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第131話 私が手伝おう

僕は次の記録へ進んだ。


休暇最後の日。

朴相吉氏が突然、会いたいと言ってきた。

午後六時までに釜山の補給廠へ戻らなければならなかったので、私は急いで動いた。


美咲さんが言った。


「突然? 今までなかったことじゃないですか?」


「そうですね。」


僕はそのあとの記録を読んだ。


今回も会話が比較的詳しく残されていた。


読んでいるうちに、その日の様子が頭の中に浮かんできた。


◆◆◆


朴相吉氏が私を迎えた。


「来たか。」


「お呼びだと聞きました。」


朴相吉氏が座るよう勧めた。


私は座りながら時間を確認した。


午後六時までには釜山の補給廠へ戻らなければならなかった。


幸い、まだ時間には余裕があった。


朴相吉氏が先に口を開いた。


「平和条約について調べているそうだな。」


私は少し驚いた。


知り合い何人かに聞いただけなのに、もう彼の耳に入ったらしい。


「ここに私がまとめた資料がある。持っていって確認するといい。」


朴相吉氏が整理しておいた新聞を差し出した。


「ありがとうございます。」


ここでは手に入りにくい日本の新聞だった。


思いがけず助けてもらった。


しばらくすると、茶と菓子が運ばれてきた。


彼と少し話をすることになった。


「私も今、そのことで悩んでいる。」


「はい?」


「私の息子三人が今、日本にいるのは知っているだろう?」


「知っています。」


朴永洙、朴正浩、朴健一だった。


「永洙や正浩も心配だが、末の健一がいちばん気がかりなんだ。」


「健一さんがですか?」


「あいつは、かなり幼いころから日本で育った。」


朴相吉氏がため息をついた。


「韓国語もほとんどできない。学校も向こうの学校に通った。」


私は何も言わず聞いていた。


「そんなやつが、日本人ではなくなることになったら、どうしろというんだ。」


私は平和条約の内容を思い浮かべた。


朝鮮に残っている日本人たちがこれからの立場を心配しているように、日本にいる朝鮮人たちも同じだった。


「わざと日本にいた朝鮮人たちの地位を奪うために、こんなことをしているんじゃないかとさえ思う。」


「はい……。」


朴相吉氏が茶を一口飲んだ。


「終戦直後は、朝鮮へ帰ると言っていた人間も多かった。だが、金も財産も好きなようには持って帰れないようにされていた。」


「そうだったんですか?」


「帰国する人たちを乗せた船が爆発して沈んだこともあった。朝鮮人が何百人も死んだ。」


朴相吉氏の表情が硬くなった。


「日本人が朝鮮人を帰らせないために、わざと船を爆破したんだという噂まで流れた。」


「……。」


「人々が怖がるのも無理はなかった。」


彼はしばらく茶を見てから言った。


「そうやって帰ることまで難しくしておいて、今になって日本で長く暮らしてきた人間に、日本人ではなくなると言われたらどうしろというんだ。」


私の立場では特に言えることもなく、ただ聞いていた。


「まあ、それはそれとして、君はどうするんだ?」


「はい?」


「戦争が終わったら、日本へ行くのか?」


彼は少し言葉を止めた。


「それとも、このままここに残るのか。」


昨日も聞かれた質問だった。


私は少し考えてから答えた。


「まだわかりません。」


「戦争が終わって、日本へ行くつもりなら私が手伝おう。」


私は彼を見た。


以前は、私が日本へ戻るのをできるだけ遅らせようとしていた人だった。


私が抜ければ、事業にも支障が出ると言っていた。


それが今は、むしろ戻るのを手伝うと言っていた。


「……ありがとうございます。」


朴相吉氏がしばらく黙ってから言った。


「それと、美來が君を訪ねたそうだな。」


私は一瞬、体をこわばらせた。


「……はい。」


「あいつにも、君をあまり困らせるなと言っておいた。」


「そうですか。」


「美來に紹介してやれそうな韓国人の若者なら、何人か心当たりがある。」


私は何も言わなかった。


朴相吉氏が私を見た。


「まあ、そんなことはないと思うが。」


少しして、彼は続けた。


「私の娘と、あまり深く付き合わないでくれ。」


「……わかりました。」


私は少しためらってから尋ねた。


「ところで……お嬢さんは、何もおっしゃっていませんでしたか?」


「何も?」


「私を訪ねてきたときにあったことについてです。」


朴相吉氏が少し眉を上げた。


「いや。特に何も言っていなかったが。」


「……そうですか。」


「何かあったのか?」


「いいえ。」


私は首を振った。


「何でもありません。」


話を終え、席を立った。


「では、失礼します。部隊へ戻る時間が近づいているので。」


「ああ。」


私は挨拶をして外へ出た。


何歩か歩いたところで、後ろから誰かに呼ばれた。


振り返ると、見覚えのある女性だった。


朴相吉氏の娘が母を手伝いに来るとき、何度か一緒に来ていた人だった。


女性が風呂敷に包んだ容器を差し出した。


「これ、持っていってください。」


「何ですか?」


「お嬢さんが用意したものです。」


私は風呂敷を見た。


「結構です。受け取れません。」


「どうか受け取ってください。」


「ですが……。」


女性が困った表情をした。


「持っていってくださらないと、私が困ります。」


以前、母を助けてくれた人を、これ以上困らせるわけにもいかなかった。


私は結局、風呂敷を受け取った。


「……わかりました。」


女性はほっとしたように頭を下げた。


私はもう一度時間を確認した。


少し時間を取られていた。


風呂敷を持ち、急いで釜山の補給廠へ向かった。


◆◆◆


美咲さんが慎重に言った。


「これ……朴相吉氏が佐伯さんを呼んだこと自体、少し警告みたいな意味があったんじゃないですか?」


「私もそう思いました。」


綾乃さんが言った。


僕もうなずいた。


「僕もです。」


美咲さんが少し考えてから言った。


「朴美來さんに紹介する韓国人の若者まで考えていたってことは……朴相吉氏も、自分の娘が日本人と結婚するのはあまり歓迎してなかったのかもしれませんね。」


綾乃さんがうなずいた。


美咲さんが言った。


「美來さんが佐伯さんを特別に思っていることに気づいて、言ったんでしょうか?」


「そうなんでしょうね。直接訪ねていって、祖父を助けてほしいと頼むところまでしていましたから。」


「でも、そのときはこんなふうに警告してませんでしたよね。」


「ひとまず様子を見ようと思っていたのかもしれません。それに、どうせ遠く離れていましたし。でも、祖父が釜山の補給廠へ来て、自分の娘が直接部隊まで会いに行ったと知って、もう放っておけないと思ったのかもしれません。」


「そうかもしれませんね。」


美咲さんがもう一度記録を見下ろした。


「でも、終戦後、当時日本にいた朝鮮人が帰ろうとしても、いろいろ制限があったっていうのは本当なんですか?」


「僕も少し聞いたことはありますけど、ちょっと確認してみます。」


僕は資料を調べた。


「帰還するときに持っていけるお金や荷物には制限がありました。1945年10月からは、持ち出せる現金も一人1,000円までに制限されたそうです。」


「一人1,000円ですか?」


「はい。」


綾乃さんが言った。


「日本に財産や生活の基盤があった人なら、簡単には決められなかったでしょうね。」


「はい。それに南北分断や不安定な情勢も重なって、帰還を先延ばしにした人たちもいたようです。そのあと朝鮮戦争まで始まりましたし。」


美咲さんが尋ねた。


「さっき出てきた、船が沈んだっていう話も本当にあったんですか?」


僕は画面を少し下へ送った。


「浮島丸事件ですね。1945年8月、朝鮮人を乗せて釜山へ向かっていた船が舞鶴で沈没しています。日本政府が把握している朝鮮人の死者は524人です。」


「何百人も亡くなったっていうのは本当だったんですね。」


「はい。」


「原因は?」


「日本政府は、機雷に触れて沈没したとしています。」


僕はもう一度資料を確認した。


「ただ、当時はわざと船を爆破したという噂も実際に流れていたようです。一部の乗組員の間で、釜山への出航そのものに反対する動きがあったという記録もあります。」


美咲さんが僕を見た。


「じゃあ、本当にわざと爆破したんですか?」


「それは確認されていません。」


美咲さんがしばらく画面を見た。


「当時、帰国を考えていた人たちがそんな話を聞いたら、不安になるでしょうね。」


「そうでしょうね。」


そのとき綾乃さんが資料の下のほうを指した。


「おかずが用意されてますね。」


「そうですね。」


「朴美來さんは……お父さんに注意されたあとも、佐伯さんのためにおかずを用意したんですね。」


「はい。」


しばらく記録を見ていた綾乃さんが、ふと思い出したように言った。


「そういえば……ハルさん、下手をしたらこの世に生まれてなかったんですね。」


「それもそうですね。」


僕は少し考えてから言った。


「そうなってたら、綾乃さんの彼氏のふりもできなかったですし。」


美咲さんが先に笑った。


「それは本当に大変でしたね。」


綾乃さんも笑った。


結局、僕も一緒に笑った。


笑いが少し収まってから、僕はまた記録へ視線を戻した。


祖父の休暇の最後の日は、そうして終わっていた。

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