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「神の子」  作者: 新竹芳
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第85話 オオジコバの復讐

 目の前にいる男の悪意の籠ったセリフが脳内に再生された。


「この度、ご子息に【言霊】が賜れたことをお喜びいたします。されどオオジコバ・サランド・フォン・ストラトスティー殿は、ストラトスティー侯爵家の次男。そして私の敬愛します「聖女」アンドリュー・ビューテリウム様の血の繋がりもあるお方。そのオオジコバ様が賜った【言霊】が「神殺し」などという物騒なお力。ここは、ストラトスティー侯爵家としまして、最良のご判断を拝聴したく馳せ参じさせていただきました。」


 暗にストラトスティー侯爵家からオオジコバとの縁を切らせる口上だった。


 そして、その言葉が不安に思っていたストラトスティー侯爵家一同の背を押す言葉となった。

 本来、周辺に不安を与える【言霊】が降りた時には一切口外しないことが教会内で暗黙の了解となっていたはずである。

 それでも今回のオオジコバのように貴族の籍から外されることはあったが、それは公にされることはまずなかったのだ。


 だからこそ、オオジコバ追放後に噂としてストラトスティー侯爵家に不吉な【言霊】持ちが出たことが、おかしな話なのだ。


 ストラトスティー侯爵家は代々熱心な「神の言葉」教の信徒であった。

 それは何度も【言霊】を賜ってきた実績があり、その力はこの侯爵家に対しても、この国に対しても貢献したという事情もあった。

 であるからこそ、当主は名誉司教としての肩書も持っている。

 それだけこのジョバンニュ支部内での発言力が強く、そ俺を面白くないと思う神官や貴族たちもいた。

 その関係性に対してオオジコバの「神殺し」という【言霊】はストラトスティー侯爵家を非難するのにはうってつけだったのである。


 その主導者が今オオジコバの目の前にいるユーマニア司祭であった。


「どうされましたか、ユーマニア司祭。顔色が悪いようですが?」

「う、うるさいわ!この背信者が‼」


 目の前に立つオオジコバの言葉に対し、そう罵った。


「神官であるマエストロフの首を刎ねたのは貴様だろうが!」

「これは異なことを…。殺人を行うものを指導していた者は明らかに教義に反することでしょう。「神の言葉」教では「右の腕を切られたら、抵抗せずにその命を差し出せ」なんていうものもいたではありませんか。そこまで行かなくとも重犯罪者の焼き印がされた者に「神の言葉」教の紋を与えるなど、とても正気とは思えません。ですので「神」より賜ったこの力を使わせてもらいました。ある意味、慈悲ある行動でしょう。その神官、マエストロフ殿とおっしゃるのですか?きっと、全く苦しみもなく「神」のもとに逝かれたことでしょう。」

「戯言を…。」


 唇を噛みしめながら、だが、ただオオジコバの言葉を聞いていたわけではなかった。

 頭の中で詠唱しつつ、オオジコバから見えないように背中に回した両手で手印をせわしなく作っていた。


「私は今の戦いの意味を問うているのですよ、ユーマニア司祭。あなた方は我々の護るべき「聖女」を力と催眠誘導を用いて拉致、誘拐を目論んだ。大罪を犯しているんですよ。」


 オオジコバは既にユーマニアが何をしようとしているか、充分理解していた。

 それでも、淡々と罪を並べていく。


「もう観念したらいかがですか。私の【言霊】は、そういった「神の言葉」に反逆を試みる者たちを狩る力だと理解しております。昔、あなたが私の実家に吹き込んだ憶測ではなくてね。」

「バカが!お前の力なぞ、疫病神の力だろうが!」


 言うと同時に背中に回していた両手をオオジコバに向かい、手印を切りながら、詠唱を口に出した。


「大いなる神風により、千切れろ!」


 ユーマニアの魔導力が、その最大の力でオオジコバに放たれた。


 オオジコバもユーマニアの動きは予測していた。

 この男の魔導力が風による物質の切断であることは知っていた。

 だが、「空間の断裂」に比べればたかが知れてると思っていた。


 オオジコバは油断していた。


 ユーマニアの力は充分に練り上げられた魔導力をその動力としていた。

 風圧が局所的に大きな差異を作り上げ、簡単に肉を切り裂いた。


 オオジコバの大きな体に数えきれない裂傷が出来た。

 そのうちのいくつかはかなり深く切り込まれ、鮮血が周りに飛び散る。


「くっ!」


 思わず顔をしかめ、身体を抱くようにして崩れ落ちそうになる。


「他愛もない。なにが「神殺し」だ。笑わせる。」


 奇襲が思いもよらずうまく機能したことにほくそ笑むユーマニア。

 そのまま片膝ついて頭を垂れているオオジコバに近づき、持っていた十字架を模した剣を抜いた。


「手こずらせやがって、このウドの大木が。お前にはこの場で惨めに死ぬのがお似合いだ。」

「あまりべらべら喋って止めを刺さないのは、あまりいい手ではないな、司祭。」

「なんだと。」


 充分近づきすぎていた。

 ユーマニアは近づきすぎる前に、さらにオオジコバに致命傷を与えておくべきだった。

 しかし、その反省などは生きていなければ活かせるわけもなかった。


 体を抱えるようにしていたオオジコバ急に立ち上がり、その両手を一気に開いた。


「うえっ!」


 オオジコバから強力な空気の刃がユーマニアに迫った。


 ユーマニアは魔導力の限りを用いて結界を形成しようと試みた。

 が、満足に展開できず、次々とその風刃が体を切り裂いていった。


「ここまで、ここまで力の差が…。」


 そのまま切り裂かれたユーマニアが、絶命した。


 それと時を同じくして、切り刻まれたユーマニアの後方で光、轟音、振動が伝わってきた。


 オオジコバがそちら側に目を向けると巨大な石像が目に移った。


「まさか、先輩や「聖女」様が…。」


 オオジコバは土槍を超えて、その場に急ごうとした。

 が、ウラヌスが殲滅部隊の尖兵の下敷きになっているのを見つけ、慌てて駆け寄った。


 運がいいことに息があった。


 その時に、オオジコバは自分も体に深く傷があることを思い出した。


 あまり得意ではないが、自分自身とウラヌスに対しての治癒を開始した。


 あちら側で何かとてつもないことが起こっていることは理解していた。

 だが、「神の子」ディッセンドルフであるならば、何とかしてくれるのではないか。

 そんな期待があった。


 すでにオオジコバは「神の子」ディッセンドルフに心酔していた。








 オオジコバ達が治癒を解していた時に、マルスはその脇を駆け抜けていた。

 当然、オオジコバとウラヌスの存在には気づいていたが、治癒がうまくいってることは確認できたので声を掛けることはなかった。

 マルスは「聖女」の勅命を果たすべく、宿で待機しているセノビックとマテリアの元に向かっていた。


 人々が爆発地点から遠くへ逃げようとするのに対して、この町の警備断たちが現場に向かっている。

 それは無用な衝突を招き、いたるところで小さないざこざが起きていた。


 すでに「聖女」誘拐の実行犯たちのうち、生きている者は懸命に逃げているようで、大規模結界は完全に解かれていた。


 結果的には、巨大な魔導人形のおこした爆発は、眠っていた市民をたたき起こし、恐慌状態に陥れていた。

 とりあえず大きな衝撃音があった場所から離れようとしている。


 マルスはその波に乗って宿に辿り着いた。

 そして大きく開かれている窓に飛びつく。


「「聖女」様をどうした!」


 その部屋に入った瞬間、マテリアの怒号がマルスを襲った。


 既に短剣を握り、臨戦態勢をとっている。


「やめなさい、マテリア卿。彼は我々を呼びに来たんだ。」


 ディッセンドルフの思念ネットワークはセノビックに届いていた。

 このバーニンガウで何が起こり、どうして市民が我先に逃げ出しているかという事を充分教えられていた。


「マルス卿。ディッセンドルフ様はあなたたちの罪を不問にした。「聖女」アンドリュー様は許されていることも聞いています。よろしくお願いします。」


 セノビックはそう言って、頭を下げた。


「マテリア、本当に悪かったと思っている。落ち着いたらこの命差し出しても構わない。だが、今は「聖女」様の勅命を果たさせて欲しい。」


 セノビックの説明と、マルスの誠実な瞳に、握っていた短剣を降ろしたマテリアは、肩の力を抜き、臨戦態勢を解除した。


「分かったわ。今はあなたを信じましょう。「聖女」様の場所に連れて行って。」


 3人は、多くの市民であふれている道を避け、建造物の屋上伝いに魔導人形と対峙しているディッセンドルフたちのもとに向かった。


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