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ティムティナ

「もう行っちゃうんだ?もう少しゆっくり静養していけばいいのに。家なら気にすることもないし」

 カレンは不満顔でそう言ってくれるが、一日ロスしているからその言葉に甘えているわけにもいかない。

「ゆっくりしていたいのは山々なんだけど、待ってるヤツがいるからさ」

 と、待っているかどうかもわからない二人の顔が頭を過る。絶対忘れてるだろうなぁ……少し悲しい。

「それって女の子? アキがそう言うのって絶対女の子よね」

 カレンは不満顔をしてそう問い詰める。なにをムキになってるんだか。小首を傾げてしまう。

「ん? 友達だけど男と女だな。半分当たりだ」

「ふ~ん、友達なんだ?」

 信じてないような疑わしい目で俺を見るんじゃない! ホントだし! 俺はカレンのことは放っておいてカノンさんに向き直る。

「お世話になりました。いきなり押し掛けたのに良くしていただきまして」

 実際アポなしで押し掛けた状態なのに、しかも見ず知らず同然の男を泊めてくれた。懐が深いどころの話じゃないと思うんだけれど。有名人とかならまだわからなくもないんだけれど。俺、超無名。

「いえ、いいんですよ。アキさんは命の恩人なのですから。カレンとも仲良くしてくれていますし」

 カノンさんは母性あふれる顔で言ってくれた。カレンも将来こんな感じになるのかねぇ、無理っぽいけど。

「仲良くないし! それとアキ! 無理じゃないら! このあふれ出る母性に気付かないなんてアキもまだまだね」

「微塵も出てないだろ、出てくるのは悪態だけだろ。てかなんでそんな話に」

 話が大きくずれてないかい?

「自分から言ってきたんじゃない。心の声ダダ漏れよ。無名人さん」

 カレンのくせにまたしてもドヤ顔で笑いやがった! てかどこのあたりから漏れてた!

「ウフフ、仲いいじゃない。アキさんさえよければいつまででもいてくれても構わないんですよ」

 いやいやそれはさすがにまずいでしょう。若い女の子がいるんですよ、泊めるのもどうかと思うところなのに。俺は苦笑してしまう。

「ありがとうございます。ですがこれ以上ご迷惑をお掛けするわけにもいきませんので」

「別に迷惑じゃないのに……」

 カレンがブツブツ言って唇を尖らせる。

「まぁ、また来るからさ。それではこれで失礼します」

 俺は二人に挨拶をして村の東門に向かって足を進めた。

「またねぇ、絶対来なさいよねー」

 後ろからのカレンの声に俺は上げた右手を振ってこたえる。



 パラパラと小雨の降る中、俺はレインバーグを一望できる高台の上にきていた。

 カノンさんの話ではこのレインバーグ、魔物の襲撃を受けて壊滅したと噂されているらしい。その話を聞いていた為、直接向かわずに様子を窺ってから進もうと高台に来ているのだが、これは酷いな。

 山の合間に道を塞ぐようにできた街は関所のようにも見える。街を囲う塀は破壊され、家屋は倒壊し、時計台だったであろう建物は倒されている。いまだ多くの魔物が徘徊しているのが見える。結界が張られていたはずなのにどうして侵入されたのか、リオル村と同じく結界の張り替えの際に襲われたのかは、もう知る由もないのだが。

「さて、見つからずに通過するにはどうすれば……ん?」

 今何か……?



 倒壊した家屋の間の路地を二つの影が走り抜ける。魔物の目を盗むように、迷うことなく目的地へと進む。

「ティム待ってよ~」

「バカ、声が大きいだろ、見つかったらどうするんだ。もう少しだからがんばれ」

「うん」

 ティムと呼ばれた少年は額に冷や汗をかきながら周りを見る。まわりに魔物がいないことに安堵し一つため息を漏らす。

「ふぅ、ティナこっちだ」

「うん」

 ティナと呼ばれた少女は、自分とよく似た少年のあとに続いて走っていく。そして壁が崩れた家屋に入って行く。

「ティナあったか?」

「ちょっと待って、どこいったのかなぁ」

「早くしろよ!」

 ティムは外を気にしながらティナを急かして小声で声を掛ける。

「いたーー! クマさんいたよ!」

「バカ、声大きいよ!」

「ティムだって大きいよ!」

 ゴトゴトッと外から壁石のずれる音がした。ティムはそっと外をのぞき込むとすぐそこまで魔物が近づいてきていた。

「ヤバイ、隠れろ!」

 ティムは小声でそういうとティナを伴って、ベッドの影に隠れた。近づく足音に怯えるティナをティムは震える腕で抱きしめる。背中を汗がつたう、心臓の鼓動が早くなる。目を瞑って足音が通り過ぎることを祈る。

 足音がピタッと止まる。ティムは恐る恐る目を開けて顔を上げると、崩れた壁の向こうからこちらを見る魔物と目が合ってしまった。

「!?」

 魔物は口角を吊り上げると、手に持ったナイフを振り上げて飛び掛かってきた。

「わーーーー!」

 ティムはティナをかばうように抱きしめると目を閉じて迫りくるナイフに恐怖し固まってしまった。

 しかし、ズガッと音がしただけで、迫り来ていたナイフが刺さることはなかった。

 右目を薄く開けて見てみると、頭を割られた魔物がベッドに横たわっていた。

「うわぁっ」

「シッ! 声出さない!まだ外にいるから」

 子供とも大人とも取れない声を聞いて、さっと口を押えながら声の主の方に目を向ける。倒れている魔物の背後には見知らぬ男が口に指をあてシーーと言いながら立っていた。

 その男は頭を割られた魔物を見ながらブツブツ何かを言ってる。

「こいつ醜悪な顔してんなぁ。これゴブリンっぽいなゴブリンでいっか」

(この人、何言ってるんだろう?)

 その男は魔物からアイテムを剥ぎ取って、こちらを見る。

「そっちの子苦しそうだよ。腕緩めてあげなよ」

 ティムはハッとなって腕を離し丸くなっているティナに声を掛けた。

「ティナゴメン、大丈夫?」

「ふぅ……うん、平気だよ」

 ティムはティナの無事な顔を確認してまた男の方に顔を向け、外の様子を窺っている男に話しかけた。

「おじさんだれ?」

「おじっ!? ……そこまで老けてはいないだろ。お兄さんと呼ぼうか」

(フード被ってるから顔見えないんだけど。助けてもらったしいいか)

 ティムはそう思い呼びなおす。

「お兄さん、だれ?」

「ん、ここで長話するのもなんだし、とりあえずここから逃げようか」

「う、うん」

 二人が近くまで来たのを確認すると男は外へ出て行こうとする。

「待って、こっちだよ」

 ティムはティナの手を引いて、男と一緒に、来た道をたどり路地を抜け倒壊した家の隙間を通り崩れた外壁をくぐって街の外にでた。そのまま森の中を北へ向かって山の麓にある洞窟に入って行く。入り口は魔法が掛かっていて魔物にも、ここを知らない人にも見つからなくなっている。入るとき男はかなり驚いているようだった。



「ここだよ」

 俺は銀髪で瓜二つの顔をした子供たち(双子だよな)に連れられて洞窟にたどり着いた。そこには数多くに人達が生活? していた。いや、避難生活かな。

「ティム! ティナ!」

「「 お母さん! 」」

 一人の美人な女性が二人に駆け寄ってきた。よく見ると双子に面影があるな、目元とか。

「どこに行っていたの! 心配したのよ!」

「ティナがクマ取りに戻るってきかなかったから」

「ごめんなさい」

「無事だったからよかったけれど、こんなこと二度としてはダメよ! それで、そちらの人は?」

 俺の方を見て訊ねる。

「ボクたちを助けてくれたんだよ。名前は……なに?」

「あ、はいはい、俺はアキオっていいます。アキでいいです」

 俺はフードを取って名乗った。

「ホントにお兄さんだー。ボクはティム」

「ティナはティナだよ」

「「 双子なんだよ! 」」

 と二人は母親の足にしがみ付きながら元気よく名乗りを上げた。ホントにってなんだよ。信じてなかったのかよ。釈然としないが双子だから許そう。いや子供だから許そう。

「この子たちを助けていただきありがとうございます。わたしはこの子たちの母でティアナといいます」

「「 ありがとー 」」

 ティアナさんがお礼を言うと二人もそれに習いハモリながら礼をいう。

「いえいえ、どういたしまして。ところでここは?」

 そう訊ねると、奥から白髪交じりのここの代表らしき男性が近づいてきて答えてくれた。

「ここは街の備蓄庫ですよ。今は避難所として使っていますが……救援の方、ではないですよね」

「すみません、違います。えっと、あなたは?」

 たった一人の救援って、どれだけ人手不足だよ。まぁ藁にも縋る思いなんだろうけど。

「申し遅れましたわたしは一応レインバーグで町長をしてますバーグレイと申します」

 バーグレイと名乗る町長は頭を下げて自己紹介をする。

「これはご丁寧に、俺はアキオ、アキと呼んでください。いきなりなんですが、ここは安全なんですか? 近くの村か街に避難しないんですか?」

 ふと思った疑問を口にしてしまった。答えは大体わかっているのに

「入り口は認識阻害の迷彩魔法が掛かっていますから、出入りだけ注意していれば見つかることはありません。避難に関しては、ここから西にあるレイクブルグはすでに魔物に落されていますし、レインバーグには魔物がまだいますから南へ逃げることもできず、我々は孤立している状況です」

 じゃなかったらいつまでも洞窟暮らししてないよな。

「ですが、南へ逃げた者もいますので、きっとローズブルグへ救援要請を出してくれているはずです。備蓄もまだまだありますから、それまでは持ちこたえられると思います」

「そうですか」

 それなら、俺が何かする必要はないか。何かできるってわけでもないんだけど。

 それよりも今は……

「ちょっとお尋ねしたいんですが、俺、人を探して旅をしているのですが、街付近やレイクブルグ近くで俺みたいな黒髪の人か、何か変わったもの見ませんせしたか?」

 まわりの人にも聞こえるように多少大きめの声で聞いてみたが、めぼしい情報は返ってこなかった。が、目の前のちびっ子ティナが元気よく口を開いた。

「ティナ見たよーー」

「マジ! なに見たんだ?」

 俺は思わず前のめりになって顔を近づけてしまい、

「ひっ!?」

バチン

「いたい」

 両サイドから同時に平手打ちをもらってしまった。シンクロ攻撃かよ!

「「 アキ顔近い 」」

 ハモるなよ……そして呼び捨てかよ!俺は一歩下がってもう一度たずねる。

「ゴメン、で、何見たんだ?」

 ティナは思い出しながらゆっくりと答える

「えっとねぇ、おっっっきいコウモリさんがお城に飛んでいったの」

「おっきいコウモリさん?」

「うん、それでね、それを追いかけて行っちゃったの」

「え? だれが?」

「しらな~い」

 ふむ、大きいコウモリが城に向かっていて、それを誰かが追いかけていったのかな? コウモリは魔物だよな? ということは追いかけているのは……総司か!?俺がそんなことを考えていると、目の前の双子が

「おっきいコウモリなんていないよ」

「いたもん! こーーーーんなにおっきかったもん」

 ティナは両手をいっぱいに広げて言う。

「いないよ」

「いたもん」

と言い合いをはじめていた。

「あーーはいはい、ストップね。わかったから、うん参考になったよ、ありがと」

 二人を止めて礼を言うと、ティナは満面の笑みで頷き、ティムは納得いかない顔でぶぅ垂れている。

「参考になったんですか?」

 バーグレイさんが疑わし気な表情で聞いてくる。

「あ、はい。なりましたよ。ありがとうございます」

 そして俺は一つ気になることを聞いてみた。聞いておかないといろいろと不安になるし。

「あの、どうして街は壊滅してしまったんですか? 結界があったはずでは?」

「わからないんです。結界に攻撃されたらすぐにわかるのですが、気付いたら触媒である魔石が壊されていたんです」

「気付かれずに結界内に入って、魔石を破壊した、ということですか?」

「そういうことになります」

 バーグレイさんは困惑した様子で頷く。そんなことがあるんだろうか?

「過去に結界を気づかれずに突破した魔物っていたんですか?」

「いるわけないじゃないですか! いたら結界の強化をお願いしてます!」

「で、ですよね」

 怒られてしまった。結界には絶大な信頼があるらしい。まぁ、命を預けているんだから当たり前と言えば当たり前か。ん~結界の専門家に聞いてみないとわかんないか。そんな知り合いいないけど。

「その辺のことも救援がきた際に聞いてみるしかないですね」

「ええ、そのつもりです」

 バーグレイさんは話は終わったとばかりに話を変える。

「アキ君はこれからどうするんだい? 救援がくるまでここに残るかい? 二人を救ってくれたお礼もしたいし」

「ありがとうございます。でも先を急いでいるので失礼しますよ」

「どこへ向かうんだい?」

「ティナの話のコウモリを追いかけていったヤツを探しにレイクブルグへ、ね」

 俺はティナの近くに膝を着いて、二人で

「「 ねーー 」」

とハモることに成功した。ちっちゃい女の子は愛くるしいねぇ。ティムは不貞腐れているが。

「アキはティナばっかり……」

「ティムティム~女の子には優しくするもんだぞ~」

「だぞ~」

 俺の後にティナが続く。それが気に入らないティムはさらに不貞腐れる。

「ふん」 

「ティム、お前好みのカワイ~イ女の子とオレが言い争っていたらティムはどっちの味方する?」

 少しの沈黙ののち何を想像したのかティムは顔を赤らめ俯いて

「……女の子」

といった。このオマセさんめ。満足のいった答えをいただき俺はティムの肩をポンと叩いて(ティナも同じく叩き)

「うんうん、男なんてみんなそんなもんだ。女の子を守れるような男になれよ!」

「なれよ」

と言ってやった。そんなやり取りを黙って見ていたバーグレイさんが口を挟む。

「今レイクブルグは魔物の巣になっているはずですよ。危険だからよした方がいいのでは?」

「大丈夫ですよ。何も城を取り戻そうってわけではないので、いざとなったら全力で逃げますから」

「「 かっこわるーー 」」

 そんな俺の逃げ腰発言を聞いた双子は仲良くハモっていう。仲直り早いな、おい。

「いいの、後退するのも戦略のうち、生きてさえいれば負けではないのだよ!」

 俺はちょっと渋めの声で力説してあげた。

「「 へ~ 」」

 双子は納得した面持ちで目を輝かせながら俺を見上げてくる。うんうん……純粋すぎる! 心が痛い! そんな純粋な目で見ないで! 俺の汚れた部分を見透かされそうでイヤーー。

「と、とにかく、そういうことなので、俺はこれで失礼します。じゃあな、ティムティナ」

 双子の頭をワシャワシャしながらお別れを告げる。サラサラだなぁ

「「 うん、バイバーイ 」」

 俺は一度外の様子を窺ってからフードを被り直し、小雨の中、西にあるレイクブルグ城を目指し駆け出していった。



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