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第136話 巨済までですか?

僕は次の記録を確認した。


巨済に到着したあとも、祖父はいつものように補給業務を続けていた。


だが、警備の強化についての内容がところどころに出てきた。


しばらく続いた記録をめくっていると、今度は倉庫の整備についての内容が出てきた。


万が一の事態に備えて、補給倉庫の扉と錠をもう一度確認するよう指示を受けた。

万が一の事態とは何か尋ねたが、上からは答えがなかった。

部下たちと一緒に倉庫を確認した。


その次の記録を確認した。


倉庫の扉を補強している途中、誰かが慌てて走ってきた。

全員退避するよう叫んだ。

人々が急いでその場を離れた。

私も一緒に出ようとして、後ろを振り返った。

倉庫の扉がまだ開いていた。

しばらく立っていたが、もう一度倉庫へ戻った。

中へ入り、扉を閉めて錠を掛けた。


美咲さんが尋ねた。


「どうして戻ったんでしょう?」


「倉庫の物をそのままにして行けなかったからじゃないでしょうか?」


記録には理由が書かれていなかったので、すべて僕の推測にすぎなかった。


僕はそのまま読み続けた。


しばらくすると、外から大きな騒ぎが聞こえた。

叫び声と走り回る足音が聞こえた。

何かがぶつかる音も続いていた。

誰かが倉庫の扉をドンと叩く音もした。

外で何が起きているのかはわからなかった。

かなり経ってから音は少しずつ減っていったが、すぐには扉を開けなかった。


その次の記録へ進んだ。


何時間経ったのかはわからなかった。

外から私を呼ぶ声が聞こえた。

部下たちの声だった。

扉を開けて外へ出た。

みんな無事だった。

倉庫と補給物資にも被害はなかった。


僕は少し止まってから、最後の数行を読んだ。


収容所の中で大きな衝突があったという。

死んだ人もいるという話を聞いた。


美咲さんが言った。


「大きな事件が起きたみたいですね。」


「そうですね。」


僕はノートパソコンを指した。


「これくらいの事件なら、記録が残ってそうです。」


僕は当時の巨済捕虜収容所に関する資料を検索してみた。


いくつか検索語を入れ、関連する記録を確認した。


しばらくして、一つの事件が目に入った。


「1951年12月18日に、巨済捕虜収容所の中で大きな衝突があったみたいです。」


美咲さんが尋ねた。


「どのくらいですか?」


「14人が死亡して、24人が負傷したという記録があります。収容所内の収容者同士で起きた大きな争いが、騒動に発展したと書かれています。」


美咲さんの表情が硬くなった。


「思ってたよりずっと大きな事件だったんですね。」


「そうですね。」


僕はほかの資料も確認した。


「この時期は、収容所の警備兵力も増え続けていたみたいです。」


綾乃さんが言った。


「だから佐伯さんも、前回より緊迫した雰囲気だと感じたのかもしれませんね。」


僕はうなずいた。


美咲さんが言った。


「ここに書かれているのが、さっき話していたあの事件だった可能性は高そうですね。」


「私もそう思います。」


綾乃さんが答えた。


僕たちは関連資料をもう少し確認してから、またノートへ戻った。


そして、一つの文で手を止めた。


朴相吉氏の娘が、ここまで面会に来た。


美咲さんが尋ねた。


「巨済までですか?」


「そうですね。当時の交通事情を考えると、簡単ではなかったでしょうね。」


僕はそのあとの記録もゆっくり読んだ。


いつもより長く内容が続いていた。


読んでいるうちに、そのときの状況が頭の中に浮かんできた。


◆◆◆


私は届いた補給物資の数量を確認していた。


「二等中士殿、面会です。」


私は手に持っていた書類から目を上げた。


「面会?」


「はい。」


今まで一度もなかったことだった。


「奥様がお見えです。」


私はしていた仕事を片づけ、面会場所へ向かった。


そこにいたのは朴相吉氏の娘だった。


そして、その隣には以前私に弁当を持ってきた女性も立っていた。


私は二人の前へ行った。


短く挨拶を交わした。


朴相吉氏の娘が、その女性を振り返った。


「少しだけ席を外してもらえますか?」


女性は私たちを一度見てから、少し離れたところへ行った。


二人きりになると、朴相吉氏の娘が先に尋ねた。


「巨済で大きな事件があったと聞きました。大丈夫ですか?」


「私は大丈夫です。その話を聞いて来たんですか?」


彼女がうなずいた。


「人も亡くなったと聞いたので……。」


私は彼女をしばらく見た。


「朴相吉氏も、ここへ来たことを知っていますか?」


彼女が少し言葉を止めた。


「……いいえ。」


私はそれ以上尋ねなかった。


しばらく沈黙が続いた。


朴相吉氏の娘が先に口を開いた。


「一つ聞いてもいいですか?」


「どうぞ。」


彼女が私を見た。


「日本に、結婚しようと思っている女性がいると聞きました。本当ですか?」


私は少しして答えた。


「はい。そうです。」


誰かが彼女に話したらしい。もしかすると朴相吉氏かもしれなかった。


彼女はしばらく何も言わなかった。


私は付け加えた。


「千代子といいます。」


「千代子……。」


彼女がその名前を静かに繰り返した。


そして尋ねた。


「その千代子さんとは、どうやって知り合ったんですか?」


「日本で知り合いました。」


私は千代子と知り合ったときのことを短く話した。


「それで、日本へ戻ろうとしているんですか?」


「はい。」


もちろん、すぐに日本へ戻れる状況ではなかった。


ほかの人には話していなかったが、戦争が始まる直前、日本へ戻るために財産のかなりの部分をドルと無記名債券に換え、両親に預けていた。


しかし、両親が遭った爆撃によって、その財産のかなりの部分を失っていた。


そのため、今日本へ戻っても、ほとんど身一つで戻るようなものだった。


日本でまともに暮らすには、もっと金を稼ぐ必要があった。


もちろん、彼女にそんな話はしなかった。


朴相吉氏の娘は、しばらく何も言わなかった。


そして、ゆっくりとうなずいた。


「わかりました。」


少しして彼女が言った。


「佐伯さんにとっても、千代子さんは本当に大切な人なんですね。」


「はい。」


私は短く答えた。


朴相吉氏の娘がもう一度尋ねた。


「では、私に何かお手伝いできることはありませんか?」


「大丈夫です。」


「本当に?」


「はい。」


彼女が小さくうなずいた。


「でも、私の助けが必要になったら、いつでも言ってください。」


「わかりました。」


「その代わり……。」


「はい?」


「また釜山へ戻ったら、ときどき面会に行ってもいいですよね? もう父も、それ以上は何も言ってこないと思います。」


私はしばらく彼女を見た。


朴相吉氏から許しを得たという意味なのか、それとも別の意味なのかはわからなかった。


だが、私がそこまで止める理由もなかった。


「はい。そうしてください。」


しばらくして、同行していた女性がまた近づいてきた。


朴相吉氏の娘が言った。


「それでは、いつも気をつけてください。」


一緒に来た女性も頭を下げた。


「私たちはこれで失礼します。」


「お二人も、帰り道には気をつけてください。」


二人は私に挨拶をしてから帰っていった。


私は遠ざかっていく二人をしばらく見た。


彼女もある程度気持ちの整理がついたように見えたので、私も少し気が楽になった。


◆◆◆


僕はもう一度、祖父のノートを見下ろした。


今頭に浮かべた場面が、本当にあのとおりに進んだのかはわからなかった。


でも、ある程度は似たような状況だったのだと思う。


僕はその次の記録を確認した。


短い一行が書かれていた。


朴美來さんが帰った。


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