表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「神の子」  作者: 新竹芳
99/100

第99話 二つの裏切り

最終話に向けて加速しています。

次回最終話となります。楽しんで頂ければ、嬉しいです。

 景色が変わった。


 そして、ディッセンドルフの記憶に触れる光景だった。


 のどかな農村地帯。

 一面に緑の絨毯が拡がっている。

 その中に、子供から年配者までがその中に入り、雑草の引き抜きと、多く生えている農作物の間引きを行っている。


 周りにあの光の流れは全くなくなっていた。

 後方にニシムロとアンドリューの気配もしたが、視認は出来なかった。


 そして道の中央に立ち呆然と立っているディッセンドルフを気にする人は誰もいないようだ。

 何人かの村人がディッセンドルフの脇を歩き、そのまま通り過ぎていく。


(ここは…)


 オオジコバがディッセンドルフの中から呟いた。


(ああ、マルヌク村だ。まだ我が売られる前の記憶…、いや、違うな。知らない、いやその面影は解るが…、どういうことだ?)


 ディッセンドルフは混乱した。


 「神」の中核に接近できたはずのタイミングだ。

 「神」が何かをしたという事は解る。

 さらに、この風景の中の者にディッセンドルフ達を認識することはできないという事も解ってはいる。

 季節的には、ちょうどあっているのだが、それにしてはおかしい。

 記憶。

 思い出の中にこんな人々はいない。

 そう、同世代の者は6年前に死んだ。

 生きている筈がない。

 そのはずなんだが、そこにいる若者たち、ちょうどディッセンドルフと同じくらいの若者の面影には、思い当たる人物たち、幼馴染たちがいる。


「父さん!こっちは終わりそうだから、アマムネさんちを手伝うよ。」

「ああ、頼むよ。アマムネの所は、いつも良くしてもらってるからな。」


 青年が父さんと呼びかけた年配の男性、その顔には見覚えがあった。

 間違いない。


 シルハルク・アンダストン。ディッセンドルフの父親だ。


 そしてそのシルハルクを「父さん」と呼んだ人物を見た。


(ディッセンドルフ様……)


 セノビックの声がはるか遠くから聞こえた。

 自分の意識が、変調をきたしている。


≪そうだよ、ディッセンドルフ。これは君に「神の言葉」が降りなかった世界。マルヌク村も、村人たちも生きていたかもしれない世界だ≫


 「神」が語りかけてきた。


「ディッセン、そんなに張り切らなくても大丈夫。私たちもいるんだし。」


 アマムネ家の畑からそう声を掛けてきた健康的な少女。

 ミネルバ・アマムネ。

 ディッセンドルフの幼馴染で、既に10歳当時に両家で軽く将来的に結婚の契りがあった娘である。


≪そう、「神」が何もしなければこの18の年に結婚し、貧しくはあるが、家族ともどもそこそこの幸せがあった≫


 皆、その風景にあの悲劇が重なって移った。


(何が言いたいんだ?)


 ディッセンドルフのその問いには「神」は答えない。


 ディッセンドルフの体格よりも一回りは大きい褐色の肌をしたその青年が、隣の畑に移動する。

 その青年を見つけた小柄の、そしてよく日に焼けた肌をした少女が、満面の笑顔で青年に駆け寄った。


 既にディッセンドルフはアンドリューという伴侶を得て、さらにそのお腹には二つの新しい生命も宿っている。


 単純に比べれば、「聖女」アンドリューの美しさを超える女性を見つけることは難しいだろう。

 その小麦色の小柄の少女は、農作業に従事しているその体格も、陽に晒されて荒れている肌も、少し離れた小さな目と大きな口の顔も、ディッセンドルフの妻と比べ得る筈もない。


 だが、その二人の姿は、この上もなく美しく微笑ましくもあり、今のディッセンドルフには胸の奥から込み上げてくるものを抑えることが出来なかった。

 知らぬうちに涙が落ち、嗚咽が零れる。

 望むべくもない自分のもう一つの、あったかもしれない未来。


 だが、現実には10歳でその幸福な人生に別れを告げた。

 きっとこの可愛らしい少女も、6年くらい前にその命を落としたことだろう。

 自分の両親も、この少女の両親も、そして村人たちも、誰も生き残ってはいない。


 この世界を「神」がディッセンドルフに見せたことは、たった一つの理由しか思い当たらない。


 ディッセンドルフに「神」を憎悪させること。


 そうすることにより、「神」に何のメリットがあるのか。

 「神」を憎むことにより、ディッセンドルフの感情を揺さぶり、冷静な判断をできないようにしたいのか?


 いや、違う。


(あんたが何を考えているかは正直わからない。確かに我が「神の子」という【言霊】を持たなければこういう未来もあったのかもしれなん。だが、仮に我が【言霊】を得なかった世界。ルードヴィッヒ伯爵の長子、エドガーは死なず、代わりにセノビック殿の孫娘アンナは死んでいた。我の2年時の魔獣侵入で、学生の何人かに被害が出た事だろう)


 仲睦まじい、この幻想世界でのディッセンドルフとミネルバの姿。

 その様子を見ながらディッセンドルフは続けた。


(「神殺し」のオオジコバは、そのフラストレーションをまき散らし、学校の雰囲気はかなり悪くなったことだろう。まあ、これはただの戯言だが。だが、最大の問題は、ラスプーチンの暗躍だ。あの学校が狙われた理由の一つは「神の子」ではあるが、それだけとは思えない。最強の国家騎士団筆頭のザスルバシ卿、最恐の魔女コンコルディアは既にラスプーチンの手に堕ちていた。

 さらにレオパルド連邦の新型艦船のジョバンニュ・クリミアン連合王国への軍事侵攻は避けられず、騎士魔導士学校で騒乱が起き、その首謀者たちが、さらに国家に対しての反逆を開始していてもおかしくない状況が起こっていたはずだ)

≪それでも、犠牲者10万以上の謎の爆発が起こることはなかった≫

(詭弁だよ。戦争になれば、犠牲者の数はもっと増えるのだから。この話を「神」が語ることがおかしい。どう考えても、そこまでの話をすれば、いやでも我は冷静になる)


 「神」は沈黙した。

 目論見はものの見事に失敗した、そう思っているのであろう。


 ニシムロも感じていたことだが、アンドリューとの「融合」を果たさなかった時点で、ディッセンドルフは本気で「神」を殺そうとは思っていないのではないかと考え始めていた。


 このまま、アンドリューを伴い、元の世界に戻ろうとしている。


 それは、それだけは全力で阻止すべきだ、とニシムロは身構えた。


(あんたは、我を煽り、何がしたいんだ?)


 また、沈黙が返ってきた。


(言いたくないのか、規制がかかって言えないのか……。見当はついてる)

≪見当が、ついている?≫

(ああ、この情景を、妄想を俺に見せたことで確信に変わった。そして最初に言った我への言葉。「殺しに来い」)


 さらなる静寂(シジマ)

 ディッセンドルフは自分から言うしかないことを、覚悟を決めた。


(「神」よ、自らを滅ぼす存在として、我を選んだんだな)


 ディッセンドルフの言葉が、オオジコバを、セノビックを、アンドリュウーを硬直させた。


 「神」が自らの存在を消したがっている?


 到底信じられる話ではなかった。


 だが、今のこの状況。

 それが雄弁にディッセンドルフの言が正しい事を示していた。


 「神」は飽きたという事を言ったはずだ。

 だが、それは自分を害そうとするものを育て、そしてその乗り込んできた者を徹底的に痛めつけ殺すことを、弄ぶという意味ではなかった。

 だからこそ、いまだに魔導力というエネルギーの源を断とうとしない。


 それどころか「神」を憎むための演出を繰り返している。

 ジョーカーも、この幻影も。


「こいつ、「神」ってやつはそのことについて、一切言うことが出来ない。それは理解してくれ。」


 急にニシムロがそう語りだした。


「先にも話があったが、「神」は法則(ルール)を作ることしかできん。非常に限られた場所に介入は出来るが、それも特別な法則を作るだけだ。この世界でそれは魔術であり、「神の言葉」だった。逆に一個人を自分の思う通りに作ることが出来ない。種をまき、そこに栄養を与え、成長させるのが精一杯だ。」


 ニシムロの言葉は、かなり辛そうな言い方をしている。

 このことをディッセンドルフが理解しなければ、先に進むことが出来ないと判断したためである。

 だが、これは賭けでもある。

 この話を聞いた「神の子」がどういう行動を取るか、正直見当がつかなかった。


(「神」は自殺が出来ない。そう解釈していいのだな、ニシムロ…、いや、ジーニアス、「神」の使徒)

「ああ、そうだ。「神」の自殺、存在の消失はこの世界の消失のみならず、ここの全エネルギーの行き場を失う。絶対にそれは出来ない。」

(そして候補者を選び、使途が補佐をして成長させ、「神」を殺しに行かせる)

「そうだ。今まで何度もそれを行い、失敗した。」

(そうだな。君とは何度もこの「神」に殺害計画について語り合った)


 オオジコバがディッセンドルフのその言葉に衝撃を受けた。

 ニシムロに対する絶対の信頼の理由が、今完全に理解できた。


「だから、そのための【言霊】持ちも各所に用意した。巧妙に「神の子」に接触させ、この「神の世界」に来るように誘導し、その大部分が成功した。失敗もあったが。」


 そう言ってニシムロはアンドリューを見た。


 そのニシムロの行為に、ディッセンドルフは首を横に振る。


(アンドリューは我の希望でもある。それは許さない)


 強い意志がニシムロにぶつかる。

 そのディッセンドルフの意思はアンドリューにある思いが芽生え、急速に大きくなった。

 今までの「神」の言葉、そしてディッセンドルフの想い。


 その自分の考えが、自分の想いを歪めていくようで、苦しかった。


≪「神の子」とは、私の力を継承させるという意味だけではない≫


 今まで沈黙を守っていた「神」が唐突にそう言った。


≪子供は親を超える。進化するものである。私を超える存在として「神の子」の「神の言葉」を送った≫


 「神の子」の真の意味。

 今まで、【言霊】の意味をはき違え、謝った者たちを見てきた。


 だが、それは自分も例外ではなかった。

 ディッセンドルフはその言葉に、「神」への対応を、完全に決意を固めた。


(我、「神の子」ディッセンドルフ、「神」を滅し、全てのしがらみを解放する)


 その決意の言葉の瞬間、幸せなマルヌク村の幻想が消え、光の奔流にいた。


(オオジコバ、セノビック、ジョーカー。我と共に「神」を討つぞ)

(((御意!!!)))


 最後の闘いが始まった。












 「神の世界」中心部は激烈な負荷をディッセンドルフに与え続けた。

 それでも「神殺し」の力と、「心の海」に留まる数十万の精神体の力は、その超精神的負荷を跳ねのけている。

 そして「正義の目」が確実に「神の世界」中心部の「神」を指し示す。


 本来であれば盾・防御のニシムロと治癒再生のアンドリューが加わるべきだったはずである。

 「神」にとってそれが不安要素であったが、ラスプーチンから奪った「心の海」がその想像以上の力をディッセンドルフに与えていた。

 着実にその中心に近づけていく。


(さすがは神獣で作られた神剣。これだけの膨大な力の激流に全く危なげがない)

(ありがとうございます、ご主人様)

(この神剣のお陰で、この暴力的な「神」の激流に完全に逆らって進むことが出来る。素晴らしい)

(ディッセンドルフ様の言う通りですね。私の「正義の目」と完全に同調(シンクロ)している。もう、間もなく「神」の中心核です)

(ふん、ジョーカーだけにカッコイイとこ、取られるわけにはいかんな)

(オオジコバ、決着は一瞬で決まる。わかっているだろう)

(ええ、先輩分かってます。一撃で終わり。連携を崩すことはしません)


 恐ろしく「神」の濃度が濃い。

 強靭な防御力を持たなければ、瞬時に消し去られる「神」の力。

 だがもう、間違いなくこの世界の「神」を消し去ることが出来る。


 ディッセンドルフは疑わなかった。


 そして、その時が来る。


 闇のような霧が濃縮された世界に、仄かに光る部位。

 「神」の中心核。


 延ばされた神剣にオオジコバの長槍が重なる。

 その先端が中心核に降れるか触れないか。


 神剣が、長槍が、……………弾けた。


「えっ!」


 誰の声かはわからない。

 ディッセンドルフと一体化していたはずの神剣と長槍が、吹き飛ばされディッセンドルフの身体から離れた。


 異常はそれだけではなかった。


 ディッセンドルフを形作ってたものが徐々に剥がれ落ちていく。


 オオジコバも、セノビックも、ジョーカーもディッセンドルフにしがみ付いている。


 だが、「心の海」に封じ込まれていた数十万の「心」が、次々と剥がれ落ちていく。


 最初は徐々に、そして時間がたつごとに活発に、ディッセンドルフの身体から抜け落ちて行った。


(これは、何が……起こっている?)


 ディッセンドルフは後方を見た。

 気が緩んだのは否めない。

 全神経で「神」の中心に接近していた。

 気が緩めば一気に弾き飛ばされる。


 その体を誰かが受け止めた。


 結界を張り、ディッセンドルフを追っていたニシムロだった。

 強引にディッセンドルフをその結界内に引き込む。

 だが、「心」は次々と「心の海」から放たれていた。


 ディッセンドルフはそこでこの原因と直面した。

 目の前の最愛の女性、アンドリューがディッセンドルフの「心の海」に囚われていた「心」を解放していたのだ。


 ディッセンドルフの表情がほんの数瞬、怒りの形相になる。

 だが、アンドリューは止めようとはしなかった。


「私は、「神の巫女」。「神」を補佐するのが使命。」


 そういうアンドリューがの瞳からは大粒の涙がボロボロと零れ落ちていた。


 ニシムロはそのアンドリューに諦めの表情で二人を見ていた。


「大将……、やっぱり、インデルマンから「安眠」の【言霊】を奪っておくべきだった。」

「そんなもの、「神」に効くわけがない。」

「「神」には効かんさ。だが、「心の海」にとらわれた「心」には十分効く。」


 ニシムロの言いたいことを理解した。「安眠」で「心」を眠らせておけば、「神の巫女」の力を使われても問題なかった。

 そう言いたいのだろう。


 そうであれば、あと一歩で「神」が望む結果、「神」の消滅が出来た。

 そのはずだ。


 アンドリューは泣きながら、それでも全く手を緩めることなく、ディッセンドルフに囚われている「心」を解き放って行く。


 ディッセンドルフは自問自答する。

 そう、もしかしたら、こうなるのを期待していたのかもしれない。

 アンドリューと子供たちを助けるために。


 アンドリュー自身も気づいていたのだろう。

 ディッセンドルフはが「神」を消滅させた後のことを。

 「神」自身が語ったことを覚えていたのだ。


 「神」が先代から変わった時に、原則たる法則を決めたと。


 これはこの世界を完全に破壊し、新たな世界を作ったことを意味する。

 そしてその世界の「神」はディッセンドルフ。

 そこに妻のアンドリューも子供たちもいないという事。


 アンドリューはディッセンドルフを裏切った。

 その使命の妨害をした。

 そして、「神の巫女」という【言霊】を自分に言い聞かせ、自分の気持ちを納得させ、「神」の望みを打ち砕いた。

 二つの裏切りを実行した。


 ニシムロには何も言う事は存在しなかった。


「アンドリュー、泣かなくていいんだよ。君は君がしなければならないことをした。それだけだ。」


 そう言って泣き続けるアンドリューを優しく抱きしめた。


 3人を包む結界は「神」の発する光の奔流に、ただ流されていた。


「旦那さま、ディッセンドルフ様!ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」


「アンドリュー、最後のお願いだ、聞いてくれるね。」


 「心の海」の「心」はもうほとんどが解放されていた。

 そして、ジョーカーが消えた。


「もう時間がなさそうだ。」

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」


 もう、アンドリューにはその言葉しか言えなかった。

 「心の海」の解放は、ディッセンドルフの「心」も開放することを意味する。


 オオジコバが消えた。


「俺の、僕の子供たちを、無事に生んで欲しい。」

「ディッセンドルフ様……。」


 セノビックが笑みを浮かべながら、消えていった。


「そして、すまないが、君の力で子供たちをしっかりと育てて欲しい。」


 ディッセンドルフの身体が崩れ始めてきた。

 既に「神の子」の力は失せていた。


「分かり、わかり……、ました、旦那さま。」

「ニシムロ、妻を頼む。」

「ああ、大将、任せておけ。」


 アンドリューを抱きしめていたはずのディッセンドルフが粉々になって消えていった。


「ごめんなさい。ディッセンドルフ様。」


 光の奔流に流されて行った結界の船が、消えた。



後1話をもって終了します。

是非引き続き、付き合ってください。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

もし、この作品を気に入っていただけましたら、ブックマークをお願いします。作者の書いていこうという気持ちを高めるのに、非常に効果的です。よろしくお願いします。

またいい点、悪い点を感じたところがあれば、是非是非感想をお願いします。

この作品が、少しでも皆様の心に残ることを、切に希望していおります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ