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第106話 方法は違っても

僕は次の記録を読んだ。


「私を助けるため、軍の誰に頼んだのか尋ねた。」


次の行。


「知る必要はないと言われた。」


その下には、朴相吉氏の言葉がもう少し残っていた。


「上等兵の階級章をつけたくらいで訪ねても、簡単に会ってもらえるような相手ではないと言った。」


美咲さんがその文を読んで、僕を見た。


「……これは少し自慢してるようにも聞こえますね。」


「僕もそう聞こえます。」


次の記録は、さらに朴相吉氏らしかった。


「その人にこちらから頼み事をしたのは、これが初めてだったと言った。」


そして、すぐ下。


「もちろん、口で頼んだだけではなかったと言った。」


美咲さんが僕を見た。


僕はうなずくだけにした。


すでに前で、金も使ったという記録を読んでいた。


祖父は、相手が誰だったのかをそれ以上尋ねなかった。


代わりに、別のことを聞いた。


「なぜそこまでしたのか尋ねた。」


朴相吉氏の答えは短かった。


「娘に直接聞けと言われた。」


僕はその下の日付を確認した。


少しあとの記録だった。


「朴相吉氏の娘と話した。」


まだ名前では書いていなかった。


そのことを知ったあとも、記録の中では相変わらず朴相吉氏の娘だった。


「補給のほうへ移った件について、朴相吉氏から聞いたと伝えた。」


次の行。


「朴相吉氏の娘は、自分が父に頼んだのは事実だと言った。」


美咲さんが小さく息を吐いた。


「朴美來さんも認めたんですね。」


「はい。」


朴相吉氏から聞いた話は事実だった。


僕は次の文を読んだ。


「なぜ私に言わなかったのか尋ねた。」


祖母の答え。


「言う必要はなかったと言った。」


美咲さんが、その文をしばらく見ていた。


「それで終わりですか?」


「そう書いてあります。」


僕はそのまま続きを読んだ。


「朴相吉氏の娘に、ありがとうと伝えた。」


その下を確認した。


祖母の返事は書かれていなかった。


そのとき、ポケットの中でスマートフォンが鳴った。


僕は作業台から少し離れて、画面を確認した。


連絡先に登録されていない韓国の番号だった。


「電話、出ないんですか?」


「知らない番号です。」


しばらく画面を見たが、電話には出なかった。


代わりに短いメッセージを送った。


「今は電話に出られません。後ほどご連絡します。」


少し待ったが、返事は来なかった。


美咲さんが尋ねた。


「会社関係でしょうか?」


「たぶん。」


退職手続きが延びていたので、また何か確認することが出てきたのかもしれなかった。


「急ぎなら、また連絡してくるでしょう。」


スマートフォンをポケットに戻そうとしたところで、綾乃さんが言った。


「あ、そういえば、お伝えしていませんでした。」


「はい?」


「次からこちらに上がるときは、スマートフォンの電源を切ってください。」


僕はもう一度スマートフォンを見た。


「機器のためですか?」


「それもあります。測定するときは、できるだけ外部要因を減らしたほうがいいので。」


綾乃さんが少し言葉を止めた。


「それと、もともとはセキュリティの問題もあって……。」


彼女が僕を見た。


「ハルさんは資料を預けているご本人なので、スマートフォンまで別に預けてもらう必要はありませんけど。」


「ほかの資料もあるからですか?」


「……まあ、そういう理由もあります。」


綾乃さんは、それ以上説明しなかった。


僕はスマートフォンの電源を切った。


「一階では大丈夫ですか?」


「はい。こちらの作業スペースに上がるときだけ切っていただければ大丈夫です。」


「わかりました。」


「では、続けましょうか?」


「はい。」


僕はもう一度ノートへ戻った。


続いていたのは、両親が残した物や財産を整理した記録だった。


何を残し、何を処分したのかという短い記録が続いていた。


祖母の話はしばらく出てこなかった。


けれど少し下で、また一行が目に入った。


「朴相吉氏の娘に、もう一度ありがとうと伝えた。」


僕はその文で少し止まった。


美咲さんも見た。


「佐伯さん、またお礼を言ってますね。今度は何に対してでしょう?」


「わかりません。」


僕はもう少し下を読んだ。


翌日の記録は、さらに短かった。


「部隊復帰の準備。これから部隊へ戻る。


朴相吉氏の娘が、私の好きなおかずを入れた弁当を用意してくれた。


礼を言って受け取った。」


美咲さんが言った。


「もう戻らないといけなかったんですね。」


葬儀を終えたあとも、祖父が滞在できる時間は決まっていた。


美咲さんが、もう一度ノートをのぞき込んだ。


「お弁当に入っていたおかず、前に文字がつぶれてちゃんと読めなかったところじゃないですか?」


「そうだと思います。」


美咲さんが綾乃さんを見た。


「綾乃さん、あのとき文字がつぶれていたところ、ありましたよね。」


「あ、その部分ですね。」


綾乃さんが資料を確認した。


「水分が染み込んだ跡があります。インクがにじんで、線が重なったように見えます。同じような箇所がほかにもいくつかあります。」


美咲さんが言った。


「つまり、水でにじんだ可能性があるってことですよね?」


「はい。」


僕はもう一度、ノートを見下ろした。


これまで読んだ記録を思い返すと、もう一人のことも浮かんだ。


千代子さんは、留置場にいた祖父に、誓約書でも何でも書くように言った。


その誓約書には、二人の関係を否定する内容が含まれていた。


それでも千代子さんは、自分のことはいいから、何とか生きて出てきてほしいと言った。


そして数年後。


祖母は、自分が嫌っていたやり方で金を稼いでいた父、朴相吉を訪ねた。


そして、その金と力を使って祖父を助けてほしいと頼んだ。


自分が嫌っていたものでも使うほうを選んだのだ。


方法はまったく違っていた。


けれど二人とも、その瞬間には祖父が生き残ることを先に考えていた。


僕はしばらくノートを見つめた。


綾乃さんが資料を整理しながら言った。


「今日お見せできるのは、ここまでです。」


「思ったより長く見てましたね。」


僕も向こうの時計を見た。


もう昼食の時間をかなり過ぎていた。


綾乃さんが言った。


「じゃあ、そろそろ何か食べに行きませんか?」


「そうしましょう。」


綾乃さんが僕を見た。


「今日はハルさんが食べたいものにしましょう。」


「僕が決めていいんですか?」


「はい。まだ風邪も完全には治ってないでしょう。」


美咲さんもうなずいた。


「今日はハルさんが決めてください。」


二人の意見が一致した。


僕は少し考えた。


何がいいだろう?


すると、ふと一つのメニューが浮かんだ。

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