診療所にて
わたしの名前はカレン、リオル村に住む16歳。村では薬師をしているんだけどあることをきっかけに回復魔法も勉強中。
きっかけになった出来事? それはね、村が魔物に襲われたときに窮地のわたしを颯爽と現れた王子様が助けてくれたの。わたし王子様のお役に立ちたくて魔法の勉強を始めたの。いつか一緒に冒険の旅に出るんだ~。
でも王子様は旅立たれてしまったの。だからわたしは王子様が戻られるまでに強くなっておこうと勉強に励んでいたの。
でも昨日王子様のご友人から訃報が届けられたの……王子様が亡くなってしまった。わたし辛くて悲しくて、一晩中泣き明かしたわ。わたしがもっと強かったら……そう思うと自分の無力さが憎くてしょうがない。
一緒に冒険の旅に出る夢が砕かれた今、わたしは何を目標に生きていけばいいの?
王子様……わたしはどうしたら……
……何よこれ、王子様って誰よ……まぁ、アキなんだけど。わたし相当ショックを受けてるのね。わけのわからないモノローグが頭の中に流れてくるし……ハァ、仕事しよ。泣いたら少し楽になったし、少しでも気を紛らわさなきゃ……
今病室にはアキの仲間の四ノ宮総司さんが眠っている。同じくアキの仲間の聖光輝さんがアキを探しに行って助けてきたのがこの総司さん。なんでも魔物だか魔族だかに複数の魔法を掛けられ高濃度のアサガオの成分を吸わされて操られていたらしい。そして、総司さんがアキを……仲間同士で斬り合わせるなんて酷い……とにかく今総司さんは治療のためにここに残されている。
光輝さんたちはローズブルグへ向かってしまったんだけど、代わりにアギトっていう得体のしれない人が残ったの……見た目全身白の包帯グルグル巻きの変質者! ではなく包帯の下は大火傷を負ってたんだけど、なんで治さないんだろう? おかしな人だ。
母さんは信じて大丈夫と言っていたけれど、何を根拠に言っているんだろう? 確かに母さんは人を見る目はあるんだけど、理由を教えてほしい。今朝聞いてみたら「直にわかるわよ」と笑って誤魔化された。今知りたいんですけど……怪しいよね?
総司さんの額の汗を布で拭い桶に入っている水ですすぐ。絞ったあと額に乗せてあげる。そしてまじまじと顔を見る、顔はなかなかカッコイイ……でもアキには負けるかな、うん。わたしは水を取り替えに外へ出る。ついでに薬を取りに先生の診察室へ行くと部屋から談笑する声が聞こえてきた。
わたしが扉をノックすると談笑はピタリと止まる。
中へ入ると先生と母さん、それにアギトがいた。この3人でなんで談笑ができるんだろう? 昨日会ったばかりなのに……そしてわたしは仲間外れ……怪しい。
わたしがジト目で見ていると母さんが平然と笑顔で声を掛けてきた。
「どうしたのカレン?」
「え、ああ、総司さんの薬を取りに来たんだけど」
「そうか、わかった。少し待っててくれ」
先生は薬を用意するため席を立つ。
用意ができるまで時間をつぶそうとわたしは母さんに話しかけた。アギトはなんだか怖かったし。
「今何話してたの?」
「え? ア、アギトさんの旅の話を聞かせてもらってたのよ」
「へ~どんな話?」
「どんなって、ん~ケガの治療をした村で独り言をブツブツ言ってるところを見られて気味悪がられた話とか、見た目が怪しいからただ歩いて行っただけで剣を突き付けられて止められたとか……フフ」
母さんは笑って言う。
「え? それ笑える話?」
これ笑える話というか普通に怪しい人の話なんじゃ? 母さんの笑いのツボがわからない。
そんなことを考えているとアギトは溜息を吐いて話を変えるように先生に話しかけた。
「先生、彼はいつ頃動けるようになりますか?」
「ん~目覚めて見ないとわからないけど、急いでいるのかい?」
「ええ、まだ余裕はありますが、なるべく早い方がいいので。とはいえ目覚めるまではどうしようもないんですが……ジレンマですね」
早く城に連れて行きたいんだろうか? 見てるって約束だから急ぐ理由はないと思うんだけど……あれ? 今日は昨日と違ってよく話してる……?
「カレン、はい薬。よろしくね」
「あ、はい」
わたしは先生から薬を受け取ると部屋を出る。扉を閉める際アギトがわたしの方を見ていて目が合ってしまった。碧い瞳が綺麗でドキリとしてしまった。
「……ドキリとなんてしてないし!」
わたしは頭を左右に振って総司さんの病室へと向かった。
翌日のお昼前、総司さんは目覚めた。
わたしは先生へ伝えるために診察室へ向かう。
廊下の奥、待合室の窓を開けアギトが何やら話している。診察室の前に行き扉へノックをする際、ちらっとアギトの方を見た。アギトは窓の向こう、誰もいないところへ話しかけている。
「……何あれ。コワッ……」
あ、そいえば昨日母さんが言ってたのってこれのことか。一人でブツブツ気持ち悪い。変人扱いされても仕方ないよね。
わたしは納得して診察室へ入った。
「先生、総司さんが目覚めました」
「そうか、よかった」
そういうと先生は総司さんの病室へと向かう。
病室へ入るといつの間にか後ろにいたアギトも入ってきた。
「うわっ!?」
思わず声を上げてしまった。
「なんだ?」
アギトは小首を傾げている。
あんたがいきなり後ろにいるからでしょ! と怒鳴ってやりたかったが病室なので我慢する。わたしは大人だから我慢する。2回言ってしまった。とりあえず無視無視。
「気分はどうだい?」
「……え?……ここは?」
先生の問診がはじまっていた。わたしは先生の隣で総司さんを観察する。
「ここは僕の診療所だよ。僕はオグルと言います。少し質問していくけどいいかな?」
「は、はい」
総司さんはまわりをキョロキョロしながら返事をした。
「まずは自分の名前は言えるかな?」
「え、と、四ノ宮総司、です」
名前は憶えているみたい。こういう場合一時的に記憶が混乱して名前を言えないこともあるけど大丈夫みたい。
「じゃあ、総司君、目覚める前の事は覚えているかい?」
「え? ……き、廃れた教会に、いた、と思います」
「教会に……一人でかい?」
「いえ、たしか……結衣と……ハイドという人、あと護衛の人が……!? 結衣!? 結衣は? 結衣はどこだ! どこにやった!」
総司さんが声を荒げて叫ぶ……なに? 怖い。この憎悪の籠ったような瞳。手足が震える。
「総司君落ち着いて!?」
先生の声が聞こえないみたいで暴れ出しそう……わたしは震えて動けない。イヤ、怖い怖い怖い……
その時ポンとわたしの頭の上に手が乗せられた。
わたしは涙目で振り返るとアギトがボソリと言った。
「ちびるなよ」
「ち、ちびらないわよ!」
わたしは反射的に声を上げていた。手足の震えが今ので止まっていた。
アギトはそんなわたしを下がらせると総司さんの前に行き。
バチッ
「うっ!?」
総司さんに強烈なデコピンをした。額が赤くなってる、痛そ~
「落ち着け」
「いっつ……え? あ……あんた誰だ?」
「私はアギトだ、しばらく一緒に行動するからそのつもりでいろ」
「は? どういうことだ? どうして俺が見ず知らずのあんたと行動を共にしないといけないんだ!」
総司さんは立ち上がって掴みかからん勢いで言う。
「ふん、元気じゃないか。すぐにでも出掛けられそうだな」
「ちょっと、あ、アギト君まだ無理だよ!」
先生はアギトを止めようとする。当たり前よね、まだ目覚めたばかりなんだし。
「あんた俺の話聞いてるか?」
「聞いてる。だがキミは嫌でも付いてくるさ。いや、自分から付いてくることになる」
アギトは笑みを浮かべて言う。その恰好だと怖いから笑わないでよ。戦慄するし。
「どういうことだ?」
「わからないか? キミが自分から向かいたくなる理由なんて一つだろう?」
「え? ……ハッ!? 結衣の居場所を知っているのか!?」
「ああ」
え!? この前と言ってることが違う!
「ちょっと、アギト! この前みんなには知らないって」
「ん? あの時は知らなかったが?」
胡散臭~これ絶対嘘じゃん、ずっとここにいたのにいつ知ったのよ! 絶対罠だよ。
「総司さん付いて行っちゃダメだよ。この人嘘ばっかりだし。みんなのいるお城に行った方がいいよ!」
わたしは必死になって言う。みんなから任せられてるのに騙されるわけにはいかない! 任せられたのは母さんだけど……
「み、みんなって誰の事? お城?」
総司さんの顔には疑問符が浮かんでいる。
あ、そうだ知らないんだった。
「フゥ、説明してやったらどうだ? 返事はその後でいい」
アギトが上から言ってくる。
こいつムカツク~冬華ちゃんの気持ちがわかるわ!
「あんたが言うんじゃないわよ! 説明はするけど!」
「こちらは時間がないとだけ言っておく。よく考えて決めろ」
そういうとアギトは部屋から出ていく。
「どこ行くのよ?」
「腹減っているだろう? 何か買ってくる」
「……」
なによあいつ意味わかんないし……
「僕の話は聞いてくれないんだね」
先生が少し寂しそうにしている。そういえば忘れてた。
わたしと先生でこれまでのことを説明してあげた。もちろん総司さんがアキを……ってところは伏せておいたけど……わからないところはどうしようもないけど知っていることは大体話せたかな。途中総司さんの顔が青ざめていたけど、なにか思い出したのかな?
総司さんは俯いて呟いた。
「そうか、そんなことが……」
「うん、だから光輝さんたちのところへ行った方がいいと思う」
「でもアギト君の言っていることも嘘とは限らないんじゃないかい」
「先生はアギトの味方するんですか? 母さんもなんであんな人信じてるんだか……」
「味方とかではないよ。ただ頭ごなしに嘘と決めつけるのはよくない。本当だったら取り返しのつかないことになるかもしれない。これは総司君が決めないといけないことだ。後悔しないようにね」
「それは、そうだけど……」
先生に言い負かされ俯くわたしに総司さんが言う。
「ありがとう、カレンちゃん、心配してくれて。少し考えてみるよ」
「は、はい」
総司さんの微笑みにわたしは何も言えなくなった。
そこへアギトが帰ってきた。手には食堂で買ってきたであろうミックスサンドを持っていた。食堂で持ち帰れるのはそれだけだし。ちなみにミックスサンドというのはパンにお肉やお野菜、たまに果物などが挟まれているもので、日によって何が挟まれるかわからないからアタリハズレがある。わたしは果物を挟んだのが好きなんだけど……
「食べて力をつけろ」
アギトはぶっきらぼうに言うと総司さんに手渡した。
「あ、ありがとう」
ジ————、わたしは包を凝視した。
わたしのはないんだ……
そんなわたしを見て、物欲しそうにしてると思ったのかアギトが声を掛けてきた。
「……ほしいのか?」
「べ、別に……」
わ、わたしはそっぽを向いて答えた。
「フゥ、飲み物を持ってきてくれたらやる」
「むぅ……わかった」
わたしは飲み物を取りに部屋を出た。
飲み物くらい買ってきなさいよね! 気の利かないヤツ!
飲み物を持って病室に戻ると、ちゃっかり先生も食べていた。
わたしの分は!? わたしは焦って包の中をのぞき込む……あった。……はっ!?
横を見るとわたしお手製のお茶に口をつけているアギトがいた。
「ご苦労様、食っていいぞ」
こ、こいつちゃんと人数分買っておきながらわたしを小間使いのように扱うなんて……
「食べるわよ!」
わたしはアギトを怒鳴りつけミックスサンドを頬張る。もう全部食べてやるんだから! そう決意して勢いよく食べる。
わたしが食べ始めるとアギトが口を開いた。
「食べたら出掛けるぞ、キミの装備をそろえる」
「ああ、わかった」
!?
「ふぉっふぉふぁふぃふぁふぁひふぉ!」
わたしは頑張って声を上げた。
みんな困惑顔をしている。通じなかったようだ。
「飲み込んでから話なさい」
先生に怒られてしまった。
「モグモグ……ゴクン。ちょっと待ちなさいよ!」
わたしは声を上げられた。
「……なにをだ?」
「なにをじゃないわよ!? 総司さん、まさかこの人と一緒に行くんじゃ?」
わたしはアギトに怒鳴ったあと総司さんに詰め寄り問いただす。
「あ、ああ、行くことにした。心配してくれたのにごめんね」
総司さんは申し訳なさそうに言う。
ていうかいつの間に? わたしが飲み物用意してる間ね!? 汚いわ! わたしがいない間に話を進めてたのね! やっぱりわざと飲み物を用意してなかったんだ! 油断ならないわ、総司さんを一人こんな人に預けるなんて……できない!
わたしはみんなとの約束を果たすため、約束したのは母さんだけど……もう細かいことはいいのよ!
アキの代わりに総司さんを守るため決意する。
わたしはアギトを睨みつけた。そしてわたしは仁王立ちし胸に手を当て宣言する。
「わたしも行きます!」
「「「 は!? 」」」
3人は口を開けてわたしを見ていた。




