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ガールズトーク?

 レインバーグから北西、山間の街道沿いを僕らは歩いている。もうすぐレイクブルグに着く。そこにあの兄妹が、そしてアキがいるはず。逸る気持ちを抑えて僕は歩を進める。後ろの3人も同じ心境なのか次第に口数が減ってきている。さっきまで楽しそうな話声が聞こえていたんだが。当然僕はその中には入っていなかった。というか、入れなかった。蚊帳の外だった……いわゆるガールズトークというやつだ。



「今回はあいつついて来なかったね」

 最初に口火を切ったのは冬華だった。

「あいつ? カルマのことですか?」

 汐音がここにいない人物の名前を告げる。そう、カルマはついて来てはいなかった。

「そ、あいつ。なんだかんだ言ってついて来そうだったし」

 冬華はどこかつまらなさそうに言う。

「カルマ殿は兵士ですからね、勝手に持ち場を離れるわけにはいかないんですよ。彼の今回の任務はレインバーグの奪還ですから、それが済めば街の復興や、城への連絡などやることは山積みです。しかも指揮官が裏切った為、副官である彼に指揮権が移っていますからなおさらです」

 とサラが説明してくれる。

「指揮する兵がいませんから、一人で大変でしょうね」

 と汐音は一人苦しむカルマを憐れむ。

「……」

 無言で石を蹴りながら歩く冬華を見て二人は視線を合わせて肩を竦める。

「カルマがいなくて寂しいんですか?」

 と汐音がニヤニヤしながら冗談半分に訊ねる。

「な、なんであんな奴がいないくらいで私が寂しくなんないといけないのよ! そう! 笑いのネタがないのが詰まんないだけだって」

 見事な動揺を見せる冬華。

「フフ、その動揺ぶりが怪しいですけどね」

 と、まさかのサラが微笑みながら突っ込む。

「本当だから! 怪しくないから! なんであいつなんかと……ていうかサラさんまで酷いよ~」

 サラの手を掴みブンブン振って抗議する。

「フフ、初々しかったものでつい」

 サラは包み込むような笑顔で微笑む。

「う~~意地悪」

 冬華はそんなサラを見て頬をふくらまし呟いていた。 

「いじめるのも可愛そうですし。そういうことにしておいてあげましょう」

 上から言う汐音に反発するように冬華が攻勢に移る。

「(汐音ちゃんだって、反省会の時私がいない間に何かあったんじゃないの? 戻ったとき汐音ちゃん顔赤かったし)」

 冬華はニヤリと笑う。

「な、なにもありませんよ」

 汐音は声を上げるとスタスタと歩いて行く。

 そんな汐音の背中を見てボソリと呟く。

「怪しい……」

 その呟きに応えるようにサラが口を開く。

「フフ、嬉しいことがあったんじゃないですか?」

「サラさんもいたんだし、なにか知ってるよね? 何があったの?」

 冬華はサラに詰め寄る。自分だけ知らないのが不満なようだ。

「フフ、秘密です」

 とサラは口元に人差し指を当ててウインクをしながら言う。その仕草に冬華はドキリとする。

「ず~る~い~」

 なぜか冬華は頬を染め、、サラの手をブンブン振りながら不満を漏らす。

 このとき冬華はこんなことを思っていた。

(サラさんいろいろとずるいな~。今の仕草もそうだけど、女の色気だったり、たまに見せる女の子みたいな可愛らしさだったり、包み込む包容力だったりを見せつけてくるんだもん。おまけに美人でナイスバディ。私、男だったら間違いなく落ちてるよ。これじゃ、お兄ちゃんが落ちないわけないじゃない! どストライクじゃん! ハァ……負けた)

 なんの勝負かはわからないが冬華は負けを認めた。

 意気消沈してトボトボ歩く冬華。

 いきなりの冬華の変化に隣を歩くサラは不思議そうに小首を傾げていた。

「ンフフッ」

 冬華が何かを思い出したように笑い出す。

 怪訝に思いサラは訊ねた。

「どうしたんですか? いきなり笑い出して……」

「ん? もうすぐだなと思って」

「え?」

 サラは顔に疑問符を浮かべる。

「楽しみでしょ? お兄ちゃんと再会するの」

 冬華はサラを真っ直ぐに見つめて言う。その表情は笑顔だったが真剣味を帯び瞳にはわずかに憂いのようなものが映っていた。

 サラはその表情に気付かないふりをし、ただ素直に答えた。

「ええ、早く会いたいです」

「……フフッ」

 その解答に満足したのか冬華は微笑み、そして悪い顔をする。

「再会した時のお兄ちゃんの顔が楽しみだわ。どんな顔するんだろ? ンッフフフフ」

 サラはそんな冬華を見て顔を引き攣らせていた。



 そんなトークが繰り広げられていることなど露知らず、僕は一人寂しく歩き続けていた。

 今頃気付いたが、このパーティー女子率が高すぎる。普通なら喜ぶべきところなのだろうが、なんだか疎外感が半端ない。早くアキと合流したい。僕は知らず知らずのうちに溜息を吐いていた。

 そこへいつの間にか隣に来ていた汐音君が声を掛けてきた。

「もうすぐですね」

 汐音君は今回の目的地、そこにいるかもしれない人物の顔を思い出すように彼方を見つめていた。

 その表情は期待と不安とがない交ぜとなったような、そしてそれを押し隠そうとする複雑なものだった。

「ああ」

 僕はその横顔を見つめたままそれだけ言うと息を呑む。

 「どうかしましたか?」

 汐音君は彼方に向けていた視線を真っ直ぐに僕に向けて訊ねてきた。

「いや、何でもないよ」

 僕は視線を前へと向ける。……少し緊張しているのかもしれない。汐音君のあんな表情は初めて見るものだった為、思わず見入ってしまった。なかなかに失礼な行為だろう。気をつけないと……

 そんなことを考えていると汐音君が顔をのぞき込んで訊ねてきた。

「心配ですか?」

「え、何がだい?」

「ん? 五十嵐君のことですよ」

 汐音君不思議そうに小首を傾げている。あ~そっちの話ね……

「あ、ああ、そうだね。……うん、もうすぐだと思うとちょっとね」

 人に言われると、押し込んでいた感情が表に出てきてしまう。

 生死は不明、そこにいるのかも不明、もしいたとしても無事であるという保証はない。アキの事だから大丈夫と頭ではわかっていても、やはり不安である。

「大丈夫ですよ。五十嵐君なら自分の身は自分で守れるでしょうし、見つけさえすれば、私たちなら守り切れます」

 汐音君は僕の不安を和らげるように気付かってくれる。

「そうだね。まずは見つけ出すことが先決だね」

「ええ」

 汐音君は微笑んで頷く。

 


 左手の教会跡へと続く渓谷を過ぎ、北と西からの川の合流地点へとたどり着く。地図通りならこのまま街道沿いを西に進めばレイクブルグに着く。

 しかしそこで異変に気付いた冬華ちゃんが鼻をつまんで声を上げた。

「なにこの臭い~」

「甘ったるい臭いがしますね」

 汐音君は鼻を押さえ顔を顰める。

 まわりは森や山の匂いではなく気持ちが悪くなるような甘ったるい臭いが漂っていた。発生源を探そうとまわりを見るが特にそれらしいものはない。見つけたのは干上がりかけている川と、土砂崩れの跡だけだった。

「光輝さん! こちらに来てください」

 先を見に行っていたサラさんが何かを見つけたのか僕を呼び寄せる。僕たちはこの言葉に従い土砂崩れで出来上がった土手を登った。

 上を見て登っていると冬華ちゃんがジト目を僕に向けて小声で言う。

「(コウちゃん何見てるの? まあ、コウちゃんも年頃の男の子だから仕方ないかもしんないけど、汐音ちゃんに怒られても知らないよ?)」

 僕は意味がわからず聞き返す。

「(何のこと?)」

「(何って、サラさんのスカートの下見てたでしょ?)」

 冬華ちゃんは何とぼけたふりしてるの? と顔を顰めて言う。

「え?」

 僕は思わず上を見上げてしまった。サラさんはこちらに体を向け片足を土手の上に掛けている、階段を上っているような体制で止まって土手の向こう側を見ていた。確かにスカートの下が見えそうだ。僕は反射的に目を逸らすと冬華ちゃんと目が合う。

「(今見たよね?)」

 冬華ちゃんはニヤリと笑う。

「(み、見えなかったから!)」

 僕はどもった。

 冬華ちゃんはうんうんと頷くと黙って登って行ってしまった。その頷きは何!? 誤解してるよね! と不本意に思っていると、土手を登り切り異様な光景が目に入ってくる。

「臭いの正体はこれでしょう」

 サラさんは目の前の川を指して言う。

 その川は澄み切った透明ではなく、毒々しく濁った色をしていた。確かにそちら側から臭いが漂ってきているようだ。

「この先には?」

「レイクブルグがあります。ここの川はその隣にある湖から流れてきているものです」

 僕の問いにサラさんは即答してくれる。

 こんな毒が近くにあるようなところで人が生活できるだろうか? 本当にこの先に彼らはいるのか? もういないのでは? 僕は膨らんでくる疑念を抑え込み進むことを告げる。

「とにかく、先へ進もう。急いだ方がよさそうだ」


ガールズトークなんて知らない、ガールじゃないし……

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