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アギト

 レイクブルグからレインバーグへと続く街道、僕は総司をおぶって歩いている。

 行きは賑やかだった3人も今はお通夜のように静かに歩いている。城を出たばかりの頃はまだアギトへの怒りの為ピリピリしていたが、城が見えなくなってくるとアギトがいないということもあり怒りもなりを潜め、怒りの影に隠していた悲しみがこみ上げてきているようだ。冬華ちゃんは俯き、サラさんはアキに剣を握りしめている。汐音君は幾分かは気持ちの整理ができたようで一応の平静は保っている。

 僕もまだ気持ちの整理はついてはいないのだけれど……アキを殺した総司を僕はおぶっている、助けようとしている。操られていたことはわかっているけれど、この怒りはどこに向けたらいい? あの女がこの場にいたら僕は間違いなく殺してしまうだろう。

 アギトにはあんなことを言ったが……今思えばあの時、女がいなくなったことで怒りの矛先をアギトに向けてしまっただけだろう。僕もまだまだガキだってことだ。

「……クソッ」

 僕が一人悪態をついていると、汐音君が僕をのぞき込むようにそっと話しかけてきた。

「会長、少しいいですか?」

 汐音君は僕を気遣ってか話しかけるタイミングを見計らっていたようでそう窺ってくる。

「あ、ああ、なんだい?」

 汐音君は僕と並んで歩き訊ねてくる。

「アギトのことですが、置いてきてよかったのでしょうか?」

「どういうことだい?」

「彼、あの結衣さんが偽物だと知っていたんじゃないですか? 最初から標的をあの女に絞っているようでしたし」

 言われてみれば確かに、アギトはあの女をずっと睨んでいた。総司への攻撃も最初の一回のみ、それに総司は怪我を負っていなかった。あの暴風も女を結衣君だと誤認させていた何らかの術を破るためのものだったのかもしれない。影に向かっての攻撃もそうだ。

「アギトは僕たちの知らないことを知っているのかも」

「ええ、結衣さんや五十嵐君のことも何か知っているんじゃないでしょうか」

 汐音君は何を言っているんだ?

「知ってるって、結衣君はともかくアキは死んだんじゃ……」

 そうあれほどの大量出血であの高さから落ちたら助からないだろう。僕はそう思っていた。冬華ちゃんもサラさんも同じだろう。だから悲しんでいる。汐音君は違うのか?

「そうですね。状況からはそうとしか考えられませんが……私は遺体を確認するまでは信じられません」

 汐音君は悪あがきとでもいうようなことを口にした。

「しかし、それは……」

「はい、可能性はほぼゼロでしょうね。それでもあきらめたくはないんです。もしダメであったとしてもせめて遺体だけは見つけてあげたい。こんな異世界で誰の目も届かないところで放置されているなんて酷すぎます」

 汐音君は無念であろうアキを想い下唇を噛みしめる。

「そうだな、見つけて僕たちの手で埋葬してやらないと」

「ええ……ですからアギトが何らかの手掛かりを持っているんじゃないかと私は思うんですが」

「あの時一緒に連れてきていれば……」

 僕も余程余裕がなかったようだ、そんなことにも考えが及ばなかったなんて……

「連れてきていたら、二人と険悪な空気になっていたでしょう。あの場で聞けていたらよかったんですが」

 今から戻るか? いや、戻ったところでもういないかもしれない。それにもうレインバーグがすぐそこだ、総司の事もある。今は諦めるしかないか……

「次アギトを見かけたら聞いてみよう、総司も何か知っているかもしれないし」

「……はい」

「あと、このことは二人には伏せておこう、期待をさせるには低すぎる可能性だ」

「そうですね」

 僕たちはこれで話を終えるとレインバーグへと入って行く。


 街へ入ると、街の人たちが瓦礫の片付けに精を出していた。そしてその中からカルマが顔を出し迎えてくれる。

「おう、お帰り。意外と早かったじゃねぇか」

 カルマは僕にそういうと冬華ちゃんを見て小首を傾げる。

「ただいま、カルマはまだここにいたんだな。城に戻らなくていいのか?」

「あ、ああ、そろそろ戻ろうかと思ってたところだけど……」

 カルマは答えると僕の背にいる総司を見て口が止まる。そして冬華ちゃんに向き直り口を開く。

「こいつがお前の兄貴か?」

「……」

 冬華ちゃんは俯いたまま無言で前を通り過ぎていく、その隣を折れた剣を抱え込んだサラさんが並んで行く。カルマはそれを目で追い呟く。

「なんだよ……」

 汐音君が呆れた口調で言う。

「察してください」

「あ? 察するって何を?」

 わからないといった感じのカルマに僕は言った。

「アキはいなかったんだ。助けられたのは総司、彼だけだ」

「兄貴じゃなかったのか……そうか」

 カルマは冬華ちゃんの背を見て暗い表情になる。

 僕は情報をカルマに伝えておくことにした。カルマは城に戻るらしいし僕らはリオル村に寄らないといけない。カルマには伝令役をしてもらおう。

「カルマ、レイクブルグにモルガナの仲間がいたんだが、その女が最後に捨て台詞を残して行った。どうやら僕たちはレイクブルグにおびき出されたらしい。で、今モルガナが何か仕掛けているみたいなんだ」

「な、城が襲われているってことか!?」

「ああ、アルマも兵力を削ぐと言っていたしそうなのかもしれない。僕たちはリオル村にいる先生に彼を診てもらってから城に戻るつもりだ。カルマは先に戻ってくれないか?」

「そうだな、城を発ってから結構過ぎた、急いだ方がいいな。すぐ出発する。お前たちもなるべく急いでくれ」

「ああ」

 カルマはそういうといそいそと準備をし町長に何やら話をしてから出発した。伝達事項や注意喚起をしていたのだろう。

 それを見ていた汐音君がボソリと言う。

「カルマ……やはり正規兵なのですね……」

 感心したような表情からカルマの事を低く評価していたことが窺える。まあ、僕も同じように思ってはいたけれど、最初の印象が悪すぎたせいもあるだろう。

 僕たちは少し休憩してからリオル村へと向かった。



 リオル村、オグルの診療所兼自宅

 僕は診察室から出てきた先生に訊ねた。

「先生、総司の容態は?」

「ああ、幻覚の魔法と誘惑の魔法を掛けられていたみたいだね。ほぼ解除されてはいるけれど、幻覚の魔法をかける際に起爆剤として使われたアサガオの花の成分をかなり吸ってしまっているようで、その除去に少し時間がかかりそうだ」

「アサガオの花?」

 ずいぶんと日本色の濃い名前だ、ていうかまんまだな。どういうことだろう? 思い返せばいろいろと符合する点はあるけれど、父さんたち僕に話していない事がまだあるんじゃないのか?

 そんなことを考えているとオグル先生が花の説明をしてくれる。

「アサガオの中には幻覚作用のあるモノもあるんだけれど、これはそれをかなり濃くして使っているね。キミたちの服からも微かに臭うから」

「この甘ったるい臭いですか?」

 僕は服の臭いを嗅いでみた。確かに臭う、こう言うと臭い(くさい)みたいに聞こえるが、まあある意味臭い。イヤな記憶がよみがえるから臭い認定しても問題ない。

「ああ、彼はそれを吸い込み過ぎたね。しばらく治療が必要だよ」

「そうですか。先生、総司のことよろしくお願いします」

 僕は総司を頼むとみんなの待つ食堂へと向かう。

 総司を一人置いて行くわけにもいかない、どうするか……


 賑やかなはずの食堂が今日はざわついている。

 食堂の一角が妙に静かでお通夜を連想させる空気が漂っている。そこは汐音君たちが座る席でカレンちゃんが泣いていた。アキのことを聞いたのだろう、無理もない。その横にはカレンちゃんを慰めるように知らない綺麗な女性がいた。どこかカレンちゃんの面影がある。

 僕の視線に気づいたその女性は僕を見ると潤んだ瞳で会釈する。僕は戸惑いつつもそれにならい会釈する。

 それを見た汐音君が紹介してくれた。

 カレンちゃんのお母さんでカノンさんと言うらしい。汐音君たちが中に入ると二人は食事をしているところで、同席させてもらったそうだ。と言っても二つの席をドッキングさせたのだが。そこでカレンちゃんが気になっていたアキの事を聞き、今に至るわけだ。カノンさんもアキの事は知っているらしく彼女も瞳に涙を溜めていた。

 僕は空いている席に座ると、カノンさんは涙を拭い僕に話しかけてきた。

「大変でしたね。アキさんの事は残念でしたけれど、お友達を助けることができてよかったです。アキさんもお友達の事を探していましたから、きっと喜んでいますよ」

「ええ」

「これから皆さんはどうするんですか?」

「ローズブルグへ戻るのですが総司の治療にもう少しかかるようなのでどうしようかと……」

 僕がそこまで言うと横から声を掛けられた。

「それなら私が彼についていよう」

「え!?……ア」

 カノンさんはその声の人物を見ると驚いて口を開けてしまっている。初見なら普通驚くだろう。まわりからもその異様な風体にどよめきを上げる声が聞こえる。

 我に返ったカノンさんが僕たちの知り合いだと思い席を譲ろうとする。

「あ、わたしもう行きますね。お友達同士の方がいいでしょう?」

「お気遣いなく、私は平気ですのでカノンさんは座っていてください」

「友達なんかじゃない! なんであんたがここにいるのよ!」

 冬華ちゃんが声を張り上げた。

「お前たちがここに来ると言っていたからな」

「このストーカー!」

 冬華ちゃんは吐き捨てるように言う。

 そう声の主はアギトだった。

「ずいぶんと嫌われたな、私がなにかしたか?」

 アギトは悪びれることなく言う。

「な!?」

 冬華ちゃんは悔しさで下唇を噛みしめる。

 確かにアギトは悪くはない……ただ僕たちが八つ当たりをしているにすぎないのだ。冬華ちゃんもそれはわかっている。わかっているが……

 そんなアギトにサラさんは無言で鋭い視線を向ける。

 アギトは黙って受け止めているが……どこか悲しげな瞳をしている。

 アギトは一つため息を漏らすと口を開く。

「フゥ、そんなことはいい。彼は私が付いているからお前たちは早く城へ戻れ」

 その物言いが気に障ったのか汐音君が口を開く。

「この間会ったばかりのあなたを信じろと? 無理な話ですね」

「特に信じる必要はないんだがな、どの道彼はしばらく置いて行くのだろう?」

「だからといってあなたに任せられるわけないでしょう!」

 汐音君は一度話を切り、妥協案のように話を切り出した。

「ですから、私たちの質問に答えてくれたら信じてもいいでしょう」

 さすがに黙っていられないと冬華ちゃんが口を挟もうとする。

「ちょっと汐音ちゃん!?」

 汐音君は冬華ちゃんを手で制するとアギトの返事を待つ。

「別に構わないが、私から聞けることなどないと思うが?」

 意外にも了承してくれた。てっきりあやふやにして断るものだと思っていた。

「それはこちらが判断することです。あなたは答えてくれるだけでいいです」

 汐音君は冷たく言い切る。

「では、質問します。あなたは人間ですか?」

「「!?」」

 この場にいる全員が驚きの表情を見せる。そんな質問をするなど誰も思っていなかったのだ。アギトの容姿で目立っていた為か、聞き耳をを立てていたまわりからもどよめきが起こる。

 いきなり思いもしない質問を吹っ掛けた汐音君は平然とアギトの様子を窺っている。

「ずいぶんな言われようだな、どう見ても人間だろう?」

 アギトは両手を広げて見せる。

「人のふりをしていた魔族らしきモノもいましたが?」

「フッ、そうだな」

「まあ、いいでしょう。次の質問です、結衣さんの行方を知っていますか?」

 冬華ちゃんが汐音君に疑問の視線を向けるが汐音君はそれに気づかずアギトを真っ直ぐに見ている。

 アギトはしばらく黙考すると答える。

「……いや、知らないが」

 ん? 今何かが引っかかった……なんだ?

「……そうですか」

 汐音君はメガネのツルに手を添えると、次の質問に移る。

「では次に……五十嵐君の遺体はどこにありますか?」

「汐音君!?」

 それは伏せておくはずでは?と僕は汐音君を見るが、どこにいるの?とは聞いていないとでもいうように汐音君は首を横に振る。

 その質問にはアギトを見据えていたサラさんやカレンちゃんも目を見開いて汐音君を見る。

「遺体? そんなものをコレクションする趣味はないが?」

「いいから、答えてください!」

「フゥ、遺体など知らない」

 やれやれといった風にアギトは答える。

「あんた結局何も知らないじゃない!」

 冬華ちゃんがもういいとばかりに声を上げる。確かに有力な情報は何一つ出てこなかった。

「だからそう言ったはずだが?」

「グッ」

 冬華ちゃんは言葉を詰まらせ睨みつける。

「なら、なぜあそこに来たのですか?」

 汐音君の問いにアギトはしばらく押し黙っていたが淀みなく答える。

「……城に異変が起こってから一帯に妙な臭いが立ち込めるようになった。だからその元を断とうとしたんだが?」

 至極まっとうな理由を言われてしまい僕らは言葉を失ってしまった。

 あの女が総司を操るためにアサガオの成分を使用していたわけだから、結果を見ればあの女を退けたアギトは目的を遂げと言っていい。疑う余地はないのだが……

「そもそもあんた顔隠してる時点で怪しいのよ! その包帯取りなさいよ!」

 全員が思っていたであろうことを冬華ちゃんが代弁してくれた。

 しかし、これにアギトは従う義理はない。質問に答えろと言われたから答えられることを答えたに過ぎない。言いがかりもいいところなのだ。

 固唾を呑んで待つと、アギトは口を開く。

「別に構わないが、食事中に見せるようなものではないぞ」

 アギトは了承した。意外といいヤツなんじゃ? ふとそんなことを僕は思った。

「いいからさっさと取りなさいよ!」

 冬華ちゃんがアギトを急かす。何をそこまで向きになっているんだろうか?

 アギトは仕方ないという風にフードを取り、巻かれている包帯を外していく。

「なんだか裸を見られるみたいだな……これでいいか?」

「「!?」」

 女子一同が声にならない声を上げ顔を顰めて目を背ける。

 包帯の下、隠れていた左部分は焼け爛れ紫色に変色していた。白髪に碧い瞳なのは以前言ったが、その瞳は憂いを含んだものに見えた。

「ああ、もういい。すまなかったな」

「いや、構わない」

 僕の謝罪に応えるとアギトは包帯を再度巻き始める。

 うまく巻けないようで苦戦しているとカノンさんが立ち上がった。

「どうぞ座ってください。わたしが巻いて差し上げます」

「いや、しかし……」

「構いませんよ、慣れていますから」

 遠慮するアギトにカノンさんは微笑んで言う。

「すみません、それではお言葉に甘えさせていただきます」

「……はい。(フフッ)」

 今カノンさん笑わなかったか?

 カノンさんはアギトを椅子に座らせると包帯を巻き始める。その最中アギトの耳元で何か囁いていた。

 アギトは一瞬驚くが、すぐに目を閉じて……顔を引き攣らせている。……?

 巻き終わるとカノンさんが僕らに話しかけてくる。

「この方は信じてもいいと思いますよ。見られたくないモノを見せてくれたのですから」

「母さん?」

「わたしこれでも人を見る目はあるんですよ。なんでしたらわたしも総司さんのことを見ておきますし」

 ん~そこまで言われるともう断れなくなるな。汐音君がした約束もあるし。

「わかりました、よろしくお願いします。アギトも済まないが頼む」

「ああ」

 僕が頼むとアギトは短く返事を返した。


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