出会い
【学園戦艦:第三訓練場】
「俺がまだ、中等部だった頃の話だ....」
主に12歳~15歳までの学生たちが通うのが中等部であり、対「dead」戦のための戦闘訓練をするのが目的である。
「その時に一度だけ、実戦に出撃したことがあるんだよ」
「おい、ちょっと待てハルト....中等部の時の出撃って言うと....」
カズヤが慌てて、俺の言葉を遮る。
「そうだ....第二次大規模戦闘....通称”大災害”」
“大災害”....今から約三年前に、連合政府の指示のもと行った大規模戦争のことだ。
世界連合政府は、人類が一向に陸地を取り戻せないことに焦り、大規模な戦争を行うことを決定。
それは、政府直属の“政府軍”や、“昔”の学園戦艦の全生徒....果ては、ろくな実戦経験も無い、中等部までも駆り出して行われた、大規模な戦闘である。
(....大量の犠牲者と引き代わりに、僅かな陸地しか取り戻すことができない、最高の愚策の一つでもある)
なぜ、“大災害”と呼ばれるのか....理由は簡単。
仮に、一回の戦闘で失われる兵士の数が10とするなら、大規模戦闘で失われる兵士の数は、1000から2000.....まさに、自然が引き起こす“災害”そのものの被害になるからだ。
「今でこそ、大規模戦闘は、世界条約で禁止になっってはいるが...昔は大規模戦闘の度に、中等部の奴らを戦場で見かけていたな」
昔を思い出したのか、カズヤどこか、懐かし物を思い出したような顔をしている。
「....その時に何があったんだ?」
「俺たち中等部の学生は、戦力といっても微々たるものだったから...主に後方で先輩方の支援をしていただろ?」
「まぁ、中等部だからな....ほぼ戦力外だろ?」
嫌な思いでもあるのだろうか?....笑顔で答えるカズヤだが....目が笑っていない。
「で、後方にいたのはいいんだが....運の悪いことに、俺たちの配属された部隊の先輩方が臆病でな....敵前逃亡したんだ」
「......」
「後は分かるだろ?....初めての実戦で何もできず....目の前で何人も、仲間が死んでいった.....“死”への恐怖を感じた..」
「.....」
カズヤは俺の話を、黙って聴いてくれていた。
「情けないよな俺....大事な仲間一人、守ることすら...できなかった....」
「...それはお前のせいじゃないだろ?ハルト」
俺を見かねたのか....俺の言葉を遮って、カズヤが言い放つ。
「そうかもな.....正直今でも、あの先輩方のことは忘れられない...」
「....」
「でも、歴史に“もしも”が無いように、過去は変えられない....だから俺は..」
「”俺はもう忘れることにした”....か?」
「.....」
諭すような視線を、俺に向けるカズヤ。
(....こいつは、人のセリフを)
ハァー。
深いため息を吐くと、俺の瞳をまっすぐに見つめ返す、カズヤ。
「なぁハルト?別に俺はな....お前の過去になんか興味はない」
人に辛い過去の話をさせといて...こいつは。
「正直聞いていて、かなり気分が悪くなる話だった....でもなハルト?お前の中でケリがついているなら、それでいいんじゃないか?」
(確かにそうだが...)
「....なんか、軽く受け流していないか?....結構重い話だったんだが」
「だってなぁ?...お前も言ったように昔話だからな、過去に何があろうとお前に対する態度は変わらんよ」
笑顔でこんなことを言っている。
(そうだった.....カズヤとは、こういう男だった)
「ああ...俺もカズヤみたいに、何も悩まずにいられたらな」
空を見上げながら呟く。
自然と、さっきまでの重い気持ちは無くなっていた。
「おいおい、それはどういう意味だよ?ハル....」
カズヤの言葉が途切れる。
「...どうしたんだよ、カズ...」
(なんだ?この気配は?)
ついさっきまで、後ろには誰もいなかったはずだ.....だが今は、明らかに人の気配がする。
「.......」
カズヤは俺よりも早く、気配を感じ取ったのだろう。
チラッ。
互いに視線を合わせ.....同時に、後ろを振り向く。
「....っ」
瞬間。
俺もカズヤも動きが止まる。
そこには少女がいた。
長い銀髪に整った顔立ち....“あの時”のまま何も変わっていない姿...間違いない、こいつは。
「....嘘だろ?......ナナなのか?」
あまりの驚きに、頭が真っ白になる。
「おいハルト....これはどういうことだ?」
カズヤは俺以上に、驚いているようだ。
無理もない....ついさっき、死んだと聞いていた人間が、目の前に立っているのだ、普通なら言葉も出せないだろう。
「わからない.....“あの時”にナナは死んだはずだ....なんで生きているんだ?」
「......」
少女が近づいてきた。
「おいっ!ハルト」
「....ナナなのか?」
「......」
何かを言おうとしているのか、顔を近づけてくる。
「ナナ?」
俺も顔を近づける。
お互いの顔が近づき....そして耳元で少女は言った。
「.......死んで」
「!」
「....ッ!ハルト!」
ドスッ!
腹部に痛みが走る。
俺は膝から崩れ落ち、その場に倒れた。
「こいつ!....おいハルト大丈夫か!ハルト!」
カズヤの声が遠くに聞こえる......ああそうか、刺されたのか....俺。
腹のあたりから、温かい液体が流れているのがわかる。
少女はこちらを見ていた。
「うっ...くっ...ナナ」
少女に向かって手を伸ばす。
「.....」
俺を見つめながら、少女は静かに言った。
「.....またね、ハルト」
「っ!....待ってくれ....ナナ」
薄れゆく意識の中、俺はただ、その名前を呼ぶことしかできなかった。




