートソードをモルガナへと振り下ろした。モルガナがそれを闇の剣で受けると冬華ちゃんはダガーで突く。このダガーは水が纏われていない普通のダガー、モルガナはダガーを掴み取る。
「フフン、甘いわ」
モルガナは鼻で嗤う。
そこへアギトがナイフのような武器でダガーを掴んだモルガナの腕を斬り落とした。
「くっ、きさま!」
冬華ちゃんはすぐさまダガーに集中するとダガーに水を纏わせた。
モルガナの手は条件反射のようにダガーを放し落ちる、冬華ちゃんはモルガナの胴へと突きを放つ。
「くっ!?」
モルガナは体を捻り躱す。
冬華ちゃんは突いたダガーをモルガナの胴へと横薙ぎに振り抜く。
モルガナは冬華ちゃんの腕へ膝を当てることで受け止めた。
片足立ちとなっているところへアギトが後ろから下段回し蹴りで足払いをすると、モルガナは背中から倒れ込む。
一瞬中に浮いた状態のモルガナへと冬華ちゃんがショートソードを振り下ろした。
モルガナは足払いされた足を振り上げ、振り下ろされる冬華ちゃんの腕を蹴り上げた。
「ぐっ!?」
アギトはモルガナのドレスを掴み地面(ゴーレムの肩だが)へと叩きつけた。
「ぐふっ」
地面へ仰向けに打ち付けられたモルガナへ冬華ちゃんはダガーで突いた。
「はっ!」
モルガナは転がるように避けると立ち上がり二人を睨みつける。
しかしそこには冬華ちゃんしかいなく、モルガナは気配を探るように一瞬動きを止める。
モルガナの横へ蹴りの体勢のアギトが現れた。
モルガナはいつの間にか再生していた腕をクロスさせアギトの蹴りをガードした。
そこへ冬華ちゃんがスライディングで滑り込んでいくと足払いをする。
「おぉぉぉぉ!」
体勢を崩したモルガナをアギトは力ずくで蹴り飛ばした。
モルガナは僕の目の前に蹴り飛ばされてきた。
二人のコンビネーションに入る隙を見つけられずにいた僕は、
「光輝!」
アギトの叫び声のおかげで反応することができた。
「おぉぉぉぉぉ!」
僕は無防備のモルガナの背へと真聖剣を振り下ろした。
ザシュッ
モルガナの体が斜めに切り裂かれるとそこから鮮血が飛ぶ。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
耳を劈くような悲鳴が鳴り響いた。まるで普通の女性のような悲鳴だった。
「チッ、それではダメだ!」
アギトが叫んだ。
モルガナの体に闇色の靄のようなものがまとわりつきゆっくりと再生しようと蠢きはじめる。
闇の靄に覆われたモルガナは歪んだ表情を僕に向け怨磋の籠った声を発した。
「きさまら、もう許さんぞ! ……消し飛べ!」
モルガナが手を目にも止まらぬスピードで振るうと闇の衝撃波が広がり僕たちへと迫る。
僕と冬華ちゃんはその衝撃波を避け切れず直撃を受け吹き飛ばされた。
「ぐあぁぁぁぁ!」
「きゃぁぁぁぁ!」
僕たちは地上へと落下していった。




