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強制転送

続きをどうぞ

 雨が止み雲間から日差しが降り注ぎ、地面に浮かぶ水面が日の光を反射する。雨上がりの懐かしいようなどこか切なくなるような独特の匂いが嗅覚を刺激する。

 どうも、私の名前は青山汐音(あおやましおん)高校2年の17歳。学校へと登校中に異世界へ召喚され、紆余曲折し今レインバーグという街で一人孤立しています。そう、孤立しているのです。

 私たちは正面からやり合うのは得策ではないとサラさんに説得され、策を考えることになりました。魔物が組織的に動かれると厄介と判断し、先に指揮者、アルマを排除しようということになりました。アルマさえ捕らえてしまえば魔物の群れなど烏合の衆、倒すのは容易になります。なので街へ侵入後、魔物を確固撃破しつつアルマを見つけ出し捕らえる手はずに決まりました。

 翌朝私たちはレインバーグへと向かい、街へ侵入したのです。

 ですが、全員が街へ足を踏み入れた瞬間、地面が光り魔法陣が浮かび上がりました。そして私は街の片隅、時計台の位置から見て街の南東に転送されました。私、一人で転送されました。


 少し長めのモノローグを終えると汐音は一人ごちる。

「(なぜ、こんなことに……戦力的には私が一番心もとないというのに……)」

 汐音は一つため息をつく。

(きっとみんなバラバラにされたでしょうから、合流することを考えた方がいいですね。この際カルマさんでもいいので見つけなければ……)

 そう考えた汐音は、仲間と合流すべく瓦礫の影に隠れながら進む。すると魔物が一か所に固まっているところに出くわした。

 汐音は見つからないように廃屋へと体を滑り込ませる。

 汐音が魔物の様子を窺おうと窓から覗き見た瞬間、また(・・)地面が光り魔法陣が浮かび上がった。

「(またですか……)」

  最初に転送された後、同じように魔法陣が浮かび上がったのは今ので3回目となる。にもかかわらず汐音は転送されることなくその場に残されていた。

(やはりそうですか。おそらくこの術オートではなくアルマがを発動しているのでしょう。私が転送されないのは私の所在がわからないから。対象の位置がわからないと転送できないのでしょうね。ということは今までの3回は誰かがアルマを見つけて捕らえようとした際に飛ばされたのでしょうね。アルマが先に見つけたのなら魔物を送り込むでしょうし)

 そう考えた汐音はあることに思い当たり呟く。

「(3回も……同じ人ではないでしょうね。心配な子がいますが……)」

 そう呟く汐音の目の端に別に光るものが入っていた。



 街の北東、カルマの頭上に一人の少女が降ってきた。

「キャ————!」

ドスン!

「グフッ」

「いった————ぃ、もうあのニューハーフムカツク――――!? 何度も転送してくれちゃって!」

 冬華は怒りで地面を踏みつける。

グニャリ

「ん?」

 地面の感触がおかしいことに気付き冬華は地面を見る。そこには冬華に踏みつけられているカルマがいた。

「うわっ!? あんたなんで私の足元にいんのよ!」

 冬華の理不尽な物言いにカルマは怒りを露わにする。

「お前がオレの上に落ちてきたんだろうが!」

「え、そうだっけ? そんなことよりあのニューハーフよ! 今度こそ捕まえてやるわ!」

 冬華は話を誤魔化しつつ、意気込んで見せる。カルマは腰をさすりながら訊ねる。

「イテテテ、ニューハーフってなんだよ?」

「何言ってんのよ。アルマよアルマ! さっさと捕まえに行くわよ!」

 そう言って冬華はアルマのもとへと向かおうとする。

 カルマはそんな冬華を慌てて止めに入る。

「ちょっと待て!」

「なによ?」

 冬華は顔を顰めて言う。

「お前さっき何度も転送されたようなこと言ってなかったか?」

 カルマがそう訊ねると冬華は身を乗り出して怒りをぶつける。

「そうなのよ! あいつもう少しってところで転送するのよ! ムカツク~!」

「それで2回も転送されたのか?」

 呆れたように言うカルマに冬華は怒りが収まらないように言う。

「そうよ! それがなによ!」

「ハァ、お前バカなの?」

 カルマは溜息を吐いて言った。そんな態度のカルマに冬華は怒りを込めて言い返す。

「なんですって! バカって言う方がバカなのよ!」

 カルマはやれやれとデ〇ーロバリに両手を広げて頭を左右に振り口を開く。

「あれはどう見てもアルマの術だろうが、正面から突っ込んでもまた転送されるだけだぞ。あの術を何とかしねぇと……」

 冬華は不満げにカルマを見る。

「まぁ、そうだけど。あんた詳しいわね……ひょっとしてあんたも飛ばされたクチ?」

「……」

 カルマは無言になる。

「ププッ~、やだ~カルマさんも飛ばされておきながら偉そうなこと言ってらっしゃるわ~、恥ずかし~」

 冬華はニヤケ顔で口に手を添えながらからかう。

「学習しねぇで2回も飛ばされるヤツよりましだ!」

「なによ!」

 ウ~っとしばらく二人は火花を散らし合った。そして先に動いたのは冬華だった。……手を出したわけではない。

「フゥ、術の正体を暴くにしてもあいつに近づかないといけないでしょ。仕方ないから見つからないように行きましょ」

「お、おう」

 急に真面目モードに入った冬華に戸惑いつつもカルマは返事を返す。

 そして二人はアルマのもとへと足を向けた。



 街の西側、僕は魔物と戦っていた。

「おぉぉぉぉ!」

 剣を横薙ぎに振り抜きゴブリン2体を屠る。

ギィヤァァァァァァ

 しかし魔物の断末魔が響き渡り、その声に呼び寄せられるように魔物が現れる。

「キリがないな……まあ、数は少ないからそのうち来なくなるだろうけど」

 僕はそう思い剣をゴブリンに向ける。すると、一陣の風が吹き風刃がゴブリンの首を刎ねる。

 僕はこの光景に見覚えがあり風の発生した方に視線を向けた。

「光輝さん、何をしているんですか!?」

 サラさんだった。そりゃそうだ、風の魔法は別に珍しくもなんともない。この世界ではだけど……

「魔物を倒してました」

「一人でなんて危険過ぎます! まずは皆さんと合流しなければ」

 僕は見ればわかるようなことを言い、サラさんにお叱りを受けてしまった。

「僕もそのつもりなんですが、魔物の目の前に転送されてしまいましてなかなか……」

 僕は頬を掻きつつ言い訳をし、続けて言う。

「幸いにも合流できましたし行きますか」

「そうですね、皆さんどこにいるんでしょう?」

「たぶんアルマのところへ行けば会えますよ」

「なぜそう思うんですか?」

 僕はサラさんの疑問に答える。

「冬華ちゃんがアルマのところに何度か行ってるみたいだから」

 転送されてから何度も魔法陣が浮かび上がったことから、誰かが何度もアルマのもとへたどり着きそして転送されたのだと、そして相手の位置がわからないと転送できないのではと僕の推測を説明した。

「なるほど、確かにその可能性はありますね。でもなぜ冬華さんだと?」

「さすがに正規兵のカルマは1回で思いとどまるでしょう?」

 僕は簡潔に答える。

「なるほど」

 サラさんは苦笑いを浮かべて納得した。


 時計台、おそらくアルマはここにいるだろう。僕とサラさんは同じ考えだった。

 僕たちがはじめに転送させられた場所が見え、尚且つまわりから接近してくる者がすぐにわかる場所といったら時計台しかなかったからだ。破壊されているとは言えそれでも見晴らしはよさそうだ。

「見つからないように隠れていきましょう」

「はい」

 サラさんは短く返事をした。

 時計台へ来ると、時計台を上ろうとしている怪しい二人組が目に入った。冬華ちゃんとカルマだった。何やら小声で言い争っている。

「(早く上りなさいよ! 見つかっちゃうでしょ!)」

「(わかってるから押すんじゃねぇよ!)」

「何してんの?」

「!?」

 僕の問いかけに二人は声にならない悲鳴を上げて硬直する。声を上げられたら見つかっちゃうところだった。危ない危ない。

「(コ、コウちゃん!? 驚かさないでよ! 心臓が止まるかと思ったじゃない!)」

「(わるいわるい、ついね)」

「(ついじゃねぇよ!)」

 二人は顔を赤くして怒ってしまった。ずいぶん仲良くなったみたいだ。

「(いいから早く上りましょう……あれ? 汐音さんは?)」

 サラさんは冷静に指示を出し、一人いないことを訊ねた。

「(そっちにいないの? こっちは私たちだけだよ)」

「(汐音君なら大丈夫だろう。彼女は慎重派だから。先にアルマを押さえよう)」

 僕はそう言い螺旋階段を上りはじめる。

 時計台の頂上、そこは本来の時計台で言うなら3分の2くらいの高さであるが十分な高さである。上り切り、木製の扉を音を立てずにゆっくりと少し開ける。覗き見ると、そこは元倉庫だったらしく、中央に木箱が置かれていた。まわりはもちろん天井や壁はなかった。下に落ちているのを見ているから当たり前ではあるが……その木箱にアルマが腰を掛けていた。

「(アルマいますか?)」

 サラさんが小声で訊ねてきた。

「(はい)」

「(すみません、見せてもらえますか?)」

 そう言ってサラさんは扉の隙間から覗き見る。その間後ろの二人は息を呑み黙って見守っている。静かな冬華ちゃんと言うのもなんだか新鮮だ。そんなことを考えているとサラさんが振り向き状況を説明してくれた。

「(アルマの持っている魔石、おそらくあれが転送の術の発動キーだと思います。あれを気付かれずに破壊、もしくは奪い取ればいいかと)」

「(そういうことなら私に任せて!)」

 そういうと冬華ちゃんは意気揚々と扉の前に出てきた。……嫌な予感がする。

 冬華ちゃんは指鉄砲の構えを取る。

「(ちょっ!?)」


「(水の弾丸(ウォーターバレット)!)」


 冬華ちゃんの指から水の弾丸が放たれた。やっちゃった————!?

 水の弾丸はアルマの持つ魔石へと一直線に飛んで行き……当たらなかった。

「うそっ!?」

 冬華ちゃんは驚きの声を上げる。

 アルマは魔石を下に下げて躱し、こちらを見て整った顔を歪ませてニヤリと笑っている。

「何がうそっだ! バカなの? お前! 魔法なんてぶっ放したら魔力探知されてバレるだろうが!」

 カルマが抑えきれずに冬華ちゃんを怒鳴りつける。

「だって、そんなの知らないもん!」

 可愛く行ってももう遅い。僕はすぐさま声上げる。

「いいから、急いであれを壊すぞ!」

 僕はそれだけ言うと抜いた剣に光を纏わせる。後ろから冬華ちゃんとサラさんも飛び出して来て魔法を放とうと手を前に突き出す。

 しかし、

「残念、もう遅い!」

 アルマはそう言い放つと魔石に魔力を注ぎ術を発動させた。地面が光り魔法陣が浮かびあがってくる。

「アハハハハハハハハハハッ!」

 アルマの笑い声が辺りを包み、カルマの「クソッまたか」と吐き捨てる声が聞こえてくる。光が強くなっていき転送がはじまろうとした、その時突如その光と魔法陣が消えた。

「ハハハハハハ……ハ?」

 アルマは大口を開けたまま固まった。結構な間抜け面で綺麗な顔が台無しだ。

「え、なに? どうなったの?」

 冬華ちゃんが頭を押さえて誰ともなしに訊ねてくる。

「わからない、けど術は不発だったみたいだね」

 僕はそういうとアルマを見た。アルマはもう一度術を発動しようとしていたが何も起こらなかった。

「クソッ、なぜだ? ……まさか!?」

 アルマはキョロキョロとまわりを見渡しはじめた。

 すると、ヒュンッという音と共に一本の矢が飛んで来てアルマの腕をかすめる。

「クッ!?」

 アルマは腕を押さえ矢の飛んできた方を見る。いや、ここにいる全員が見た。

 そこには所々破壊された街並みが見えただけで誰も……あ、いた。はるか先に弓を構えた人影が。もちろんそれは汐音君だった。

「あんなところから届くのですか!?」

 サラさんが驚愕の声を漏らす。

 そして再び矢は放たれ、ヒュンッと真っ直ぐに飛びアルマの持つ魔石を破壊した。バキンッという音が響きアルマは後ずさり狼狽する。

「バカな!? 届くどころか当てるなど!?」

 僕たちの目がアルマの方に向いている間に汐音君は屋根から屋根へと飛び移り、猛スピードでこちらに向かって来ていた。時計台近くに着くとその勢いのままジャンプし、時計台の壁のでっぱり部分に足を掛けさらにジャンする。そしてスタッとこの屋上部分に降り立った。

「遅くなりました。一仕事していたもので、ね」

 汐音君はそういうとアルマを一瞥し、フフンと鼻で笑った。

 アルマは悔し気に汐音君を睨みつける。

「ヤバッ、汐音ちゃんイケメン過ぎ……」

 と冬華ちゃんは謎の言葉を発し頬を染めている。隣でカルマが頬を引き攣らせているが今はいい。

「さてアルマ、どうする? 素直に捕まるか、痛い目見て捕まるか」

 僕は二択を提示した。

「そんなの痛い目でいいじゃん。今更素直に捕まんないでよ。私の気が収まらないんですけど~」

 コケにされたことを根に持っているようで冬華ちゃんはそんなことを言う。いやいや、素直に捕まってくれた方が手間がなくていいでしょう。僕がそんなことを考えていると。

「あっはははははは、参ったね~これは」

 アルマがいきなり笑い出した。

「気でも触れましたか!?」

 サラさんが声を上げるが、アルマは首を左右に振り言い放つ。

「いいや、見事だと思ってね。まさか術が破られるとは。まぁ、ワタシの役目はローズブルグの兵力を削ぐこと。役目は果たしたし、これはただの余興だ」

「兵力を削ぐだと? どういうことだ? アルマ!」

 カルマが声を荒げて言う。しかしアルマはそれには答えずに鼻で笑う。

「フン、お前たちの間抜けな面も見れたしワタシはこれで失礼するよ」

「逃がすとでも思っているのか!?」

 僕はそういうと剣を構えアルマに向け駆け出す。

「安心しなよ、置き土産はちゃんと用意してあるからさ。楽しんでくれよ」

 アルマはそういうと僕の剣が届く前に影に消えていった。

「クソッ!」

 この影に消えていく術をなんとかしないことには毎回逃げられることになるぞ。僕が舌打ちをしていると汐音君が何かに気付いたようで声を上げた。

「会長! 下に魔物が集まってきています!」

 下をのぞき込むと魔物がワラワラと時計台に入り込もうとしていた。

「どうするの? コウちゃん」

 冬華ちゃんの問いかけに僕はしばし考えカルマに訊ねる。

「ん~カルマは魔法使えるかい?」

「ま、魔法は苦手なんだよ……」

 カルマは苦虫を噛み潰したような顔で言う。あ~やっぱり? そんな感じしてた。

「ププッ~、カルマさんったら魔法が苦手なんですの~情けないですわね~」

「うっせ~、仕方ねぇだろ!」

 冬華ちゃんは相変わらずな感じでカルマをからかう。

 僕は手を上げて話し出す。

「は~い、じゃあ作戦を伝えまーす。サラさんは階段の下へ向かって魔法を一発撃ちこんでください。あ、広域魔法でちょっと強めなのをお願いします。階段は螺旋階段でしたし、密閉空間ですから下まで届くでしょう。広域魔法使えますよね?」

「はい、大丈夫です」

 サラさんは簡潔に答える。

「その後、生き残りが上ってきたらカルマが仕留めていってください。階段は狭くて一度に上ってこれる数はせいぜいに1、2体だろうから一体ずつ確実に殺れるでしょう」

「おう、任せろ!」

 カルマは胸にドンと拳を当てて答える。

「は~い、残りは外側の魔物に遠距離射撃しまーす」

「はい!」

「了解であります!」

 汐音君は短く返事をし、冬華ちゃんは敬礼をしながら言う。カエルの宇宙人を思い出すな。

「その後は下に降りて最初の作戦通り索敵しながら確固撃破していきます。はい、では作戦開始!」

 僕の合図でそれぞれの役目を遂行していく。

「風よ! 暴風よ! 敵を切り刻め!」

 サラさんの両手から風が巻き起こり階下へと暴風が吹き荒れる。なるほどサラさんはあんな感じで魔法を発動するんだな。

 その後、カルマの「よっしゃ、こいやー!」という声が聞こえてきた。

 こちら側はそれぞれ水の弾丸、魔力の矢、二ノ太刀でそして暇になったサラさんが風の魔法で魔物を屠っていった。

 

 あらかた片付くと下に降りようと階段へと向かった……が、階段の前でカルマが剣を構えたまま固まっていた。何事かと見ると、魔物が上がってきた様子はなかった。どうやら最初のサラさんの魔法で全滅したようだった。

「ププッ~、カルマさんったら何にもすることがなかったんですか~気合入れてたのに恥ずかし~よっしゃ、こいやーって。ププッ」

 冬華ちゃんがこれでもかというほどにからかう。

「うるせー、言うな――――!」

 とカルマは涙目になって叫んでいた。なかなかいいキャラに育ってきているな。


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