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「神の子」  作者: 新竹芳
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第87話 魔導人形との闘い Ⅳ

 セノビック、マルス、マテリアの3人が建物の屋上や屋根を伝いながら、魔導人形を視認できる位置にまで到達した。

 3人が移動している建物の道を挟んだ反対側は、建物も道も地面さえも消え失せた巨大なクレーターがあった。


「これが、あの魔導人形とやらの仕業ですか?」

「はい。強大な魔導力が「聖女」様に向かって放たれました。ニシムロ卿の防護障壁のお陰で「聖女」様には何事もなかったのですが…。」


 説明するマルスの瞳は曇りがちだ。

 すぐ傍にいたのは自分だったのに、「聖女」アンドリューを守ることが出来なかった、という無念の思いがある。


「あれだけのものを魔導力で動かしているのですか?いったいどれほどの人が関わってるのやら……。」

「まずい、動き始めた。」


 マルスは魔導人形の関節である休憩の部位が動き始めたことを確認した。


 同時に、セノビックの目がその魔導人形を「視た」。


 そこから太いパイプのようなものが魔導構成数式図に入っているように見える。

 他の者の視力では見ることが出来ない、それが遠隔操作と、魔導力の供給ラインであることも分かった。


 さらにそのパイプを追ってその門の中をくぐる。


「どうやら最低でも3人がこの魔導人形の操作に関わってるようだ。多分、それ以上いるようだが、そこまでしかわからん。」


 セノビックの言葉に、マルスは震えている自分を発見した。

 ただの老人だと思っていた。

 ディッセンドルフの身の回りの世話のために連れていると思ったのだ。

 そしてマルスは気づく。

 この老人もまた【言霊】持ちである、と。


 魔導人形の右手の関節球が高速で回転した。

 右腕が上がったと思うと、その指がその先に向かって伸びた。

 合計3本。

 そのまま鋭利な槍のようになり、ディッセンドルフと抱えられるようにして立ち上がったアンドリュー目がけて伸びてくる。


「すでにその攻撃は見てるよ。」


 独り言のように呟くと、アンドリューを抱えたまま飛んだ。


 だがその時、閃光が二人を襲った。

 肩口から奇妙な金属が飛び出してそこから稲妻がディッセンドルフたちに放たれたのだ。


 さらに左腕の関節球が動くと、下から上に向かって左腕が振られた。

 その延長線上の建物が真っ二つになる。


「ちっ、空間を断裂させる力があるのか!」


 飛んだディッセンドルフたちを見上げていたニシムロが叫び、そのまま魔導人形に向かってその大柄の身体を突っ込ませる。

 そのまま右手を魔導人形に向けて放つ。

 そこに魔導力が炎となって、何発も魔導人形に向かって撃たれた。


 だが魔導人形に接近した火球はあっけなく四散した。


「防御もされてるか。当然と言えば当然だが…。大将、大丈夫か!」


 暗闇の空に三日月を背にした人影が浮いているのが見えた。


「ニシムロ卿、問題はない。」


 その人影、ディッセンドルフとアンドリューが宙空からニシムロと魔導人形を見ていた。


「あの程度の攻撃で、やられるほど、大将は柔ではないわな。」

 (イカヅチ)も空間断裂も、「神の子」ディッセンドルフと「聖女」アンドリューの二人がかりの防御障壁は簡単にはねつけられた。


「ディッセンドルフ様!」


 地上からそう呼ぶ声が聞こえた。


「おお、セノビック殿。来てくれたか。」

「ああ、マテリアも大丈夫そうね。」

「アンドリュー様、お待たせして申し訳ありません。私がしっかりしていれば…。」


 セノビックと共に来たマテリアがそう謝罪しようとしたとき、魔導人形が多くの石ほどの大きさの金属を地上の者たちに高速で撃ってきた。

 この弾頭は魔導人形に内蔵されていたもののようで、腰の位置に4カ所の短い砲身が突き出ていた。


 すぐに移動したニシムロが広範囲に結界を生成した。

 だが数発はその結界を抜けた。

 対魔導の処置が施された弾頭だったのである。

 抜けた弾頭がセノビック達に迫る。


 そのセノビックの前に自分の身を晒し、マルスは持っている剣で可能な限り弾頭に剣を合わせる。

 衝撃がマルスの全身を襲った。

 先程「聖女」によって直してもらったはずの部位が、損傷した。

 対魔導弾が、治療魔術の効果を消し去ったためである。


 マルスも何発かは懸命に弾いたが、それでも2発の弾頭がセノビックとマテリアを直撃する軌道に入っていた。


 セノビックの「目」を奪われるわけにはいかない。


 そう思ったマテリアがその2発の射線にその身を割って入った。

 既にマルスとウラヌスからの暴行で死を覚悟したマテリアである。

 死は恐れなかった。


 直撃だと思った。

 全身に魔導力を発動し、セノビックまで届かないようにした。


 が、予想の衝撃は来なかった。


 マテリアとセノビックは自分たちの前に大きな盾が打ち込まれたことに驚いた。


 いったい、どこから?


 だがすぐにその盾は形を変え、大柄の男の右手となった。

 盾のあった場所のすぐ左に立つその男が二人に振り返った。


「よかった、間に合って。」


 オオジコバ・ゴルネイエフがそう言って顔をほころばせた。

 決してその顔が優し気に見えなかったが。


「お前さんの身体はどうなってんだ?最近だよな、体の一部が変形するようになったのは。」

「先輩が凄すぎたんで、後追いを辞めたんですよ。後、自分の身体から離れたモノはコントロールが難しいんで…。こういう風に自分の身体の一部を変形させるとそれもかなり楽なんですよ。」

「そりゃあな、神経が繋がってる方が魔導力の制御も簡単だが。それでも今のような大きな盾を物質化させるのにはかなり大きな魔導力を必要とするんだよ。【言霊】持ちだと言っても、そう簡単なはずがないんだが、全く…。お前さんも、大将も、「聖女」のお嬢ちゃんも、とんでもない奴らばかりだな。」


 呆れたような感心さを示すニシムロに、「ははは」と照れた笑いを浮かべるオオジコバだった。

 だが、やはりその笑顔は獲物を狙うときの肉食獣を連想させて、マテリアの、そしてマルスはその背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。


「そりゃあ、ロメンのじいさんたちも総力戦を仕掛けてくるわけか。」


 ぼそりと呟くニシムロにオオジコバの目つきが険しくなった。


「ロメンのじいさん?それは、教会の上層部という事、ですか?」


 オオジコバの問いに答えず、ニシムロが地を蹴った。


 対魔導弾の第二波にニシムロの身体から放たれた光が衝突、消失した。

 ニシムロの魔導力に対して対魔導弾は太刀打ちできなかった。

 そのまま、もう一度ニシムロは光りを放ち、魔導人形の腰部にある砲身を破壊した。

 もっとも第二波の時には2つの砲身が動かなくなっていたのだが…。


 宙を舞うニシムロに対して、魔導人形の右腕が襲い掛かった。

 だが、先ほどのように指が槍のように変形することなく、拳のままニシムロの身体に叩きこまれた。

 ニシムロに砲身を破壊されたことにかなり頭に来たようであった。


 拳はそのまま地面にニシムロごとめり込んだ。


 と、思われた。

 が、そのまま肘から拳があっさり砕けた。


 その砕ける魔導人形の腕の中からふらつくような感じでニシムロが立ち上がる。


「まったくよお、俺でなければ死んでたぜ、強化守護神さんよお。」


 そう言いながら、魔導人形の目を見上げた。

 そのまま全身強化を施し、ニシムロは次の攻撃に備える。


 だが、魔導人形はそのまま動かなくなった。


「どうやら、操縦している魔導士の交換らしい。セノビック殿が「視た」そうだ。」


 臨戦態勢のニシムロの横に「聖女」アンドリューを抱いたディッセンドルフが降り立つ。


「じゃあ大将、一気にやっちまうか?今はこいつ、動けないんだろう?」


 魔導人形を指さしてニシムロがディッセンドルフに尋ねた。


「そう簡単にはいかないようだ、ニシムロ卿。セノビック殿の話だと、操縦者は3人から9人くらいらしいんだが、この魔導人形と「門」の維持のための魔導力供給に1000人以上の上級魔導士がいるらしい。こいつを完全に無力化して撤退されると……。」

(俺たちにとって都合が悪い)


 最後の部分が思念波で皆に伝えられた。

 ここの会話を聞いているかもしれない相手の兵器がすぐそばにある状態だ。

 それはニシムロも理解した。


 3人のもとにオオジコバ、セノビック、マテリアが駆け寄ってきた。


「大丈夫ですか、先輩、アンドリュー様。」

「ええ、大丈夫。ありがとうね、オオジコバ。」


 アンドリューがオオジコバに微笑みを向けた。

 そして、その後ろに来たマテリアに視線を移す。


「もうすぐ、この街の騎士団が来ると思います。事情の説明を、マテリア、お願いします。」

「畏まりました。」

「マルス卿とウラヌス卿もマテリアに謝罪の気持ちがあるのなら同行して、護衛をお願いします。」

「承知しました。しかし、「聖女」様たちはこれからどうされるのですか?まるで…。」


 マルスはその後の言葉を繋ぐことが出来なかった。


 「聖女」アンドリューの浮かべた笑みと、その笑みにそぐわない意志の強い瞳に、聞かなくても解ってしまった。

 「聖女」は「神の子」と共に、聖地に向かう事を。


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