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第123話 じゃこ天、ありますね

僕たちは地図を見ながら、北条小学校のほうへ歩いた。


学校に着く前に、綾乃さんがもう一度スマートフォンを確認した。


「沿革があります。」


美咲さんと僕も画面をのぞき込んだ。


「1939年に学校が今の場所へ移ったんですね。」


綾乃さんが画面を少し下へ送った。


「それから1941年には北条国民学校に名前が変わっています。」


僕はしばらく画面を見た。


祖父が残したメモには、年までは書かれていなかった。


学校が別の場所へ移ったこと。


そのあと国民学校と呼ばれるようになったこと。


その程度だった。


美咲さんが言った。


「ここまで合ってると、本当にここで学校に通ってた人みたいじゃないですか?」


綾乃さんも、今回はすぐには否定しなかった。


「少なくとも、北条についてかなり具体的に知っていたのは確かみたいですね。」


僕たちはまた歩いた。


ほどなくして北条小学校の周辺に着いた。


柵の向こうに校舎が見えた。


校庭の一角では子供たちが走り回っていた。


僕たちは学校の外から、周辺をゆっくり見て回った。


学校の周りには住宅街が続いていて、少し歩けばまた海のほうへ行けた。


僕たちは学校の周辺から、海の方向へ歩いてみた。


学校が終わると海のほうへ行った。


あの短いメモがまた浮かんだ。


美咲さんが振り返った。


「思ったより近いですね。」


「はい。」


また海が見え始めた。


綾乃さんがスマートフォンで、学校に関する公開資料をもう少し調べた。


美咲さんが言った。


「昔の名簿みたいなものはないんでしょうか?」


ただ、検索だけでは確認できる資料にも限界があった。


僕たちは、何か確認できる古い資料がないか学校側に聞いてみることにした。


入口のところで事情を説明したが、昔の在校生に関する記録を見せるのは難しいという返事だった。


「簡単には見せてもらえないですよね。」


美咲さんの言葉に、綾乃さんもうなずいた。


「仕方ないですね。」


僕たちはそれ以上求めず、その場を離れた。


学校の周辺を離れ、北条の町をもう少し歩いた。


低い家々が続く中、小さな店が見えてきて、路地の間からまた海が見えた。


そのとき、近くに食べ物を売っている店が見えた。


美咲さんがそちらを見て言った。


「あ、じゃこ天ありますね。」


「じゃこ天ですか?」


「小さい魚をすりつぶして、平たくして揚げたものです。愛媛の名物ですよ。食べてみてください。」


僕たちは揚げたてのじゃこ天を一つずつ買った。


手に受け取ると、まだ温かかった。


平たい茶色の表面は滑らかではなく、少しざらついて見えた。


近くに持ってくると、油の匂いと一緒に魚の香りがした。


僕は一口かじった。


揚げたばかりの表面は少し硬かった。


中には弾力があり、噛むたびに少し粗い食感も感じた。


さらに何度か噛むと、最初より魚の味がはっきりしてきた。


油で揚げた味よりも、魚そのものの風味のほうが長く残った。


「思ったより魚の味が濃いですね。」


美咲さんもじゃこ天を食べながら言った。


「揚げたてがおいしいですよ。」


綾乃さんも一口食べた。


「温かいうちに食べると、確かにおいしいですね。」


僕たちはまた海のほうへ歩いた。


海は遠くなかった。


僕はまだ温かいじゃこ天を、もう一口かじった。


噛むほどに、魚の旨味が強く感じられた。


美咲さんが海を見ながら言った。


「鹿島もそうですし、学校もそうですし……合ってること、多すぎません?」


「そうですね。」


「私は、本当にここで暮らしていた人なんじゃないかと思いますけど。」


綾乃さんが少し考えた。


「最初より、その可能性はかなり高くなったと思います。でも、まだ確かな証拠はありません。」


綾乃さんは、やはり慎重だった。


僕は残っていたじゃこ天を食べた。


そのとき美咲さんが言った。


「北条全体の記録を一度見てみるのはどうですか?」


「郷土資料みたいなものですか?」


「はい。昔の北条の資料なら、ほかにも何か出てくるかもしれないじゃないですか。」


綾乃さんがスマートフォンを取り出した。


少し検索してから、画面を僕たちのほうへ向けた。


「地域の資料を見られるところがありますね。図書館の資料もあります。」


「じゃあ、行ってみましょう。」


僕たちはまた歩き始めた。


綾乃さんが地図を見ながら先を歩いた。


さっきまで歩いていた住宅や店が続く通りから、だんだん離れていった。


歩くほど周囲の建物は少なくなり、木が増えていった。


「こちらです。」


綾乃さんが画面を確認しながら言った。


道に沿ってもう少し上ると、前方が広く開け始めた。


住宅の間を歩いていたときとは雰囲気が違った。


道路沿いに木々が続き、その向こうに広い空間が見えた。


「文化の森公園ですね。」


美咲さんが言った。


名前のとおり、周囲には木が多かった。


さっきまで海沿いを歩いていた北条とは、また違う景色だった。


遠くには、運動場のように広く開けた場所も見えた。


僕は一度後ろを振り返った。


海はすぐには見えなかったが、さっきまで歩いていた北条の町が、その下のほうに続いていた。


僕たちは公園の奥へそのまま歩いた。


木々の間から、最初は屋根のように見えるものが現れた。


もう少し近づくと、建物全体が少しずつ姿を見せた。


「あれですか?」


僕が尋ねた。


綾乃さんがスマートフォンと前方を交互に見た。


「はい。松山市北条ふるさと館です。」


僕は少し歩みを緩めて、建物を見た。


「ふるさと館」と聞いて、僕はもっと小さな建物を想像していた。


けれど、実際に目の前に現れた建物は、そんなイメージとはかなり違っていた。


左右に広く伸びた建物の中央には、丸く高くなった部分があり、そこは外側がガラス張りになっていた。


日差しがガラスの表面に当たり、周囲の空や木々がかすかに映っていた。


歩きながら角度が変わるたびに、ガラスに映る景色も少しずつ変わった。


丸い部分は上のほうまでガラス窓が続いていて、ほかの部分より高く見えた。


その両側には、ガラスとは違う質感の壁が長く続いていた。


一か所だけが目立って華やかな建物というより、いくつもの形がつながって一つの大きな施設になっているように見えた。


建物の前まで近づくと、入口へ続く空間も見えてきた。


階段があり、その隣には緩やかに続く道もあった。


入口の上には、曲線を描く屋根が前へ長く伸びていた。


遠くから見たときは中央の丸いガラス部分が最初に目に入ったが、近づくと入口周辺の造りのほうがずっと複雑に見えた。


「思ったより大きいですね。」


「そうですね。」


僕たちは松山市北条ふるさと館の中へ入った。

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