反省会2
「それでは恒例の反省会をします」
僕たちはレインバーグの時計台前の広場にいる。もちろん街の結界は再度張られ避難していた人たちも街に戻って来ている。しかし、魔物に荒らされていた為、宿も食堂もまだ営業されていない。なのでこの広場で食事をしていたというわけだ。
そして、いつの間にか恒例となっていた反省会が汐音君発声のもと開かれた。
「え~またやるの~」
と言うのは、言うまでもなく冬華ちゃんだ。嫌そうな顔を隠す気もなく愚痴る。
「当たり前です! これはもう冬華ちゃんの為にやっているようなものですから!」
「なんでよ~」
汐音君の言い分に冬華ちゃんは不満の声を漏らす。
「心当たりはないんですか? 胸に手を当ててよく考えてみてください」
冬華ちゃんは自己主張し始めた胸に手を当て目を閉じてン~と唸りながら考える。
「(いつも反省会しているんですか?)」
サラさんが僕に耳打ちして訊ねてきた。いきなり近づかれるとドキリとしていまう。サラさん自分が美人だと言うことを自覚してほしいです。うぶな少年が勘違いしてしまいますよ。
「(いえ、これが2回目です。直すべき点があったときだけ開かれると思いますよ。ローズブルグではやりませんでしたから)」
僕は小声で答える。耳打ちなんてできません。アキに怒られてしまう。
「(そうですか。でもいいことだと思います。汐音さんは本当に冬華さんのことを心配しているんですね)」
サラさんは二人を眺めながら微笑んでいる。
考えのまとまった冬華ちゃんがこれだとばかりに口を開く。
「汐音ちゃんを一人ほったらかしにしてたこと!」
そういうと、ドヤッみたいな顔で汐音君を見る。
「違います!」
汐音君は即バツをつける。そして正解を告げる。
「あの転送の術の正体を知らないまま何度も突っ込んで、何度も転送されたことです」
「うっ」
冬華ちゃんはやっぱりそれかと言うようなバツの悪そうな顔をする。
「アハハハハハハッ」
なぜかこの場にいて会に参加しているカルマが笑い声を上げる。
「笑うな! なんであんたもここにいんのよ!」
と叫び、冬華ちゃんは食べ終わった果物の芯をカルマに投げつける。
「別にいいだろ、オレだって作戦に参加したんだし」
カルマは投げつけられた芯を避けつつ答えた。
「ていうか、あんたも飛ばされてたじゃない」
「オレは1回だけだし」
「1回も2回も一緒よ! それに私だって考えなしに突っ込んだわけじゃないし」
二人の口喧嘩を黙って聞いていた汐音君が口を挟む。
「そうなのですか?」
「うっ」
汐音君の問いかけに冬華ちゃんは声を詰まらせた。ホントは考えてなかったんじゃ?という考えがみんなの顔に浮かびはじめ、冬華ちゃんはとつとつと語りだす。
「私最初の転送の時、転送されなかったんだ~みんながいきなりいなくなっちゃって、アルマに捕まっちゃったんじゃないかと思ってアルマのところに乗り込んだの」
「いえ、たぶんあれはランダムで転送先が決まるものだと思いますから、冬華ちゃんの転送先が元の場所だっただけでしょう。それよりなぜアルマの居場所がわかったんですか?」
「ん? 勘だけど?」
汐音君の問いにサラッと答え続ける。
「まあ、あの手のヤツは高いところにいるのが相場じゃない? 見事にビンゴだったんだけど、それでみんなの居場所聞き出そうとしたら転送されたの。ムカツクのよね~あいつの薄ら笑い! で次は捕まえてから聞き出そうとして行ったらまた転送されそうになって、私地面に触れてなければいいと思って跳び上がって魔法陣から離れたんだけど……」
「転送されたわけですね」
「うん」
汐音君に続きを言われ冬華ちゃんは小さく頷く。
「だからお前あの時上から振ってきたのか」
「うっ」
忘れていたことをカルマが思い出して冬華ちゃんは返事は詰まらせる。
「まったくの考えなしじゃなかっただけ進歩だよ」
僕は一応そこは認めてあげた。
「でしょ!」
冬華ちゃんは縋るような目で訴える。
「ハァ、そうですね。もう少し考えてもらいたいところですが……」
汐音君は溜息交じりに言うと、冬華ちゃんは満面の笑みで汐音君の腕にしがみつく。汐音君はやれやれといった表情で微笑んでいる。
そんな光景を微笑んで見ていたサラさんが訊ねる。
「汐音さんは何をしていたのですか? 一仕事と言っていましたが」
「結果的にたいしたことはしていないのですが、あの術を破っていました」
汐音君は軽く言っているが十分たいしたことだった。
「そんなことないですよ。魔法に関してはまだ素人なはずなのに破るだなんてすごいです。どうやったんですか?」
と興味津々でサラさんが訊ねる。
「私も聞きたーい」
冬華ちゃんも手を上げて裏の功労者の話を催促する。
「ん~本当にたいしたことではないですからね」
そう前置きをしてから汐音君は語り始めた。
「転送された後、戦力的に私一人じゃ危ないと思いまして、みんなと合流しようと行動に移しました。その間に誰かさんたちが何度も転送されたおかげで、あの転送魔法の効果がわかってきました。」
このとき冬華ちゃんとカルマが引き攣った笑みを浮かべていたことは言うまでもない。汐音君は続ける。
「みんなも気付いたと思いますが、あの転送魔法は対象の位置が確認できないと転送できないものです。その点は本当に助かりましたね。そうポンポン転送されては自分のいる位置がわからなくなってしまいますから。で、移動中にたまたま魔物が固まっているところに出くわしたのですが、その時にまた転送がはじまったんです。まわりは光に包まれていたんですが、魔物の中に一際光っている物があったんです。そしてそれは最初に転送されたときにも4本の光の柱が目の端に映っていたことを思い出し仮説を立てることができました」
「光っている物……」
サラさんが反芻ししばらく黙考すると呟く。
「触媒ですか」
「はい。ここからは仮説ですが、あれほどの広域魔法です、発動はアルマが行うにしても発動キーやそのほかに触媒が必要なはずです。結界を張るような、ね。先ほどの話に戻りますが、『光っていた物』それが台座の上に設置されていた魔石だったのです。おそれくこの魔石が触媒だろうと判断しこう思いました。『この手の魔法は結界と同じように四つの魔石の内一つでも破壊されれば発動しなくなるのでは』と」
「しかし、破壊するにしても魔物が守っていたのでは? 一人では難しかったんじゃないですか?」
とサラさんは訊ねる。
「はい、ですから魔物に邪魔されないように少し離れた屋根の上から弓矢で射貫いてやりました。動かない的なんて当てるのは簡単ですからね」
汐音君は簡単と言うが、実際にはなかなかの難易度のはずだがあれを見ているから納得できる。
「たしかに、あの距離からアルマの持つ魔石を射貫くことのできる汐音さんなら容易でしょうね」
サラさんも感心するように納得する。
「あの時の汐音ちゃん超イケメンだったもんね~」
と冬華ちゃんはニヒルに笑う汐音君を思い出すと頬を両手で押さえ惚けている。
「何ですかイケメンって。それは男性に使う単語でしょう」
汐音君は若干ムッとして言う。
「え~かっこよかったよ~それに比べて誰かさんは……よっしゃ、こいやーだもんね、ププッ」
冬華ちゃんはまた思い出し笑い出す。もうこれで何度目だろうか、よく飽きないよね。
「しつけーよお前!」
カルマは顔を赤くし声を荒げる。
「だって面白いんだも~ん」
冬華ちゃんはなおも続ける。この子ホントはカルマのこと好きなんじゃないのかって疑ってしまう。
「まあまあ、あの後カルマも頑張ってくれたし……」
実際にあの後、街に残っていた魔物はカルマがほとんどを倒していた。
「え~あれってただのヤケクソ? 八つ当たり?」
せっかくの僕のフォローを冬華ちゃんは頬に指をトントンと当てながら台無しにする。
「このガキ……もう許さねぇ! 勝負だ! 表出ろ!」
カルマは立ち上がり冬華ちゃんへ指を差し勝負を挑む。もう表に出ているが……
「イヤです~、弱い男と勝負しても面白くありません~。強くなってから出直してきなさ~い」
そういうと冬華ちゃんは右目の下まぶたを指で下げ舌を出しあっかんべをすると逃げ出す。
「バカにしやがって! 待ちやがれ!」
とカルマは追いかけだす。
「待ちませ~ん。追い付けるもんなら追い付いてみなさい」
二人は走って行ってしまった。なにこれ、お約束? これが青春なのかね~。
あのあっかんべはちょっと可愛かったことは黙っておこう。
取り残された3人は溜息を吐いて肩を落とす。
「とにかくあんな手を使ってくる敵もいるってことを頭の片隅に置いておこう」
「「 はい 」」
二人の返事を聞いて僕は話を変えた。
「ところで汐音君、ずっと気になってたんだがあの距離でどうやってあんな小さな魔石に矢を命中させたんだい?」
そこにはサラさんも興味があるようで汐音君に視線を向ける。
「さすがにあの距離ですから魔法を使いましたよ。使った魔法は三つです」
「三つ?」
「はい。私が補助系の魔法を使えるのは知っていますね? ですからまずは目視するための魔法『索敵の目』。それから矢の威力を上げるための『魔力の矢』。そして目標に命中させるために『誘導』を使いました。あ、名前は私が勝手に付けたんですが……」
と汐音君は恥ずかしそうに言う。
三つ同時か……すごいな。
「三つの魔法を同時に行うなんてとても魔法が素人だとは思えません。誘導なんて発想も面白いですし、もうこれは才能ですね」
サラさんは興奮気味に言う。
「そ、そうですか? 私は会長や冬華ちゃんのような剣技はありませんから魔法をうまく使っていくほかなかったんです。足手まといにはなりたくなかったので……」
汐音君は伏し目がちに言うが、そんなことは断じてない。
「足手まといなんてことはないよ。今回もそうだけど汐音君のおかげでいろいろと助かっているからね。僕一人じゃ冬華ちゃんを止められないから」
と僕は冗談めかして言うと
「そこはお一人でなんとかしてもらいませんと困ります」
きっぱりと言われてしまった。僕は一つ咳ばらいをして言う。
「冗談は置いておくとして。汐音君は背中を預けられる信頼できる仲間だ。それに汐音君がいるおかげで僕は一人じゃないって思えるんだ。キミは僕の心を支えてくれている。だから自信をもっていいんだよ」
と僕は本心を言った。言ったはいいけど……これは少し恥ずかしいな。
「あ、ありがとうございます」
汐音君はメガネのツルを押さえ少し照れたように俯いていた。
サラさんはそんな光景を微笑みながら見ている。
こうして反省会は終わった……あの二人は今だに戻って来ていないが……




