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予兆

「ねぇ! ソウ君あいつに任せちゃってホントによかったの?」


 ローズブルグへの道中、冬華ちゃんが不満丸出しに言ってきた。

 僕は呆れつつ返事をする。

「まだ言ってるのか? そんなに悪い奴じゃないだろ?」

「そんなのわかんないじゃん! 嘘ついてるかもしんないし」

「嘘って、なんのために?」

「それは……ソウ君を奪うため?」

 意味がわからない。

「助けておいてまた奪うって、何の意味があるんだ? そんな無駄な事をしてなんの得がある?」

「それは……わかんないけど……」

 僕は一つ溜息をもらすと汐音君が話に入ってくる。

「冬華ちゃんはなぜそこまでアギトを嫌うのですか?」

「なぜって……わかんないけど、あいつ見てるとなんかイライラするんだもん」

 なんとも曖昧な理由だ。冬華ちゃんはサラさんを味方に引き込もうと声を掛ける。

「サラさんもあいつ信じられないよね?」

「え? わたしですか? わたしは……ただ言い方が気に障っただけです。いなくなった人の事を想ってはいけないように言うので……」

 サラさんはいなくなったと言った。まだ認めたくない気持ちがあるのだろう。それにアキを失ったことで思考が悪い方に傾いているようだ。

「あれは、別に想ってはいけないとは言っていないでしょう。前を向けと言っているんじゃないですか? いつものサラさんなら正しく受け止められたはずだと思いますが……」

 汐音君はサラさんがいつもの精神状態ではないことを暗に言っている。

 サラさんは言われて気付いたのか目を閉じ押し黙る。

「汐音ちゃんはどう思ってるの? 信じられないって言ってたじゃん」

 冬華ちゃんはアギトとのやり取りを思い出し言っているのだろう。確かに強い口調で言っていたが。

「あれはわざとです。嘘をついているかを見分けるためにしただけです。どっちで行こうか迷いましたけどね。なんとなく信じてない感じで言った方がいいような気がしたもので」

「それで嘘はないって結論になったの?」

 冬華ちゃんが訊ねる。

「いえ、嘘はついてましたね。ですが敵ではないと思います」

 汐音君はさらっと言ったけど。あの中に嘘があったのか!?

「どの部分に嘘があったんだい?」

 僕は身を乗り出して訊ねた。

「まず結衣さんについてですが、行方は知らないけど存在は知っている。探しているのかもしれないですね」

 そこはたしかに僕も引っかかったところだけれど……

「なぜそう思うんだい?」

「アギトは結衣さんの名前を聞いて誰なのか聞きませんでした、知っていたのでしょう。そしてレイクブルグにいたのは手掛かりを探るためだと私は思っています」

「以前キミはアギトがあの結衣君が偽物だと知っていたんじゃないかとも言っていたね」

「ええ、ですからあの偽物から情報を得ようとしていたんじゃないでしょうか」

 なるほど、確かにそれなら……でも

「ではなぜアギトは偽物だと知っていたんでしょう?」

 静かに聞いていたサラさんが疑問を口にする。僕も思っていたことだ。

「そこで次の質問の嘘につながります」

「次の質問?」

 次というとアキの遺体についてだが……

「アギトは遺体など知らないといいました。しかし五十嵐君の事は知っている。そもそも五十嵐君と呼んでいるのは私だけです。彼の前で言ったのはあれが最初です。知っているとしか思えないでしょう」

 確かにアキという名は聞いているかもしれないが五十嵐と結びつけることは知っていないとできないはずだ。他の二人も同じように思っているのだろう黙って続きを待っている。

「ですから偽物の事を五十嵐君から聞いていたのかもしれない。ここからは私の推測ですから確証はありませんが、きっと五十嵐君は何らかの理由であの女の正体に気付いた、しかし致命傷を受け身動きが取れない状態になっていたところをアギトに救われた。そしてアギトに四ノ宮君たちを助けてほしいと頼んだのかもしれません。いえ、こんな危険なことただで動くとも思えませんので依頼したのでしょう」

 黙って聞いていたサラさんが剣を握りしめて声を上げた。

「アキさんが生きているかもしれないってことですか!」

 その問いに汐音君はしまったという表情をすると、目を閉じて静かに首を横に振る。

「それはわかりません。最後の遺言としてアギトが願いを聞いてくれたということかもしれませんし。生きていたとしてもアギトは知らないと言いましたし、何か理由があるのかもしれません」

「そんな……」

 サラさんは力なく俯く。

「あくまでも私の推測なので……」

 汐音君は申し訳なさげに伏し目がちに言う。

「じゃあ、あいつの顔の火傷は? あれソウ君にやられたんじゃないの?」

 まだ納得できない冬華ちゃんが口を開く。

「推測が正しければ可能性は高いでしょう。私たちが行く前に一度行っていたのでしょうね。あの偽物に手を出せば四ノ宮君が守ろうとしたでしょうし」

 冬華ちゃんは「たしかにそうだけど……」と呟き黙り込む。

 一度目の時に術の正体に気付き、総司から受けた傷を癒し対策を講じて再度向かったということか……? 辻褄は合うようには思うけど、時間的な問題でどうだろうか? アキを見つけ安全な場所へ連れて行き治療、話を聞き城へ、一戦交え、戻り自身の怪我の治療、対策を講じ再度城へ向かい僕らと遭遇……ん~火傷は完治していないようだったし応急処置で済ませたのならギリギリ可能か? もしくはアキの治療が不要だったか……

 どちらにしろ推測の域を出ないな。 

 まったくアギトは何を隠しているんだ?

「まだ何か隠しているだろうけどカノンさんも信じてもいいと言っていたし、今は信じよう。総司の事も任せてあることだし、またすぐ会うことになる。その時にきっちり話してもらおう」

「そうですね」

「……うん」

「……」

 それぞれ思うところはあるだろう。しかし今は呑み込んでもらうしかない。僕らは急いで城に戻らなければならないのだから。

「もうすぐ日も暮れる。リーフ村で宿をとって明日中には城に着こう」

 僕はそういうと歩みの速度を上げる。

 城で起こっている事態も知らぬまま……



 ……闇


 ……薄暗いジメジメしたヒンヤリとした石畳


 ……格子の中に一人の人物


 ……痩せこけて白い肌


 ……男とも女ともとれる中世的な容姿


 ……その人物は咳き込み、力なく床に臥す


 ……



 ……闇


 ……薄暗いジメジメしたヒンヤリとした石畳


 ……格子の中に一人ずつ


 ……一人は男、粗野な容姿で荒ぶる声を吐き散らす


 ……一人は老婆、ローブを纏って静かに座する


 ……一人は女性、娘を想い祈りを捧ぐ


 ……



 ……闇


 ……薄暗いジメジメしたヒンヤリとした石畳


 ……格子の内と外にそれぞれ一人ずつ


 ……同じ顔を持つ二人


 ……一人は嗤い


 ……一人は目を閉じ待ち続ける


 ……



 ……闇


 ……薄暗いジメジメしたヒンヤリとした石畳


 ……格子の中に一人の子供


 ……涙を流し姉を想う


 ……



「……ふぅ」


短いですね

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