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会議中

 外の喧噪が収まり、給仕の人が用意してくれた食事を食べ終えたところで二人もようやくいつもの調子を取り戻し、汐音君が僕に話を振ってきた。

「会長、会長はここがどこなのか知っているのですか?」

 汐音君の鋭い問いかけに対しドキリとしたが、すぐさま平静を取り戻し問い返した。

「なぜ、そう思うんだい?」

「人が目の前で亡くなったにも拘わらず、会長は取り乱すこともなく剣を振るっていました。それにあの時、『なんで君たちまでここにいるんだ』と言っていましたので、ここがどこで、どういうところなのか知っているのではと」

 さすがは次期副会長洞察力はすぐれている。細かいセリフまで覚えている当たり意外と冷静に観察していたようにも思える。

 今となっては隠す意味はない、というか隠すつもりもないので僕は知っていることを話しはじめる。

「さすがだね、汐音君の言う通り、僕はここがどこなのか知っている。とはいえ僕の得ている情報は何十年も前のものだけどね。マリアさんが言っていた通りここはゲーティアと言う地で、この城はローズブルグ城のようだね。この地にはここのほかに三つ城が存在するはずだ。そして各々の城であるモノを守る使命を負っている」

 汐音君は話の横から疑問を挟みこんでくる。

「そんな何十年も前のことをなぜ会長が知っているのですか?」

 その疑問に対し、水を飲みながら黙って聞いていた冬華ちゃんが何かを思い出したように口を開いた。

「あ、それっておじいちゃんに聞いたんですか?」

 その冬華ちゃんの的を射た発言に僕は目を見開いて驚き聞き返していた。

「冬華ちゃんも師匠から聞いていたのかい?」

 僕の驚きの声を聞き、冬華ちゃんは慌てたように胸の前で手を振り顔を左右に振り否定する。

「いえ、違います違います。昔おじいちゃんがお兄ちゃんにそんなようなおとぎ話を話していたことを思い出しただけです。わたしにも聞かせてって言ったら、お前にはまだ早いって言って聞かせてくれなかったんですよ。お兄ちゃんだって小さかったのに……」

 冬華ちゃん当時のことを思い出して頬を膨らませて機嫌を損ねる。師匠はアキに聞かせようとしていたのか。

「冬華ちゃんの言う通り師匠から、そして父さんから聞いた情報さ。おとぎ話ではなくね。本当はアキにも聞いてもらうはずだったんだけど」

「お兄ちゃんにも?」

 冬華ちゃんはアキにも聞かせたかったという部分に引っかかったようで顔を顰めながら聞き返してきた。

「ああ、アキにも一緒に来てもらうつもりでいたんだけどね。……あれ以来道場に寄り付かなくなってしまって、話も準備もできなかったから諦めていたんだ」

 僕の残念なような寂しげな表情をしていることに気付いた冬華ちゃんは茶化すようにアキを吐き捨てる。

「お兄ちゃんなんて連れてきても何の役にも立たないからよかったじゃないですか」

 そんな冬華ちゃんに僕は苦笑いを浮かべながら、アキを弁護する。

「いやいや、あいつもやるときはやる男だよ。やらないときの方が多いけど」

「会長、せっかくもち上げたのに、結局落していますよ」

 僕の擁護するような、貶めるような言葉に汐音君は呆れたような表情で言う。僕たちはアキを(さかな)に笑い声を上げていた。

 ちょうどそのとき扉がノックされ、返事をするとマリアさんが入ってきた。

「みなさんよろしいでしょうか? 会議室までお越しいただきたいのですが」

 了承するとマリアさんは僕たちを連れて会議室まで案内してくれた。


 会議室に着くと中にはすでに、おそらくはこの城の高官らしき人達が座っており、上座には広間であった陛下と呼ばれた人と、そのわきに同じくあの場にいた豪華な服を着た女性が二人座っていた。

 僕たちはマリアさんに促され各々席に着席すると、マリアさんが一人一人紹介していき、現状の説明をしていってくれた。

 まずは先の襲撃、魔物の群れはすでに撃退したこと。

 破壊された魔石は予備のもので結界を張ったため長期間はもたないが、近々新しい魔石が届くから問題ないということ。

 白い女モルガナの行方はつかめていないこと。

 そこで僕は疑問に思うことを口にした。

「新しい魔石が届き次第、結界は張りなおすとして、それで安心なのでしょうか?」

「というと?」

 城と城下町を守る任を受け持つ、口髭を蓄えた鋭い眼光のレオルグ将軍が渋い顔で問い返す。

「あの白い女モルガナと名乗っていましたが、あの女、魔法なのかどういう原理かはわかりませんが、影に消えていきました。そのような未知の移動手段があるとするならば一度侵入を許してしまった現在、いつでもまた侵入できる手段を得ているという可能性はないのかと思いまして」

 僕の発言を聞いたレオルグ将軍はマリアさんに問う。

「マリア殿そのような魔法はあるのだろうか?」

 その問いにマリアさんは考え込み、ゆっくりと口を開く。

「ない、とは言い切れません。魔法のすべてが解明されているわけではありませんし、影を使用した移動方法もまた同様です。ですが、印を刻印した場所どうしでの移動魔法は存在しています。しかし、そのためには膨大な魔力を必要とし、実用化はされていませんのでなんとも」

 その答えを聞いたレオルグ将軍はしばし目を閉じ黙考すると、進言する。

「では陛下、結界の要である魔石箇所と例の場所の警備を厳にし民の生活に影響を及ぼさない程度に巡回を増やそうと思いますが」

 その進言に陛下は即答する。

「うむ、そのように進めるがよい」

「ハッ」

 レオルグ将軍は恭しく頭を下げる。

 そして次に現在の世界状況について説明がされた。マリアさんが災厄が訪れることを予見したこと。

 この地にあるモノが封じてあるということ。それが解かれると世界に滅亡が訪れるということ。それを守護する四つある城のうち一つがずいぶん前に滅んだこと。

 それを聞いた途端僕は立ち上がり声を上げた。

「滅んだ!? では封印の一つは解かれたと!」

 その勢いに驚いた周囲の視線が僕に集まるのを感じ気まずげに着席する。そしてマリアさんがそれに答える。

「はい、そういうことになります」

 さらに補足するように別のところから声が上がる。

「いえ、すでに二つ解かれたはずです」

 その凛とした声音(こわね)は陛下の横に座る姫の一人レイクブルグのレイナ姫のものだった。その表情はどこか悔しそうで悲しげに見えた。引き結ぶ唇を開き話し始めた。

「わたくし共の城レイクブルグ城でも召喚の儀を執り行いました。しかしその直後我々も魔物の襲撃を受けたのです。城は湖に囲まれ防戦に特化されておりそうそう侵入されることはないと油断もあったのでしょう。善戦はしたのですが突如形勢が逆転しました。我が方が劣勢と見るや父上はわたくしだけでもと、お供と護衛を付け逃がしたのです。わたくしは避難していたので何が起こったのかまではわからないのですが……ですので、おそらくではありますがすでにレイクブルグの石碑は破壊されたものと思われます」

 レイナ姫はそこまで話すとまた下唇を噛み唇を引き結ぶ。

「そうですか、では一度確認をしなければいけませんね。可能性は低いでしょうが、もし石碑が破壊されていなければ守らなければいけません。それに城の状況も気になります」

 事実確認はしておかなければ、万が一ってこともある。僕はレイクブルグだけでなく二つの石碑について行ったのだが、レイナ姫もまだどこかで城の無事を願っているのだろう。生まれ育った故郷だから簡単には諦められないのだろう。レイナ姫は期待のこもった瞳でこちらを見て礼を言われた。

「ありがとうございます、光輝様」

「い、いえ、勿体ないお言葉で、その、はい」

 あまりにも恐縮してしまった僕は、よくわからないことを言って俯いてしまった。そんな僕を見てレイナ姫は微笑んでいた。

 妙な間ができたところで、マリアさんが一つ咳払いをして、現状説明の続きを話しはじめた。

 残り二つの城うちの一つ、ローズブルグの東に位置する砂漠に囲まれた城、サンドガーデン。そちらからはまだ魔物の群れが現れたという報告は入っていなかった。召喚の儀も準備段階ということで、今のところ無事ということだ。

 説明が終わったところで、僕は視線を落とし指を合わせた手を見ながら考える。

 これからすべきことは、未確認の石碑の確認と守護、破壊されていた場合は修復または代替えの石碑での再封印。現在無事を確認できる二つの石碑の守護。魔物の排除と白い女ことモルガナの探索と討伐。

 これを一人でするにはさすがに無理がある。気は進まないが、二人にも協力してもらわなければいけなくなるかもしれない。無理強いはできないけれど。

 今後のことを考えていると、マリアさんが僕を見て、おもむろに口を開いた。

「光輝さん、あなたのこれまでの反応を見て思ったのですが、あなたはこちらの世界のことを知っているのではないですか?」

 その問いにまわりがざわついたが、僕は素直に答える。

「はい、僕はこちらの世界のことをある程度知っています。しかし、最近の状況については知りえていません。それにこちらの二人は事情を全く知らないので、マリアさんの説明はとても助かりました」

 その僕の言葉を聞いてみんな一様に驚きに表情をしていたが、マリアさんはさらに疑問をぶつけてきた。

「それはどこで知りえたのでしょうか? 元の世界で、ということでしょうか?」

「はい、そうです。僕の祖父と剣の師匠が前回、と言っていいのでしょうか、以前にこちらに召喚されていたので、その当時のことを聞いていました。戦いに関しても手ほどきを受けています」

 その言葉にみんなはさらに驚愕の表情を表していた。こっちの二人も目を見開いて驚いていた。

 そんな中、マリアさんは黙って考え込んでいたかと思うと、何かを思い出したかのようにハッとする。

「以前母に五十嵐という名を聞いた覚えがあります。確かそちらの方の名も」

「ええ、彼女は僕の剣の師匠のお孫さんになります。ですが先ほども言いましたが、彼女は何も知りません。僕と違い巻き込まれてここに来てしまっただけです」

 今後のことを思えば、巻き込まれたことは主張しておかなければいけない。意に反して戦いをさせられるわけにはいかないから。その意を酌んでかマリアさんは今後のことを訊ねてきた。

「そうでしたか……ではみなさんはこれからどうなさるおつもりで? 光輝さんにはお力をお貸しいただきたいのですが」

 僕は率直に言い切った。

「僕は封印を守るためにきました。その為の準備もしてきました。ですのでそのように動きます。しかし、この二人を巻き込むつもりはありません。僕が動いている間、保護していただけると幸いです」

 二人は何かを悩んでいるような複雑の顔をしていた。そして思わぬところから低くよく通る声が降り注いだ。

「光輝よ、そなたの決意しかと聞き届けた。その二人は我が城でしかと保護しよう」

「ありがとうございます」

 陛下の温情に僕は感謝し深く頭を下げた。

「我々も光輝さん一人にすべてを背負わせるつもりもありません。できうる限りのことはさせていただきますので、何かありましたら遠慮なく言ってください」

 マリアさんたちの協力を得ることができたところで、僕はどうしても気になっていたことを訊ねた。

「あの、一つお聞きしたいのですが、今回の召喚で僕たち以外にこちらに飛ばされた者はいませんでしたか?」

 こちらの二人は不思議そうに僕を見ていたが、この質問にはマリアさんが申し訳なさそうに答えてくれた。

「はい、おそらくいます。北の地に空間の歪みが生じていましたので。しかしご安心ください。儀式の前にすでに迎えのものが出ています。今頃は合流できていると思いますよ」

 マリアさんは安心させるように笑顔で締めくくってくれた。

「そうですか、よかった……ありがとうございます」

 さっきまでずっと緊張していたのも一因していたのだろう、僕は安堵して脱力した。

 この感謝の言葉を最後にマリアさんはこの会合の終了を告げた。

 陛下方の退出後、僕らはマリアさんに連れられ個別の部屋に案内され一息つくこととなった。


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