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第71話 小銃では戦車を止められなかった

僕は乾パンを飲み込んだあとも、しばらく何も言えなかった。


カフェモカをもう一口飲んだが、甘さもすぐに遠ざかった。


ノートパソコンの画面には、さっき読んだ手帳の最後の文がまだ残っていた。


地面の振動が感じられ始めた。


僕はその文をもう一度見た。


戦車。


その言葉はまだ出ていなかったが、もう近くまで来ていることはわかった。


美咲さんも何も言わずに画面を見ていた。


僕はマウスを動かし、次のスキャンファイルを開いた。


紙はぼやけていた。


しわの跡と染みのあいだに、文字が続いていた。


僕は画面を拡大した。


いくつかの文字はすぐに読めたが、文の流れを追うのは難しかった。


美咲さんの助けが必要だった。


「ここから続いているようです」


僕の気持ちを読んだのか、美咲さんが画面の一部をそっと指した。


僕は彼女が示してくれた部分に沿って、もう一度拡大した。


手帳には、こう書かれていた。


「地面が揺れた。


道の上に黒いものが見えた。


戦車だった。


誰かが撃てと言った。


私たちは撃った。


小銃では戦車を止められなかった。」


僕はその文で目を止めた。


当然のことだった。


歩兵が持つ小銃では、戦車を止めることはできない。


軍隊を経験した人間なら、誰でもわかることだった。


けれど戦場でその当然の事実を知る瞬間は、まったく別のものだったはずだ。


美咲さんは静かに、次の行を指した。


手帳の文字は、さらに荒くなっていた。


「対戦車地雷を持って出ていく者がいた。


肉弾突撃だと言われた。


私はその言葉を初めて聞いた。


爆発があった。


戦車が止まった。


その人は戻ってこなかった。


あとで、彼が誰だったのかわかった。


数日前、私たちの小隊に来た上等兵だった。


私と長い話をした人だった。」


文はそこで終わっていた。


僕はしばらく、画面から目を離せなかった。


美咲さんも同じだった。


カフェの中には、相変わらず静かな音楽が流れていた。


手帳の空気と重なると、なんとも言えない気分になった。


「肉弾突撃……ですか」


美咲さんが慎重に尋ねた。


僕はすぐには答えられなかった。


意味は知っていた。


朝鮮戦争当時の歴史書に記録されている内容だった。


少し前、対戦車武器が不足したらどうするのかという美咲さんの質問に、僕が最後まで言えなかった答えでもあった。


美咲さんがもう一度尋ねた。


「これは、人が直接行くという意味ですか」


僕はゆっくりうなずいた。


「はい。文字どおり、人の体で戦車を止めに行く方法です」


「対戦車地雷?」


「戦車を相手に使う地雷です。普通の対人地雷とは違います」


僕は手帳の文をもう一度見た。


ひとりが前へ出て、爆発があり、戻ってこなかった。


美咲さんの視線も、そこへ向いているようだった。


「これは……特攻じゃないですか」


僕はすぐには答えられなかった。


少しして、検索窓を開いた。


「少し確認してみます」


検索窓に、関係する言葉を韓国語で入力した。


僕が探したのは、肉弾突撃と戦車、そして肉弾十勇士に関するものだった。


検索結果が画面に現れた。


僕はその中のいくつかを、ゆっくり追った。


「肉弾十勇士は、松岳山のほうの戦闘で出てきた話として知られています。そして韓国軍の初期から、すでに『肉弾』という言葉が英雄的な名前として使われていたことがわかります」


美咲さんは黙って画面を見ていた。


僕は検索結果をさらに下へ送った。


すると関連語の中に、日本語の単語がひとつ見えた。


肉弾三勇士。


僕はその言葉の前で手を止めた。


「これは……日本側の資料です」


「日本にもあったんですか」


「はい。昔の日本軍で、爆薬を持って突入した兵士たちをそう呼んだ例があるようです」


美咲さんの顔がこわばった。


僕は画面から目を離せなかった。


肉弾三勇士。


国も戦争も違っていた。


けれど、人を前に立たせたという点では、不思議なほど似ていた。


名前をつけた瞬間、死は命令になり、記録になり、ときには美談になる。


けれど、その下にあったのは、結局、人間だった。


手帳の中のその人は、名前もなく書かれていた。


対戦車地雷を持って出ていった人。


戻ってこなかった人。


数日前、私たちの小隊に来た上等兵。


私と長い話をした人。


僕はその最後の文が気にかかった。


私と長い話をした人。


もしかして。


僕は、さっき後回しにした長いファイルを思い出した。


そのファイルには、これまでの短い手帳の記録とは違い、長い文章が書かれていた。


そのとき、美咲さんが静かに尋ねた。


「どうして、そこまでしたのでしょう」


僕は彼女を見た。


「その人が、ですか」


「はい。命令があったとしても……人が戦車の前へ行くなんて……」


美咲さんは、最後まで言えなかった。


僕は少し考えた。


なぜ彼らは逃げなかったのか。


なぜ戦車の前から後ろへ下がらなかったのか。


それを、ただ命令のためだけだったと言えるのだろうか。


僕は簡単には答えられなかった。


「たぶん、いろいろあったのだと思います」


僕はゆっくり言った。


「命令もあったでしょうし、逃げられない状況もあったはずです。隣にいる人たちが見ているということもあったでしょう。そして……」


僕は言葉を止めた。


次の言葉は、少し慎重になった。


「その人たちは、国をもう一度奪われたくなかったのかもしれません」


美咲さんが僕を見た。


「韓国は、解放されてからまだ数年しか経っていない国でした。国を取り戻したと思ってから、まだそれほど時間が経っていないのに、この前線が崩れれば韓国は滅び、また別の名前の支配が始まるかもしれない。そう感じていたのだと思います」


僕は説明を続けた。


「だからこそ、必ずここを守らなければならないと感じていたのだと思います。祖国の未来のために」


美咲さんはしばらく何も言わなかった。


そして、小さく言った。


「怖いですね。そういうことを考えなければならない状況そのものが」


「はい」


僕は短く答えた。


「あとになってからのことですが、ベトナムでも似たことがありました。南側が崩れたあと、多くの人が船に乗って国を離れました。ボートピープルと呼ばれた人たちです。同じ民族同士の統一だと思っていたのに、実際に統一されたあと、共産党による激しい弾圧が起きたからです」


僕は検索結果をさらに見ようとしたが、長くは見ていられず、画面を下げた。


「もちろん、僕が受けた教育では、そう説明されていました。反共教育の影響もあったと思います」


僕はそこで、少し言葉を選んだ。


「北朝鮮軍は、序盤であまりにも簡単に勝ち進んだことで、あまりにも早く本性を現しました。占領地の民間人を虐殺し、財産を没収し、青年たちを強制徴集しました。共産党の支配が始まれば何が起きるのかを、先に見せたのです」


僕は少し息を整えた。


「韓国軍の一員として北朝鮮軍と戦った人なら、のちに自分も家族も虐殺の対象になるという恐怖に包まれていたはずです」


「そうかもしれませんね」


「もちろん、だからといって、人を前に立たせる肉弾突撃が正当化されるわけではありません」


「はい」


「僕も、それを美化したいわけではありません。ただ……その人たちがなぜ退かなかったのか、対戦車地雷を持って前へ出た理由を、何かひとつだけで説明することはできないと思います」


「そうだと思います」


美咲さんは静かにうなずいた。


彼女は理解したという顔ではなく、理解しようとしている顔をしていた。


その態度が、僕にはありがたかった。


僕は慎重に、また言葉を続けた。


「兵士たちに下された、『国を守れ』という言葉。祖父には、どう聞こえたのでしょう」


「佐伯さんには……」


その言葉を聞いたとき、日本軍の服を軍嚢に入れたまま、韓国軍の新しい軍服を着ていた祖父は、どの国を思い浮かべたのだろう。


そのとき、美咲さんが慎重に言った。


「さっきおっしゃっていた、長い文章が書かれていたファイルのことですけど。もしかして、その上等兵と関係があるのでしょうか」


僕はすぐには答えなかった。


確信はできなかった。


けれど、僕も同じことを考えていた。


「まだわかりません。でも、可能性は高いと思います」


僕は画面の一覧へ戻った。


母が送ってくれたファイルの中に、さっき後回しにした長いファイルが見えた。


短い手帳の紙片のあいだで、それだけが妙に長かった。


僕はカーソルをそのファイルの上に置いた。


クリックしないまま、しばらく止まった。


手帳の中で戻ってこなかった上等兵。


彼と祖父が交わしたという長い話。


僕は、マウスを握る手に少し力を込めた。


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