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四ノ宮兄妹

続きです

 レイクブルグ、今のこの地は厚い雲に覆われ日の光は届かず、毒の沼と化した元湖から漂う甘ったるい臭いで空気は淀み、人の気配のしない地となっていた。街は魔物の徘徊する魔都と化している。……ちょっと言い過ぎかもしれない。意外と魔物は少なかった。その代りに別のモノが多く見られた。

「なんですかこれは? ずいぶんとリアルと言いますか生活感があふれているといいますか」

 汐音君はなんと言おうか悩んでいる。

「そうだね~リアルすぎて気持ち悪いよね」

 冬華ちゃんは嫌悪感に顔を顰める。

 二人が言っているのは、この街に入ってすぐに気付いたもので街中あちこちにある石像の事である。まるで、街の人がそのまま石化したような……

 その石像を調べていたサラさんがボソリと呟いた。

「この人たち魔法を掛けられてますね」

 ここまでの街や村でレイクブルグから避難してきたという人の話を聞いていないし、この街の規模からしても死体の数が少ないとは思っていたけれど、やっぱりこの石像人だったんですね。

「元に戻せるんですか?」

 僕はサラさんに訊ねた。

「ええ、でもこれは魔法をかけた者でないと解けないと思います。厄介な魔法を……」

 サラさんは眉を顰める。

 術者を捕らえて解かせないといけないのか、確かに厄介だな。そうと気付かず倒してしまったらこの人達は元に戻すことができなくなる。

「術者をどうやって見分けたらいいんでしょう?」

 汐音君が顎に手をやり呟く。

「かなり強力な魔法です。おそらく土系統の魔法を得意とするものだとは思いますが……」

 サラさんは何とか方法はないかと悩んでいるが、言葉が出てこないようだ。

「それだけでは難しいですね……城に戻ったらレイナ姫にもう一度詳しい話を聞いてみましょう」

 ここで悩んでも答えは出ないと思い僕は話を打ち切った。


 街を抜け、城へと繋がる架け橋を渡る。その間魔物とも遭遇したが、数が少なかった為容易に倒すことができた。ここまでは特に問題はなく順調に進んでこられた。それが逆に恐かったりもする……

 門を抜け中庭へと出ると花壇らしきところに石碑を見つけた。レイナ姫に聞いた話と合致する。これが封印の為の石碑の一つだろう。石碑は割られ破壊されていた。

「やっぱり破壊されていたか……」

 僕は舌打ちをし眉を顰める。

「そうですね、残念ですが今はどうすることもできません先を急ぎましょう」

 サラさんは石碑についてはあまり期待はしていなかったようで、イヤそれよりもアキの事が気掛かりなのだろう。早く先に進みたいようだ。

 僕は一つ頷くと城の中へと入って行く。城の中は外よりも臭いが濃く充満していた。そしてここにも石像があった。魔物と戦っている石像もあり当時の光景を思わせる。

「魔物共々ですか……魔法が暴走でもしたんですかね? それとも魔物は仲間意識がないのでしょうか?」

 汐音君は疑問を口にするとサラさんが推測を話す。

「わかりませんが、これほどの規模です、ただの魔物とも思えません。魔族クラスの使い手だとは思いますが……」

「なるほど、魔族にとっては魔物はただの駒巻き添えにしても気にも留めないと」

「はい」

 汐音くんの言葉にサラさんは短く肯定した。

(魔族か……あの白い女モルガナも魔族なんだろうか?)


 僕たちは階段を上り甘ったるい臭いの充満する謁見の間らしき広間にたどり着く……そこには一組の男女がいた。

 その二人を見て真っ先に声を上げたのは冬華ちゃんだった。

「ソウ君! 結衣ちゃん!」

 そこにいたのは四ノ宮総司(しのみやそうし)とその妹の結衣(ゆい)だった。

 冬華ちゃんの声に二人はピクリとも反応しなかった。ただじっとこちらを見たまま動かない。総司は無感情に、結衣君は冷たい視線を向ける。

「どうしたの二人とも?」

 冬華ちゃんは二人に問いかける。それでも反応はない。

「様子が変ですね」

 汐音君が横に来てそう呟く。

 僕は総司に近づこうと前に出る。すると結衣君の視線が僕に向き目が合う。結衣君は口角を吊り上げて笑うと口を開いた。

「ソウシ、またワタシを傷つけに男が来たわ」

「何を言っているんだ?」

 僕は意味がわからず足を止めた。

 後ろの二人も困惑気味に呟いている。

「結衣ちゃん何言ってるの?」

「またってどういうことです?」

 結衣君は冷たい声で言う。

「ソウシ……ワタシを、守ってくれるよね?」

 僕は背筋が凍る感覚を覚え後ずさった。嫌な予感がする。頭の中に危険を知らせる警鐘が鳴り響く。

「結衣ちゃん?」

 冬華ちゃんは冷や汗を流し、硬直している。

 汐音君は声も出さず後ずさる。

 総司の無感情な瞳に炎が宿り、怨嗟の籠った声を吐き出す。

「守る……結衣は俺が守る。もう結衣を傷つけさせない……結衣を傷つけようとするやつは……殺す! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!」

 総司は剣を抜いてこちらに向かってきた。

「「ひっ!?」」

 後ろの二人は悲鳴を上げて後ろに下がった。

 僕は剣を抜いて総司の剣を止めようと構える。総司の振り下ろす剣は炎を纏っていた。

「なっ!?」

ギュイン

 何とか受け止められたが、こんなものを生身の剣では何度も受けられない。こちらも纏わせないと……しかし、接近された今ではもう遅い。その時間がない。

 総司の一撃からさらに連撃が繰り出される。

ギン、ギン、ギュイン、ギン、ギュイン

「クッ!?」

 剣に刃こぼれができはじめる。

(もうもたないのか!? 早すぎるだろう!)

 まともに打ち合ってはダメと思い、受け流そうと考えた。

 すると総司が後ろへ飛び退き、総司の足のあったところへ矢が通り抜けていく。

 後ろで汐音君が弓を下ろして驚愕の声をあげた。

「ウソッ!? この距離で躱しますか!」

「すまない、助かった!」

 僕は総司を見据えたまま後ろに向け声をかけた。

「ソウ君! 私たちの事がわからないの!」

 冬華ちゃんが隣に来て悲痛な声を上げる。しかし総司はそれには答えず剣を振り上げる。

「!?」

 僕は剣を構え直し、冬華ちゃんも剣を抜いて構える。

 そして、その緊張感を切り裂くように大きな声が響く。

「待ってください!!」

 その声に結衣君の表情は消え、総司も剣を振り上げたまま停止する。

 僕は声のした方へ振り向くとサラさんがキョロキョロと何かを探すようにしていた。そして四ノ宮兄妹に向け訊ねた。

「アキさんは? アキさんがここに来たでしょう? どこにいるんですか!?」

 僕はハッとなりまわりを見渡す。

 この部屋には俺たちと四ノ宮兄妹、玉座に石像、そして大きな姿見があるだけだった。後は一部壁が崩れ落ちていることぐらいで、アキは見当たらなかった。

「アキ?」

 結衣君はわからないといった風に小首を傾げている。

 おかしい、知らないわけがない。仲は良かったはずだ。やっぱり何かがおかしい……

「二人がお兄ちゃんの事わからないわけないでしょ!」

 冬華ちゃんが声を荒げると、結衣君が何か思い出したかのように嗤いその口から冷たい声を吐き出す。


「ああ、あの男か……ソウシ、教えてあげたら……」


ドクンドクンドクン


 僕の心臓の鼓動が速くなるのがわかる。イヤだ……聞きたくない。聞きたくない!

 しかし僕の目は総司から離れない。聞きたくないはずなのに……

 隣の冬華ちゃんは震えているようで歯をガチガチさせて呼吸も荒くなっている。

 後ろから汐音君の呼吸音が聞こえてくる……荒く不規則に……

 サラさんは気丈にも総司を見据えているが、手足が震えている。

 みんなが今まで考えないようにしていた最悪のシナリオが今頭を過っているようだ。

 総司は振り上げた剣をスーッとおろし、剣先を壁の崩れ落ちた方へ向ける……そこには大量の血でできた赤黒く固まった血痕と折れた剣が落ちていた。

 僕たちは目を見開き硬直する。

 サラさんはふらふらとその場所へ進み剣を拾い上げる。

「こ、この剣……アキさんが使ってた……」

 サラさんはその場にペタンと座り込み涙を流す。

「ウッ、ウッ、アキさん、アキさん……ゥワアァァァァァァァァァ」

 その光景を見て結衣君は口角を吊り上げ嗤う

「アッハハハハハハハハ」

 その瞬間冬華ちゃんは声を張り上げて叫んだ。

「笑うな————!」

 その瞳からは涙がこぼれ落ちていた。

 結衣君は押し黙り冬華ちゃんに冷たい視線を送る。

「なんで? 結衣ちゃんお兄ちゃんの友達でしょ? なんでこんなこと……」

 冬華ちゃんは床に座り込み両手をついて涙する。

「ソウシ……」

 結衣君の声に反応し、総司は冬華ちゃん前に立ちその剣を振り上げていた。

「総司! やめろ!」

 総司は僕の声など聞こえておらず剣を振り下ろした。無感情に、機械的に。

「冬華!?」

 僕は冬華ちゃんの前に滑り込み剣で総司の炎の剣を受け止め、強引に斬り上げ押し返した。

「ぉおぉぉぉぉっ!」

 総司はその反動を利用し回転し、回し蹴りを僕の腹にぶち込む。

「グフッ」

 僕は蹴り飛ばされ、総司は再度冬華ちゃんへ剣を振り下ろす。

 汐音君が矢を射るため構えようとするが間に合わない。

 総司の剣が冬華ちゃんを切り裂こうとしたその時、一陣の風が吹き総司を吹き飛ばす。

「グッ!?」

 総司は声を漏らし床を転がる。

 僕たちは風の発生した方へと視線を向けると、壁のなくなった床に座り込むサラさんの側に白い男が降り立った。体格から男と判断したのだが、その男は白っぽいローブに身を包みフードを被っている。フードの下は包帯に覆われ顔は判別できない。わかるのは白髪と口、そして碧い瞳だけだった。

 白い男は自身を見上げるサラさんを一瞥すると口を開いた。

「こんなところで嘆いていても死んだ奴は戻ってはこない」

「なっ!?」

 サラさんは涙に濡れた目を見開くとキッと白い男を睨みつける。

 白い男はしばらくサラさんの視線を受けとめていたが、スッと視線を逸らし結衣君に視線を向ける。

「……誰?」

 結衣君は短く問う。

「……アギト……」

 白い男はそう名乗ると結衣君に向かって進む。

「ソウシ、またワタシを傷つけに男が来たわ」

 結衣君の声を聞いた総司は立ち上がりアギトへと剣を向ける。

「(チッ)」

 ん?今舌打ちが聞こえたような……

 アギトは結衣君を睨みつけ両手を広げる。まさか殺す気じゃ……

 僕はやめさせるために声を上げた。

「ダメだ! 殺すな!」

 しかしアギトは僕の声は聞かず、両の手に風を巻き起こしその両手をパンッと合わせる。すると両手の風が衝突し暴風が巻き起こる。

「キャッ!?」

 その暴風に吹き飛ばされそうになったサラさんの腕をアギトが掴む。

 他のみんなは身を屈ませ耐えている。が、特に切り刻まれることはなかった。

 暴風が収束し、風が収まるとアギトはサラさんを床におろす。サラさんは複雑そうな表情でアギトを見ていた。

 まわりはあの甘ったるい臭いがなくなっただけで特に変化はない。総司も怪我はないようだ。

 僕はアギトが何の目的で魔法を使ったのかわからずアギトに視線を向けた。アギトは一点を見つめて口角を吊り上げ嗤っていた。

「(なんだ?)」

 僕はアギトの視線の先、結衣君の方を見た……そこにいたのは結衣君ではなく、コウモリの羽を生やした青白い肌の美しい女だった。

「(サキュ……)」

 アギトが何かを呟いたようだが聞き取れなかった。

「ソウシ!」

 青白い女が総司の名を呼ぶが総司はその場から動かない。いや、動けないようだ。

「ゆ、結衣? 結衣じゃない! 結衣は? 守らないと! 結衣を、オレが、オレががががっがぁぁっぁぁぁ!?」

 総司は支離滅裂なことを言い頭を押さえ苦しみ出した。

「使えないごみクズが……」

 青白い女は吐き捨てるように言う。

「早くそいつを気絶させろ! 心が壊れるぞ!」

 アギトは声を上げる。

「気絶ってどうすれば……」

「要は眠らせればいいんでしょ! 任せて! 会長、四ノ宮君の動きを止めてください」

 汐音君はそういうと手を総司に向ける。

 僕は総司に飛びつき羽交い絞めにして叫ぶ。

「いいぞ! 汐音!」


「はい! 睡眠魔法(スリープ)


 汐音君が魔法を唱えると苦しんでいた総司は力を失い眠りにつき僕に体重がかかる。お、重い……

 青白い女は苦々しい表情で舌打ちをする。

「チッ、まあいい。ワタシの役目はここにおびき寄せること、今頃モルガナ様が……クククッ」

「どういうことだ!」

「フン、せいぜい悔いるがいい、こんなところまで来たことを……ッハハハハハハ」

 アギトは拳に風を纏わせ青白い女に飛び掛かるが、女は影の中へと沈んで消えていく。

(どいつもこいつも影の中か……)

 僕がそんなことを思っているとアギトは影に向かって風を纏ったその拳を打ち込んだ。

「「え!?」」

 それを見ていた全員が驚きの声を上げた。

 すると影から青い液体が噴き出しアギトに吹きかかる。まるで返り血のように……

 アギトはしばらく影を見ていたがぼそりと何か呟くとこちらに近づいて来た。

 冬華ちゃんがアギトの前に立ちふさがり声を上げる。

「あんた何者よ!」

 さっきのアギトの言葉が原因なのだろう、冬華ちゃんは完全に敵視している。

「そんなことはどうでもいい、お前たち早く戻った方がいいんじゃないか?」

 アギトは冬華ちゃんの問いには答えず早く戻れという。

「なっ!?」

 冬華ちゃんは顔を赤くして爆発寸前といった感じだ。

「そんなことあなたに言われる筋合いはありません! 彼の様子を見て早く戻りましょう」

 サラさんはアギトを睨み言い放つ。後半は僕らに向けたものだが。

「……」

 アギトは黙ってサラさんを見つめ返す。

 三人は総司の様子を確認しに行き、僕はその間にアギトに話しかけた。

「さっきは助けてくれてありがとう」

「いや」

「でも……あの言葉は看過できない。もう少し僕らの気持ちも考えてくれ!」

 僕は語気を強めて言っていた。なぜそうしたのかわからないが……

「……そうか、すまない」

「それと、あの女殺したのか? ヤツがこの街の人たちに石化魔法をかけたのかもしれないんだ! 死んでいたら元に戻せなくなるんだぞ!」

 僕が怒鳴りつけるとアギトは顎に手をやりしばし考える。

「そうか……(そういうことか……)」

 アギトはそれだけ言うと玉座の方へ歩いて行く。……?

「お、おい!」

 僕はアギトの背中を追おうとしたら声を掛けられた。

「光輝さん、総司さん今は眠っていますが目が覚めたときどうなるかわかりません。ですから一度リオル村へ行ってオグル先生に診てもらいましょう」

 そうサラさんが提案し、僕もそれがいいと思い了承する。

 僕らは総司を担ぐと姿見の前に立つアギトを残しその場を後にする。


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