過去
【学園戦艦:保健室】
夢を見ていた.....。
幼い頃の記憶、共に学び、訓練した仲間たちとの思い出。
初めての実戦そして....仲間の死。
「.....っ....ナナ」
目を開ける...腹部が痛い。
(そうか....俺は死んだハズのナナと出会い....ナイフで刺されたのか)
「.....!」
「ハルトくんっ!」
「ぐあっ!」
目が覚めた俺に抱きついてくるシズカ....ナイフで刺されたところが痛い。
「ッ....シズカ..傷口が開く」
「えっ?....ああ!ごめんなさいっ!」
慌てて、俺のいるベットから飛び降りるシズカ。
「.....」
そんな俺たち二人をマヤが睨んでいる。
「マヤ?」
「.....私も」
ぎゅ~.....なぜかマヤも俺に抱きついてきた。
「ぐぁっ!...マヤ、ほんとに傷口が開くから止めてくれ」
「.....心配した」
ポツリとマヤがつぶやいた。
「そうだよハルトくん....本当に心配したんだからね」
涙を流していたのか、目を赤く腫らしたシズカが言った。
「二人とも、俺のことをそんなに心配してくれたのか....」
二人の俺を想う気持ちに、思わず涙が出てきてしまう。
「....何があったのかは、ガズヤから聞いている」
「ええ...秘密の任務中に襲われたって」
(どうやらカズヤは、うまく説明してくれたようだな)
「ああ、そうだ....油断したよ」
(二人とも俺の心を読むのが得意だからな、それらしい演技をしないと、襲撃者の正体がナナだった事に気づかれかねないな....)
「.....」
ドスッ!
マヤが不意に、俺の腹部に拳を入れてきた。
「ぐあっ!....マ....ヤ?」
「....私はいつも言っているはず....油断してはいけないと」
普段から表情を顔に表さないが今ならよくわかる....これは怒っている。
しかも、今まで見たことがないくらい怖い顔をしている。
(これは、下手なことを言うとまた殴られかねないな...)
「マヤ?油断した俺が悪いのは確かだ...でもな?殴ることは無いだろ?」
「......うるさい...言い訳しないで」
(ああ、これはダメだ....何を言っても許してもらえそうにない)
シズカの方に視線を向ける。
「シズカ、助け....」
「....」
シズカに助けを求めようと思ったが....俺と目を合わせてくれない。
「....ハルトくんなんて、マヤちゃんに怒られちゃえばいいんだわ」
こんなことをつぶやいている。
(....こうなったら取る手段は、たった一つだな)
ベットの上で正座をする。
「ごめんなさい、本当にすみませんでした」
ベットの上で深々と頭を下げながら謝ってみる。
(...これなら流石の二人でも許してくれるだろう)
「....もう油断しない?日常生活でも?」
「ああ、二度としない.....生活はどうかわからな...」
「....」
マヤが無言で拳を握り締める。
「たとえ寝ている時でも、油断しないことを誓うよ」
「....わかった」
可愛らしい笑みを浮かべるマヤ....その拳はまだ握り締められていた。
(さて、次はシズカか..ここは素直にもう一度、謝った方がいいか)
「シズカも悪かったな....心配かけて」
「....本当だよ、心配したんだからね」
そう言って、俺の胸に顔を付けるシズカ。
(やっぱりシズカは優しいな....なんだかんだ言って許してくれる)
「ところで、さっきから一人....姿が見えない奴がいるんだが」
いつもなら目が覚めて一番にちょっかいを出してきそうな奴がいない。
「ああ、アスカさんなら、さっきまでいたんだけど....」
「....ハルトにいいもの買ってくると言ってどこかに行った」
「そうか...嫌な予感しかしないな」
「?」
不思議そうな顔をしているシズカとマヤ。
(二人とも、まだまだアスカのことを理解していないな?あいつは、俺に対する嫌がらせに関しては、この学園第一位なんだぜ?)
「ていっ!」
ドガンッ!
保健室の扉が蹴り飛ばされ、吹き飛んだ。
「おっ!目が覚めたのか?ハルト~」
「ぐああああっ!」
本日三回目の抱きつきに悲鳴をあげる。
「止めてくれ...アスカ....傷口が開く」
「ん?なんだって、ほらほらアスカ様の厚い包容だぞ!もっと喜べよハルト」
「あああああ...傷が...傷がぁ~」
(アスカも怒っているのか?だから俺にこんな仕打ちを....)
「さてと、苦しむハルトを見るのはこれくらいにして~」
そう言って俺から離れるアスカ。
その顔は涙で濡れて....いなかった。
(実に楽しそうな笑顔だなアスカ....そうだと思ってたよ)
「いやぁ~それにしても心配したんだよ?ハルト」
ガサゴソ....なにやら持っていた袋の中をあさっている。
「カズヤから話は聞いてるよ?災難だったねぇ?」
ガサゴソ....(一体何を取り出す気だ?)
「そんな、可哀想なハルトくんにはこれ!」
ドンっ!
ベットの上に何かが置かれた。
黒い袋に入っている....何かの雑誌?のようなもの。
(これから想像できるものは......)
「なぁ、アスカ....一応俺もケガ人なんだぞ?精神的にも弱ってるんだが....」
「ああ、ごめん一冊だけじゃなくてもっと買ってくればよかった?」
「いや、そういう事言ってるんじゃなくてだな......ってマヤ!」
「....?」
何の雑誌か興味津々のマヤが袋を開けようとしている。
「だめだっ!それはお前が見ていい内容の雑誌じゃないぞ!」
「....」
少しふてくされた様子のマヤだが、おとなしく開けるのをやめてくれた。
「ねぇアスカさん?...この袋の中にいったい、何が入っているの?」
不思議な顔で、黒い袋を見つめながら、シズカが質問している。
「ん~....思ってた以上に、天然な反応に驚いたけど....ハルトに聞いてみ?」
「....ハルトくん?」
(アスカめ....面白がって俺に話を振ってきた)
「いや、違うぞシズカ!そもそも俺はこんなもの頼んでないし、読む気もない」
必死に、黒い袋から、マヤとシズカの興味を無くそうと説明を繰り返す。
「さすがハルトだね~..でもいいのかな?絶対にハルトの好みに合ってると思うんだけどなぁ~」
ニヤニヤしながらアスカが耳元で囁いてくる。
「アスカ....頼むからもう許してくれ....」
(ただでさえ傷が痛むのに、これ以上精神的に痛めつけられたら....死んでしまう)
「アハハッ!分かったよハルト....二人にたっぷとお灸を据えられたみたいだしね」
「本当に楽しそうだな....アスカ」
笑顔でケガ人の俺を弄ぶなんて....さっきとは違う意味で涙が出てくる。
「おいおい....なんだこれは?保健室の扉がなくなってるぞ?」
入口の方から声がする。
「なんだ...聞いていたより元気そうじゃないか、ハルトくん?」
ため息混じりにそんなことを行ってくるレイカ。
「....ご心配どうもレイカさん」
(なぜ少し残念そうなんだ?この人は?)
「ハッ...ハルトさん!大丈夫ですかー?」
そう叫びながら、俺に向かって突っ込んでくるサクヤ。
「ぐっ!....ああ、大丈夫だよサクヤ」
そう言ってサクヤの頭を撫でる。
「うぅ..ハルトさん~」
(....今日だけで計四回も抱きつかれた....間違いなくケガの治りが悪くなったな)
「よっ!よかったです~...心配しました」
涙を流しながらこんなことを言ってくれている。
(自分のチームより、他人のチームであるサクヤの方が、心配してくれているような気がするのは気のせいだろうか?)
「やれやれ、“謎の襲撃者”に刺されたお前を、ここまで運んでやったのは誰だと思ってるんだか...なぁハルト?」
そう言って、こちらにウィンクしてくるカズヤ。
(なるほど“謎の襲撃者”ね....上手く話してくれたな、これなら俺たち以外に“謎の襲撃者”の正体が、死んだはずのナナだってことは気づかれないだろう)
「....」
(....約一名を除いてだが)
「....」
レイカが口に指を当てて何かを考えている。
「この人には作り話は通用しないか」
静かにつぶやき、カズヤに視線を向ける。
「....」
どうやらカズヤも俺と同じ考えのようだ....レイカには後で説明しよう。
「さてハルト、起きたばかりで悪いんだが....校長がお呼だ」
「だと思ってたよ....ああ、何言われんだろ?俺」
頭に手を当てて呻いてしまう。
「安心しろよ、俺もついて行ってやるからさ!」
俺と校長のやり取りを想像しているのか、明らかに面白がっている様子のカズヤ。
(なんだかんだで、全員集合したか....そろそろ頃合だな)
「なぁみんな....校長のところに行く前に、シズカだけに話したいことがあるんだ....すまないが席を外してもらっていいか?」
「えっ?私だけに話したいこと?」
キョトンとしているシズカ。
「なになに?あたし達には言えないことなの?」
「....」
アスカもマヤも明らかに不審に思っている
「すまないな....大切なことなんだ」
いつになく真面目な顔で答える。
「ハルトくん....分かったわ」
何かを察したのか素直に了承してくれたシズカ。
「.....わかった」
「ちょっとマヤ!....ちぇっ」
マヤがアスカの袖を引っ張りながら保健室を出て行く。
(....後は)
チラッとレイカの方に視線を向ける。
「.....」
何かを考えている様子のレイカだが。
「フフッ...私個人としては、話の内容がとても興味深いのだが....野暮なことはしまい、行こうか?サクヤ」
「はわわっ!....分かりました」
残念そうな顔のサクヤを連れてレイカ達も保健室を出て行く。
「俺もお邪魔かな?」
空気を読んだのか、カズヤが聞いてくる。
「いや、カズヤはここに残ってくれ、俺が刺された後のことを説明して欲しい」
「そうか、わかった」
(やけにあっさりと承諾してくれたな....なにか企んでいるのは明白だが、今はそんなこと、どうでもいい)
シズカに視線を戻す。
「シズカ、心して聞いてくれ...」
「何?ハルトくん?」
(本当にこんなことを言っていいのか?....もし間違いだったら)
そんな考えが頭をよぎる。
「...ハルトくん?」
不思議そうに俺の顔を覗き込むシズカ。
「俺を刺した謎の襲撃者....その姿は間違いなく...」
「....」
「...ナナだった」
「....そんな」
口に手を当てて驚いている。
(無理もないか....とっくの昔に死んでいる友の名前が、俺の口から出てくるとは思ってもいなかっただろう)
「だって...“あの時に”ナナちゃんは」
俺とシズカにとって思い出したくない記憶....それを思い出しているんだろう、その瞳には涙で濡れていた。
「シズカ....辛いなら思い出さなくてもいい」
「でも...ナナちゃんは確かに“あの時”に死んで...」
「シズカッ!」
「っ!」
(ああ...俺が思い出したくないだけなのに...シズカを怒鳴ってしまった)
「....」
二人の間に重い沈黙が訪れる。
「あ~....ちょっといいか、二人とも?」
そんな沈黙を破ったのはカズヤだった。
「....なんだよ?」
思わずカズヤを睨みつける。
「そう怖い顔するなよ、俺が思うに二人とも、もう少し冷静になったほうがいいな」
「....」
(こいつ...何も知らないくせに)
「憶測は色々とできるが、今は事実を受け止めるのが先決だろ?」
確かにカズヤの言う通りだ....だが。
「....お前に何がわかるんだよ!」
「っ....ハルトくん!」
傷が痛むのを無視して、カズヤの胸ぐらを掴む。
(ああ、ダメだ....今の俺は正気を失っている)
「分かるさ、少なくとも今のお前よりはな」
「...っ!だからお前に何が分かるって言うんだよ!」
カズヤの胸ぐらを掴む手に力を入れる。
そんな俺のことは眼中に無いとばかりに、天井に目を向けるカズヤ。
「....俺も、仲間の一人を失ったからな」
「!」
衝撃の事実だった。
カズヤとの出会いはこの学園に入学してからだ、今まで一度もカズヤは自分の過去を話したことがないし、別に気にもしていなかった、なのでカズヤの過去のことは何も知らない。
(だが、まさかカズヤも仲間を失っていたなんて....)
「詳しいことは言いたくないんだが...そいつは俺の目の前で“dead”に噛まれたんだ」
“dead”に噛まれる....それが意味することはたった一つ。
今まで共に戦った仲間が“dead”と同じ化物になり、襲いかかってくるということだ。
「最後は俺が看取った....こいつでな」
カズヤは腰のポーチに収まっている、ハンドガン(シグ・ザウエルP29R)に触れる。
「....」
「だからさ....今のお前たちの気持ちはよく分かる」
「....カズヤくん」
(知らなかった、こいつにそんな過去があるなんて、それなのに俺は....)
カズヤの胸ぐらを、掴んでいた手を放す。
「カズヤ、すまなかった...お前の気持ちも知らずに、俺は...」
「そうか...なら一発殴らせろ」
「へっ?」
ドゴォッ!
気がついた時には、カズヤの右ストレートが俺の顔面を打ち抜いていた。
「ガハッ!」
ベッドに叩きつけられる...歪む視界の中で確かに俺は見た。
....カズヤが笑っているのを。
「ちょっと!カズヤくん」
「ぐっ....カズヤ」
「何が”ぐっ....カズヤ”だ...いいかハルト!お前の一番の罪はな」
そう言って、今度はカズヤが俺の胸ぐらを掴む。
「シズカさんを泣かせたことだ!」
大声で叫ぶカズヤ。
「....」
(確かにそうだ...俺は、何も悪くないシズカを怒鳴ってしまった)
「悪かったよシズカ....つい熱くなった」
「ううん、いいの!...私こそごめんなさい」
深々と頭を下げるシズカ....悪いのは俺なのに。
「....羨ましいなハルトのやつ」
何かカズヤがつぶやいているが....小声でよく聞こえない。
キーンコーンカーンコーン。
校内放送の音がする。
「二年四組の暁ハルトくん!校長室までお越し下さい。繰り返します.....」
(あの校長...しびれを切らして校内放送しやがった)
「校長がお待ちかねだぞハルト?」
そう言うと入口に向かって行くカズヤ。
「そうだな...そろそろ行くか」
嫌々ながらベッドから起き上がる。
「痛っ!」
痛みで思わずよろけてしまう。
「あっ!ハルトくん」
倒れる寸前でシズカが受け止めてくれる。
「....シズカ」
「何?ハルトくん」
なぜか顔が赤いシズカに小声で話す。
「俺の見間違いじゃなく、もし本当にナナが生きていたとしたら....その時は」
「....その時は?」
真っ直ぐにシズカの瞳を見て言う。
「必ず連れて帰って来る....必ずだ」
「....フフっ」
笑いをこらえているシズカ。
「なんだよ?なんか変なこと言ったか俺?」
(なにか笑われるようなことを言ったか?俺)
「ううん、やっぱりハルトくんは、ハルトくんなんだなぁって思っただけ」
「?」
訳がわからない。
「おいおいハルト、そこは“俺が救ってみせる”とか言わないとな?」
「なっ!聞いてたのかよカズヤ!」
「はははっ」
笑ってるカズヤ。
(....こいつは本当に)
「....ありがとうな....」
小さな声でつぶやく。
「ん?今何か言ったか?ハルト」
「別に...なんにも言ってない」
「本当か?確かに今何か...」
「そんなことよりさっさと校長のところに行くぞ!」
カズヤを置いて保健室を出る。
「おい、待てよ!ハルト...あっ..シズカさんは教室に戻ってもらって、構いませんから」
何やら後ろの方からカズヤの声が聞こえる。
(さて、あの校長のことだ、何を言われるか分からないから、覚悟しないとな....)
そんなことを考えながら俺とカズヤは校長室に向かった。




