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第135話 ……ちょっと困りますね

資料の確認を止めて、少し休むことにした。


僕たちはみんなで下の階へ降りた。


美咲さんと綾乃さんは、置いてあったお菓子を一つずつ手に取った。


その間に、僕は預けていたスマートフォンを確認した。


母から着信があった。


「母から電話が来てたので、ちょっと確認しますね。」


「はい。」


お菓子を食べている二人を一度見てから、僕は電話をかけた。


しばらくして母につながり、久しぶりに韓国語で話し始めた。


―資料の調査はうまくいってる?


「はい。思ってたよりいろいろ見つかりました。」


―そう?


「確認できたことも多いですし。祖父と祖母がどういう関係だったのかも、ある程度わかりました。」


ただ、二人の間に何があったのかまで、わざわざ話すことはしなかった。


母がしばらく黙った。


―でも、あんた、こんなに長く日本にいて大丈夫なの?


思ったより長くいることになりそうだとは、以前母に話してあった。


「前に言ったじゃないですか。もう少しいることになりそうだって。」


―それにしても長すぎるでしょ。


軽く日本へ旅行に行くような話をして、そのままずっと日本にいた。


母が心配するのも無理はなかった。


「調査は順調です。もう少し整理すればいいと思います。」


―会社は? こんなに長く日本にいて、会社は大丈夫なの?


いつも会社の仕事に追われていた僕を見てきた母だった。


こんなに長いあいだ会社を離れているのは、不思議に見えるはずだった。


そういえば、まだ退職したことを話していなかった。


この機会に母へ話すことにした。


「会社……辞めました。」


―何?


すぐに反応が返ってきた。


―会社辞めたって?


「はい。」


―いつ?


「日本に来てからです。」


―まさか、このことが原因で辞めたの?


僕はしばらく答えなかった。


今回のことと、まったく関係がないわけではなかった。


でも、その話を母にわざわざ詳しくしたくはなかった。


「その前から会社でもちょっといろいろあったんです。」


―何があったの?


「トラブルが少しありました。韓国に帰ったら話します。」


―会社まで辞めて、何が『少し』なの。


「いろいろ重なったんです。」


母がため息をつくのが聞こえた。


―じゃあ、もう会社にも行ってないのに、いつ帰ってくるの?


「まだ正確には決めてません。でも、ずっとここにいるつもりじゃないから、あまり心配しないでください。」


―ちゃんとご飯は食べてる?


「食べてます。」


―体には気をつけて。


「はい。」


―それから韓国に帰ってきたら、会社の話もちゃんとしてよ。


「わかりました。」


通話を終えると、美咲さんが僕を見ていた。


「お母さんですか?」


「はい。」


僕は二人のほうへ向き直って言った。


「会社を辞めたこと、まだ話してなかったんですよ。」


美咲さんが少し驚いた顔をした。


「まだ話してなかったんですか?」


「はい。タイミングを逃してて。」


そのとき綾乃さんが僕を見た。


「ちょっと待ってください。」


「はい?」


「ハルさん、会社辞めたんですか?」


「はい。」


綾乃さんが目を瞬いた。


「日本にもう少しいることにしたのは知ってましたけど……会社を辞めたのは初めて聞きました。」


「わざわざ話すことでもなかったので。」


「まさか、今回の調査が理由ですか?」


「まあ、それもありますし。いろいろ重なったんです。」


綾乃さんが少し考えた。


「それなら……父の会社のほうに紹介しましょうか?」


「はい?」


「仕事が必要なら。私から一度話してみることはできると思うので。」


そのとき美咲さんが言った。


「彼氏を特別に採用してもらおうって頼むんですか?」


綾乃さんがすぐに答えた。


「あ、それは違います。」


そして、少し言葉を止めた。


何かを考えている様子だった。


「……ちょっと困りますね。」


美咲さんが笑い、僕も笑った。


置いてあったお菓子を一つ取ろうとして、見慣れないものに気づいた。


母恵夢というお菓子だった。


包みを開けると、丸く平たい形をしていた。表面はきつね色に焼かれ、小さな穴が開いていた。


一つ食べてみると、思っていたよりおいしかった。


「今日は思ったよりお菓子をたくさん食べますね。」


「タコスをほとんど食べられなかったからですよ。」


美咲さんが言った。


「そうです。」


綾乃さんもすぐに同意した。


美咲さんと綾乃さんは、いつの間にかこういうところでは妙に息が合うようになっていた。


僕たちは適当にお菓子を食べ、飲み物を飲みながら休憩した。


「じゃあ、そろそろ上に行きますか?」


また上の階へ戻り、資料を確認した。


祖父のノートには、しばらく似たような補給の記録が続いていた。


車両が到着した。

食料と医薬品を受け取った。

数量が合わず、もう一度確認した。

不足していた物資を改めて要請した。


特に変わったところのない記録だった。


その間に、短い個人的な記録が一つあった。


朴相吉氏の娘は、その後私を訪ねてこなかった。


僕はその一文をしばらく見た。


なぜ訪ねてこなかったのか、それについて祖父がどう思っていたのかは書かれていなかった。


そのあとも、似たような記録がしばらく続いた。


だが、もう少し時間が経つと、内容が変わり始めた。


巨済へ送る物資がまた増えた。

軍需物資と警備に必要な物資の量が以前より多くなった。

警備兵力も増えると聞いた。


そしてしばらくすると、また巨済へ行くよう命令を受けたという記録が出てきた。


前回私を推薦した検閲官が、今回も私を推薦したという。


「また、あの検閲官ですか?」


「危険だとわかってて、わざと送った気がします。」


「そんな気がしますね。」


僕は次の記録を読んだ。


再び巨済に到着した。

前回より警備兵が多かった。

以前は見なかった米軍兵士も見かけた。

出入りの確認も以前より厳しくなっていた。

捕虜同士の衝突が増えているという話を聞いた。


僕はそのあとの記録をゆっくり読んだ。


今回は前回よりも緊迫した雰囲気だった。

まるで嵐の前のようだった。


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