第149話 私の判断です
「あなたはいったい何者なんですか?」
軍人ばかりのこの場所に、背広を着て現れた。
行動や話し方から、ただ者ではないことはすぐにわかった。
「まず、あなたのお名前を知りたいです。」
少し失礼な質問だったかもしれないが、思わずそう尋ねていた。
「アムゲと呼んでください。」
「アムゲですか?」
「はい。あだ名だと思ってください。」
私の頭の中で、これから彼の名前はアムゲになった。
「さっきおっしゃった特務機関とは、いったい何なんですか?」
アムゲは目の前のコーヒーを一口飲んでから言った。
「この国ができてから、まだそれほど時間が経っていません。そのため、社会のあちこちに穴が空いています。制度もまだきちんと整っていませんし、ふさわしくない者が重要な地位に就いていることもあります。」
アムゲは、少し前に私へ見せた書類を見た。
「こういう者が、その例です。」
「そういう人たちを見つけ出す仕事をしているんですか?」
「やるべき仕事の一つです。それ以外にも、さまざまな仕事をします。」
彼は少し言葉を止めた。
「特務機関の仕事をまとめて言えば、この国の穴を一つずつ埋めていくことです。」
「穴を埋めるんですか?」
「はい。少しでもまともな国を作るために。」
アムゲが私をまっすぐ見た。
「そして、今よりも良い国を次の世代に渡すためです。」
私は彼の顔を見た。
この人が正確にどんな仕事をしているのかは、まだわからなかった。
だが少なくとも、自分のしていることをそう考えているようだった。
「私はただの補給担当の軍人です。なぜ私なんですか? 士官学校出身者や、私より立派な経歴を持つ人もたくさんいるでしょう。」
アムゲが一つの書類を取り出した。
最初のページには、私が軍に入ったときに撮った写真が貼られていた。
「あなたが軍でやってきたことを少し調べました。ずいぶん真面目に仕事をしてきたようですね。そのせいで、あなたをかなり嫌う者も出てきたようですが。」
「私はただ、自分に任された仕事をきちんとやっただけです。」
「それが重要なんです。」
アムゲの声が少し真剣になった。
「自分の持ち場で仕事をきちんとする人間は、権限を持っても、それをむやみに使いません。」
「権限ですか?」
「はい。特務機関の要員になれば、さまざまな仕事をするための権限が与えられます。」
私はすぐには答えられなかった。
アムゲが言った。
「心配しているようですね。」
「正直に言えば、そうです。」
「何が心配なんですか?」
「私に、そんな仕事がきちんとできるのかわかりません。」
アムゲはしばらく私を見てから笑った。
「やはり思ったとおりですね。」
「何がですか?」
「たいていの人間は、こういう提案を受けると、ありがたいと言ってすぐに引き受けます。それどころか、自分に近い人間を特務機関の要員にしてほしいと私に頼んでくる者までいます。」
「そうでしょうね。」
少し前の李少領の態度を考えると、特務機関の要員には一般の軍人にはない、かなりの権限が与えられるようだった。
そのとき、アムゲの表情から笑みが少し消えた。
「ですが、私はそういう人間には絶対に権限を与えません。そういう者には、特務機関の要員になる資格がありません。」
「……。」
「私に必要なのは、権限を欲しがる人間ではなく、権限を与えてもむやみに使わない人間です。」
「私がそういう人間だということですか?」
「はい。あなたは権限を濫用する人間ではありません。」
私はアムゲを見た。
「どうして、そこまで確信できるんですか?」
アムゲは少しも迷わなかった。
「私の判断です。」
「はい?」
彼は、それ以上根拠を挙げなかった。
ただ、自分の判断だと言った。
その言葉を聞きながら、私は慎重に尋ねた。
「もし、その特務機関の要員になったら……。」
「心配しないでください。報酬などはきちんと用意します。」
「それを聞きたいわけではありません。ただ……。」
私は少し考えてから尋ねた。
「パスポートも発給してもらえるんですか?」
私の質問が少し唐突だったのか、アムゲは私をじっと見た。
「パスポートですか?」
「はい。いつか日本へ行くためのパスポートです。」
アムゲがしばらく指でテーブルを叩いた。
私の質問について考えているようだった。
「パスポートの発給を受けるのは非常に難しいです。簡単に出るものではありません。ただし、特務機関の業務上必要だと認められれば、パスポートが発給されるよう手配することはできます。」
その言葉で、私の気持ちは決まった。
私が望んでいるのは報酬でも権力でもなかった。
ただ日本へ行き、千代子さんに会うことだけだった。
「特務機関の要員として任された仕事を真面目にやってくれれば、いずれあなたにパスポートが発給されるよう手配します。約束します。」
その言葉に、私は決心を固めた。
「わかりました。その提案、お受けします。」
私がそう言うと、アムゲが微笑んだ。
「ありがとうございます。この国のために力を尽くしてください。」
彼が手を差し出した。
私はその手を握った。
「特務機関に所属していることは、誰にも明かしてはいけません。」
「はい。」
「二等中士という身分も、そのまま維持されます。」
「わかりました。それでは、これから私は何をすればいいんですか?」
アムゲが一枚の書類を差し出した。
「巨済捕虜収容所へ行ってください。」
「あそこへ、また行くんですか?」
「あなたがあちらの補給業務を担当するよう手配します。仕事をしながら収容所の中を自分の目で見て、内部の雰囲気や妙な動きがあれば、整理して報告してください。」
「私が直接調査するんですか?」
「いいえ。わざわざ人に会ったり、あれこれ聞き回ったりする必要はありません。普段どおり補給業務をしながら、自分で見聞きしたことだけを報告してくれればいいんです。」
アムゲの表情が少し真剣になった。
「現在、休戦協議が進められています。ですが、捕虜送還をめぐる対立が大きな障害になっています。」
私もその話は、何となく聞いたことがあった。
さまざまな問題が重なっていたが、捕虜送還問題が休戦協議の大きな争点の一つだということは知っていた。
「共産側は、捕虜を全員送還するよう要求しています。ですが、自由世界を知った捕虜の中には、再び共産国家へ戻ろうとしない者もいます。」
「そういう人もいるでしょうね。」
「共産側は、戻ってくれば罪には問わないと言っていますが、私はその言葉を信じません。戻った瞬間から、思想的に疑われ、監視される立場になるでしょう。それをわかっていながら、無理やり送り返すことはできません。」
私は何も言えなかった。
アムゲは確信を持って話していたが、私はただ聞いているしかなかった。
そのとき、アムゲが一枚の写真を差し出した。
「この人は?」
写真の男は、以前私を助けてくれた捕虜代表だった。
「知っていますよね? あなたとも面識のある男でしょう。」
「はい。覚えています。」
「この人は、少し前に死にました。」
「え?」
私は驚いて声を上げた。
「自分が代表を務める区画を比較的穏健にまとめていた男です。ですが、親共派の過激な捕虜たちにとっては、それが気に入らなかった。結局、鋭く研いだ鉄片で刺されて死にました。」
「そんな……。」
「そこだけではありません。」
アムゲが、ほかの者たちの写真を見せた。
「最近、別の区画でも複数の捕虜代表が死んでいます。確認できた者たちの共通点は、いずれも穏健派だったことです。」
「そうなると?」
「現在、親共派の過激な捕虜たちが、巨済捕虜収容所のいくつかの区画を事実上掌握しています。」
「そんなところへ私を送るんですか?」
「あなたならできます。すでに補給業務で収容所のあちこちを回ったことがありますから、突然やって来た人間だとは思われないでしょう。」
「ですが……。」
私は以前、捕虜たちに囲まれたときのことを思い出した。
あのときは顔見知りの捕虜代表が私を解放してくれたが、今、その男はもういなかった。
「重要な決断を下さなければならない時期が近づいています。」
「重要な決断ですか?」
「はい。そのためには、まず収容所内部の状況を正確に把握しなければなりません。」
詳しいことはわからなかったが、何かが起きようとしているようだった。
「お願いします。」
私は結局答えた。
「わかりました。」
するとアムゲが明るく微笑んだ。
「ありがとうございます。それから念のためもう一度言っておきますが、特務機関の要員になったことは、あなたの奥さんにも話さないでください。」
朴美來さんのことだった。
書類上では彼女と私は夫婦なのだから、当然確認しているのだろう。
「妻にも話しません。」
朴美來さんと私は何の関係もないのだから、気兼ねすることもなかった。




