調査
【学園戦艦:二年四組】
校長室で任務を言い渡された後、俺とカズヤは一度、教室に戻っていた。
「さてハルト、気前よく任務を受けたはいいが具体的にどうするんだ?」
「そうだな...目撃者なし、手がかりといっても、使われたの凶器がM16という以外何もないからな.....」
(いきなり手詰まりになってしまったな)
「とにかく、今回受けた任務は、俺たちとアズサ校長以外に知られてはいけない特殊任務だ....シズカさんやレイカ達....仲間達には頼れない」
残念そうな顔をしているカズヤ。
(確かに、あの二人がいれば、色々と俺たちをサポートくれるだろう)
だが.....さっきカズヤが言ったように、任務自体の秘匿性が高いため、無理に二人を巻き込むわけには、いかないのが現実だ。
それに....。
「....殺人事件の“犯人探し”の任務だ、なんて、あいつらに言ったら...なんて言い返してくるか....」
その光景を想像するだけで、寒気がする。
「ああ、とてもじゃないが、言えないな....特に、強襲突撃兵の二人にバレたら....」
そこまで言って、口を閉じるカズヤ。
(お前の言いたいことは、よくわかる....あの二人に、今回の任務のことがバレて、協力したい! と言ってきても.....正直に言って、邪魔以外の何者にもならないだろう)
おそらく今、俺と同じことをカズヤも考えているだろう。
「.....嬉しくない協力だな」
お互いに渋い顔になる。
「これからどうするか、いい考えが浮かばないな....」
「なぁハルト?とりあえず一度、第三訓練場に行ってみないか?」
苦肉の策だが、仕方ない。
「そうだな...まずは事件現場を調べてみるか」
俺とカズヤは第三訓練場に向かった。
「....ここが事件現場だ」
苦々しくカズヤがつぶやいた。
凄惨な、殺人現場を思い出しているのだろう。
(随分と、嫌そうな顔をしているな)
「思っていたよりは....綺麗な現場なんだな」
殺人現場と言うからには、血だまりの一つでも出来ているかと思っていたが、そんなことはなかった。
所々に血の跡があるだけで他には何もない。
「そうだな....既に、現場の調査や清掃も終わっているんだろうな...流石にこの学園の職員は、仕事が早いな」
何かを含んだような言い方をしている。
この場合は、学園への皮肉が込められているのだろう。
(確かに、仕事が早いのはいいことだが...)
チラッ。
もう一度、綺麗に掃除された現場に目をやる。
(死体を片付けるのが早いというのは、良いことではないだろうな....)
”dead”の倒し方を学ぶ為に、建造されたこの学園の性質上、“そうゆうこと”に“慣れて”しまうのは、仕方のないことだが.....。
それでも、殺された警備員のことを考えると....少し悲しくなってしまうのだ。
(結局のは....俺が臆病なだけなのかもな)
「当分この訓練場は閉鎖だろうな....死人が出た訓練場なんて、使いたがる物好きいないだろうからな」
(アスカやカグラなら、むしろ使いたがるだろうな....恐ろしい)
「そうだな」
...あっ。
自分の見落としていたことに、気がついてしまった。
「なぁ、カズヤ...今気がついたんだが」
「?」
「現場の清掃が終わっているなら、調査結果はアズサ校長のところに行っているんじゃないか?」
あっ。
カズヤもさっきの俺と同じ顔になる。
「かもな、どうするハルト?俺が校長のところに行ってこようか?」
「ああ....頼む」
ただでさえ、あの校長と話していると、気分が悪くなってしまうのだ。
自分から、会いにいくなんて....とんでもない!!
(会う回数はできるだけ少ないほうが、絶対にいい...俺の健全な精神の為にも)
「了解、ここの調査は任せたぞ」
笑いながら、カズヤが去ってゆく。
...やはり持つべきは良き友だな。
「さてと、何か見つかるとも思えないが....一応探してみるか」
そう思い、周りを見回りていると....。
「?」
何かが落ちているのに気づいた。
「何だ?」
近づいて拾ってみる。
「これは....お守りか?」
落ちていたのは、何の変哲もないお守りだ。
....ただ書かれていた文字は。
「なんで”安産祈願”なんだ?この学園で持つなら普通、“安全祈願”とかだろうに?」
不思議に思って見つめる。
「.....」
....ふと、懐かしいことを思い出す。
「確か“あいつ”に渡したのも、安産祈願のお守りだったな」
俺が初めて、実戦に出たときのことだ。
入学式後に行われる、チームを組むための簡単な任務。
学園側から選ばれた、四人の生徒が“仮”のチームを組み、任務に出て行き、お互いの相性を測る。
任務自体は簡単で、ケガ人が出ることもなく、無事に終わるものだった。
....俺たちのチーム以外は。
(願掛けとして買ったのはいいが”安全祈願”と間違えて”安産祈願”を買ったんだよな、俺)
それでも“あいつ”は喜んで受け取ってくれた。
「おかしいな....事件が起きてから“あいつ”のことばかり思い出す」
人間が本来持っている、第六感...それが俺に働いているのだろうか?
(そんなはずないのにな....)
そう....“あいつ”はもうこの世にはいない....死んだ人間だ。
“霧夜ナナ(きりやなな)”....俺の、もう一人の幼馴染の名前だ。
俺とシズカとナナ、同じ師匠の元で学び、ともに訓練をした仲間である。
だが....俺たち三人の初めての実戦で、ナナは死んだ...それが事実だ。
「あいつがもし生きていたら、今回の事件の容疑者は、俺じゃなくあいつだろうな」
ナナは俺と同じ師匠の元で戦闘の訓練を受けた。
その師匠の影響で、俺もナナも訓練では、M16を使っていた。
「悔しいが...射撃もナイフも、俺よりうまかったからな、あいつは....」
ハッとなって我に返る。
「何を考えてるんだ?俺は....調査を続けよう」
気を取り直して調査を開始したが.....結局何も見つからなかった。
数分後。
「おーい!何か見つかったか?ハルト」
カズヤの元気な声が、聞こえる。
「散々探し回ったが.....残念ながら何も見つからなかったな」
(お守りのことは隠しておこう...まったく、関係のない物かもしれないし)
「だと思ったぞ、だがな...喜べハルト!」
「?」
「アズサ校長のところで犯人に関するいい情報が手に入ったぞ!」
嬉しそうな顔で報告してくるカズヤ。
「そうか....どんな情報だ?それだけ嬉しそうなんだ、期待してもいいんだろ?」
俺がそう言うと。
「...フフフ」
不敵な笑みをするカズヤ。
「聞いて驚けよ!犯人はなんと....女性らしい」
「へぇー」
(女性か...別に驚かないな)
人間が使う武器が、刀から銃器類に変わってしまった現代。
“兵士の攻撃能力の高さ”ということに対して、男女の性別の差は無いくなってしまった。
銃さえ持っていれば、訓練を受けなくても、それなりの兵士にはなれるのだ。
(まぁ...訓練を受けていない兵士と訓練を受けている兵士とでは...戦闘能力に、天と地の差があるのだが)
現に...俺の周りの女性は全員強い。
「フフンッ!驚いているようだなハルト?」
「いや、別に....なんで女性だとわかったんだ?....あと、なんでそんなにテンションが高いんだ?」
質問する。
「女性だと分かった理由はだな、事件現場から一本の髪の毛が見つかったんだと、長い銀髪だったそうだぞ?女性で間違いないだろう....そして!俺がなんで興奮しているかというとだな....」
「.....」
衝撃の事実にカズヤの言葉が耳に入ってこない。
(....確かにナナは銀髪だった、もし生きていれば、今でも髪は長いままだろう)
「....だからだ!お前もそう思うだろ?ハルト?......ハルト?」
カズヤの声に我に返る。
「ああ、そうだな....」
「.....」
無言でこちらを見ているカズヤ。
....しまった。
「もしかして....犯人に心当たりでもあるのか?ハルト」
「!」
あまりにも、唐突で核心をついた質問で、動揺を隠すことができなかった。
(さすがは、四組の頼れるリーダー、カズヤだな...人の心の動きをすぐに感じ取りやがる)
「その表情から察するに....図星か」
ハァー....。
と、ため息を漏らすカズヤ。
「なぁハルト?今回の任務、ある意味で俺たちは運命共同体と言える....なにか知っているなら話してくれないか?」
真っ直ぐに、俺を見つめながらカズヤが言う。
(...仕方ないか)
「わかったよ、カズヤ」
(....コイツに隠し事は出来ないな)
「ただし、聞いても笑うなよ?」
「そうか...内容によるな」
「.....」
(こいつ.....もし、笑ったら.....ひどい目に合わせてやる)
カズヤに促され、地面に座る。
そして俺は、他人に話したくない昔話を始めた。




