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第111話 二等中士

翌日。


研究所に着くと、美咲さんと僕はそのまま一階へ入った。


美咲さんは自分のノートパソコンを開き、僕は職員証をかざし、収納棚からノートパソコンを取り出した。


綾乃さんは、すでに二階で作業していた。


それぞれ自分のことをしているうちに、いつの間にか昼食の時間が近づいていた。


綾乃さんが下へ降りてきた。


「今日は本当の配達を頼むんですよね?」


美咲さんが尋ねると、綾乃さんがすぐ答えた。


「そうしましょう。」


今度は三人で美咲さんのスマートフォンの画面を見ながら店を選んだ。


弁当を売っている店を一つ選び、それぞれ食べるものを決めた。


綾乃さんが画面を見ながら尋ねた。


「これが人気なんですか?」


「人気メニューって表示されてますね。」


「じゃあ、私はこれにします。」


チキン南蛮弁当だった。


「じゃあ、私も。」


「僕も同じものにします。」


料理が届くと、僕が研究所の玄関まで行って受け取ってきた。


料理の入った袋を持って戻ると、美咲さんが笑った。


「今回は本当の配達ですね。」


「そうですね。」


綾乃さんが言った。


「前のも配達でしたけど。」


「はい。」


「まあ、あれも配達ではありますね。」


僕たちは顔を見合わせて笑いながら、二階へ上がった。


綾乃さんが弁当を食べて、うなずいた。


「いいですね。」


「選べるものも多いですし。」


美咲さんが言った。


僕も付け加えた。


「運転手さんに毎回お願いしなくても済みますし。」


「それはそうですね。」


綾乃さんが少し考えてから言った。


「次は別のものも食べてみてもよさそうですね。」


食事を終えると、またそれぞれの場所へ戻った。


美咲さんは自分のノートパソコンで仕事を続け、僕も研究所のノートパソコンでこれまで受け取った資料を確認した。


しばらくして、LINEにメッセージが来た。


[ハルさん、少し上に来てもらえますか?]


綾乃さんだった。


僕が席を立つと、美咲さんが言った。


「ハルさんだけ呼ばれたなら、私はここで仕事の続きをしてますね。もし千代子さんに関係する内容が出てきたら呼んでください。」


「はい。」


僕は一人で二階へ上がった。


作業室へ入ると、綾乃さんの前には祖父の二つ目のノートと、小さな手帳の紙片が置かれていた。


「続きを見ていたんですけど。」


綾乃さんがノートを僕のほうへ向けた。


祖父が部隊へ戻ったあとの記録だった。


僕は内容を確認した。


補給業務は続いていた。


車両が到着し、物資を受け取った。


数量を確認し、合わなければもう一度数えた。


受け取った物資を渡し、また確認した。


「正直、このあたりは普通なんです。受け取った物資を確認して、また確認した。そういう内容が並んでいます。」


「そうですね。」


「ただ、仕事のやり方が何となく体系化されてきたように見えます。前はいろいろなことをやっている感じでしたけど、今は本当に補給業務だけを担当しているような。ハルさんはどう思いますか?」


僕は内容を見ながら少し考えた。


「そんな感じがします。」


綾乃さんが小さな手帳の紙片を一枚、横に置いた。


「それから、照らし合わせられるものを見つけました。同じ日付です。」


手帳には短く書かれていた。


車両が二台到着した。


二つ目のノートの同じ日付を見た。


車両が二台遅れて到着した。


「あれ? ノートは祖父が家に置いていたんじゃなかったんですか?」


「休暇を終えて部隊へ戻るときに、持ってきたのではないでしょうか?」


「あ。」


「最初は書く余裕がなくて、補給業務が少し落ち着いてから、また書き始めたのかもしれませんし。」


「そうだったのかもしれませんね。」


以前は、軍での出来事はノートには書かれておらず、手帳にだけ残っていた。


けれど今は、手帳とノートの両方に書かれていた。


「だとすると、勤務中にあったことは手帳に簡単に書いて、ノートには一日を振り返りながら書いていたのかもしれませんね。」


「はい。そんな気がします。」


ほかの記録もいくつか比べてみた。


いつも両方に同じ内容があるわけではなかった。


ただ、日付が一致するものは、互いに抜けている内容を少しずつ補っていた。


僕は次のページをめくった。


普通の補給記録がいくつか続いた。


そして、短い一文が出てきた。


二等中士になった。


僕はその文をもう一度読んだ。


「二等中士……。」


綾乃さんが尋ねた。


「どうしたんですか?」


「上等兵からいきなり二等中士になるのは、少し変な気がします。」


「どうしてですか?」


「今とは階級制度が違ったとしても、僕が軍にいたときの感覚だと、何となく引っかかるんです。うまく説明できないんですけど、少し変な感じがして。」


「何となくわかる気がします。」


「そこのノートパソコン、外部のサイトにもアクセスできますか?」


「少し待ってください。」


綾乃さんが何かセキュリティ設定を操作した。


「はい。これで外部ネットワークに接続できます。」


僕は検索して、当時の階級について調べた。


少しして、画面を見ながら言った。


「二等中士は、やっぱり僕が考えたとおり一般兵の階級ではなく、韓国軍の下士官にあたる階級ですね。日本式に言うと……。」


そう言いかけた瞬間、一つ思いついた。


「祖父、手帳に上等兵になったと書いていましたよね。」


「はい。」


「上等兵という階級名は、当時の韓国軍でも使われていたことがあります。ただ、当時の階級制度は今とかなり違いますし、祖父が手帳に書いた『上等兵』が正確にどの階級を指していたのかは、これだけでは断定しにくいですね。」


「では?」


「旧日本陸軍にも、同じ漢字の『上等兵』がありました。」


僕は画面をもう少し確認した。


「祖父はこの手帳も日本語で書いていたでしょう。実際の韓国軍の階級名をそのまま書いた可能性もありますけど、自分に馴染みのある『上等兵』という表現に置き換えて書いた可能性もありそうです。」


綾乃さんが、もう一度ノートを見た。


「では、今回は?」


僕は別の資料を確認した。


「問題は、上等兵と違って、旧日本陸軍には『二等中士』という階級名がないことです。」


「なるほど。置き換えられる階級名がないから、今回は韓国軍の階級名をそのまま書いたのではないか、ということですね。」


「はい。ぴったり当てはまる階級名がありませんから。」


「では、この手帳にある『上等兵』という表現は、佐伯さんが便宜的に使った可能性もあるので、正確な階級についてはもう少し詳しく調べる必要があるということですね。」


「はい。」


「とても鋭い推測です。私一人で読んでいたら、まず思いつかなかったと思います。」


綾乃さんがノートパソコンに何かを入力した。


さっきのやり取りを注釈として残しているように見えた。


「でも、昇進がかなり早くないですか?」


「祖父が仕事をよくやっていたからかもしれませんし、戦時中で人事が早かったのかもしれません。それか……朴相吉氏が何か働きかけた可能性もあります。今のところ、そこまではわかりませんね。」


「そうですね。今ある記録だけでは、当時の状況まではわかりませんから。」


僕たちは次の内容を確認した。


昇進したあとも、補給業務は続いていた。


「相変わらず、物資を確認した。数量を確認した。在庫を確認した。そんな内容ばかりですね。」


「自分で確認した。足りなければもう一度確認した。こんなのもありますね。」


そして、新しい内容が出てきた。


釜山方面の補給業務へ移るよう指示を受けた。


そのあとには、移動の準備をする短い記録が続いていた。


僕は、その下に書かれている文を読んだ。


釜山へ出発した。


そして次の行。


釜山では、日本から入ってくる補給物資を担当することになると聞いた。


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