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第129話 そのカフェ

僕は次の記録を確認した。


私は、補給物資の不足と捕虜たちの不満について上に報告した。

このまま改善されなければ、大きな騒ぎが起きる可能性もあると書いた。


数日後、突然呼び出された。

私がいた補給部署を管理していたソン大尉の執務室へ向かった。

ところが執務室に入ると、ソン大尉が直立不動で立っていて、背広姿の男が一人、机の前に座っていた。

その男が読んでいたのは、私が提出した報告書だった。

彼は報告書を読みながら内容を一つずつ確認し、途中で私に質問した。

これまで会った人の中で、いちばん几帳面な人だった。

突然、その男が私に握手を求めた。

『任された仕事に最善を尽くしてくれて、ありがとう』

この仕事をしていて、初めて受けた感謝の言葉だった。


美咲さんが言った。


「結局、上に報告したんですね。実際にあんなことがあったんですから、そのままにはできなかったんでしょうね。」


「はい。上に報告すると約束したんですから、それを守らないといけなかったんでしょうね。」


綾乃さんが記録を見ながら言った。


「単に物が少し足りないという程度ではなかったみたいですね。捕虜たちが担当の兵士に直接詰め寄るくらいですから。」


僕はうなずいた。


「でも、佐伯さんに感謝した背広姿の男は誰だったんでしょう? 軍人ではなかったんでしょうか?」


「さあ。でも、大尉があれだけ緊張していたなら、普通の人ではなかったのかもしれませんね。」


「佐伯さんが残した記録だけではわかりませんね。」


「たぶん、当時の佐伯さんも知らなかったんでしょうね。」


僕は次の記録を確認した。


数日後、担当の補給兵の一部が交代した。

私に煙草を勧めてきた上等兵も含まれていた。

彼らが最前線へ向かったという話も聞いた。


美咲さんが言った。


「佐伯さんが報告したから、交代したんでしょうか?」


「その可能性もあるでしょうね。」


綾乃さんが言った。


「もしかすると、上のほうでもすでにある程度わかっていたのかもしれません。今回の報告がきっかけになった可能性もありますし。」


僕は次の行へ視線を移した。


追加の勤務を命じられた。

釜山へ戻る日がまた遅くなった。


美咲さんが小さく言った。


「延長ですね。」


「仕事ができるって認められたんじゃないですか?」


「もしかしたら、前に祖父に難癖をつけたあの監督官が、意地悪をしたのかもしれませんし。」


そのとき、その下の記録が目に入った。


釜山への復帰がまた遅れることになって、朴相吉氏の娘のことが頭に浮かんだ。

むしろ釜山に戻るのが遅いほうが、気は楽かもしれない。


美咲さんが記録を見下ろした。


「佐伯さんも、気持ちが複雑だったみたいですね。」


「はい。そんな感じですね。」


僕はまた記録をめくった。


サンフランシスコ平和条約が締結されたと聞いた。

ここでは詳しい内容を確認するのが難しい。


僕は当時の状況を思い浮かべた。


「やっぱり戦争中でしたし、巨済捕虜収容所にいたんですから、外の情報を詳しく知るのは難しかったんでしょうね。」


その下にも、国際情勢についての短い記録があった。


休戦交渉が続いていると聞いた。

戦争が早く終われば、日本へ戻ることも考えられるのだが。


美咲さんが言った。


「まだ日本へ戻ることは考えていたんですね。」


記録はさらに先へ進んだ。


ようやく巨済での勤務がすべて終わった。

その間、特に大きな事故もなく過ぎた。

以前の報告以降、補給の状態は改善した。

捕虜たちの不満も少し減ったようだった。

だが、この状態がいつまで続くのか心配でもある。

しかし、私にできることはもう何もない。


綾乃さんが言った。


「ようやく巨済での生活が終わったんですね。」


「そうですね。」


僕はそのまま読み続けた。


休暇中の記録だった。


明日の夜、そのカフェへ行くことにした。

平和条約について詳しく聞くつもりだ。


「そのカフェ? 前にも『そのカフェ』って出てきましたっけ?」


「僕の記憶では、なかったと思います。」


どうしてそこへ行けば平和条約について詳しく知ることができると思ったのかは、書かれていなかった。


僕は次の記録を読んだ。


私が軍に連れていかれたあと、朴相吉氏がほかの人たちに連絡したという。

しばらく身を隠すように伝えたという。


美咲さんが顔を上げた。


「ほかの人たち?」


綾乃さんも記録を見た。


「朴相吉氏が連絡した人たちって、誰なんでしょう?」


「ちょっと待ってください。」


僕はその下を読んだ。


今では皆、韓国語が流暢だった。

日本人だと気づくのが難しいほどだった。


しばらく誰も話さなかった。


美咲さんが先に口を開いた。


「もしかして、韓国に残っていたほかの日本人たちのことですか?」


「そうみたいですね。」


綾乃さんが言った。


「じゃあ、お祖父さんが書いた『そのカフェ』には、そういう人たちが集まっていたんでしょうか?」


「そうだったのかもしれません。」


僕は次の部分へ視線を移した。


その日の会話は、いつもより詳しく残されていた。


平和条約の話は聞いたか?

締結されたということだけ聞きました。

なら、詳しいことは知らないんだな。


僕はそのあとに続く記録をゆっくり読んだ。


読んでいるうちに、その夜の様子が少しずつ頭の中に浮かび始めた。

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