第133話 どうなるんでしょう?
タコスを食べてからしばらくして、僕たちはまた資料を確認した。
朴相吉氏からもらった新聞についての記録が出てきた。
朴相吉氏からもらった新聞を読んだ。
平和条約が発効すると、日本にいる朝鮮人たちの国籍も問題になるという。
これからどのような身分で日本に滞在することになるのか、まだ決まっていないことが多いようだ。
財産や生活の問題も一緒に話し合われているという。
僕は記録をもう一度読んだ。
美咲さんが言った。
「朴相吉氏が、ただ心配だからあんなことを言ったわけじゃなかったみたいですね。」
「そうみたいですね。」
綾乃さんがノートをのぞき込んだ。
「新聞に本当にこういう内容があったのか、確認できそうです。」
「新聞のデータベースで?」
「はい。時期もわかってるので、かなり範囲を絞れます。」
僕たちは資料を検索しやすい下の階へ移動した。
綾乃さんがノートパソコンを開いた。
いくつか検索語を入れ、期間を絞った。
検索結果が一つ、また一つと画面に表示された。
綾乃さんがいくつか開いてから言った。
「あります。」
美咲さんが画面のほうへ身を寄せた。
「本当ですか?」
「はい。当時も、平和条約のあと日本にいる朝鮮人の国籍がどうなるかという問題が記事で扱われています。」
僕も画面を見た。
綾乃さんがいくつかの資料を順番に確認した。
「佐伯さんが書いていた内容と似ていますね。」
「はい。」
綾乃さんが画面を少し下へ送った。
「財産や生活に関する問題も一緒に触れられています。結局、日本と韓国の間で決めなければならないことが多かったみたいですね。」
「じゃあ、朴相吉氏が息子さんたちのことで心配していたのも、当時としてはかなり現実的な問題だったんですね。」
「そうでしょうね。」
綾乃さんが言った。
「特に健一さんみたいに、子供のころから日本で暮らしていた人なら、なおさらだったと思います。」
美咲さんがうなずいた。
「自分はずっと日本で暮らしてきたのに、これからどういう身分になるのかわからなかったわけですもんね。」
美咲さんが少し考えてから言った。
「そういえば、河野信夫さんはどうなるんでしょう?」
僕は美咲さんを見た。
「日本の戸籍に本当に河野信夫という名前があったとしたら、ですけど。」
僕は少し考えた。
「そうなら、当時は日本人として認められていたんじゃないでしょうか。」
綾乃さんが言った。
「私もそう思うんですけど……。」
彼女が画面から目を離した。
「これは、ちゃんと確認してみます。」
「どうやってですか?」
「法律に詳しい方がいるんです。」
綾乃さんがノートパソコンでメッセージを書いた。
しばらくして、僕に画面を見せた。
内容は簡単だった。
河野信夫さんの祖父が朝鮮出身で、日本の家庭に入り、有効な日本の戸籍に記載されていたとしたら、法的にどのような扱いを受けたのか。そして、その子孫にあたる河野信夫さんや、さらにその後の世代も平和条約発効後、日本人として認められたと考えてよいのか、という質問だった。
僕はうなずいた。
綾乃さんがメッセージを送った。
「返事が来たら、一緒に確認しましょう。」
綾乃さんがノートパソコンを閉じようとして、突然手を止めた。
「あ。」
「どうしました?」
「ちょっと待ってください。」
綾乃さんが紙袋を一つ持ってきた。
中から箱が一つ出てきた。
「父がまた贈り物を送ってきたんです。」
僕は箱を見た。
「またですか?」
「はい。運転手さんが持ってきてくれました。」
美咲さんが箱を見てから、綾乃さんに尋ねた。
「お父さんって、普段からこんなに頻繁に送ってくれるんですか?」
「いいえ。」
綾乃さんが少し言葉を止めた。
「そんなことはないんですけど……。」
そして僕を見た。
「何ですか?」
「いえ。」
美咲さんが笑った。
僕は何も見なかったふりをして、箱を見た。
箱には漢字で文字が書かれていた。
一六本舗。
「いちろくほんぽ?」
「はい。」
綾乃さんが箱を開けた。
「一六タルトです。」
「タルトですか?」
僕が思っていたタルトとは形が違っていた。
箱の中には、細長く巻かれた菓子が食べやすい大きさに切られて並んでいた。
淡い色の柔らかそうな生地の内側には、濃い色の餡が丸く巻き込まれていた。
僕は一切れを見た。
「ロールケーキみたいですね。」
「似て見えますよね?」
綾乃さんが言った。
「でも、中は生クリームじゃなくて餡なんです。松山では昔からある有名なお菓子ですよ。」
美咲さんも箱をのぞき込んだ。
「柚子の味がするんですよね?」
「はい。」
美咲さんが笑いながら言った。
「よかったです。さっきのタコスが辛すぎて、あまり食べられなかったので。」
「私もです。」
綾乃さんがすぐに答えた。
僕は何か言おうとして、やめた。
僕たちはそれぞれ飲み物を持って、二階へ上がった。
席に着いてから、僕は一六タルトを一切れ取った。
生地は見た目より柔らかかった。
中には餡がかなり入っていたが、思っていたほどくどい甘さではなかった。
何度か噛むと、餡の甘さのあとから別の香りがした。
「柚子の香りがしますね。」
「それが一六タルトの特徴です。」
綾乃さんが言った。
僕はもう一口食べた。
餡と柚子が一緒に入ったお菓子は、あまり食べたことがなかった。
でも、思ったよりよく合っていた。
「餡と柚子、合いますね。」
美咲さんも一切れ食べた。
少し味わってから、自分が持ってきたお茶を飲んだ。
「これ、お茶と一緒に食べるのにいいですね。」
「そうでしょう?」
綾乃さんが笑った。
僕も飲み物を一口飲んで、また箱を見た。
まだ何切れも残っていた。
美咲さんが綾乃さんを見ながら言った。
「それにしても、本当にいいものをよく送ってくれますね。」
「そうですね……。」
綾乃さんが答えた。
そして、また僕をちらっと見た。
僕は気づかないふりをして、一六タルトをもう一切れ取った。
今度は柚子の香りが、少しはっきり感じられた。
美咲さんがそんな僕たちを見て笑った。
綾乃さんは何事もなかったように、自分の飲み物を飲んだ。




