第86話 魔導人形との闘い Ⅲ
「「聖女」と「神の子」、確認。どちらも生きてます。」
「神の言葉」教の紋章が書かれた白い布、聖布で両目を覆われた4人のうちの一人が叫ぶように報告した。
その4人と、4人が禅を組んで座ってる横に聖布で全身を覆われ寝るように横たわって居る3人以外が、バーニンガウの状況を見ることが出来ない。
そのため、状況を見ている4人のうち3人はすぐ後ろの椅子に腰を下ろす法王・教皇・枢機卿それぞれに現状を報告している。
残る1人は横になっている3人の魔導人形の操縦士たちの連携と、魔導人形の周りの警戒を行っている。
3人の神経は魔導を介してバーニンガウで活動する魔導人形と同調しているため、自力で自分の身体を動かすことが出来ない。
その横の神官たちがその場所、門とは違う紋様が書かれた魔導構成数式図、魔導人形を操るための遠隔操作を可能にしている図に待機し、魔導力が尽きた時にすぐに他の魔導操縦士と置き換えていた。
強化守護神である魔導人形を操るためには、膨大な魔導力が必要である。
さらにその能力も相性があり、「神の言葉」教の中でも上級魔導士の中から厳しい選抜が行われていた。
魔導力が尽きる寸前にその横で補助する神官たちが入れ替えを行っているのだが、それが間に合わない場合、その操縦を行った者たちには死が待っているのだ。
すでに「魔導砲」と呼ばれている最大の魔術が行使され、操縦士3人は死亡した。
さらにその奥から魔導力を供給していたものの中からも力尽きて倒れた者もいた。
魔導人形を動かす操縦士は3人一組で連携している。
ロメン法国にその本部を置く「神の言葉」教には数多くの上級魔導士がいるが、この作戦にはその8割が投入されている。
また、本来ならそこにいないはずの支部の上級魔導士も召集されていた。
もし仮に、この瞬間にロメン法国に戦争を仕掛ける国、もしくはそれに準ずる組織がいた場合、1日と持たずに陥落するであろう。
それほどまでにロメン法国3大聖人は「神の子」と「聖女」の結びつきを恐れたのである。
今回、その二人が揃ってロメン法国に向かっている。
表向きは「神の言葉」教の「聖女」としての就任。
またその「聖女」の結婚の報告である。
今後、「神の子」と「聖女」はこのロメン法国に居を構えて、人類のための救済にあたるという事になっている。
そう、あくまでも表向きの理由だ。
正確に「神の子」ディッセンドルフが行おうとしてることを把握してるわけではない。
当然、「神の子」の力と象徴としての「聖女」が、この「神の言葉」教の総本部にいるという事こそ、どれほど教会にとって意義のある事か計り知れない。
教会としては二人、特に信者という事を一度も表明していないディッセンドルフとは友好的な関係を築くべきなのだ。
だが、ディッセンドルフがこの国への来訪時に「神の部屋」への来室を表明した時に、状況が一変した。
「神の部屋」。
ここに入るためには「神」に認められる事が必要であった。
【言霊】持ちであることは最低条件で、さらに「神」からの信託が必要だった。
これは「2度目の【言霊】」とも呼ばれている。
このことにより、神官でも最高位である、3大聖人や、大司教、各支部の支部長など要職に就くことになる。
大司教や支部長は「2度目の【言霊】」がなくともなれるのだが、3大聖人は必須である。
「神の言葉」教において、上層部の誰にも「2度目」がないということは無かったが、一人だけという時代はあった。
その許可証ともいえる「2度目の【言霊】」により「神の部屋」を見ることは権利ではなく義務であるが、その中にある装置ともいえるものを動かしたものは数名しかいない。
そしてその者たちで生き残った者はいなかった。
つまり、この部屋はある意味禁忌であった。
その「神の部屋」の意味は伝承で伝えられてはいるが、ここにある、という事を知っている者は高職位のもののみであり、「神の子」ディッセンドルフと言えども知ることは無いと思われていた。
そして、「聖女」アンドリュー・ビューテリウムも知る一人である。
だが、二人が契りを結び、その秘匿されている「神の部屋」のことを共有した可能性は大きい。
ただの興味であればまだいい。
だが、「神の子」を賜った時に同時に「神の言葉」からその部屋の存在を知らされたとしたら。
「神の子」という【言霊】の意味。
神が自らの場所に呼び寄せようとしているとしたら…。
その時に何が起こるのか?
それが終末を意味しているとしたら…。
3大聖人はこの件について話し合い、すぐに結論に辿り着く。
「神の子」を「神の部屋」に近づけてはならない。
すぐにそのための行動計画が作られた。
効率のいい方法は、このロメン法国に迎え入れた後、「神の子」を処理すること。
だが、この案はすぐに却下された。
この国では、魔導力を最大に使うことが可能であるというメリットがある半面、失敗すればこの国そのものが消失しかねない。
レベッカ海峡事件の公式発表はレオパルド連邦の新造軍艦の事故とされている。
だが、それが事実の隠蔽であることは疑いようもない。
例え軍艦と言えども、あれだけの被害が事故程度で起こるはずがなかった。
「神の子」ディッセンドルフの仕業であることは火を見るよりも明らかだった。
そして、その力を使われれば、この国そのものが地図からなくなる公算が大きかった。
となれば、国外、さらにこの大陸の前に仕掛けるべきであった。
そして、このロメン法国には切り札があった。
強化守護神と呼ばれる巨大魔導人形。
その巨大兵器を転移させることが可能な、だが膨大な魔導力を必要とする魔導構成数式図。
そこの通路を作ることにより、遠隔操作を可能とする神器「遠距離思念交信機」の存在。
その「交信機」と接続をするための紋章が描かれた白い布の「聖衣」。
これはこの来るべき日のために、「神の言葉」教の始祖、ジーニアス・ソウラングとその12人の使徒と呼ばれる弟子たちが残してくれたものと、法王たちは考えていた。
「神の子」ディッセンドルフを滅するのに、どれほどの魔導士が必要かは検討がつかない。
現段階で総本部から招集をかけられた上級魔導士たちは1000人を超えている。
さらに、中級の魔導士に至ってはこのロメン法国の法務庁を囲むように建てられた数百の建造物に待機させられていた。
その数は万を下回ることは無いだろう。
それでも、魔導人形を扱える3人一組のチームを15ほど用意したにもかかわらず、すでに3チームが離脱した。
現在4チーム目がやっと同調して動き出そうとしている。
その7つの目を持つ魔導人形から届く映像には「聖女」を抱くようにして睨みつけている「神の子」ディッセンドルフの姿があった。
最低でもその2人のうち一人は行動不能、出来るなら抹殺しなければならない。
その魔導力の大きさからすれば、まだ法王すらも超える魔導力を内在する「聖女」アンドリュー・ビューテリウムの方が容易いはずだ。
「神の子」ディッセンドルフには、「神の部屋」に入るための印を持っていないことは調査済みだった。
だからこそ、「聖女」を伴ってここまで来ようとしている。
「聖女」を殺すことが出来れば、当面の危機は回避されるはず、と3大聖人は結論付けた。
「聖女」誘拐の計画は「神の言葉」教の総本部で立案され、実行者には虚偽の理由が説明されていた。
バルトロマイは懇意にする法務庁参事官からこの計画が伝えられた。
ユダ・ジーザスという名の参事官は教皇の甥にあたる。
バルトロマイが信じない理由はなかった。
すぐにジョバンニュ支部の「聖女」派を集め、本部の持つ暗殺者集団、異教徒殲滅部隊までもがバルトロマイの配下に加わった。
「聖女」誘拐が成功すればよし。
失敗してもディッセンドルフとアンドリューを分断できれば、全魔導力を用いて誘拐犯ごと抹殺すればいい。
そう、どちらにしろバルトロマイ達「聖女」支持派はその命を使い捨てさられるだけであった。
「魔導人形との同調しました。魔導力補給部隊から充分の魔導力が補充されました。」
教皇付きの魔導人形の目と接続している上級魔導士が叫んだ。
「よし、第1目標、「聖女」アンドリュー・ビューテリウムに対して、攻撃用意!」
横たわった「聖衣」に包まれた操縦士の身体が淡く光った。




