第84話 魔導人形との闘い Ⅱ
「折角の証人、あっさり消されちまったな、おい、大将。」
「まったくだ。だが、これでかなり上層部がこの「聖女」誘拐に関わってることが分かった。まあ、及第点ってとこか。」
全身を露にした魔導人形。
5m以上の巨体である。
それを支える2本の脚部も太い。
だが、見た感じでこの巨体を支えられるのかは不安を感じる太さだ。
さらに、指の関節部、足首、手首、膝、肘という関節部には球体のようなものが露出している。
股関節部はかろうじて金属板で防護されている程度だ。
胸部・腹部・腰は脚よりも太いが太さの違う円筒で繋がっていた。
メタルシルバーの金属と灰色の石のようなものの複合体のようだ。
頭部は7つの目と先ほどバルトロマイの身体を捕食した口がある。
その周りは赤黒い血で染まっている。
そして、その足元の紋様の光こそ薄くなったものの、そこにあった。
ディッセンドルフとニシムロは高度をその魔導人形の巨体よりも高い位置に浮かんでいた。
「ニシムロ殿は、どこまでこの魔導人形について知ってるんだ?」
ディッセンドルフが隣に浮上してきたニシムロの問うた。
「大将にどれほどの知識があるかは知らんが、「神の言葉」を最初に聞いたと言われる始祖、ジーニアス・ソウラングが時のロメニウル帝国第12代皇帝ティベラス・ムダア・ゼビウスの手により処刑された。その遺体は磔にされ13日間晒された。しかし、刑官吏官が見に行くと張り付けられた杭ごと消失されたとされている。その遺体が入った聖櫃はいま、ロメン法国法務庁の地下深くに納められ、それを守るのが12体の巨大魔導人形。死してもその魔導力がなくならないジーニアスが操っているってのが伝説さ。強化守護神12神体とも呼ばれてる。
ただ、現存が確認されたの3体。当然ジーニアスによって動くわけがなく、今発動権を持っているのは「神の言葉」教の3大聖人、法王・教皇・枢機卿だと言われてる。」
「何のためにこんなデカイものがあんだ?仮にその始祖の身体を守るためだとしても。」
その足元でバルトロマイの身体をそのエネルギーにでも変えているのか、大きな動きはしていない。
魔導人形から町に入る道にいる「聖女」アンドリューはただ茫然とその巨体を見ている。
バルトロマイ枢機卿が捕食されたこともその意識にはないのかもしれない。
そのアンドリューを守るように、誘拐の実行犯でもあるマルスが庇うように前に立ち臨戦態勢で巨体に視線を集中している。
「俺にはわからんよ、お偉いさんが何を考えているなんてな。もしかしたらその巨大魔導人形でこの世界を破壊しようとしたのかもしれんな。自分を殺したこの世界を。」
「そうだとわかりやすいが。で、実際にあの巨体は、普通に動き攻撃してくるのか?こんな仰々しいものを転移させてんだ。「聖女」誘拐なんて生易しいことではないんじゃないか?「神の言葉」教の上層部全てが俺たちに敵対しているのではないにしても、最低一人は敵がその3大聖人にいるってことだろう?」
「大将の言う通りだと思うよ。発動にはだれか一人の命令がいる。さらにこいつを動かすには3人以上の最高位の魔導士が必要だったはずだ。さらにその遠隔操縦を果たすためにはこの魔導構成数式図を維持して通路を開けとく必要がある。つまりこの通路の維持のための魔導士が必要だ。多くの上位教徒が関わっていると思う。もっとも、命令で動いてるってだけの奴もいるのかもしれんが。」
そう言った時だった。
大きな音を立ててその巨体が動き出した。
紋様からゆっくりと動き出し、アンドリューがいる道に向かって歩き始めた。
その動きはうまく同調できていないのか、ヨタヨタした感じではあったが、倒れる危うさはなかった。
そしてその7つの目がある一点に集中した。
その先にアンドリューがいた。
それに気づいたマルスがアンドリューに何か言ったと同時に、自分の前面に結界を張った。
アンドリューがその道を魔導人形から離れるように走り始めた。
魔導人形の右手がゆっくり上がり、その手をアンドリュー達に合わせた。
「まずい、撃つ気だ。」
ニシムロがいきなり降下を開始した。
直後、その魔導人形の指先から赤い光点が走った。
その点はアンドリューの背中の白いシーツにくっきりと浮かび上がった。
周りの音が消えた。
その刹那、暴力的な閃光と轟音がこの町の一角を支配した。
その光と音から解放されて、生き残った者はそこに信じられない光景を見た。
この街、バーニンガウ郊外の一部が消失していたのだ。
既にバルトロマイの指示で張られていた大規模結界は破綻していた。
今の光と音で強制的に起こされた人々が次々と家の外に飛び出し、近くにいた住民はあまりのことに呆然としていた。
魔導人形の放った衝撃波が巨大な破壊をもたらしたことはディッセンドルフも理解していた。
自分の「神の子」の力でも、おそらく同様のことはできるではあろうが、今までそのようなことを意識してやったことはなかった。
レベッカ海峡の時でさえ、あのような結果になるとは思っていなかったのだから。
すぐに、ディッセンドルフはアンドリュー達のいた一角に飛んだ。
そこは無事であった。
ニシムロがマルスの前に膝立ちして、疲れた様子でディッセンドルフを見上げた。
「まあ、何とか間に合ったが…。結構な一般人が死んだと思うよ。」
ニシムロの後ろにいるマルスと、爆風で飛ばされたと思われるアンドリューが倒れていた。
すぐにディッセンドルフはアンドリューに駆け寄り抱き起した。
「アンドリュー、アンドリュー、大丈夫か?」
問いかけに瞼をゆっくりと開けた。
「ああ、旦那さま。ええ、だ、大丈夫、です。多少、身体が痛みますが。」
言った瞬間には痛みは消えていた。
すぐにディッセンドルフが治癒を施したことがアンドリューには分かった。
「何が、起ったのですか?」
ディッセンドルフはアンドリューをさらに抱き上げ、一緒に巨大な魔導人形を見る。
かなりの魔導力を使ったためか、右手を上げた状態で動かない。
だが、このまま動かないわけがない。
明らかに今の攻撃は「聖女」アンドリューを狙ったのだから。
ニシムロがマルスを引き連れて二人の所に来た。
「大将、さっきの奴がそうそう撃てるとは思えんが、どうする?あの場所からあいつを引きはがした方が俺達には有利だが、これだけ建造物があると、片っ端から吸収して燃料としていくぜ、あの魔導人形は。」
「ああ、そうだろう。それにあの紋様を消されるとこっちも都合が悪い。ここで倒すのが一番だろう。だが、暫くすると、ここの騎士団が出張ってきそうだ。広範囲の結界が完全に消えた。」
「さっきのにビビったバルトロマイの魔導士たちが逃げだしたんだろう。」
「ああ、変に人が集まるとやりづらいな。マルス・フォン・ダーマニアム!貴様はまだ「聖女」の騎士か‼」
唐突にそう問われたマルスがすぐに立ち上がり、「聖女」に向か敬礼をする。
「わたくしは死ぬまで、「聖女」アンドリュー・ビューテリウム様の騎士であります。」
「よし!今回の罪は問わない。至急、宿の戻り、セノビック殿とマテリア侍女をここまでお連れしろ!」
「ディッセンドルフ様の言葉は私の言葉でもあります。直ちに実行してください!」
「は!」
言うとすぐに人があふれ始めた道を走り出した。
「ニシムロ殿は大丈夫か?あれほどの魔導力を叩き込まれて。」
「さすがに正面切って受けたら溜まったものではなかった。それだけの時間もなかったからな。防護結界を奴の射線の角度を変えるように受け流すのが精一杯だった。結果があの大穴だが…。」
そう言って消失した街の一部を見る。
「ニシムロ殿でなければ不可能だったよ。だが、奴の攻撃手段を知ってるだけ凄い。俺は一歩遅れた。」
「伊達に長生きしてないさ。さて、どうする?セノビック殿たちが戻るには若干時間がかかるぜ?」
「それと、オオジコバたちは、どうなってるのですか?今の会話に名が出てきませんでしたが…。」
アンドリューがディッセンドルフの腕の中で聞いてきた。
「あいつは大丈夫だ。他の敵ともうすぐ戦い終わる筈だ。少し仇への復讐をさせてやらんと悪いと思ってな。時期にここに来るはずだ。」
そう言いながら、動き出しそうな魔導人形を見た。
「次の一発がいつ来るか分からんが、狙いは関節部。下手に破壊して通路を消されては、こちらに不都合だ。」
「仇、ですか?」
「ああ。【言霊】持ちとなった時にオオジコバを糾弾して、追放失調本人と対面している。」
「ユーマニア司祭がいるんですね?」
「さすがに、よくご存じだ。」
ディッセンドルフは苦笑しながら、こちらに7つの目を向けた魔導人形、「神の聖櫃」の強化守護神を凝視した。




