五話、魔人アッシュ
〔サキュメアーレ王城〕
朝起きるとアーリアはサーリアの胸に顔を埋めていた。
「んぅ…」
「あぁアーリア、起きたのか、おはよう」
サーリアは目を覚ましたアーリアの髪を優しく撫でた。
「おはよ、サリーお姉様」
アーリアは笑顔で姉に挨拶するとベッドから降りて服に着替える。
三年前からなんだが好みになったので黒いドレスを着た。
「最近朝はどうしてるんだ?」
「勉強して修行だよ、素振りしたりルミちゃんと試合したりね」
そうやってルミナと試合をしているためルミナもかなり強くなったのである。
「なるほどな、私も暫くは参加させてもらって良いか?お前の剣の指導を出来るはずだ」
「うん!お願い!」
サーリアの剣の技量が高いのは分かっている。
だからこそアーリアはサーリアから教えを受けるのを受け入れた。
「それではまずはレッスンを頑張って来い」
「うん」
アーリアは行って来るねと姉に手を振ると部屋から出て行った。
「懐かしいですわね、レッスン、私も二年前までは受けていましたわ」
グランデウスではレッスンを十五歳まで受けさせる。
そのためアーリアのレッスンも今年までは受ける事になるのだ。
「それでは私達も話し合うぞ、ネーリア、あの馬鹿兄に協力する気はないのは共通認識だよな?」
「もちろんですわ」
〔グランデウス王城〕
ネーリアとサーリアが話し合いを始めた頃。
アッシュは怒り狂っていた。
「役立たずの妹どもめ!」
ネーリアとサーリアがアーリアを殺せなかった事に怒っているのだ。
「あらあら?お怒りだね?」
エイラはアッシュの様子を見てクスクスと笑う。
「ふふっねぇ?妹達がダメならあなたがやれば良いのよ、そのための力は私達が与えてあげるわ?」
エイラはそう言うと魔瘴石をアッシュに見せた。
「これを使ってもあの落ちこぼれに勝てなかったではないか」
「あの二人だからよ、あの二人はあの子を愛していた、その想いが魔瘴石の力を弱めていたの、あの子を殺したいあなたが使えば強力な魔人になれるかもしれないわ」
エイラはどうするの?と首を傾げた。
「…」
アッシュはエイラの言葉を信じ魔瘴石を手に取ると口から飲み込んだ。
「ぐぉぉ…ふはっ!フハハハ!!!!」
最初は苦しんだが邪悪な感情に元々溢れていた心は魔瘴石との相性がよく。
身体を動かすだけが限界であったサーリアやネーリアの時とは違い邪悪な魔力が恐ろしいスピードで生成され始めた。
「はぁぁ…良い気分だ、ククク…」
アッシュは邪悪に笑いながら近くにいる兵に手を向ける。
手から邪悪な魔力を放つとその者は魔人となってしまった。
「素晴らしい…俺こそこの世界の覇者だ!!」
アッシュは魔人を作れるこの力を使ってグランデウスの兵達を次々と魔人に変え始めた。
〔サキュメアーレ王城〕
アーリアのレッスンが終わり談話室に呼ばれた少女はそこにやって来た。
「来ましたわね、アーリア、早速ですが、私達の方針ですが、グランデウスには戻りませんわ、ここに残留します」
グランデウスと言うより兄への信頼がないそのためグランデウスに戻る事は彼がいなくなるまではないのだ。
「私もだ」
それはサーリアも同じ方針である。
「そしてアーリアよ、私の軍はお前の軍門に入る事にする、お前がそのうち建てると言う魔王軍を構成する一部となろう」
「…!ありがとうお姉様」
アーリアは強いと聞くサーリアの軍が入ってくれるのは心強いそう思う。
「私は軍を持っていないのが残念ですわ…」
グランデウスの王族が軍を持つのは十八歳から十七歳のネーリアはまだ軍を持っていないためネーリア一人しかアーリアの軍に入る事が出来ないのだ。
「お姉妹の話は終わったようですね、それでは私のお話を」
「うん、良いよ」
アーリアは姉達の方からメルティの方を向き直した。
「まずは有事の際は聖教会からも軍を送ります、そして大聖女様からの提案ですが、エルフとダークエルフとの交渉をしてみてはどうか?との事です」
エルフとダークエルフは以前の魔王軍の一員であった。
そのためアーリアが交渉すれば軍門に入ってくれる可能性はある。
「それは叔母様とも話していたの、エルフとダークエルフを加えてグランデウスとの戦争を始めるってね」
サキュバスに吸血鬼にエルフにダークエルフ四種族からなる軍ならば大戦力だ。
そのため交渉が成功すればグランデウスとやり合えるだけの軍が完成するとアーリアとルーレリアは考えていた。
「なら次はアルゲイドをどのように復活させるのか?ですが…」
「このサキュメアの国名をアルゲイドに時が来たら変える予定、この城は元々は魔王城だしね」
ゼーリアが討たれ魔王軍が四散した後ゼーリアの従姉妹サキュバスは丁度良いとここに残りサキュバスの国を作り上げたのだ。
そのためアーリアがここに戻りここをアルゲイドの名に戻すと言うのならば国民はいつでも受け入れる準備が出来ている。
「なるほど、その件は大聖女様に報告しておきます、さて決まることは決まりましたし頑張っていきましょうか」
「だね!」
この日ルーレリアの名でエルフの国とダークエルフの国に魔王が会談を行いたいとの内容で手紙が送られた。
〔サキュメアーレ王城〕
エルフとダークエルフの国から返事がすぐに帰って来る事はない。
何故なら手紙が届いて帰って来るまでも時間がかかるからだ。
「お姉様の軍が来た!」
アーリアが勉強していると外が騒がしくなった。
気になったアーリアが窓辺に近付いてみるとサーリア軍がサキュメアーレに到着したようである。
「ご苦労」
サーリアは自身の軍をビシッ!とした立ち姿で敬礼して出迎えた。
「サーリア様、ご報告が」
アーリアがレッスンルームを離れ下に降りて来てドアからひょこ!と顔を出したところで兵のうちの一人が話し始めた。
「どうした?話して見せよ」
サーリアは話すように言う。
「我等サーリア軍はご覧の通り欠員なしで王都を離れここに来ることが出来ましたが…先日アッシュが謎の力を得たようでその力を使い兵達を魔人に変えて行っております…」
「なんだと…」
「操られてた時のお姉様達と同じ力かも」
アーリアの言葉を聞いたサーリアも同じ事を思ったようで頷いた。
「ダークローズの仕業であろうな」
「うん…お母様が心配…」
グランデウスの王都には母ナタリアがいる。
アーリアは無事だと良いが…と心配した。
〔グランデウス王城〕
アッシュの手により魔人が量産されている王城内。
アッシュは迫り来る魔物達が魔人達の力のおかげで押し返せるようになったと聞き満足気に脚を組んだ。
「やはりこの力こそ至高の力だ」
アッシュはそう言いながら邪悪な笑みを深める。
「うっ!アッシュ、母に対してなんのつもりですか!」
アッシュが悦に浸っていると母ナタリアが魔人兵に引っ張られて連れて来られた。
「これは失礼致しました母上、私は利用できる者は全て利用すると言う考えでして、あなた様もあなたの愚かな娘達を殺すための駒となっていただきます」
アッシュはそう言いながら腕を振るう。
すると地面から触手が伸びナタリアの体に次々と突き刺さった。
「ククク、母上、あなたには強力な力を持った魔人兵となってもらう、娘達が母親に殺される、素晴らしい筋書きであろう?」
「あぁぁ!!!」
送り込まれて来る力にナタリアは悲鳴を上げる。
その間にも身体は変異して行き先日のサーリアやネーリアと同じ姿となった。
そしてナタリアは送り込まれた力の影響か見た目が娘達と変わらないくらいに若返りそして娘達が変異した時とは比べ物にならない程の力をその身から迸らせた。
「はぁはぁ、うふふ…」
落ち着いたナタリアは邪悪な笑みを浮かべる。
「おめでとうございます、母上、素晴らしい力ですよ」
「ふふっええ…この力であの子達を殺す瞬間が今から待ち遠しいわ…」
「期待しております、それでは町に出てその身体を試し慣れて来てください」
「ええ、分かったわ」
ナタリアはアッシュの言葉に頷くと王都近くの町に向かって行った。
これから行われるのは新たに現れた女魔人による殺戮である。
〔エルテの町〕
ナタリアが現れたのはエルテの町。
少女の姿となったナタリアは口元に手を当てて笑いつつ力を放つ。
「あはっ、死になさい」
邪悪な力をエルテの町に差し向けたナタリア。
突然地面から生えた棘に住民は次々と串刺しにされて絶命して行く。
「はぁ…うふふ…殺戮、なんと素晴らしいのかしら…」
ネーリアやサーリアと違い魔瘴石が身体を動かしている状態ではなく魔瘴石と融合しその心を完全に邪悪に染めてしまっているナタリアは口元に手を当てながらクスクスと笑う。
「貴様!!」
そうしていると兵が襲いかかって来た。
ナタリアは横目で近付いて来る兵を見据えつつ尻尾で首を刎ねた。
「私に触れすら出来ないくせに私を殺そうとするなど、実に愚かだわ」
そう言ったナタリアは魔法ではなく自らの手で行う殺戮を楽しむのであった。
〔サキュメアーレ王城〕
グランデウスに残っていた数人のサーリア軍の兵達もサキュメアーレに到着した。
彼等は何やら焦った様子である。
「グランデウスで何かあったか?」
妹達とお茶をしていたサーリアは兵に何かあったか?と聞く。
「はい…ナタリア様が…」
兵達はサーリアに起こったことを話す。
「そうか…」
サーリアはやはりそう言うことが起こるか…と思う。
聞いていたアーリアは怒りを見せる。
「私達を産んでくれたお母様になんて事を!!」
母を駒として魔人に変えてしまったアッシュ。
アーリアはそんな兄に対して怒りを見せた。
「やる事が増えましたわね、お母様をお助けしませんと…」
「そうだな」
「うん…」
姉妹は必ず母を助けると頷き合った。
「叔母様、まだエルフ達からの返事はないんだよね?」
「ええまだよ」
「なら私は修行としてギルドに行って来るよ」
母を助けるためにも強くならなければと思うアーリアはギルドに行くと言う。
「分かった、でも注意なさい、あなたが今度行われる戦いの要になるのだから」
「うん、分かってる」
アーリアは叔母の言葉に頷くとサーリアとルミアメルティと共にギルドに向かって行った。
戦闘が苦手であるネーリアはお留守番である。




