六話、敵になった母の誘い
〔サキュシーカ平原〕
サキュシーカはサキュメア国の側にある平原だ。
アーリアとルミナは基本的にはここで依頼を受けていた。
「今回は何を倒すのだ?」
「ドラゴンだよ、経験値美味しいの」
この三年の鍛錬でドラゴンと戦えるくらい強くなっていた。
「ほほう、ドラゴンとやり合うのは久し振りだな」
サーリアはグランデウスの姫としての仕事もあるため強い魔物と戦うのはかなり久し振りだ。
そのためワクワクした様子を見せる。
「私達はしょっちゅうやり合ってるわ、まぁアーリアが言う通り良い経験値になるからね」
二人が言うレベルで大量の経験値をドラゴンは持っているのである。
「それでドラゴンはどこに?」
「こっちだよ、着いて来て」
アーリアはこっちだと姉とメルティを案内して歩く。
そしてドラゴンが多く集まっている岩場にやって来たがその様子を見て戦慄した。
「なっ….」
ドラゴンが全て殺されていたのだ。
そして岩場の中央には一人の少女が立っている。
「あら?ようやく来たのね?あなた達」
「!」
アーリアとサーリアは立っている人物を見て理解する母だと。
若返っているが娘である二人にはすぐに分かった。
「あはっ、驚いているわね?うふふ…わたしとても美しくなったでしょう?」
ナタリアはアーリア達に近付くと腕を開いて自分の生まれ変わった姿を見せ付けた。
「母上…必ず元に戻して見せます…」
サーリアは母を必ず元に戻すと心に誓った表情を見せた。
アーリアも同じくだ。
「その必要はないわ、私はエイラ様に頂いたこの身体を気に入っているの、だから戻るつもりなんて一切ないわ」
ナタリアはそう言いながら邪悪な笑みを見せる。
そしてアーリアに向けて近付いて来た。
「さてと、私の可愛いアーリア?あなたに話があるのよ?」
ナタリアはそう言いながら我が子の頬に手を優しく触れさせた。
「ダークローズはね?優秀な子を求めているの、だからこそあなたが我々の軍門に降ると言うのならばエイラ様も受け入れて下さる、だから一緒に来なさい」
ナタリアはそう言うとアーリアに向けて手を差し出した。
「行かない!ダークローズは私が追い出されるきっかけになった組織でしかもお母様をそんな姿にした!絶対許さない!」
「もう、まだまだお子様ね?そんな事どうでも良いのよ?強大な力に従うと言う素晴らしさの前ではね?」
ナタリアはそう言うと自身に力を与え心を支配している者に対して心酔した表情を見せた。
今のナタリアはエイラのモノであるのと同時に強大な力を持つ者の所有物でもあるのである。
「うふふ、この力の素晴らしさあなたにも教えてあげるわ」
ナタリアはそう言うとアーリアにゆっくりと近付く。
「!?体が動かない!?」
「あはっ、今のあなたは悪い子だもの、逃げようとするだろうから、動きを封じさせて貰ったわ」
ナタリアは邪悪に微笑みながらアーリアを抱きしめようとしたがルミナが割って入り剣を振るった。
ナタリアは舌打ちをしながら避ける。
「邪魔をしないでくれるかしら」
そして冷たくルミナを見据える。
ルミナは見られただけで体が震えるのを感じる。
ナタリアの強力な力を身体が感じ取ったのである。
「アーリア様は我々にとっては希望易々と連れて行かせたりはしません」
「フン、私を邪魔出来る力なんてないくせに」
ナタリアはそう言うとその身から魔力を放出した。
その力だけで他の三人は吹き飛ばされ体が動くようになっていたアーリアであるがナタリアの接近を許してしまう。
「うふふ、さぁ?アーリア?こちら側へおいでなさいな」
ナタリアはアーリアを抱きしめると唇を奪った。
「んん!?」
アーリアはナタリアから邪悪か力が送り込まれて来るのを感じる。
「くっ!リア!!」
それを見たルミナの声が岩場に響いた。
〔サキュシーカ平原〕
ルミナ達は焦る。
アーリアがナタリアにキスをされた事で魔瘴石に汚染されて魔人になってしまうのでは?と思って。
「ふぅ…うふふ…こんなものかしら?」
アーリアに十分魔瘴を送り込んだナタリアは満足気な表情でアーリアから唇を離した。
「くっ…」
ルミナ達は俯いているアーリアを見て悔しそうな顔を見せた。
「これでこの子は我々の仲間、はぁ?アーリア?あの子達を一緒に殺しましょうか」
ナタリアはそう言ってアーリアを背後から抱きしめると胸を揉み始めた。
「…なんて美しくない服、こんな服あなたには相応しくないわ、帰ったら私とお揃いに着替えましょうね?」
「うん、お母様」
アーリアはナタリアの言葉に返事をしその瞬間に彼女に向けて剣を振るう。
「!」
ナタリアは一瞬で剣を引き抜きアーリアの剣を受け止める。
「どう言う事?魔瘴を送り込んだはずよ!?」
「そうだねいっぱい送り込まれた、でもなんともないよ、だって私魔族だもん」
通常の魔瘴をどれだけ魔族に送り込んでも効果はない。
聖女の加護を受けている人間もだ。
エイラはナタリアがこのような行動に出るとは思っていなかったようでナタリアにその事を教えていなかったらしい。
「そう言う事か…チッ…」
ナタリアはこれではアーリアを自分達の側に引き込めないと舌打ちをする。
「ただの魔瘴じゃダメなのは分かったわ、だからもっと強力な魔瘴で汚染してあげる、さぁ?一緒に来るのよ、アーリア」
ナタリアは一緒に来いと手を差し出すがアーリアは剣を構えて拒否の姿勢を示した。
「連れて行きたいなら倒してからにしなよ」
「私達もだ」
「生意気を言ってはいけないわ?アーリア、あなたは素直な子のはずよ?」
ナタリアはそう言いながら斬りかかって来る。
アーリアはその攻撃を避けてナタリアに蹴りを入れた。
「なっ…さっきは私の方が…」
強かったはずとナタリアは思う。
しかしアーリアは避けて反撃までして来た。
この時点で先程までとは何か違う。
「確かにお母様の魔力は物凄いよ?でもお母様って剣を握った事なんてないでしょ?」
アーリアの言う通りナタリアは王家に嫁いだご令嬢でこれまでの人生剣を握った事がない。
そのため身体能力や魔力量で今のアーリアを上回っていても技量の差でアーリアは優位を取れるのである。
「そんなもの!圧倒的な力さえあれば関係ないわ!」
ナタリアは爆発的に魔力を引き出しアーリア達に襲いかかるがメルティも含めてしっかりと修行を重ねて来た四人に全く攻撃が当たらない。
しかしアーリア達の攻撃は確実に当たりナタリアは三分後にはアーリア達四人からの攻撃で膝を着く事になった。
「私の方が強いのに…」
ナタリアは痛む体を動かしアーリア達を睨むがメルティが浄化の魔法を放とうとしているのを見て慌てて転移して逃げて行った。
「ご先祖様が言ってる、今回だけだって楽に勝てるのは、今回の負けで技量の高い剣士や魔法使いの命を吸い取る事でその人達の技術を今のお母様なら全部奪えるみたい…」
戦闘のために足りないものは他人から奪うのが魔人のやり方だ。
ナタリアも今回の負けを経て人間から技量を盗み次からの戦いに現れるだろう。
「こんな感じに勝てるのは今回だけって事なのね…」
「うん、つぎからは相当な強敵になって現れると思う」
アーリア達はそのように更に強くなったナタリアと戦うためにも鍛錬を行わなくてはと思い別のドラゴンの棲家を探しに向かった。
〔ダークローズのアジト〕
ナタリアがアジトに戻って来た。
「まさか負けて帰って来るとは思わなかったわ」
エイラは帰ってくるなり片膝を着くナタリアの髪を弄りつつ言った。
「申し訳ございません…」
「あはは、良いのよ、これも貴重なデータだしね、そんな事よりもあなたに足りないものを得る作業を始めましょうか」
エイラが指を鳴らすとダークローズが捕らえた確かな技量を持つ者達が現れた。
「コイツらの命と技量を奪いなさい」
「はい、ふふふ、あなた達には私の糧になってもらうわよ」
ナタリアはまずは近くにいた少女に近付くと唇を奪う。
先程はアーリアに対しては与えていたのだが今回は命と技量を吸い取り全て奪う。
「ひっ!!あっ…」
悲鳴を上げた数秒後には少女は絶命しナタリアに技量を与える。
「さぁ?次々と行くわよ?」
ナタリアは楽しげな様子で捕えられた者達の魂を喰らって行く。




