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結界防衛

 数日後、キャラバン隊が運搬してきた魔石や物資と共に、避難民からの凶報が届けられた。

 避難民は、レイクブルグから東に行ったところにあるレインバーグという街の者で、数日前、街がレイクブルグ方面から来た魔物に襲われ、そこから逃れてきたそうだ。緊急時には備蓄庫に避難することになっているので、逃げ遅れた人はきっとそこに隠れているはずだと言っていた。そして救援を要請したいとのことだ。

 それを聞いた皆の視線が顔を青くしたレイナ姫に注目した。レイナ姫は自分たちが逃げてくる際に魔物を引き連れてきたのではないかと思っていたのだろう。

 しかし、レイナ姫たち一行は街に被害を出さないために、敢えて街を通らずに危険な渓谷を通って南下してきたのだ。魔物も後を追って来ていたから街は大丈夫だろうと思っていたと。そして、その時に街へ防衛のための兵を送るのは逆に魔物を誘導することになりかねなかったため、それもできなかったと姫の代わりに護衛兵が説明した。

 僕はその旨を姫から聞いていたから知っていたのだが、そうなると街を襲ったのは姫を追ってきた魔物の部隊ではなく、その後から追ってきた部隊がそのまま街道沿いを行ってしまったか、もしくはまったく違う役割の別動隊であった可能性もある。と、僕の考えを言って姫をフォローした。

 しかし、どちらにせよ襲われたことに変わりはなく、レイナ姫は茫然自失と言った様子で震えていた。これも姫の責任ではないのに、生真面目なのか、どうにも自分を追い込んでしまうたちのようだ。

 それにしても姫の護衛兵、最近僕のことを睨んでいるようなんだが、姫に近づく虫に警戒しているって感じか、勘弁してほしいな。

 救援に行くにしても情報がほしいということで少数の斥候を出すことにし、情報が入り次第救援に向かうことになった。それまでに部隊編成や準備を進める形となった。ちなみに僕たちにできることは特になかった。手伝いたくても、マリアさんの娘さんが戻るまで動くことができないからどうしようもないんだけれど。


 ということで、午後からキャラバン隊が運搬してきた魔石で、結界の張り替えをすることになり僕はその警備をすることにした。

 結界の魔石は全部で四つ、東西南北に設置するんだけれど、これを北から順に時計まわりに設置していかなければならない。そして最後に新しく術を発動するのだが、その際に一瞬最後に設置する西側の結界が極端に弱まってしまい、魔物に狙われやすいということだ。なので、僕は西側の警備に着くことにした。

 というのも、これは依頼されたわけではなく、自発的な、まぁ僕が勝手にやっているだけなんだけどね。

 午前の会議の後、マリアさんから……

「午後から結界の張り替え作業があるのですけど、結界を張る瞬間がとても綺麗で、一見の価値ありですよ」

と聞いた。

 ただ見物するだけっていうのも申し訳なく、何せ今のところタダ飯喰らい状態なわけで、少しでも仕事をしようかと思い、勝手に警備に参加しているのである。

「楽しみだね、汐音ちゃん。写メ撮っていいのかな?」

「そうですね、とても綺麗だということですし。撮ってもきっとわからないでしょうからいいんじゃないですか」

「だよね!」

 ……そう、この二人も話を聞きつけ見物に来た口である。ていうか、冬華ちゃん完全に地になってるよ。そんな冬華ちゃんに汐音君もすっかり慣れた様子だ。

「キミたちホントに仲良くなったね」

「でしょ!」

 と言って冬華ちゃんは汐音君の腕に自らの腕を絡める。汐音君は溜息交じりで成すがままになっている。

「手の掛かる娘ができた気分です」

 え、それどういう気分なの? と思ったが、冬華ちゃんはそんなこと気にもせずに鼻歌交じりで腕にしがみ付いている。そしてニヤケ顔でこちらを見る。

「ふふ~ん、コウちゃんいいでしょう。汐音ちゃんの胸フワフワなんだよ~」

「な、なにを言い出すんですか!」

 冬華ちゃんの爆弾発言に、汐音君は顔を赤くしてかなりうろたえている。こんな汐音君も初めて見るな。

 それにしても、冬華ちゃん完全に昔の呼び方に戻ってるな。僕は溜息を一つ吐き出すと、西側の魔石がある台座へと向かう。

「あ、コウちゃん待ってよ~」

 僕に続いて二人も付いて来た。相変わらず腕を絡めたままで……


 魔石の取り換えは順調に進んでいるようで、残すところ西側の一つだけとなった。

 冬華ちゃんたちは待っている間、どこかからか調達してきた串焼きのようなものを食べていた。……お金はどうしたんだろうと思い聞いてみると。

「えへへ~、マリアさんがお小遣いくれたの~」

と冬華ちゃんは悪びれもせず言う。そこは遠慮しようよ。

「わたしは遠慮したんですけどね……」

と汐音君は言いながら勢いが尻すぼみになっていく。結局汐音君も貰ったんだね。

 僕がジト目で見ていると、西門の方が騒がしくなっていた。

 西門の方へ駆け寄って近くの兵士に聞いてみると、魔物の群れが接近しているということだ。結界が弱まっていることに気付いたのだろう。

 兵士たちは門を出て迎え撃つ形となる。張り替えの作業が終了するまでの時間を稼げればいい。もちろん倒しきってもいいのだが、今回は防衛が主だから無理はしないとのことだ。

 一応僕もすぐに出られるようにスタンバっておく。汐音君たちもなぜか後ろにいるんだが……

「二人ともあぶないから下がっていてくれ」

 僕の言葉に、汐音君がきっぱりと答える。

「いえ、空気感に慣れておくためにも少しお手伝いします」

「そうそう、魔法覚えても現場でビビッて使えないんじゃ意味ないし」

 冬華ちゃんも同じ意見のようだが、ただ魔法で魔物を倒してみたいだけなんじゃ……

「いや、でも……」

 何とか下がらせようと説得しようとした矢先、冬華ちゃんに遮られそれどころではなくなった。

「ほら、コウちゃん、余所見しない! 敵もう来てるよ!」

 僕は兵士たちの方に視線を向けると、すでに戦闘は始まっていた。

「……!? 早い!?」 

 まだ結構距離があったように思えたのにもうここまで来ているとは……魔物の種別は、この間のオークに加え犬型のヘルハウンドという構成だ。今兵士たちが抑えているのは先行してきたヘルハウンドだ。しかし数が意外に多い、これでオークが加わると押し切られるかもしれない。

 そう判断し、僕も参戦するために剣を抜き、前に走り出そうとしたその時……


「 水の弾丸(ウォーターバレット)! 」


という声と共に水の弾丸が僕の横を通り越しヘルハウンドを貫通する。

 声のした方へ振り向くと、冬華ちゃんが人差し指を伸ばし親指を立てる指鉄砲のような構えをとっていた。もう一度同じ単語を発すると、人差し指の先にビー玉大の水の玉が現れ回転しながらヘルハウンドめがけて射出された。その水の弾丸に貫通されたヘルハウンドは次々と絶命していく。

「魔法に名前を着けて声に出す必要はないんじゃないかな?」

 僕は思わずつぶやいてしまった。

 冬華ちゃんは恥ずかしそうに言い訳をする。

「マリアさんがイメージしやすいように名前着けてもいいって言ってたから。それにこの方がそれっぽいっしょ?」

 本人がいいならいいんだけどね。そんなことをしてる間にも負傷するものが出てきていた。それを汐音君が回復魔法で治療している。これなら……

「無理はしないように! 危ないと思ったらすぐ門の中に避難するんだ!」

 そういって僕は接近してきたオークに向かい剣を構える。オークの振り下ろした剣を躱しその腕を斬りおとす。続けざまに胴を斬り抜き、振り向きざまに脳天を割る。

 後ろから迫ってきたオークの足に水の弾丸が貫通し、その足が止まる。その一瞬の隙に僕はオークの首を薙ぐ。

 後ろを振り向くと親指を立てて前に突き出している冬華ちゃんが見えた。僕は一つ頷くと次の魔物へと向かっていく。

 冬華ちゃんの援護を受けながら次々と魔物を撃破していき、魔物の数が半数近くまで減った頃にようやく結界の作業が終わったようだった。

 結界が張られる瞬間は見られなかったが、視線の端に映ったのは、四本の柱から虹色の幕が広がって行くところだった。結界が張られたのを確認した兵の撤退の号令を耳にして、僕たちは門をくぐり中へと戻った。

 魔物たちはしばらくは中に入ろうと暴れていたが、しばらくすると諦めて立ち去っていった。

 僕は一つ息を吐き出すと空を見上げた。そこには虹色の幕は消え綺麗な青空が見えていた。そして横から……

「結界張るところ見れなかったーー!」

と両手を両頬に当てた冬華ちゃんの叫び声が響いていた。

 後から聞いた話だと、西側ほどではないいが、他の門にも魔物が来てたらしく増援を送れなかったそうだ。魔物の配置から考えて指揮を執っている者がいるであろうと結論付けた。そしてその者は白い女では? という声が上がり、レオルグ将軍は白い女の行方を掴むために密偵を放ったそうだ。


 その夜、僕は自室で白い女の事を考えていた。

 白い女、モルガナは僕を殺しに来ると言っていた。であるなら、僕がここにいない方が城はしばらく狙われないのではないか? そう考えると、僕がここにいる間にレインバーグへ隊を救援に向かわせるのは城が危険ではないだろうか? レインバーグへ向かった斥候とマリアさんの娘さんのどちらが先に戻るかにもよるが、斥候の持ち帰る情報次第でどう行動するか判断しないと。

 そういえばあの女、

「キサマを手に入れるのはやめだ、キサマは殺す」

と言っていたな。手に入れるとはどういうことだ? 手に入れる手段があるということだろうが、手に入れてどうするつもり……いや、そうか! そういうことならわからなくもない、というか厄介だな。

「あいつら大丈夫だろうな……」

 僕がボソリと呟くと後ろから声を掛けられた。

「あいつらって誰のこと?」

 振り向くと冬華ちゃんが入って来ていた。後から慌てて汐音君が入ってくる。

「冬華ちゃん! ノックしなきゃダメだって言ってるでしょ!」

「いいじゃん、身内なんだし~」

 と冬華ちゃんは汐音君の苦言に口を尖らせて不満を漏らす。僕は一つため息を漏らし二人を椅子に掛けるように勧める。

「それで、どうしたんだい? 二人して」

 僕の問いに汐音君が居住まいを正し、一つ咳払いをして話し始めた。

「えっとですね、マリアさんから聞いたのですが、会長はしばらくしたらここを離れると言うのは本当なのですか?」

「ああ、僕には役目があるからね。でも、ここを拠点にするからちょくちょく戻ってくるよ」

 僕がそう答えると、二人は視線を交わし頷くと真剣な表情を向けてくる。

「二人で話し合ったのですが、私たちも会長に付いて行きます」

 またきっぱりと言い切ったものだ。汐音君らしいが……

「決して安全な旅ではないんだよ。下手したら怪我だけでは済まなくなるんだよ。それでも付いてくると言うのかい?」

 二人の顔が一瞬強張るが、すぐさま引き締めなおすとまたきっぱりと言った。

「それでも行きます。その為に魔法を学んだのですから。それに今日の戦闘で私たちの力がお役に立てることを確認しましたから」

「そうそう! 役に立つよ~私剣の腕だってお兄ちゃんより上だし~」

 確かにアキが道場に顔を出さなくなってからも、冬華ちゃんはずっと稽古をしていた。腕は確かに上かもしれないが……

「私は弓で援護できますし、一人で行くより安全だと思います」

 僕は目を閉じて、黙考する。

 当初は一人で行くつもりであったが、二人の実力次第では協力を頼もうかとも考えていた。実際今日の戦闘はなかなかのものだった。もう少し時間があれば……

「危険であることを承知であるなら、お願いしようか。ただし、出発ギリギリまで力をつけておいてくれ。生き残る確率を上げるためにね」

「はい!」

「うん!」

 僕の了承の意を聞いて、二人は元気よく返事をした。



 この翌日から、僕たちは生き残るためにみっちり鍛錬した。

 そのさらに翌日の夕刻、マリアさんの娘さんたちが帰城した。


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