冤罪
ローズブルグに到着してどれくらいたっただろう。外からは数日に渡り戦闘の音が聴こえてきていた。何度も襲撃されているのだろう。僕たちはアギトに急かされ城へ戻ってきたにも拘わらず、何もしていない。魔物を撃退することも、城を守ることもできない。
僕たちは今、牢にいる。
僕たちはリオル村を出た後急いで城へ戻った。城下町へ入る門の前には魔物の死骸、兵の遺体が横たわっていて、それを片付ける兵でごった返していた。あの魔族の言っていたことはこの事だったのかと、僕たちは急いで城へと向かった。
この事態に城門は閉められていて門兵に取り次ぎを頼むとレオルグ将軍とあろうことかアルマが出てきた。
そして僕たちは裏切り者のレッテルを張られ牢にぶち込まれたというわけだ。
罪状は魔族に加担し、レインバーグへ派兵した兵士たちを虐殺した罪。アルマのやった罪が僕たちがやったことになっていた。アルマがいたことで嫌な予感はしていたんだが、やはり何を言っても聞き入れてはもらえなかった。
そして僕たちよりも早く、マリアさん、マーサさん、そして先に送り出したカルマも捕らえられていた。
前者の二人は僕たちにサラさんが同行していたため、今回の件は二人の指示によるものと疑惑をもたれ投獄されたそうだ。カルマは言うまでもなく実行犯としてだ。
なんとも間の抜けた話だ。アルマを逃がした時点でこうなることを想定しておくべきだったのに……アキたちの事で頭がいっぱいになり失念してしまっていた。
それにしても陛下方はなぜアルマの言うことをそのまま信じてしまったのだろう? 証拠もないだろうし、レインバーグへ兵を送って確認するとかしないのだろうか?
「牢番の人、伝言を伝えてくれたでしょうか?」
僕が今までの事を思い返していると汐音君が不安そうに訊ねてきた。
牢番というのは聞いて字のごとく牢の番をしている兵である。そして都合のいいことにそのときの牢番はサラさんのファンらしい。どうもこの城にはサラさんのファンクラブのような集まりがあるらしい。特定の男性との浮いた話もなく、誰にでも分け隔てなく接する彼女に想いを寄せる者も少なくないとか。今サラさんの頭の中はアキのことでいっぱいなのだが……
そんなこともあり城内にはサラさんを擁護する一派も存在する。その一人が今言った牢番である。
ちなみに汐音君と冬華ちゃんを擁護する者もいるようだ。修行中に知り合った兵たちだろう。
「レオルグ将軍だっけ? その人は信用できるの?」
冬華ちゃんが寝転がりながら疑わし気に言う。
「大丈夫です。将軍は信用できる方です。きっと真偽を調査してくれるはずです」
マリアさんは将軍の事をずいぶんと信頼しているようだ。
伝言の相手はレオルグ将軍、マリアさんが将軍なら聞いてくれるはずだと強く推していた。確かに純粋に民を守ることを使命としているっぽい人だった。俗物には到底見えなかった。そこは信頼できるが、だからこそ真実がわかるまでは僕たちの事も信じてはくれないだろうと思う。容疑が掛かったのなら野放しにはしないだろう。話を聞き入れて調査をしてくれるといいんだが、こう連日魔物に攻められてはその人員を割けられないのかもしれない。
「魔物の攻勢が止まないことには将軍も動けないだろう。しばらくはどうにもできないかもしれないな」
僕が現状から将軍に期待するのは難しいことを告げたとき兵士数人が重い扉を開け入ってきた。そして僕の入っている牢の鉄格子の前に立つと僕に向かって言い放った。
「聖光輝出ろ! 陛下がお呼びだ」
な!? 陛下が? 伝言を聞いた将軍が陛下に進言してくれたのか? ついさっき期待するのを諦めていただけになんだか申し訳ない。でもこれで疑惑を晴らすチャンスができた。
僕は立ち上がり牢を出る。
するとマリアさんも呼ばれたようで牢を出ていた。
みんなは期待するような目で見送ってくれた。そのなかでサラさんだけはまだ下を向いたままだった。まだアキの事に整理がついていないようだ。
僕たちは牢のある建物から出ると城へと向かう。ん~シャバの空気はうめぇ……刑期を終えて出所する人の気分ってこんな感じだろうか? 僕たちは冤罪だけど。
建物は城のすぐ東側にあり程なくついたけれど、まわりからの視線が痛い。石でも投げられそうな視線を投げかけられている。中にはそうでない視線もあったけど、きっとサラさんファンクラブの人か、汐音君か冬華ちゃんの知り合いだろう。……あれ? 僕の知り合いっていない?……今気づいてしまった。
僕たちは謁見の間へと連れられて行くと、主要メンバーがすでに集まっていた。将軍とアルマも控えていた。なぜアルマまで?
後ろ手に縛られた僕たちは中央に立つと陛下が口を開いた。
「将軍から再三真偽を確かめさせてほしいと進言されていた。光輝よ、改めて聞こう。レインバーグへ派兵した兵たちを虐殺したのはお前たちか?」
「違います、僕たちではありません!」
「では誰の仕業だと申すか?」
「そこにいるアルマです。レインバーグへ行って街の人たちに聞いてもらえばわかります」
陛下と僕の問答に割り込むように声が上がった。
「やはりそう来たか。殺り損ねたわたしに罪をなすりつけるつもりのようだ。大方街の者も脅されて真実など言えないでしょう」
アルマのヤツ自分がしたことを棚に上げて罪をなすりつけるとか言いだした。
「僕たちはこうして捕らえられているんだぞ! どうやって脅すと言うんだ!」
「何を言っているのですか? 光輝殿にはお仲間がいるでしょう? レイクブルグにいる、たしか黒髪の化け物と呼ばれているとか。その者は今どこに?」
濡れ衣を晴らすチャンスだと思ったが、こいつ総司の居場所を聞き出すために妨害もせずこの場を利用しているのか? 居場所を言えば総司も捕らえられる。どうする……
「そう呼ばれることになったのは野盗から逃れるために仕方なく戦った結果です。決して民を傷つけるためではありません」
マリアさんが総司を弁護してくれる。
「しかし、なにも皆殺しにすることもないでしょう? それだけの力があるのなら野盗ごとき無力化させることもできたのではありませんか?」
「それは……女性が野盗に乱暴されていたのでそんな余裕はなかったはずです」
え? 女性が乱暴って……結衣君が? そんな……
「結衣は俺が守る。もう結衣を傷つけさせない。結衣を傷つけようとするやつは殺す!」
総司の言葉を思い出す……そういう意味だったのか。
だからサラさんは教会跡には近づかないようにしていたのか。
僕の意識が現実から離れている間、マリアさんが返答してくれていた。
「そもそも我々が召喚した方々を疑うこと自体間違っています!」
「黙れ魔女!」
魔女呼ばわりされたマリアさんは驚き息を呑む。
この世界でも魔女は侮蔑の名称なのか? 魔法を使う女性は魔女ではないんだろうか?
声の主はレイナ姫の護衛兵だった。
「召喚したものたちがこの世界を救ってくれると言う保証がどこにある! 現に我々のレイクブルグは召喚した異世界人によって滅ぼされたのだぞ!」
マリアさんは絶句して言葉を失っている。
僕も同様だった。レイナ姫に話は伺っていたが、その主犯までは知らないと言っていた。まさかそんなことがあったとは。これが本当だとしたら、信じてもらう方が難しいんじゃ?
護衛兵はなおも続ける。
「この男たちもローズブルグを滅ぼそうと画策しているに違いない! そして我々を偽って魔族に加担した魔女共が世界を滅ぼそうとするこいつらを召喚したんだ。疑う余地はない!」
新たな事実に皆は静まりかえる。
なるほど今になってわかった。彼の僕への敵愾心はそういう理由があってのものか。しかし最後の部分は少し無理があるような気もするがレイクブルグの件が本当ならそれも通ってしまうかもしれない。
そこへ陛下が重い口を開く。
「レイナ姫、今の話は真の話か?」
話を掛けられたレイナ姫は口に手を当て硬直していてすぐには答えられずにいた。ただ、僕の方を信じられないといった表情で見ている。
「……わ、わかりません。わたしはその者を見ておりませんので……」
「そうか……」
「陛下、今の話を聞き一つ確かな事が」
「確かな事とな? 将軍、申してみよ」
「ハッ、ここ最近の魔物の襲撃、魔物の中にあの白い女と共に黒髪の女も確認されています。おそらくその女がそうかと」
将軍はそういうとこちらを一睨みする。僕たちは最後の頼みの綱である将軍にまで疑われてしまった。というかもう判決は決まったも同然のようだ。
「将軍……」
マリアさんは力なく呟いた。
クッ、積んだ。
レインバーグの街の人の証言がなければ無実は証明できない。その為には総司を引き渡さないといけない。引き渡したとしても黒髪の女がいる時点で結局は信じてもらえない。この黒髪の女で脅していると言われるのがオチだ。僕たちと黒髪の女のつながりがないことを証明しないといけない。しかし黒髪同士という点でもう証明は不可能に近い。この世界で黒髪は珍しいそうだから。
僕たちにはもう成す術はない。アルマの正体を暴くか、外からのアプローチがなければ……どちらも今の僕たちには無理に等しい。
僕は悔しさで血が出るほど拳を握りこんでいた。
「光輝よ、あの時のお前の真っ直ぐな瞳は偽りだったのだな。残念だ。……二人を牢へ戻せ! そして光輝の仲間をすべて捕らえよ!」
「「「 ハッ! 」」」
陛下の勅命が下った。
「光輝様、信じておりましたのに残念です」
レイナ姫はそういうと背を向けた。
僕たちは牢へと戻された。
「コウちゃん!」
みんなは僕たちの表情を見て無実の証明がうまくいかなかったのだと察して口を閉じた。
そこへアルマが一人でやってきた。
「クックックッ、残念だったな」
「アルマテメェ!」
カルマの激昂をアルマは不敵な笑みで返す。
「負け犬の遠吠えだな。笑える。後はお前たちの仲間を捕らえ次第、石碑を破壊してモルガナ様にお前たちを献上するだけだな」
アルマの言葉を聞き汐音君が疑問を口にする。
「なぜ捕らえることにこだわるんですか?」
「優秀は手駒は多いことに越したことはないだろ? それに今ならここの兵共が見つけてくれる。楽なもんだ」
手駒にするつもりなのか? なんのために? 奴らは封印を解いたら目的を遂げられるわけじゃないのか? 僕はアルマに問いただす。
「なぜ手駒がいる? 封印は後二つだけだろう? 何に使うつもりだ!」
「は? プッ、ァハハハハハハハハハッ、そう来たか、ククク」
アルマは僕の問いに何がおかしいのか盛大に笑い出した。
「何がおかしい!」
「こりゃ傑作だ。何も知らないんだな、ここの封印の先を。この分だと王共も知らないんじゃないか?」
「どういうことだ! 話せ!」
「あ? 誰に向かって言ってんだ!」
ガンッ
アルマは怒りを露わにし鉄格子を蹴りつける。
「フゥフゥ、まあいい。駒になったら教えてやるよ。それまで楽しみにしてろ。オレの下でこき使ってやるからよ。女どもはいろいろと楽しませてもらうがな。ハッハッハッハッ……」
アルマは言うだけ言うと出て言った。下衆が!
僕は一瞬結衣君のことを思い出し怒りがこみ上げてきたが、今考えることじゃないと頭を振り気を取り直す。
「キモッ! 誰があんなヤツと! あんなのとヤルぐらいだったらカルマの方がマシよ!」
冬華ちゃんが嫌悪感丸出しで吐き捨てるように言う。
カルマは褒められてもいないのになぜか満更でもなさそうだ。
それよりも女の子がヤルとかはしたないですよ。
「虫唾が走りますね。死ねばいいのに! いえ、私が殺しますけど」
汐音君は殺す宣言をする。こんな時でも言い切っちゃうところはさすが汐音君だな。
「それよりも、これからどうするかじゃ」
マーサさんが今後について訊ねる。
アルマの言っていた「封印の先」というのが気になるが……
「マーサさんはアルマの言ってた封印の先と言うものに心当たりは?」
「うむ、すまぬワシにもわからん。書庫に行けば何かわかるやもしれんが……」
「そうですか……では、ここを出ることが先でしょう。魔法が使えればここを破壊してでも脱出するんですが……」
この牢は魔法で脱獄できないように魔封じの術式が施されている。何度か冬華ちゃんが試したから無理なのは実証済みだ。魔法のある世界なのだから当たり前と言える。
「今は総司とアギトに掛けるしかないでしょうね」
僕のこの願いはすぐに潰えることとなる。




